070 逞しいね~脱がされた俺~
場所:スビレーの遺跡
語り:オルフェル・セルティンガー
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「今日はこんな場所まできていただき、本当にありがとうございます! ご協力よろしくお願いします!」
「「よろしくお願いします!」」
俺たちがかしこまって頭を下げると、騎士団長は思わず目を細めたくなるくらいの、眩しい笑顔を浮かべた。
「あぁ! かまわないよ。きみたちが無事についていてよかった。ところで、私はワンコ君に会えるのを楽しみにしてきたのだが……」
「三頭犬ならこれだよ」
さっそく、キョロキョロと犬を探す騎士団長たちの前に、キジーがぐいっと俺を押し出した。
「こっ、これが、ワンコ君か!?」
「すごい! 人間になってる! 本当に興味深いなぁ!」
「おぉー! 犬のときと同じ赤毛だな!」
騎士団長と防衛隊長のカミルさんが、またキラキラした顔で俺に詰め寄ってくる。毎度のことだけど賑やかな人たちだ。
シンソニーも小鳥から人間になってるけど、そっちには気が付かないらしい。
もっともシンソニーは、なにかを警戒してか、そそくさとミラナの後ろに隠れているんだけど。
俺が苦笑いしていると、キジーが後ろから腹に手をまわしてきて、俺の服をまくりあげた。
「ちょ、キジーさん、なにしてんの!?」
「わっ、見事に割れた腹直筋! 盛り上がった胸筋! オルフェル君、たくましいね」
俺の秘められた筋肉があらわになり、カミルさんが目を丸くする。俺はいったい、なにをされているのだろうか。
慌ててシャツを下げようとしたけど、なぜか治癒魔導師のコルニスさんまで覗き込んできた。
「わ、これは……。すごい傷跡ですね。ヒールで治せるギリギリのところじゃないですか? 即死しなかったのが不思議なくらいですよ……」
「ホントだ。かなり大きい傷があるね」
「え、そうなんですか!? 俺、まったく覚えがないです」
キジーが俺の風呂を覗き、「大きい」と言いながら眺めていたのは、どうやら俺の、胸部の傷跡だったらしい。
そう言われてみると確かに大きな傷がある。まるで一度、ぽっかり風穴があいたかのようだ。
これに限らず、この体にはほかにもあちこちに傷が残っているんだけど。
「これ、アンタなら消せないかな? コルニスさん」
なぜかキジーが、コルニスさんにそんな質問をした。
もう痛みもない古傷で、コルニスさんの手を煩わせることもないんだけど。
「うーん。残念ですが……。治癒魔法ではどうしても、大ケガになると傷が残りますよ。光属性で、それも最上位魔法とかなら、あとから消せるものもあるでしょうけど。治癒魔法というより、修復系の魔法ですね」
「そっか。ありがとう」
コルニスさんが丁寧に答えてくれて、キジーはやっと俺のシャツをおろした。いったいなにがしたいのか、俺にはよくわからない。
俺が首を傾げていると、背後からガタゴトと音がして漆塗りの美しい馬車が近づいてきた。
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「お、さらなる加勢が来たよ。さすがベルさんだね」
「あ、マリルちゃんたちだ。おーい、こっちこっちー!」
キジーとカミルさんが、ブンブンと手を振って馬車に合図すると、馬車は俺たちの近くに停まった。
大きな盾と槍を持った重装備の女性が御者台から降り、馬車の扉を開けると、なかから二人の男女が降りてきた。
赤い髪に赤いドレスの貴族っぽい女性と、茶色いベストを着た身軽そうな男性だ。
「国家魔術機関からの要請で来ました。炎属性魔導師のマリル・フランと、土属性魔導師のクレーン・サタルですわ。それから、彼女はわたくしの護衛のエロイーズですの。どうぞよろしく」
赤いドレスの女性が、そう言ってドレスの裾を持ちあげ、丁寧に挨拶をしてくれた。
話によると、国家魔術機関とは国で管理している魔導師を、必要としている場所に派遣する仕組みらしい。
優秀な魔導師を、有効に活用するため、軍隊とは別で管理しているようだ。
もちろん、一般人が困ったからと、すぐに魔導師を貸してくれるような仕組みではない。主な貸出先は、国の軍隊だ。
今日ここに、この人たちが来てくれたのは、ベルさんからの、特別の計らいだという。
雷属性のシェインさんと、氷属性のベランカさんをテイムできるまで弱らせるため、弱点属性の魔導師を派遣してくれたらしい。
「本当に、すごく助かります!」
「魔物がお友達なんですってね。うっかり殺さないよう、気を付けて頑張りますわ」
「「よろしくお願いします」」
「電撃防ぐのは俺の得意技。まかせて」
「ありがとうございます! 頼もしいです!」
ハキハキしているマリルさんとは対照的に、俯いたままボソボソ話すクレーンさん。二人とも小柄だけど、なんとなく、絶対強い気がする。
遺跡の恐ろしい封印を前に、少しビビっていた俺だけど、心強い助っ人が来てくれたおかげで、だいぶん元気が出てきた。
「それじゃ、いくかな!」
「おぉ! 調子乗ってきたぜー!」
「オルフェル、慎重にね?」
皆の準備が整うと、キジーは遺跡の封印の前に立った。
「上級解除魔法、クラックシール」
彼女が呪文を唱えると、見えない壁に黒い魔法陣が浮かびあがり、そこにぱっくりと亀裂が入った。
どうやら、完全に封印を解くわけではないらしい。
俺たちが開いた隙間から封印のなかの空間に入り込むと、開かれた隙間はもとどおり閉じてしまった。
そして、俺たちの眼前の景色は、石レンガで作られた、怪しい建物のなかへと変わったのだった。




