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三頭犬と魔物使い~幼なじみにテイムされてました~  作者: 花車
第1章 任務と奉仕

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007 魔法薬学実習1~俺無理、ごめん~

大幅改稿しました(2023/07/24)

再び改稿しました(2024/03/22)

 場所:国立カタレア魔法学園

 語り:オルフェル・セルティンガー

 ***************



 入学式から早十日、新たなスタートを切ったはずが、俺は早くも、カタ学の壁にぶつかっていた。


 授業内容は暗号みたいに複雑で、課題もまるで終わらない。ギリギリの成績でこの学園に合格した俺には、あまりに難易度が高かったのだ。


 無駄にあった自信は霧のように消え去り、努力不足を痛感する日々。


 俺は朝から晩まで予習と復習に追われ、学園生活を楽しむどころではなかった。


 同郷の幼なじみに支えられ、なんとか首をつないでいる状態だ。


 俺が勉強で焦っていると、シンソニーは夜中まで付きあってくれたし、授業中に居眠りをはじめると、エニーがつねって起こしてくれた。



――まだまだ俺はこれからだぜ! ここまできて、諦めたりしねー!



 俺は自分にそう言い聞かせながら、毎日必死に勉強していた。



      △



 その日ははじめて、魔法薬学の実習が行われる日だった。大釜に薬品をいれてかき混ぜ、魔力を注いでポーションを作る実習だ。



――実技や実習なら、俺だって活躍できるはず……!



 俺たちはカタ学の制服のシャツの上に、実習用の丈の長い白衣を羽織り、魔導書とノートを手に実験室に入った。広くて明るい部屋だけど、薬品の匂いが鼻をつく。


 棚にはさまざまな形のビンが並び、大釜と五人掛けの机がそれぞれ八つ置かれていた。


 俺とミラナ、そしてシンソニーとエニーが並んで座る。ひとつ空いた席には、初めて見る女子生徒が座った。



「この子はエリザちゃんだょ☆ 私たち、部活が同じなの♪」


「今日はよろしくね!」



 エニーがオレンジ色の瞳をキラキラさせながら、俺たちにその子を紹介してくれた。二人で微笑みあう様子を見るに、ずいぶん仲が良さそうだ。


 エリザは茶色い髪を三つ編みにしたおとなしそうな子だ。だけど控えめな笑顔を浮かべて、気さくに挨拶してくれる。



――いい子みたいだな!



 簡単に自己紹介をして、それぞれ授業の準備を始めた。授業開始までには、まだ少し時間がある。


 ミラナの隣の席に座ると、俺はつい彼女の姿を目で追ってしまった。



――白衣も可愛いな。



 彼女は今日、いつもはおろしている薄茶の髪を、邪魔にならないようポニーテールにしている。


 窓際の明るい席に座ると、その髪はほのかにピンクがかって見えた。  


 束ねられた髪から白い首筋に垂れたおくれ毛が、窓からの風で揺れている。



――いつもの髪型もいいけど、これすっげードキドキするな!



 彼女を眺めていられるというだけでも、カタ学に来た甲斐があったというものだ。


 この幸せな毎日のためにも、今日の実習は失敗できない。



――だめだ。授業前とはいえ、気を抜くわけにはいかねー! もう一度、実験内容を確認だ!



 そう思いながら、俺はふとミラナの魔導書に目をやった。青い革製の表紙に金の文字で『魔法薬学』と書かれた本だ。


 そこには栞やメモが挟まれていて、隙間は書き込みでびっしりだった。真面目な彼女は、この実習のため、完璧な予習をしてきたようだ。



「ミラナはやっぱりえらいな。そんなにいっぱいなに書き込んだの? 今日の夕飯の献立か?」



 俺たちは寮住まいで、食事は三食食堂で摂る。ミラナが料理なんてするわけもないのだ。


 だけどミラナを笑わせたくて、俺は要らない冗談を付け足した。


 彼女はチラッと俺の顔を見ると、スッと無表情になりながら、自分のノートを広げて見せてくれた。



「いろいろ調べたけど、今日のポーションづくりに必要なことはここにまとめてあるよ」


「ほっほー、さっすがー」



 俺も予習はしたつもりだったけど、彼女の努力は桁違いだ。俺は魔導書の内容を理解するだけで精一杯なのに、彼女は書かれてないことまで調べあげている。


 そもそも俺のノートは、俺にしか読めない自信があるけど、ミラナのノートは、まるで参考書みたいだ。


 小さくても読みやすい整った文字を見ただけでも、彼女の優秀さが伝わってきた。



「すげ……絵まで描いてあんじゃねーか。これ、魔導書の何倍もわかりやすいぜ!? ちょっと借りていい?」


「いいよ。実習はテーブルごとにみんなでやるから、オルフェルも頭に入れておいてね」


「おぅ!」



 とは言ったものの、すぐに授業は始まってしまい、俺は自分の勉強不足を確認しただけだった。



――でもまぁ、俺だって手順は頭に入ってるからな! 大丈夫だ! 集中集中!



 実験室に魔法薬学のキーウェン先生が入ってきて、いよいよポーション作り実習は開始された。


 テーブルごとのグループで、魔力回復ポーションを作る実習だ。回復力の高いポーションを、手際よくたくさん作れたグループの評価が高くなるようだ。


 どこのグループも一致団結して、真剣に作業を進めている。ミラナが委員長ぶりを発揮し、俺たちのグループも、みんなの役割はすぐに決まった。


 ミラナは作業の進行を見守り指示を出す。正確な知識と判断力が求められる難役だ。


 穏やかなシンソニーは、薬草や粉末を天秤にかけ、分量をはかる役目だ。皿の上に分銅や材料を乗せる作業は、慎重さを要求される。


 指針の揺れ幅を確認しながら、シンソニーは正確に作業を進めていく。彼に任せたのは正解だろう。


 エニーは大釜の火加減を管理することになった。大釜内の薬品の色や状態から温度を判断し、火床に投入する魔石の量を調整する重要な役目だ。


 エリザはシンソニーとエニーのサポート役だ。シンソニーは綿手袋をしているし、エニーも熱い火床を扱うため分厚い耐熱手袋をしている。


 そのため、レシピのページを開いたり、測定した数値を記録したりと忙しそうだ。


 そして俺は、大釜をかき混ぜる役目を任された。簡単な力仕事のようにも思えるけど、薬品を均一にするため、力加減や混ぜる速度も重要な、気の抜けない作業だ。



「オルフェル、ちょっと大変だけどお願いできる?」


「もちろんだぜ! 俺にまるまる任せとけ!」



 ミラナにいいところを見せようと、俺ははりきって大釜をかき混ぜ始めた。熱い薬品が飛び散ったりしないよう注意して、慎重に鍋の底をすくう。


 薬品が次々に投入され、色が変化したり、泡が立ったりと大釜の中の状況は忙しく変わっていった。


 薬品の質感も液体になったり、プルプルになったりと変化して、混ぜるのにもコツが必要だ。


 そしてしばらくすると、大釜からひどい匂いが立ち上がってきた。胸が悪くなる強烈な匂いだ。



ーーこれはまずい。臭すぎるぜ。



 俺は鼻がいいから、この実習室に入ったときから、嫌な予感は感じていた。


 目の前がグルグル回りはじめ、頭にはガンガンと突き抜けるような痛みが走る……。



ーー耐えろ。耐えるんだ俺! こんなことくらいで、諦めたりしない! 俺は……俺は……!



 しばらく頑張ってみたけど、鍋を一混ぜするたびに、臭いが強くなっていく。立ち位置的にどうしても全てが俺に直撃するのだ。


 このままでは、俺のなかから湧きだしたなにかを、鍋に投入してしまいそうだ。



「ごめん、無理……。エニー、あと頼んでいい?」



 俺が頭を抱えてしゃがみ込むと、エニーは作業の手を止めた。だけど、先生の視線が気になるのか、ソワソワと周りを見回している。



「オル君、サボってると思われて減点されちゃうょ?」


「う、おぇ……吐く……」



 口に手を当て頬を膨らませた俺を見て、シンソニーとエニーが目を丸くしている。時間勝負の実習中だというのに、申し訳ない気持ちでいっぱいだ。



「くそー。俺昔から、鼻がよすぎんだよな……」


「しょうがない、みんなでオルフェを隠そう」



 シンソニーが俺を大釜の奥に押しやって、グループのメンバーが俺を隠すように周りに立った。


 みんなで俺の分まで釜をかき混ぜ、ポーションに魔力を注いでくれる。



「きっかり十秒! ポクワーレンの抽出液を投入するよ!」


「もう少し! 色がピンクになったら、温度をあげて!」



 俺がへばっている間にも、ミラナの完璧な指示のおかげで、ポーションはサクサクとできあがっていく。


 俺もその活躍を見たかったけど、あまりに自分が情けなくて、いまはミラナの顔が見られない。


 しばらくうずくまっていると、キーウェン先生が、手を叩きながら近づいてきた。



「おー、すごいですね。今日はそこのチームが一位のようですよ」



 カタ学の授業の難しさに圧倒されつつも、周りの友達に助けてもらい、なんとかやっているオルフェル君。


 実習なら活躍できるかも!と思っていたら、薬品の匂いで目を回してしまいました。


 次回、第一章第八話 魔法薬学実習2~俺、死んでくるね~をお楽しみに!


挿絵(By みてみん)

倉河みおり様にいただいたFAです!

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ターク様が心配です!~不死身の大剣士は寝不足でした~



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― 新着の感想 ―
[良い点] 鼻が良すぎる、、、つまりワンコたんの要素はあったと言うことで(^^)♡一生懸命なオルオル、可愛いですね( ´ ▽ ` )仲良しチームがいい感じで好きです♡
[良い点] やっちゃいましたね、オルフェルくん。 目を回してる様子が目に浮かんで思わずくすくす笑っちゃぃました。 しかもミラナや他のメンバーに庇ってもらって。 どんまい。 でも、またやらかしそう…
[一言] オルフェはカタ学に入学はしたものの難しい勉強に悪戦苦闘の様で。 でも実技も中々という。 仲間にも支えられても中々のオルフェ。 でも…たしかにミラナは…可愛い(/// ^///) さ、続きを(…
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