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三頭犬と魔物使い~幼なじみにテイムされてました~  作者: 花車
第6章 封印と古傷

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069 到着~穴ぼこチーズな俺~


 場所:スビレーの森

 語り:オルフェル・セルティンガー

 *************



 また半日森のなかを進んだ俺たちは、スビレーの森の北東に来ていた。


 広大な森の奥深くだ。足元は苔で覆われ、通常人が踏み入るような場所ではない。


 本当に、すごい場所まで来たものだ。キジーがいなければ、俺たちはもう、街に帰ることができないかもしれない。


 背の高い木々の間から木漏れ日が降り注いでいる。俺にだって、太陽の位置で方角くらいは見当がついた。


 だけど俺たちは、キジーの魔力探知で魔力の強い魔物を避け、熱源探知で大きい魔物を避けてここまできたのだ。


 まったくもってキジーはすごい。俺たちは、森を進めば進むほどそれを実感していた。


 とはいえ、完全に全ての魔物が避けられるわけではない。


 いまはダークヘッジホッグの群れに襲われ、穴だらけになった俺に、シンソニーがヒールをかけてくれたところだった。



「大丈夫? オルフェ。全部治ったかな?」


「おぅ。ありがとう、シンソニー! 穴ぼこチーズになった気分だったぜ」


「ごめんね、デドゥンザペインは割と消費魔力が大きいから……」


「いや、大丈夫だぜっ。気にすんなっ」



 このあとのテイムに備え、魔力温存中のミラナが申しわけなさそうにしている。


 俺がちょっと苦手なだけで、デドゥンザペインは本来優しい魔法だ。


 闇属性の魔導師は、悪意や罪悪感を感じながら魔法を使うようなまねはしない。


 彼女に悪気がないのがわかっているから、デドゥンザペインも調教魔法も、嫌な気分ではないのだった。



「小さい魔物なら余裕って言ってたわりに、すごいやられるんだね。弱いの? 三頭犬」



 キジーが俺の前に飛び降りてきて、呆れたような顔をする。そういう彼女は、ずっと木の上に隠れていた。



「うっ。俺は小さくていっぱいいるやつは苦手なんだよ」



 実際、ダークヘッジホックは、昔から俺とシンソニーが苦手とする魔物だった。


 俺は足元をちょこまか走り回るダークヘッジホッグをなかなか斬れず、かたい刺のある体のせいで、シンソニーのリジェクトウィンドやトルネードカッターも、いまひとつ効果がない。


 俺がブスブス穴を開けられはじめると、ミラナが撒き餌を撒いてくれた。


 ダークヘッジホッグが集まって食べはじめたところに、俺がファイアーボールを撃ち込む。


 おかげで、まとめて倒すことに成功したけど、持ってきた撒き餌は数が限られている。


 材料も入手困難なため、できれば使わずに済ませたいのだった。


 苦戦しながら、昔シーホの森でエニーがダークヘッジホッグを、一撃で倒してくれたことを思い出した。


 あれは、広範囲に小さな(つぶて)がたくさん降ってくる魔法だった。



――エニー、いつ会えんのかな。



 つい、「彼女がいれば」と声に出してしまいそうになる。だけど、シンソニーが寂しがるといけない。


 俺はその言葉を、喉の奥におしやった。



「うーん。アタシだけなら小さい魔物も完璧に避けられるんだけどねー。アタシは気配を消すのも大得意なのさ。三頭犬、あんた気配からしてうるさいんだよ」



 また先頭を歩きながら、キジーが俺に文句を言う。



「気配がうるさいってなんだよ。声ならキジーも大きいじゃねーか」


「すぐ油断して、魔力が漏れてるって言ってるんだよ。魔物にあとを追われる原因になるんだから、ちゃんとしまっときな。ミラナがケガしたらどうすんのさ」


「すません」



 どう見ても年下のキジーに、ガンガン怒られる俺。


 ミラナも俺が無駄な魔力を放出すると、神経質な声で「やめて」と言ってくる。


 だけど、解放レベル3で人間になる俺は、解放レベル2で人間になるシンソニーより、人間姿のときの魔力が多いのだ。


 そして、魔力を体内に収めておくのは、解放レベルがあがるほど、だいぶん難しくなるのだった。



      △



 それからしばらくして、俺たちは少し開けた場所に出た。


 色とりどりの花がさく草はらで、ポカポカの日差しも柔らかく、一見とてものどかだった。


 居心地がよくて、犬のときなら走り回りたくなりそうだ。



「ついたよ。応援はまだ到着してないみたいだね」


「先に着けてよかったわ! みんな、頑張ってくれてありがとう」


「おぅ、当然だぜ。でも、着いたってここ、なにもねーぞ?」



 俺が首を傾げると、キジーが何歩か前に進み出た。それから、なにもない場所に手をついて、もたれかかるような不思議な姿勢を取る。



「そう、封印された遺跡は見えないのさ。だけどしっかりここにある。触ってみなよ」


「えっ!? こえぇっ! それ、危ないやつじゃねーの!?」



 キジーがもたれている場所に、覚えのある歪みが生じているのを感じて、俺は恐れ、後退った。



「……これ、消えたオルンデニアと同じじゃねーか……」


「うわぁ……」



 俺の隣で、シンソニーが同じように青ざめている。俺は隙を見て、シンソニーにオルンデニアが消えた話をしたのだ。


 恐ろしい話ではあるけど、記憶の共有は俺たちの約束だ。


 俺の話を聞いて、シンソニーもあの日のことを思い出したようだった。



「それ、思い出したんだね……。そう、同じだよ。オルンデニアの大封印と」



 ミラナが神妙な顔をしながら、見えない壁にもたれかかるキジーを見て言う。



「オルンデニアの、大封印……? オルンデニアって、消えたんじゃなかったの!?」


「うん、まだあるみたいだよ。オトラー帝国に。ぽっかり空いた穴みたいに、だれも近づけないんだって、ナダンさんが言ってた」


「うわっ、すっげー……」



 あまりのことに、俺は思わずその場にしゃがみ込んだ。怯えなのかなんなのか、足が少し震えている。


 あれが封印だったということは、王都にいた仲間や知り合いの人たちも、まだ生きているかもしれないということだ。


 もし、封印が解ければ、三百年もたったいまになって、街ひとつが復活するかもしれない。


 それも、いまはもう、まったく違う国になってしまった、オトラー帝国の真んなかにだ。



「まったく、腰ぬかしてんの? しっかりしてよ、三頭犬。今日はキマイラとフロストスプライトをテイムするんだろ。ほかのこと考えてる余裕はないはずだよ」



 キジーが見えない壁にもたれたままいう。あんな恐ろしい壁に、平気でもたれるとは見あげたものだ。


 彼女はもしかすると、オルンデニアの封印を解けるのだろうか。


 だけど確かに、いまは目の前のことに集中したほうがよさそうだ。



「お、おぅ。すげーしっかりしてるぜ! ぜんぜん、ビビってねーしっ」



 俺は立ちあがり、精一杯胸を張ってみせる。だけどキジーは、そんな俺を見ようともせず、ふいっと中空を見あげた。



「あ、のほほん騎士団長たちが来たよ」


「残念、またバレたか。静かに近づいたのだがな」



 淡い緑の風がキラキラ輝いたかと思うと、風のなかから騎士団長とカミル防衛隊長、さらに治癒魔導師のコルニスさんが現れた。


挿絵(By みてみん)

 キジーのすごさを実感しつつ、封印された遺跡があるという場所までやってきたオルフェルたち。


 消えたと思っていたオルンデニアは、実は封印されていたようです。


 これもかなりの衝撃ですが、いまはテイムに集中しなくてはいけません。


 そんな彼らのもとに、助っ人たちが集まってきます。


 挿絵はダークヘッジホッグです。キラーフラッグが怖かったので、今回は可愛く!


 次回、第七十話 逞しいね~脱がされた俺~をお楽しみに!


挿絵(By みてみん)

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ターク様が心配です!~不死身の大剣士は寝不足でした~



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― 新着の感想 ―
[良い点] ダークヘッジホッグ、見る分には可愛い! [気になる点] 王都は丸ごと封印されていたんですね。 朗報……と言っていいのかどうか、やや複雑なようですが。 助っ人のイーヴ先生ご一行が到着してい…
[一言] オルンテニア、封印されていたのですね…いったいなぜ封印されたのでしょう…そもそも封印される理由や、誰が封印したのかまではわかっていませんが…。闇魔術師がかかわっていたりするのでしょうか?とて…
2023/09/19 13:37 退会済み
管理
[一言] 花車様おはようございます! そしてかわいい!ダークヘッジホッグ(⑉・ ・⑉)!! オルフェル達がこんな可愛いのが苦手とは!! 俺なら穴あきまくりで愛でますよ(⑉・ ・⑉)笑 さて続きを読みに…
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