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三頭犬と魔物使い~幼なじみにテイムされてました~  作者: 花車
第5章 恋文と抗議文

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067 スビレー湖3~消失のあと~


 場所:スビレー湖

 語り:オルフェル・セルティンガー

 *************



 ミラナに振られた原因を探ろうと、俺は三百年前の記憶を辿った。


 だけど、思い出したのは、イニシスの王都、オルンデニアが消えたあとのことだった。



      △



 あの日、一度逃げ出した俺たちは思いなおし、シーホの森から引き返した。


 だけど、オルンデニアがあった場所には、近づくことができなかった。


 なにもないように見えて、それでいて進むことができない、見えない壁に阻まれたのだ。


 近づくと視界に奇妙な歪みが生じ、乗り物酔いのような感覚になる。


 見えない壁の周りに、王都周辺を見回っていた守衛がひとり、呆然として立ち尽くしていた。


 俺たちが王都を出るとき、声をかけてくれたあの人だ。だけど彼はショックのせいか、口を利くこともできなかった。


 俺たちは、彼の身分証に書かれていた出身地を見て、彼をオルンデニアにほど近い村へ連れていった。


 そこには彼の妹さんがいて、俺たちが勇気を出して引き返し、兄を連れてきてくれたと言って、とても感謝してくれた。


 あの恐ろしい気配は、この村まで届いていたようだ。だけど皆怖がって、だれも確認に行けなかったらしい。


 村人たちの質問攻めにあい、俺たちはその日、その村に泊まった。


 オルンデニア消失の話をすると、村の人たちは真っ青になってしまった。


 王都が消えたということは、王様を含めた貴族たちも、騎士団を含む王国軍も、教会も魔法機関も、それから、将来有望な若者たちを集めていたカタ学も、国の重要機関の中心部分は全て消えたということだ。


 それはもう、イニシス王国の滅亡ではないかと、その村の人たちは騒ぎ立てた。


 そのとき俺は、自分が騎士になる道を閉ざされたことに気付いた。


 だけど、そのときは、それどころじゃなかった気がする。


 王都にいたはずの仲間や知り合いが、消えてしまったことのほうがよほどショックが大きかったからだ。


 なにも考えられないまま、俺たちは翌日その村を出て、故郷のイコロ村を目指した。


 なんだかとても、嫌な予感がしていた。



      △



「うくっ……。あのあと俺、イコロで、ミラナに会えたんだっけ……? だめだ。これ以上、思い出せねー。なんで俺たち、こんな場所に……」



 涙をこぼしながら、また眼前の湖に目をやる。


 俺は確かにここで、ミラナを抱き寄せキスをした。



『好きだよ、オルフェル。これからはずっと、一緒だよね……?』


『もう絶対離さねー……』



 記憶のなかの彼女の、縋るような声が、俺の耳に蘇る。


 そうだ。あのときは、いまと同じような簡素な作りのテントが、湖のほとりにたくさんあった。


 まるで、皆でなにかから逃げてきたみたいに……。



      △



 そのとき、湖のなかから大きななにかがゲコゲコと岸にあがってきた。


 ヌラっと光る黄色の身体に毒々しい黒い筋模様。丸々としながらも、後ろ足で立ちあがって跳ねている。


 ぱっくりと開いた口は、俺を一飲みにできそうなほど大きい。


 あれは、凶暴化したカエルの魔物、キラーフラッグだ。


 人間を見つけると、長い舌で巻き取って一飲みにしてしまう。


 キラーフラッグたちは俺には気付かず、ミラナたちが寝ているテントのほうへ進みはじめた。四匹、五匹……続々とあがってくる。



「ゲコ、ゲコ……」


「おい、人が落ち込んでるときに、のこのこでてきて素どおりしてんじゃねーよ」



――ジャキーーン!――



 闇夜に響く効果音に、キラーフラッグたちが一斉に俺を見た。



「こっちへ来い! 俺の涙のフレイムスラッシュを受けてみろ!」


「ゲコォッ!」



 泣きながら走り、キラーフラッグに一撃を見舞わせた。


 だけど、斬れはするものの、いまひとつ燃えない。水際の生物だけあってかなり水分が多いのだ。



「ゲコゲコ……!」



 後ろから近づいてきた別の個体に、ベシッと体当たりで弾かれ、俺はごろごろと地面を転がった。


 キラーフラッグの皮膚を覆っている、ヌルヌルとした臭い粘液が、俺の体にまとわりついた。



「くっせ……! 俺はいま、虫の居所がわりーっつーのにー! なんなんだこれはー!」



 ずるずるする体に苛立っている間にも、水のなかから新しいキラーフラッグがあがってくる。


 これは少し、気合いを入れる必要がありそうだ。



――ヴォン・ヴォン・ヴォン!――



 キラーフラッグとの間合いを取りながら、トリガーブレードのトリガーを噴かす俺。


 これは俺の、集中力を引きあげるリチュアル(儀式)だ。


 トリガーブレードの刃が唸りながら赤く輝いている。



「俺は、強い!」



 ミラナのかける攻撃モードにはおよばないけど、魔法発動前に行うリチュアルの効果は大きい。


 俺がニヤリと笑うと、剣先がさらに熱くなり、俺の闘志が湧き立った。



「燃えあがれ!」


「「ゲコォ!」」



 炎で真っ赤な円を描きながら、回転して腹を裂くフレイムリングで、同時に二匹のキラーフラッグがひっくり返った。



――バーチカルフレイムリングだ!



 倒れたキラーフラッグを下から切りあげ、炎の勢いで空中に浮かせる。切り抜けて飛びあがり、垂直の回転切りで叩き落とした。


 キラーフラッグはビチャっと潰れ、ヒクヒクしてから動きを止める。



「見たかっ! これがトリガーの力!」



 だけど振り返ると、俺はまた三方から囲まれていた。感情の読めない、横長の瞳孔が不気味だ。


 闇に侵された体からはプンプンと臭気が漂っている。


 ゴクッと喉を鳴らすと、キラーフラッグの舌が伸びてきて、俺の体を絡め取った。



 突然不気味な気配とともに消え去った、イニシスの王都オルンデニア。


 その跡地にいた守衛を、その人の村に送り届けたオルフェルたちは、自分たちの置かれている状況をあらためて感じました。


 オルフェルが騎士になれなかったのは、彼のしくじりが原因ではなかったようです。


 そして、「もう別れてる」というミラナとのキスを思い出してしまう悲しみのオルフェル君に、キラーフラッグが襲いかかりました。


 次回、第六十八話 スビレー湖4~見張りの夜に~をお楽しみに!


挿絵(By みてみん)

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ターク様が心配です!~不死身の大剣士は寝不足でした~



カタレア一年生相談窓口!~恋の果実はラブベリー~

― 新着の感想 ―
[良い点] 王都が消える。 これは大事件だ。 そしてオルフェルとミラナの記憶の誤差。 まだまだ分からない事が多いですが、 物語の演出としては良いと思います。
[一言] 花車様こんにちは! これはオルフェル落ち込んでる場合ではないっ!! でも色々過去を振り返れば確かに落ち込むよな。 だけど進まなければ!! 花車様おはようございます! 今月もありがとうございま…
[良い点] 失念していましたが確かに王都が消えたという事は、国家存亡の危機でした。 これ幸いと他国は胎動していそうです。 ここから地獄の戦乱へ突入して自然でしょう。 魔物が多くなっているから、その対策…
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