065 スビレー湖1~大魔道師キジー~
場所:スビレーの森
語り:オルフェル・セルティンガー
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すぐにフィウンデの街を出た俺たちは、早速スビレーの森に入っていた。
フィウンデの街も大きくて見所がありそうではあったけど、のんびり観光している時間はない。
俺たちは森のなかを歩いて進む必要があり、空を飛んでくる騎士団長たちを、待たせてしまう可能性が高いからだ。
俺たちもシンソニーに空を飛んでもらえば早いけど、それはキジーが猛反対した。
「絶対やだよ。アタシ、危ない橋は渡らないって言ってるだろ。しっかり探知して、確認して、安全なところにだけ踏み込むのが、この大魔導師キジー・ポケット様なのさ!」
彼女は得意げに胸を張っているが、要するに高いところが怖いようだ。
――まったく可愛いポケット様だな。
だけど、彼女がいなければ、たとえ場所がわかっていても、封印された遺跡には入れないらしい。
封印の解除というのも、本来危険な行為だ。封印時に決められた手順を踏まずに解除すれば、なにが起こるかわからない。
爆発したり、電撃を放ったり、星の彼方へ消え去ってしまったりする。
封印されていたものが壊れるのはもちろん、解除しようとしたものが巻き込まれ、ケガを負うことにもつながるのだ。
遺跡のように大きいものを覆い隠すほどの封印となると、その反動も大きいはずだ。
そんな強固な封印を探知し、本当に安全に解除できるのだとしたら、彼女は確かに、大魔導師とよばれるにふさわしいのかもしれない。
「キジーって戦闘もつえーの? ほかにどんな魔法つかえんだ?」
俺が尋ねると、彼女はまた、得意げに胸を逸らした。
今日も彼女は、腰のはみ出たピラピラの服に、おそろしく丈の短いパンツという、露出の多い服装だ。日に焼けた胸元にはビーズの飾りがキラキラしている。
つい目がいってしまうのでやめて欲しい。
「戦闘? 言っとくけどアタシ、探知と解除以外の魔法はいっさい使えないからね。危ないと思ったら三頭犬を盾にして逃げるからよろしく!」
「お、ぉん……」
――まったく、可愛い大魔導師様だな。
だけど、彼女がいれば、周辺にいる魔物は全て出会う前に見つけることができた。
「初級探知魔法・熱源探知、中級探知魔法・魔力探知。安全確認よーし!」
彼女はいくつかの探知魔法を常に重ねて発動している。
どうやら、探知できる範囲も感度も、俺たちの想像をはるかに超えたもののようだ。
危険な魔物を避けられるばかりでなく、こちらから奇襲をかけ、襲われる前に倒すことも可能なのだ。
これは実際のところ、強い仲間が数人いるより心強いくらいだった。
俺たちはキジーの案内で、迷うこともなく森のなかをどんどん進んでいった。
△
かなり日が暮れかかったころ、俺たちは森のなかで、大きな湖にさしかかった。夕日で赤く染まった空が映り込み、燃えるようで美しい景色だ。
「あ、スビレー湖についたみたい。順調順調! 今日はここで休もう」
キジーが湖に駆け寄って、振りかえって俺たちに手招きをする。どうやら、ここは安全のようだ。
「いい場所だね」
シンソニーが俺の頭の上でそう言って、俺たちは、湖のほとりで野営することになった。
「なぁー、ミラナ。俺、野営の準備手伝うからさ、いいかげん人間に戻してくんねー?」
「えー? ダメだよ」
人間に戻りたがる俺に、ミラナが渋い顔をする。彼女は俺が、人間になるとロクでもないと思っているようだ。
だけど俺も、そう簡単には引き下がれない。一日我慢してたけど、四つん這いはもううんざりだ。
「あっ、そうだ、風呂! 湖の水で風呂沸かしてやるからさ!」
「うーん……」
「ダメ? じゃぁ、魚! 魚捕まえて焼くから、ね? お願いっ、ミラナさん! 俺いっぱい捕まえるから……」
「どっちも、犬のままでもできるでしょ。ごねないで」
冷たくそっぽを向くミラナ。シンソニーだけを人間の姿に戻し、夕飯の準備を手伝わせはじめた。
彼女は一度決めると、なかなか考えを変えない、頑固さんなのだ。
――くっそー! なんでこう冷たいんだ。夜になったらどうせ、俺を抱きしめて寝るつもりのくせにっ!
――理不尽だぜ!
だけど俺には、ひとつだけ勝算があった。
「キジー、風呂沸かしたから入ってこいよ。ほらあそこ、石で区切ったとこ、湯気出てるのわかる?」
「わ、やるね。三頭犬! 覗くんじゃないよ」
俺が湖の一角を石で区切り風呂を沸かすと、キジーはその辺の木をうまく縄で組みあわせて布をかけ、ささっと目隠しの衝立を作った。
その向こうで服を脱ぎはじめるキジー。俺の予想どおり、彼女は器用だ。
「ゆっくり入れよ」
キジーを追い出した俺は、今度はシンソニーにこっそり耳打ちした。
「なっ、ちょっともたもたしててくんねー?」
「えっ? あ、了解」
察しのいいシンソニーは、すぐに俺の言いたいことを理解して頷いてくれる。そして基本的に、俺の味方だ。
――さすがの大親友様だぜ。
俺はそそくさとミラナの元に戻り、彼女の近くにお座りして、じっとその様子を眺めた。
スビレーの森に入ったオルフェルたち。
キジーは大魔道師ということですが、探知と解除以外の魔法は使えず、戦闘に参加する気もないようです。
しかし、極力魔物に出会わない道で、目的地まで、サクッと案内してくれます。
そして、スビレー湖に到着した一行。人間に戻りたいオルフェルの作戦はうまくいくのか?
次回、第六十六話 スビレー湖2~あの日のキス~をお楽しみに!
このお話、少し短かったので早めに次を投稿しようと思います。
キジーの腰がはみ出てるピラピラの服とショートパンツを描きたくて下書きしてたのですが、なかなかイラストが完成せずすみません……。
そのうち完成したら、活動報告でおしらせしますね!
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執筆の進捗状況や登場人物紹介なんかも書いてますのでぜひぜひ。




