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三頭犬と魔物使い~幼なじみにテイムされてました~  作者: 花車
第5章 恋文と抗議文

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062 機嫌直して~ふんっ!嫌い~


 場所:貸し部屋ラ・シアン

 語り:オルフェル・セルティンガー

 *************




「ミラナ、ごめん。機嫌なおして」



 ラ・シアンに戻った俺、オルフェル・セルティンガーは、短い後ろ足で懸命に飛び跳ねていた。


 立ったままピョコピョコ跳ねる姿は、犬というよりカンガルーだ。


 ミラナに機嫌をなおしてもらおうと、彼女を追いかけては謝っているけれど、彼女はなかなか、俺のほうを向いてくれない。


 ただでさえ子犬の姿では身長差がありすぎるのに、立ってうろうろされては、どうにも話ができなかった。



「オルフェル、邪魔しないで。シェインさんたちをテイムに行く準備してるんだから。オルフェルはどうせ、怖いんでしょ。参加しなくていいからね」


「悪かったって言ってるじゃねーかよ。な? お願い。機嫌なおして? シェインさんは大事な兄さんみたいな人だけど、俺、頑張ってボコボコにするからさっ」


「ふんっ。嫌い」


「えー!? ちょ、ちょっと、ミラナさんー!?」



 いままでどんなに冷たくされても、「嫌い」なんて言われたことは一度もなかった。


 あまりのショックに呆然とする俺。


 一度引き下がろうかとも思ったけれど、いまはそういうわけにもいかない。


 このままミラナを怒らせておけば、俺は大事なテイムの前に、本当にケージに封印されてしまいそうだ。



「くー。シンソニー! たのむ、助けて」


「えぇっ? 僕、なにしたらいいの?」


「とりあえず、俺とミラナの身長差を埋めてくんねー?」


「わかった!」



 人間姿のシンソニーが俺を抱きあげ、ミラナのあとを追いかける。



「なぁったら、いつまでそんな、仏頂面してんだよ」


「ふん! わるかったわね! どうせ、闇属性は顔が怖いって言いたいんでしょ」


「そんなこと言ってねーだろ? なんでそこまで、機嫌わるくなんの?」


「知らないっ」


「ほらっ、いつもみたいに俺を抱きしめていいからさ! 機嫌なおして……ね? ミラナさ……」


「シンソニー、レベルダウン!」

――ピロリローン♪――


「ピーッ!? 僕、とばっちり!?」



 シンソニーが、いきなり小鳥に戻され、俺は床に転がり落ちた。



「ぎゃふん」


――なんだこれっ、どうしたらいーの?



      △



 そのあともミラナは、少しも機嫌がなおらないまま、キジーと布団を並べて寝てしまった。



――ふう……。やっと、顔の高さが揃ったぜ。



 寝ているミラナの枕元ににじり寄る俺。ミラナはどうも、寝たふりをしている気がする。



「ミラナ……。そんなに、怒んなよ。俺、ミラナのためならなんでも頑張れるぜ。そりゃ、騎士にはなれなかったかもしんねーけどさ。もう人間ですらねーかもしんねーけど……。ミラナのこと好きなのは、ずっとずっと、かわんねーから……」



 ミラナがスースーと、わざとらしい寝息を立てている。前足で頬をツンツンとつつくと、「うーん」と唸りながら払いのけられてしまった。



――くそっ。ミラナ、おまえ、起きてるだろっ? こんだけ言ってもだめなの?



 我慢できずミラナの耳を俺のしめった鼻で突くと、ミラナがピクンと反応した。



――寝たふりはここまでだっ。



 今度はミラナの頬に、鼻の頭を押しつける。口だと怒られそうだけど、鼻ならギリギリ大丈夫だろうと勝手に思っている俺。


 だいたいいつも、俺に好き放題するのはミラナのほうだ。


 そのまま額をスリスリとミラナの顔に擦り付けていると、ミラナにムギュッと抱きしめられた。



「嫌いって言ってごめんね……」


「うはん……っ。ミラナ、機嫌なおったの?」


「うん……」


「俺のこと嫌いじゃない?」


「うん、嫌いじゃないよ」



――やっ、はぁー! 嫌われてなかったぁーー!



 浮かれて飛び出しそうになる舌を必死にこらえながら、猛烈に尻尾を振る俺。


 残念ながら、尻尾の止めかたはいまだによくわからない。



「テイム、俺も頑張るぜ」


「うん、よろしくね」


「おやすみ、ミラナ」


「一緒に寝よ……?」


「きゃう……っ!?」



 ミラナにしっかり抱きしめられた俺は、彼女の首元に顔を埋めた。



――よかった。跳ねすぎて疲れたぜ。



 温かな彼女の腕のなか、安心して早々に寝てしまった俺は、そのあとミラナが呟いた言葉を、夢の中で聞いた気がした。


「……オルフェルの、嘘つき……」



      △



 翌朝、ミラナは成犬にレベルアップさせた俺に、なにやら大量の荷物を背負わせていた。


 どうやら目的地がかなり遠く、一日では到着しないらしい。野営も考えているらしく、鍋やテントも積んだようだ。


 テイム作業以外にも、道中の魔物と戦う必要があるのかもしれない。



「そういえば、助っ人が来てくれるんじゃねーの?」


「うん、場所は伝えてあるから、現地集合だよ」


「ちゃんと合流できんのかな」



 相手は会ったこともないうえ、なにも話しあっていない。こんなことで本当に会えるのかと、俺は首を傾げた。


 張り切って出かけても、あんな強い先輩たちをボコボコにするのは、俺たちだけでは無理な気がする。


 フロストスプライトももちろん怖いけど、シェインさんは巨大なキマイラだというのだからもっと怖い。


 キマイラは複数の動物が組みあわさった魔物で、カタ学で受けた魔物学の授業でも『普通の魔物より格段に強いため要注意』とされていた。


 しかも、シェインさんは頭と体はライオンで、背中にヤギの頭が生え、尻尾は蛇になっているらしい。


 見た目の衝撃だけでも、震えあがってしまいそうだ。


 不安顔の俺に、キジーが「安心しなっ!」と、言いながら得意げな顔をしてみせた。



「ちゃんと来てくれるよ。それにアタシは探知が大得意だからね。だれがどこにいるかなんて、すぐわかるんだよ。合流だって問題なしさ」


「すげーな! だれがいるかまでわかるのか」


「知り合いならね。どんなに上手く隠れてても、アタシの探知にかかればバレバレだ……よっ! そこの、隠れてる騎士団長さん!」



 キジーがそう言いながら、振りかえってビシッと中空を指差す。


『なに言ってんだ?』と見あげていると、緑の風が渦を巻き、そのなかから騎士団長が現れた。



 ミラナの機嫌をなおそうと、ピョコピョコ跳ねるオルフェル君。


 ミラナはどうやら、「怖い」と言われるのは地雷のようですが、なんとか機嫌をなおしてくれました。


 オルフェル君も次からは口に気を付けることでしょう……笑


 そして、シェインたちのテイムに出発しようとする彼らの元に、あの騎士団長がやってきました。


 次回、第六十三話 ロッツオブラブ~覗きの現行犯だよ~をお楽しみに!


挿絵(By みてみん)

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― 新着の感想 ―
ミラナの内心を知っていると、この回で見せている態度もいじらしく感じられますね! ミラナに機嫌を直してもらうために取る行動が完全に犬なオルフェルくんも相変わらず可愛い笑
[良い点] あらら、ミラナの地雷踏んじゃった。 二人の仲はなかなか進展しませんね。 でもそれが良かったりします。 こういうもどかしい感じは個人的に好きです!
[良い点] 恐怖されたことにミラナがここまで根に持つとは、相当根深いものがあるのかなと推察いたします。 一般的に怖いとされることを、ミラナは他にもしてしまったのでしょうか? とても愛されているオルフェ…
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