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三頭犬と魔物使い~幼なじみにテイムされてました~  作者: 花車
第5章 恋文と抗議文

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060 恋文と抗議文~真剣な気持ちをあなたに~

 場所:イコロ村

 語り:ミラナ・レニーウェイン

 *************



『邪悪な闇魔導師は善人面をするな! 国から出ていけ!』


『イニシスの国民はもう騙されない!』


『イコロの魔女め! 王妃様を返せ!』



 机の上に積みあげられた手紙に目をやって、私は今日何度目かもわからないため息をついた。


 オルフェルをカタ学に追い返してしまってから、また四ヶ月がすぎている。


 その間に、王妃様の死がきっかけで始まった闇魔導師追放運動は、どんどん激化していた。


 イコロ村は事件を起こしたイザゲルさんの出身地のため、ほかの村より狙われやすいようだった。


 はじめは、イザゲルさんを失い傷心のシークエンさんの家に、溢れるほどの抗議文が届いた。


 それから、領主であるクーラー伯爵のところにも。


 そして最近は、理不尽に王都を追放された私にまで、抗議の手紙が届くようになってしまった。



『イザゲルを産んだ村が、闇魔導師を(かくま)っているのは許せない! 闇魔導師は国外へ出ていけ!』



 毎日のように届く、そんな手紙を手に取ると、喉の奥が詰まったように痛くなる。



「私、村にいるのもダメなの? 私がこの人たちに、いったいなにをしたって言うの?」


「ごめんね、ミラナ。私があなたを愛したばっかりに、あなたを嫌われものの闇属性にしてしまったのよね」



 私の目から、悔し涙がポロポロとこぼれ落ちると、クイシスは一緒になって涙を流してくれた。


 私の顔の横に飛んできて、申しわけなさそうにしながら、小さなハンカチで私の涙を拭いてくれる。



「クイシス、そんなこと言わないで、あなたのせいじゃないわ」


「だけど、ときどき思うのよ。あなたを闇に縛り付けてるのは私なんじゃないかって」


「違うわ。あなたがいてもいなくても、私は根っからの闇属性よ。問題はそこじゃないの」


「そうね……」



 クイシスは私が悲しむと、いつだって同じように悲しんで、私に寄り添ってくれた。


 痛みと恐怖を深く知る闇だからこそ、彼女は思いやりに溢れている。


 闇の精霊は決して、深淵の常闇(とこやみ)だけを愛してはいない。


 皆が安心して眠れるような、優しい薄暗がりを愛し、光と共存しているのが闇の精霊なのだ。


 そんな優しい闇を、悪く言う人たちは、本当に、なにもわかっていない。



「問題は、理解されていないってことよ。必要以上に怖がって、排除しようなんて、極端だわ」


「そうね、光でも闇でも、極端なのはよくないわ。光と闇は協力しあうことが大事なのよ。片方だけ追い出すなんて間違ってるわ!」



 私たちは二人で仏頂面をつきあわせ、「まったく、困った人たちね!」と、頷きあった。


 なんだか、すこしおかしくて、泣きながらクスッと笑ってしまう。



「さっ! こんな嫌な手紙はさっさと捨てて、今度はこっちを読もうっと」


「そうね! そのほうが元気が出るわよ」



 私の机の上には、もうひとつ手紙の山があった。カタ学にいるオルフェルが、三日に一度は送ってくれる、おかしなラブレターの山だ。


 休暇中以外は、本当に欠かさず送ってくれたため、もう五十通近くあるかもしれない。


 どんなにつらくても苦しくても、この手紙を読めば、私は元気を取り戻せた。


 クイシスが声を出して、オルフェルの手紙を読みあげる。



「拝啓 ミラナさん


 今日の俺は、ジックボールの試合で大活躍したぜ! 女子たちの黄色い歓声で、鼓膜が破れるかと思ったくらいだ。


 俺がカッコいいシュートを決めるところを、ミラナにも見せたかったな。絶対ミラナも惚れたはずだぜ!


 あなたのオルフェル」



「拝啓ミラナさん


 なぁ、ミラナ。返事がないけど元気にしてるか? もしかして、俺の字が達筆すぎて読めねーんじゃねーかって、俺は心配してるぜ!


 オルフェル君の赤毛が不安で禿げる前に、是非返事を書いてくれよな。俺への愛が詰まった手紙、待ってるぜ!


 あなたのオルフェル」



「拝啓 ミラナさん


 ミラナがいない毎日は、ばーちゃんのレモンケーキみたいだぜ。パサついてしょうがねーよ。


 次の休暇にはゆっくりミラナと話がしたい。闇属性の追放運動が激化してるから気をつけろよ。意地悪されたら俺に言うんだぜ。


 じゃ! 休暇で会えるのを楽しみにしてるぜ!


 あなたのオルフェル……よくもまぁ、こんなに飽きずに手紙を送ってくるわよね、あの子は……」



 クイシスが小さなため息をつきながらも、ふわふわと笑顔を浮かべている。


 クイシスも、オルフェルからの手紙が大好きなのだ。



「うっ、オルフェル……。会いたいよぉ、オルフェル~!」


「やだ、ミラナったら、結局泣いちゃうの? これ読んで元気を出すんでしょ?」


「だって、だって……。私だって、毎日オルフェルに会いたいの!」


「ならいいかげん、返事を書いてあげたら? ミラナの大好きなオルフェルが禿げちゃうわよ?」


「だって、だって……。どうしても、ラブレターみたいになっちゃうんだもん……。あんなの、恥ずかしくて送れないよぉ」



 また涙が止まらなくなった私を、呆れた顔で眺めるクイシス。


 だけどそのころの私は、気持ちも伝えず彼をカタ学に返してしまったことを、毎日悔やんでいたのだった。



「オルフェルは真剣だよ。逃げ回っても追い返しても、ちっとも諦めやしないんだから」


「うん……」


「いいかげん、本当の気持ちを教えてあげたらどうなの? 二人のことなんだから、一人で決めちゃうのはよくないわよ。あの子の気持ちも、少しは汲んであげないと」


「うん、わかってる……。だから、次の休暇でオルフェルが帰ってきたら、私も真剣に、この気持ちを彼に伝えるの」


「そう! えらいわ。やっとなのね! 応援してるから頑張って! 私はいつだって、あなたの味方よ」


「こんなに振り回して、いまさら好きだなんて言っても、嫌われちゃうだけかもしれないけど……」


「絶対大丈夫よ!」


「ありがとう、クイシス」



 それから数日経ったころ、白馬に跨った国王の騎士が、兵士と馬車を引きつれ、私を迎えにきた。

 国王派から送りつけられてくる心無い抗議文に心を痛めるミラナ。闇の精霊クイシスが、彼女を優しく慰めてくれます。


 そして、変わらずラブレター(?)を贈りつづけるオルフェル君。


 ミラナはついに、彼に気持ちを打ち明ける決心をしたのですが……。


 次回、第六十一話 ガタガタ~闇魔導師の最期~をお楽しみに!


挿絵(By みてみん)



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ターク様が心配です!~不死身の大剣士は寝不足でした~



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― 新着の感想 ―
[良い点] 明るく一途なオルフェルには癒やされますね。 ミラナは会えない哀しさが勝ってしまったようですけど、遂に想いを伝える覚悟を決めた様子。 ここから未来で見たあの記憶へ繋がっていくのかと思うと、と…
[良い点] ミラナも試練の日々が続きますね。 そして手紙を送り続けるオルフェル。 彼のこういう所は素直に素晴らしいと思います。
[一言] 花車様こんにちは! オルフェルに手紙を貰い続けミラナもやっとの決意! これはどうなる事か!? 続き楽しみにしてますね(* ᴗ͈ˬᴗ͈)”
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