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三頭犬と魔物使い~幼なじみにテイムされてました~  作者: 花車
第5章 恋文と抗議文

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058 ボコボコ~死なない程度にね~


 場所:リヴィーバリー

 語り:オルフェル・セルティンガー

 *************



 キジーとともにラ・シアンを出たミラナは、ギルドで毒消し草採集依頼の完了報告を済ませた。


 それから裏通りの織物店で、サビノ村で頼まれて回収したという、ポイズンスパイダーの糸を買い取ってもらう。


 俺はその間、ずっとキジーに預けられていた。理由は店のなかできゃんきゃん吠えて、迷惑をかけるからだそうだ。


 さらに、メージョーさんの店で、キジーの持ってきてくれた魔導書などを買い取ってもらうと、ミラナは満面の笑みで店から出てきた。



「うふふ……」


「ミラナ、どしたの?」



 ミラナはとても満足げな顔で、含み笑いを浮かべている。


 学生のころよりずっと、表情が豊かになったミラナが可愛い。



「あ、わかった。そろそろ百万ダールは溜まっただろうから、ビーストケージが買えるって喜んでるんだろ」


「うふふ! そうなんだけどね、ビーストケージ、二個買えるよ!」


「えぇっ!? 嘘だろ」


「ほんとだよ! 二百万ダール、貯まっちゃったの!」


「すげー、いつの間に……」



 思った以上の貯金額に驚く俺。そういえば俺は、ギルドの仕事の報酬額をさっぱり知らない。


 彼女の懐事情(ふところじじょう)を、把握できるわけもないのだった。


 ミラナが言うには、前にメージョーさんにヨーヨーを買い取ってもらった時点で、すでに百三十万ダールは貯まっていたらしい。


 あのときミラナは、ビーストケージを買いに、ローズデメールへ寄ろうとしていた。


 だけど、俺がいきなり走り出したために、後回しになってしまったようだ。



「そうとは知らず、悪かったな」


「ううん。急いで買っても、どうせシェインさんたちの居場所もわからなかったから。じゃぁ買ってくるから、少し待っててね! キジー、オルフェルすぐ逃げるから、しっかり持っててね」


「任せといて!」


「大丈夫、逃げませんよ?」



 キジーにガッチリ抱きしめられたまま、俺は短い前足を振って、ミラナを見送った。



      △



 しばらくすると、ミラナは腰のベルトに、四つのケージをつけて店から出てきた。


『どうだ!』と言わんばかりの得意げな顔をしていて、めちゃくちゃに可愛い。


 こんなに満足そうなミラナを見たのは、いったいいつぶりだろうか。


 両手を腰に当て、足を開いて腰を突き出している。



「これで、シェインさんとベランカさんをテイムできるわ!」


「そうだな! だけどテイムって、どうやってやんの?」


「えっ!? えっと、それは……」



 俺が尋ねると、ミラナはなんだか気まずそうに口ごもり、俺から目を逸らした。


 隣に立っていたシンソニーに目をやると、こっちも口をつぐんで空を仰ぐ。



「な、なんなの? シンソニー、おまえ、俺がテイムされるとき、見てたんだよな?」


「あー。……うん……」



 今度は引きつった顔で、後ろを向くシンソニー。二人が黙ってしまうと、キジーが口を開いた。



「言うこと聞いてケージに入るまで、みんなでボッコボコにすんだよ」


「きゃうん!?」



 キジーの腕のなかで飛び跳ねる俺。全身の血の気が、サーっと引いていくのを感じる。



「なんだそれ、こえぇっ! 俺ミラナにボコボコにされたの?」


「し、死なない程度にね……」



 ミラナが引きつった顔をしながら、ニコッと笑顔を作って、俺は余計に震えあがった。



「シンソニー、まさか、おまえも……? 宇宙一優しいおまえがっ、俺に、そんなことしねーよな!?」


「あっ、あのね、オルフェ。言っとくけど、僕もされたんだからね? 覚えてないけど」


「みんな、こえぇっ!」


「なによ。だったらオルフェルは、参加しなくていいよ! ケージに入って、テイムが終わるまで待ってれば?」



 ミラナが怒り出してしまい、ビビりながらも慌てる俺。



「ごめんなさい、が、頑張って、俺もシェインさんとベランカさんをボコボコにします。ってやっぱこえぇーーーー!」


「もう! オルフェルなんて、知らない!」



 ミラナは俺をキジーに預けたまま、スタスタと歩きはじめてしまった。『怖い怖い』と騒ぎすぎたせいで、ミラナを怒らせてしまったようだ。


 シンソニーが慌ててあとを追って、まだ少し困惑中の俺の代わりに、ミラナの機嫌を取ってくれている。


 そんな二人の様子を見ながら、俺はようやく思い出した。調教魔法はすべて、()()()()()だということを。


 闇属性なんだから、闇深いのは致し方なしだ。



――あー、俺のバカ。ほんとにバカ!



 遠ざかっていくミラナの後ろ姿を見ながら、俺は小さくため息をついた。


 そんな俺を見かねてか、キジーが俺の頭を撫でる。



「封印された遺跡でミラナに出会ったとき、ミラナ、すごく悲しげでさ。いまにも消えちゃいそうなくらい儚げに見えて、ほっとけなくてさ……」


「え。そ、そうだったのか……。ミラナ、なにがあったのか全然言わねーから……。俺……聞きにくくて……」



 声を詰まらせた俺に、キジーが「わかる!」と、相槌を打つ。キジーもあまり、突っ込んだ質問はできなかったようだ。


 だけどどうやら、ミラナのそういうミステリアスなところも、キジーは気に入ったらしい。



「なんかすごく、つらかったみたいで、最初はずっと落ち込んで泣いてたよ」


「キジーがミラナを、元気づけてくれたんだな」


「うん、アタシの冒険の話をいろいろ聞かせてあげたんだよ。楽しそうに聞いてくれたからね。で、アタシが遺跡で見かけた魔物の話をしたら、それが、シンソニーだったってわけ」



 シンソニーを保護したいというミラナを、キジーはナダンという人に紹介したらしい。


 キジーの師匠でもあるナダンさんは、調教魔法の考案者なのだそうだ。



「五年位前なんだけど、北西のクラスタル王国で、魔物が大量発生してね。それを鎮めるために、先生が調教魔法を考えたんだ」


「本当に新しい魔術なんだな……」


「そうそう。だけど、調教魔法は、魔力や戦闘力が少ない魔導師でも、強い魔物さえ捕まえれば十分戦えるってことで、最近は結構流行ってるんだよ。絶対、ミラナにちょうどいいと思って」


「なるほど……」



 調教魔法を勉強しはじめてからの彼女は、本当に真面目で、健気で、キジーは胸を打たれたのだという。


 最初は泣いてばかりだった彼女が、魔物になってしまった仲間のために、前向きになろうとしている。


 そんな姿を見て、キジーはますます手伝ってあげたくなったようだ。


 キジーは俺を抱いて歩きながら、あれこれとミラナへの愛を語った。


 彼女はどうやら、俺の同志のようだ。



「ミラナ、シンソニーのときも、アンタのときも、泣きながらテイムしたんだからね。あんなに、怖がらないであげてよ」


「わかってる。あとでしっかりあやまるから……。というか、キジーって本当にいいヤツだな! シンソニーに並んで宇宙一かもな!」


「当たりまえだろー! 可愛い子にはどこまでも気前がいいのが、このキジー・ポケット様さ! アタシも闇魔導師だから、仲間だしさ」


「よし! いま、俺の『世界が滅びそうになったとき助ける人一覧』にキジーを追加したぜ!」


「あはは。なにそれ。三頭犬はミラナを守ってやりなよ。好きなんだろ」


「大好き……って、なんで知ってんの?」


「シンソニーが言ってた」


「ぎゃふ。あの噂好きめっ」



 俺がキジーとすっかり打ち解けたころ、俺たちは貸し部屋ラ・シアンに到着した。



 ビーストケージを手に入れ、満足そうにしているミラナ。


 しかし、テイムの方法を聞いてビビってしまったオルフェルは、ミラナの地雷を踏んだようです。


 次回から三話に渡り、ミラナの語りでの回想になります。


 プンスカ怒ってしまった彼女が思い出した、過去の出来事とは……。


 第五十九話 行かないで~ミラナの悪夢~をお楽しみに!


挿絵(By みてみん)

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― 新着の感想 ―
[良い点] 二百万ダール!! ちょっとした小金持ちですね。 >言うこと聞いてケージに入るまで、みんなでボッコボコにすんだよ い、意外とバイオレンスですね^-^; でもある意味、単純明快な方法でもあ…
[一言] 花車様おはようございます! ミラナがあまり話したくない理由が分かりました! ボコボコにする。 某ドラ〇エの魔物使いもそんな感じでしたねぇ笑笑 続き楽しみにお待ちしておりますね(⁎ᴗ͈ˬᴗ͈⁎…
[良い点] 人数分のビーストケージがあれば、あとは二人をテイムに行くだけ。 テイムのやり方はまぁ予想はしてましたが、実際にやられると哀れですね。 色んな作品でも使い魔系の魔法の、悲しき宿命でもあります…
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