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三頭犬と魔物使い~幼なじみにテイムされてました~  作者: 花車
第5章 恋文と抗議文

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057 二匹の魔物~見つけて来てやったよ!~


 場所:貸し部屋ラ・シアン

 語り:オルフェル・セルティンガー

 *************



「たっだいまー! ミラナ、シンソニー! 元気してたぁ?」


「きゃう!?」


「「あ! キジー! おかえりっ」」



 キジーは勝手にミラナの部屋の扉を開けると、ズカズカと入り込んできた。


 前と変わりがないと言えばそうなんだけど、ずいぶんと不躾な態度だ。いくらミラナの友人だからと、少し自由すぎないだろうか。



「キジーって、よく人の家に勝手にあがれるよな」



 俺が思わずそう言うと、キジーは俺をミラナから奪い取り、またポーイと投げはじめた。



「おい、やめろって!」


「おー! 三頭犬! 相変わらずチビだねー!」


「ふざけんなっ」


「ふざけてんのは三頭犬だろ。ここはアタシんちでもあるんだよ」


「えぇっ」



 驚く俺をミラナに返して、キジーは背中に背負っていた大きな革のバッグを、ドサッと床に降ろした。



「まー留守が多いからね。ここに住んだのはせいぜい三日くらいだけど」


「そうだったのか」


「そうなの、というかキジーが家賃払ってくれてるから、キジーの部屋なの」


「えぇっ、そうだったの!? 文句言ってすんません」


「へへん。まぁいいけど」



 衝撃の事実にあわてて謝った俺に、彼女は得意げな顔で笑う。ミラナの部屋だと思っていたこの部屋は、実はキジーの部屋だったらしい。


 それもそれで驚きだけど、ミラナがここまで他人に頼って暮らしていることに、俺は衝撃を受けていた。



――ミラナ、ほんとに変わったよな。人に頼るの苦手そうだったのに。


――俺が記憶を失っている数年間の間に、ミラナにいったい、なにがあったんだ?



 そんなことを考えた俺はふと、ケージのなかで見た、強烈な恐怖の記憶を思い出した。


 全身の毛がザワザワっと立ちあがって、ゴクリと喉を鳴らす俺。



――そういえば、オルンデニアは突然、跡形もなく消えたんだよな。イニシス王国は、三百年の間にゆっくり滅んだのかと思ってたけど……。


――あの後俺たち、どうなった? ミラナは、どうなった?



「とりあえず、これを見てよ」



 キジーがそう言いながら、床に敷かれたラグの上にあぐらをかいて座りこむと、ミラナとシンソニーもキジーの周りに座った。


 まだ少しぞわぞわしている俺の体を、ミラナがそっと撫でてくる。



「どうしたの? オルフェル、ちょっと震えてる?」


「いや、なんでもねー」



 考えるのをやめた俺の前に、キジーはまたあの地図を広げた。イニシス王国のない、この大陸の広域地図だ。


 彼女は地図のある地点を指でコンコンと叩きながら、また得意げにニッと笑った。



「へっへーん! 探知と解除が大得意な大魔道師キジー・ポケット様が、ミラナの仲間を見つけてきてやったよ!」


「「えっ!?」」「きゃう!?」


「同じ場所に二匹いたんだよね」


「二匹!?」


「ヤギの頭がくっついたライオンのキマイラと、フロストスプライト(氷の妖女)がいたよ」


「わぁっ、シェインさんとベランカさんだわ!」



 ミラナが嬉しそうにそう言って、俺をキュッと抱きしめる。もう俺は、されるがままだ。



「……やっぱり、ほかにも魔物になった同郷の仲間がいたんだな。もしかしたらエニーに会えんのかなって思ってたけど、まさか、シェインさんたちが……。ほかにもだれかいんの?」


「それがね、エニーもそうなんだけど、ネースさんとハーゼンさんもなの」


「そんなにいるのか!? ほんとにいったい、なにがあったんだ……」



 俺がそう呟くと、俺を撫でていたミラナの手が動きをとめた。



「うーん……。それは言いたくないの」


「わかってる……」



 ミラナはやっぱり、なにか隠したがっているようだ。


 だけど俺は、どうにも追及できなかった。


 興味がないと言えばうそになる。


 だけど、魔物になっているのは、あのとき一緒にイコロ村へ帰ったカタ学の仲間と先輩たちだ。


 もしあの、声に出すのも恐ろしい、王都消失事件が関係しているのだとすれば、ミラナが言い淀むのも当然だという気がした。



――俺もいますぐには聞きたくねーかも。



 黙り込んだ俺の背中を、ミラナが再び撫ではじめる。



「いまはそれより、魔物になってしまった仲間を集めるのが先決だよ」


「そうだね。キマイラたちも、もうすっかり目覚めてるから。万一遺跡の封印が解けて、街なんかに被害が出たら、騎士団や冒険者たちに退治されちまうよ」


「なるほど、それはまずいな」



――そうか、ミラナが必死なわけだな。



 俺はようやく納得した。同郷の仲間が暴れて退治されるくらいなら、ミラナに調教してもらったほうがだいぶんいい。


 故郷や祖国がなくなったって、同郷のみんながいれば、故郷にいるみたいに楽しく暮らせるかもしれない。



「それにしても、ベランカさん、フロストスプライトって人型じゃねーか。獣じゃねーの?」


「あ、そっちが気になるんだ? 僕はシェインさんのヤギの頭のほうが気になるけど」



 俺が話題を変えると、シンソニーもふふっとほほ笑んだ。エニーの名前が出て、彼もきっと嬉しかったのだろう。



「いや、だって俺たちだって頭はいっぱいあるんだろ。それがヤギでもいまさら不思議はねーけどよ。みんな変な魔物になってんのに、人型ってずるくねーか?」


「そうかな?」


「まぁいいか。頭の数で勝ってるし」


「え? そこ、競うの? 多いの嫌なんじゃなかったんだ」


「シンソニーにも勝ってるぜ」


「いや、全然くやしくないよ?」



 シンソニーが今度は苦笑いしている。きゃんきゃん言っていると、ミラナは『静かにして』と言わんばかりに、抱いていた俺の口を手でふさいだ。



「もご……」


「それにしても、やっぱり仲がいいわ。同じ場所で一緒に見つかるなんて」


「だけど二人同時って、捕まえるのがたいへんなんじゃないかな」


「そうだねぇ、あれは相当強そうだったよ」



 そういうキジーは、封印された遺跡とやらで、ミラナに教えられた特徴の魔物を発見し、こっそり様子だけ見て帰ってきたらしい。



「うーん、強そうだけど、頑張ってテイムしなきゃ!」


「ミラナがそう言うと思って、ナダン師匠とベルさんにも声をかけといたよ。手伝いには行けないけど、だれか応援によこすって言ってくれてた」


「わ、さすがキジー! 本当にありがとう」


「ってことでさ、ビーストケージが二つ必要だろ。これ、足しにしなよ」



 キジーはそう言いながら、大きなバッグのなかから魔導書や魔道具を取り出し、ミラナの前に並べてみせた。


 また遺跡を冒険して手に入れた戦利品のようだ。



「キジー、いつもいつも、本当にありがとう」



 ミラナが瞳に涙を浮かべて礼を言うと、キジーは少し照れくさそうにしながらも、ミラナの肩に自分の肩を軽くぶつけた。


 態度や話しかたはかなり粗野な彼女だけど、ミラナにはとにかく優しいし、段取りもいい。


 そして、なにからなにまで、俺たちの世話を焼いてくれているようだ。


 ようやくそれに気づいた俺は、彼女への見方をあらためることにした。



「キジーっていいやつだな」


「今頃気付いたの? 三頭犬!」


「今度二人で、朝まで語りあおうぜ」


「ぷは。遠慮するわ」



 なぜか遠慮されてしまったけど、俺は勝手にキジーを俺の友達一覧に追加したのだった。



挿絵(By みてみん)



 なんと、遺跡探索をしてきたキジーは、魔物化したシェインさんとベランカさんを発見したようです。


 ミラナの話ではこの二人のほかに、エニーとハーゼンさん、ネースさんの三人も魔物化しているようです。


 彼らが街で暴れて退治されてしまう前に、テイムしたいというミラナ。


 オルフェル君はようやく、ミラナの目的を理解しました(^-^;


 挿絵はキジーです。実は描きかけなんですが……。また完成したら差し替えようと思います。


 次回、第五十八話 ボコボコ~死なない程度にね~をお楽しみに!


挿絵(By みてみん)

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― 新着の感想 ―
[良い点] 仲間捜しから住むところまで……。 これはキジーに頭が上がりません。 氷精ベランカさんは楽しみ! [気になる点] エニーだけでなく、先輩たちも魔物になっていたんですか。 まだ無事に助けられ…
[一言] エニーが魔物化した状態であっても生きている、と分かったのはある意味では朗報ではないでしょうか?もしかしたらエニーを捕まえてテイムをすればシンソニーも楽しいでしょうし!それに他の仲間たちも魔物…
2023/09/18 23:28 退会済み
管理
[良い点] こんばんは! カタ学の生徒も魔物化!? これは助けるっきゃない。 キジーも良いキャラしてますね。 こういう元気な女の子は好きです!
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