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三頭犬と魔物使い~幼なじみにテイムされてました~  作者: 花車
第4章 命令と支援

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051 ドギュン~逃げ出した俺たち~

 場所:国立カタレア魔法学園

 語り:オルフェル・セルティンガー

 *************



 ウーロさんにあらためてお礼を言い、俺たちは寮を後にした。


 そこには今回、里帰りを断念した生徒たちが、俺たち帰省組を見送りに来てくれていた。


 勉強で困ったときに質問しにいくと、親切に教えてくれた先輩たち。


 カタ学に入ってから友達になり、この二年半一緒に勉強した勉強仲間。


 ジックボール部で一緒に汗を流した部活仲間に、生徒会の仕事を一緒に頑張った各種委員会の役員たち。


 俺をインテリだと勘違いして、勉強を教えて欲しいと頼ってくれる後輩や、何度も喧嘩しては仲直りして友達になった、やんちゃな悪友たちもいる。


 みな出身は違うけれど、ここで出会った大切な人たちだ。


 だけど、故郷のある地域によっては魔物が多すぎたり、凶悪な魔物の目撃情報があったりして、帰るに帰れないらしい。


 ここの生徒は、国が奨励金を出して各地から集めた、将来有望な魔導師が大半だ。


 三年生ともなれば、皆かなりの実力を持っている。それでも帰省を断念するほど、いま、街の外は危険のようだ。



「オルフェル君たち、気をつけて帰ってね」



 そう言って俺たちに話しかけてくれた仲間たちのなかには、生徒会で書記をやってくれたエリザの姿もあった。


 彼女にはいろいろと無理を言って、かなり迷惑もかけている。


 それでもエリザはいつだって、優しい笑顔で引き受けてくれた。彼女はいまや、俺の親友の一人だ。


 俺は彼女が湛えた笑顔の奥に、隠しきれない不安を抱えていることを見逃さなかった。

 


「エリザもオルンデニアに残るのか。弟のライルに会えなくて寂しいんじゃねーの?」


「そうなの。本当は早く会いたかったんだけど。心配だわ」


「エリザの故郷は東のほうだったよな。あっちは魔物がすごいらしいな」



 俺が少し強張った声でそう言うと、エリザは小さく微笑んだ。



「えぇ。だけど、王国騎士団が魔物討伐に向かってくれてるから、五日もすれば、帰れるようになるって話なのよ」


「そうか、ならよかった! エリザ、気をつけて帰れよ」


「ありがとう!」



 王国騎士団ならきっと、どんな魔物も退治してくれるはずだ。笑顔で手を振るエリザに手を振って、俺たちはその場を後にした。



      △



 仲間たちに見送られ、学園の正門に向かう途中で、同郷の仲間たちが待っていた。



「シン君、オル君! こっちだょ☆」


「あ。オルフェルたちも出てきたな。これで、同郷の仲間はそろったか」


「そうですわね、おにぃさま」



 ピョコピョコと小さく跳ねながら、手招きしているエニーの横で、シェインさんの腕にベランカさんが抱きついている。


 美男美女がいちゃつく様子を、周りの生徒たちが、目を細めて眺めていた。よく知らない人たちには、完全に恋人だと思われてそうだ。



「キョッコウコウコウ……。キョウコウキュウコウ。スバイル渓谷のスライム噴火もら……」


「はは。ネースは本当に外が苦手だな」



 ネースさんは黒い上着のフードを頭からすっぽりかぶり、彼の長い青色の髪を隠している。彼を太陽のしたで見たのは久しぶりだ。


 ハーゼンさんは、鎧の胸当ての前で逞しい腕を組んで仁王立ちし、ニカッと笑顔を見せている。


 さっきのネースさんの発言に、普通に返事をしているのは、さすがすぎだ。


 前の休暇は王都に残っていた先輩たちだったけど、今回はみな、揃って帰省するようだ。


 以前より魔物が増えたことで、俺たち後輩だけで帰らせるのを、少し不安に思ったのかもしれない。


 それに、元気そうに振舞ってはいるけれど、ネースさんとハーゼンさんの二人はやっぱり、イザゲルさんのその後が気になっているようだ。


 彼女が逃亡して、すでに八ヶ月がたっている。


 王国騎士団が大掛かりに捜索しているようだけど、いまだに捕まったという情報はなかった。


 もしかすると、故郷に帰ればなにか情報が得られるのではないかと、二人は期待を抱いているようだ。



「さぁ、帰るか」


「はい!」



      △



 俺たちは、ますます騒がしくなった王都を歩き、城壁の検問を抜けた。


 王都を出てすぐの場所は、警備隊の兵たちが守ってくれているため、魔物はいない。



「警備お疲れ様です!」


「気を付けていけよ!」


「誇り高い兵士の皆さんに感謝と敬意を込めて、俺のいま作った賛歌を歌います!」


「おい、いくぞオル」


「はいっす」


「ははは。今度歌ってくれよ~」



 俺たちは警備隊の人に挨拶をし、手を振られながら街を離れた。


 賛歌は歌えなかったけど、魔物から人々を守ってくれる彼らの仕事は、本当に立派だと思う俺。


 さっきの兵たちも、はじめて会った人だし、少し話しただけだけど、たぶん絶対いい人だ。


 そんなことを考えながら、俺たちは草原のなかの一本道を歩き、しばらくしてシーホの森に差しかかった。



「森に入れば、魔物が出るぞ。心の準備はいいか?」


「装備を確認しよう」


「先輩たちがいれば余裕っすよ」


「油断するなよ」



 立ち止まって装備を確認していた俺たちは、背後に、ものすごく嫌ななにかを感じた。




    ――ドギュン――




――なんだ!? 寒気が……。全身鳥肌だ。



 それは、肌を突き刺すような、本当に恐ろしいなにかだった。


 気配なのか、圧なのか、まるで脈動する闇が迫ってくるかのような、目に見えない圧迫感。


 地獄の入り口に立たされた気分とでも言うのだろうか。


 俺たちは全員、身動きが取れずに固まった。



「後ろに、なにかいる」



 シンソニーが消え入るような、かすれた声を出す。



「振り返らずに走れ……森に逃げ込むぞ!」



 ハーゼンさんの発した鋭い声を合図に、俺たちは走り出し、シーホの森に入った。



 なぜか魔物が増えているイニシス王国。


 カタ学で出会った大切な仲間たちが、故郷に帰れないことに心を痛めつつ、オルフェル君は同郷の仲間たちとともに王都を出ました。


 そしてシーホの森の入り口で、嫌な気配を感じた彼らは、振り返ることなく森に逃げ込みます。


 次回、第五十二話 どう思う?~イニシスの未来~をお楽しみに!


挿絵(By みてみん)

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― 新着の感想 ―
[一言] 闇の魔導師の事件でカタ学を出されたミラナ達もさることながら大変な状況に。 そして王都をでたオルフェル達 これはシーホの森で何が起こるのか!? 楽しみに拝読させていただきますね(◍︎´꒳`◍︎…
[良い点] オルフェルの人気ぶりが伺える交友関係ですね。 人望がなければ生徒会長は務まらない。 彼の明るい人を惹きつける性格が、みんなにわかってもらえていたようで何よりです。 まぁその成長も生徒会長…
[良い点] 過去編でも風雲急を告げる展開でとても面白かったです。ミラナと絡んでいないときは、オルフェルは割と普通で好青年ですね。ちょっと褒め過ぎかもしれませんが。ドギュン、がとても気になり、続きもまた…
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