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三頭犬と魔物使い~幼なじみにテイムされてました~  作者: 花車
第4章 命令と支援

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045 夢か記憶か~またとないチャンス~

 場所:サビノ村

 語り:オルフェル・セルティンガー

 *************



――いまならミラナと二人で、しかも人間の姿で話ができるじゃねーか。



 これは、俺にとって、またとないチャンスに思えた。


 もちろん、疲れているミラナを休ませてあげたい気持ちもある。


 だけど、いくら人間の言葉が話せても、犬の姿ではできない話もあるのだ。


 特に子犬のときは、きゃんきゃん恥ずかしくて、こんな話はとても無理だ。


 俺は布団に寝ているミラナのそばに寄り、意を決して声をかけた。



「ミラナ、俺、聞きたいことがあんだけど……」


「ん? なぁに?」



 ミラナが俺に気づいて、のそのそと起きあがる。


 フリルとレースがたっぷりついた、薄手で柔らかそうな素材の寝巻が、彼女の白い肌を彩っている。


 胸元に散らされた小さなリボン。可愛らしく膨らんだ短いパフスリーブ……。


 いつもの真面目顔のミラナとは違う、眠そうにとろけた表情がなんだかよけいに甘く見える。


 漂う色香に顔がのぼせ、熱くなった鼻を抑える俺。


 可愛い寝巻きをミラナに貸した、村のお姉さんには感謝しかない。



「うわ、ミラナ……。可愛すぎ」


「やだ、スケベッ。そんな目で見ないで」


「人間だと一応、警戒してくれんのな」


「だって、オルフェル。スケベなこと考えてる顔してるよ」


「ぐっ」



 はっきりそんなことを言われると、自分がどんな顔をしているのかと不安になる。


 ミラナは毛布で体を隠しながら少し身をのけぞらせた。


 だけど俺がスケベなのは別に、犬のときだって同じことだ。いまはミラナの反応が、いつもと違いすぎて面白い。


 普段が犬扱いなだけに、少しくらい、意識してもらえたなら最高だ。



「なぁミラナ。俺たち、キスしたよな……?」


「へっ!?」



 俺は思い切って距離を詰め、あらためてミラナの顔を覗き込んだ。


 驚いた様子でかたまった彼女の顔が、どんどん真っ赤に染まっていく。



「いつだかわかんねーけど、なんか俺、ミラナとキスした記憶があんだよ……」


「……や、やだ。オルフェルったら、急にそんな……。キッ、キスだ、なんて……」



 ミラナはそう言いながら、俺の唇に視線を送り、ますます赤くなって視線を逸らした。彼女の喉がゴクンと音を立てて大きく動く。



――いや、なんだよその反応っ! これ、完全にしたやつじゃねーか!?


――そうじゃなかったら、ミラナ絶対怒りはじめるところだろ。



 怒るどころか、なんだかもじもじしているミラナを見て、俺は完全に調子に乗りはじめた。



――夢か妄想だろうと思ってたけど、あれやっぱり、俺の記憶なんじゃねーか?



 だけどミラナは、俺から目線を逸らせたまま、なぜかブツブツ言いはじめた。



「オルフェル、魔物になって混乱してるから、思い違いしてるんだよ」


「……本当に? 俺、昨日からずっと考えてたけど、どうしても、そんなふうに思えねーんだよな」


「ゆ、夢だよ……夢見たんだよ……」


「じゃぁ、なんでそんな真っ赤になってんの? ミラナも、なんか思い出したんじゃねーの?」



 俺がじりじりと顔を近づけると、ミラナは後ろ手で笛を探しはじめた。


 なんとか俺を犬に戻し、話を終わらせようとしているようだ。


 だけどそんな彼女の態度が、ますます俺に確信させる。


 あのキスは、現実に起こった出来事で、ミラナも覚えているのだと。



「ミラナ、ちゃんとこっち向いて俺を見て? あのとき、『あなただけだよ』って言ってくれただろ」


「そんなの、しらないもん」


「俺のこと好きなんだよな?」


「しらないったら。もうっ、いますぐ離れないと、封印するよ?」



 ミラナがうしろを振り向き、枕元の畳んだ服のうえに置かれていた笛に手を伸ばす。


 俺は彼女にかぶさるように近づいて、笛を求めるその手をおさえた。



「やってみろよ。いまミラナ、ほとんど魔力切れだろ。笛なしでできんの?」


「オルフェル……」


「本当のこと言えって」



 そのとき、にわかに外が騒がしくなり、村の人たちの悲鳴が聞こえてきた。



「助けて! 助けてください!」



 そんな叫び声をあげながら、だれかが慌てた様子で俺たちの部屋の扉を叩く。


 ミラナにかぶさっていた俺は、()()として彼女から飛びのいた。


 それと同時に我に返り、また調子に乗りすぎていたことに気付く。



――いかん、調子乗った! なにが『俺のこと好きなんだよな?』だっ。


――我ながら気持ち悪いな! だれか、いますぐ俺を封印してくれっ。



 逃げ出したくなりながら扉を開けると、そこにいたのは、ケリンさんの奥さんだった。



「ど、どうしたんっすか?」


「巨大なポイズンスパイダーが、主人を攫ってしまいました! どうか助けてください」


「えぇっ!? それはすぐ追いかけねーと……! 大丈夫だ! 俺にまるまるまかせとけ!」


「あ、ま、待ってオルフェル」



 立ちあがったミラナがふらりとよろけて、俺は彼女を支え、部屋の隅に座らせた。


 やはり彼女は、かなり疲れているようだ。



「俺一人で行く。ミラナは休んでろ」


「待ってったら! ダメだよっ」


「早くいかねーと、ケリンさん食われちまうぜ」


「やだ! 勝手にいかないで!」



 焦った声をあげながら、俺の腕にしがみつくミラナの肩を押し、俺は彼女を引き離した。



「そんな色っぽい格好で出てくんなよ」



 また赤くなったミラナを残し、俺は一人で外に出た。



      △



 外に出ると、村人たちが村の入り口の広場に集まっていた。


 みな松明を手に持ちながらも、青い顔を見あわせ途方に暮れているようだった。


 村のなかはまた、大量の蜘蛛の巣で覆われている。闇夜のなか下手に動いて、引っかかってしまうのを警戒しているようだ。



――ジャキーーン!――



 俺が腰に挿していたトリガーブレードを抜くと、空気を切り裂くようなその効果音に、村人たちが一斉に振り返った。


 皆の注目を一身に浴びた俺は、ニヤリと笑いながら、刃に炎の魔力を込める。


 熱くなった刃で蜘蛛の巣に触れると、簡単に糸は溶けて千切れていった。



「すごい。松明でもなかなか取り払えないのに」


「焼き払うわけにもいかなくて……」


「ふっふっふ! これくらいで驚くなよ! 俺の炎は火力も温度も自由自在だぜ!」



 褒められてにわかに調子に乗る俺。


 刃にさらに魔力を込め、炎を燃えあがらせると、村人たちから歓声があがった。



「「「おぉ~!」」」


「見たか! 俺の力! 俺は炎の化身、オルフェル・セルティンガーだ!」



 言いながら周辺の蜘蛛の糸を取り払うと、村人たちから今度は拍手が起こった。



「お、お願いです! セルティンガーさん! ケリンを取り返してください」


「おう! まるまる俺に任せとけ!」


「助かります!」


「で、ポイズンスパイダーはどっち行ったの?」


「ガザリ山に入っていきました! 前にきたやつより大きくて、ケリンを糸で絡めとって、引きずっていってしまったんです」


「待ってろよ! 俺がすーぐ連れて帰ってくるぜ!」



 俺は村人たちが指さす方向を目指して、走り出した。


 熱した剣を振りながら、蜘蛛の巣を払って村を飛び出し、夜の山に入っていく。


 山道は暗いけど、トリガーブレードが赤く輝いて、周りが見えないほどではなかった。


 俺はケリンさんが引きずられた跡を頼りに、どんどん山を登っていった。



 怒られるだけだろうと思いつつ、思い切ってキスの記憶について聞いてみたオルフェル君。


 意外とアタフタするミラナに、「これはっ!?」となった彼ですが、ちょっと調子に乗りすぎました。


 逃げるように部屋を飛び出した彼は、はたしてケリンさんを助けることができるのか。


 次回、第四十六話 マダラクネ~下僕にしてあげる!~をお楽しみに!


挿絵(By みてみん)

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― 新着の感想 ―
オルフェルくん…もう少し押しが強ければ行けそうな雰囲気ですね!! ミラナはミラナで上手く逃げるけれども!
[良い点] 照れるミラナが可愛過ぎる〜!! オルオルはなかなかのSっぷりを発揮しましたね。 でも討伐に関してはちょっと暴走気味…笑 そんなところも面白かったです。
[一言] 主人から離れて戦うなんて、大丈夫なのでしょうか?魔力切れを起こしたりしないか心配です…しかもポイズンスパイダー、けっこう強そうですし…。ハラハラします。
2023/09/18 15:31 退会済み
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