表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
三頭犬と魔物使い~幼なじみにテイムされてました~  作者: 花車
第3章 恐怖心と恋心

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

38/291

038 グレイン2~負けず嫌いな二人~


 場所:サーイン川

 語り:オルフェル・セルティンガー

 *************



「やっと私たちの出番ですね! シンソニー、思いっきりやっちゃいましょう」


「ミラナ、絶対勝つわよぉ!」



 ミラナとシンソニーは、気合い十分の守護精霊たちに見守られ、真剣な顔を見あわせて、「うんうん」と頷きあった。



「じゃぁ、山にあたっちゃうから川下に向けてとばそっか」


「そうだね」


「え? 二人とも、どんだけ飛ばすつもり!?」



 ミラナとシンソニーが靴を脱ぎはじめ、俺とグレインも慌てて靴を脱ぐ。


 俺たちは冷たい水のなかに足を踏み入れ、川向うではなく川下に向かって立ちなおした。


 俺とグレインが、かまえる二人の横に立って、ファイアーボールをそっと空中に浮かべる。



「やるよー! グレートゲイル!」


「おっと、シンソニー!? まさかの上級魔法かっ!」


「ゼログラビティー!」


「おっと! こっちも上級魔法!? 二人ともめちゃくちゃ負けず嫌いじゃねーか!」


「俺たちの初級魔法の戦い見てくれてましたかー!?」



 シンソニーの起こした風で、二つのファイアーボールがどこまでも飛んでいく。


 フィネーレとローレンがそのあとを追っていき、どちらが遠くまで飛んだか結果を教えてくれた。



「ミラナね。ゼログラビティーで重さを奪った分遠くへ飛んだみたい」


「って、それ飛ばしたの僕の風だけど!?」


「あはは。やられたな、シンソニー」


「ほんとだ、ミラナにやられた!」


「うふふ、私の勝ち!」



 悔しそうなシンソニーの顔を見て、ミラナが得意げに笑っている。



――あれ……? 笑うと可愛い。



 そしてミラナの笑顔を真横で見ていた俺は、普段の真面目顔とのギャップに、『キュン』となってしまったのだった。


 いま思えばこれが、俺の長い長い片思いの始まりだったのかもしれない。



      △



 俺たちは勝負のあとも、門限ギリギリまで、川辺でじゃれあって遊んだ。


 四人とも勝負でくたびれていたけど、あの日はなんだか本当に帰るのが惜しかった。


 ミラナとシンソニーと仲良くなって、いろんな話をして、二人は真面目なだけじゃなくて、結構面白いんだってこともわかった。


 そしてミラナは、俺がふざけてかけた水で髪や服が濡れていて、子供のくせに、妙に色っぽかったのだった。



「うーん、今日はさすがにもう帰んねーとな。俺とオルフェルの勝負は明日に持ち越しだ!」


「おぅ! 明日こそはどっちがつえーか決めようぜ」


「じゃぁ、明日、昼飯食ったらまたここに集合な!」


「わかった! シンソニーとミラナも来いよ、審判で保護者なんだからな」


「了解!」


「うん、お昼ね!」



 帰るころにはミラナもシンソニーも、真面目なことを言わなくなっていて、俺たちは、明日もサーイン川で集まる約束をして別れた。


 だけど、俺たちは、その約束をはたすことができなかった。



      △



 翌朝、めったに鳴らない村の警報が鳴り響き、村は異様な雰囲気に包まれていた。


 慌てた顔で帰ってきたかぁちゃんが、俺の姿を見て泣きながら俺に抱きついてきた。



「オル! よかった、生きてたんだね……!」


「な、なんだよ、かぁちゃん」



 かぁちゃんが言うには、空から飛んで来た巨大な竜に、子供が頭からすっぽり食われたのだという。


 村のだれかが見間違って、食われたのは俺だとかぁちゃんに伝えたようだった。


 それを聞いて、俺にはすぐに、食われたのはグレインだということがわかった。


 あとから聞いた話では、竜はあっという間にグレインを一飲みにし、そのまま飛び去ってしまったらしい。


 グレインの痕跡は、なにひとつ残されていなかった。



      △



 あのころ、泣いているベランカさんを、シェインさんが抱きしめているところを何度も見かけた。



――なんか、兄妹なのに、すげーいちゃいちゃしてんな。



 俺はそれを見るたび、毎回そんなことを思っていた。


 俺はグレインがいなくなっても泣かなかった。葬式のときだって、泣かなかった。


 死んだところを見たわけでもないし、葬式っていっても死体もない。



――きっとなにかの間違いだろ。



 そう思ってれば、グレインはケロッとして帰ってくる、そんな気がして……。



 そんな俺に、シェインさんは何度も、「グレイン」と声をかけてきた。


 俺がひどい顔で振り返ると、気まずそうに頭を掻いて口元を歪ませる。


 そんな彼を、ベランカさんが慌てて引きずっていった。


 あのころ、心がどうしようもなく弱っていたのは、ベランカさんだけではないようだった。



      △



 グレインがいなくなって三ヶ月経っても、俺はまだ、一度も泣いていなかった。


 それどころか、『約束したのに』と、だんだん、腹まで立ってきていた。


 イライラがずっと、俺のなかをかきむしっている。


 グレインに会って、一言文句を言いたくて、俺は一人でサーイン川へ向かった。


 そんな俺のあとから、なぜかミラナがついてくる。


 あの日、仲良くなったと思ったミラナだったけど、あれ以来一度も、俺たちは会話をしていなかった。



「なんだよ……。なんでついてくんの」


「私……保護者だから」


「うぜー」



 川についてもグレインがいるはずもなく、俺は川辺で練習用の両手剣を振り回していた。


 イライラに任せて魔力を込めると、赤くなった刃から炎があがる。


 練習用の剣は俺の炎で悲鳴をあげ、どんどんボロボロになっていった。



――絶対あとで怒られるな。


――これ学校の備品だし。



 そう思いながらも剣を振りつづける俺を、ミラナはじっとみている。



――心配してくれてんのかもしんねーけどな。こんなところ、見られたくねーんだよ。



 三ヶ月も我慢していた涙が、こんな最悪のタイミングで、どうしようもなく止まらなくなってしまう。


 止めようとしても、次から次へと流れ出てきた。


 もう、剣も振れなくて、ボロボロの剣を片手に、カッコ悪く嗚咽を漏らす。


 そんな俺に、ミラナが突然後ろから抱きついてきた。



「……なんだよ、いきなり……」


「さみしいね……」



 彼女の細い指が、俺のシャツをぎゅっと握りしめ、ふるふると震えている。



「……うん……さみしいんだ、俺……。すげー、さみしい……」


「私もだよ」



 俺たちは二人で、気がすむまで泣いた。


 その日以来俺は、完全にミラナから目が離せなくなってしまった。


 だけど俺は、そのあとゆっくり気付くことになった。


 俺が彼女を好きになった日、彼女が好きだったのはグレインだったと。



 楽しそうなミラナを見て、恋に落ちてしまうオルフェル君。だけどその翌日、グレインが竜に食べられてしまいます。


(たまに、グレインは本当は生きていてひょっこり帰ってくるのでは?という感想をいただきますが、帰っては来ません。飲みこまれてます汗 紛らわしくてすみません)


 一緒に泣いてスッキリしたことで、ますますミラナを好きになってしまった彼ですが、『ミラナとグレインは両想いだったのでは?』と思う気持ちがぬぐえません。


 次回、第三十九話 グレイン3~ちょ、刺激強いな!~をお楽しみに!


挿絵(By みてみん)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。


こちらもぜひお読みください!



ターク様が心配です!~不死身の大剣士は寝不足でした~



カタレア一年生相談窓口!~恋の果実はラブベリー~

― 新着の感想 ―
[良い点] ミラナの初恋はグレインだったんですね。 それにしても、なんて切ないお話なんでしょう。 ただ、オルオルの言うとおり、死体があるわけでもないし、いつかひょっこり物語に出てきそうな感じが拭えませ…
[一言] あー…三角関係になってしまっていたのですね…死者を巻き込んだ三角関係はトレンディドラマでよく見かけますが、なかなか大変なんですよね…オルフェルくんを好きになっても結局ミラナにとっては代替物み…
2023/09/18 10:12 退会済み
管理
[良い点] うわあ、グレインくんがっ。:゜(;´∩`;)゜:。 いきなり食べた竜め! そういうことあるところなんだってわかってても、辛いですね。 そしてオルフェくん、最初からせつない恋? でも…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ