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三頭犬と魔物使い~幼なじみにテイムされてました~  作者: 花車
第3章 恐怖心と恋心

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036 封印の檻~そりゃカッコイイよなっ!~


 場所:リヴィーバリー

 語り:オルフェル・セルティンガー

 *************



 あれから俺たちは、せっせといくつもの依頼をこなし、十日以上がすぎていた。


 今日も冒険者ギルドの前で、俺とシンソニーは、依頼完了の報告をしに行ったミラナを待っている。



「なんかいつもより遅くねーか?」


「ちょっと、時間かかってるね」



 俺たちが少し心配しはじめたころ、ミラナがニコニコしながらギルドから出てきた。



「オルフェル、シンソニー! 冒険者ランクがあがったよ!」


「えっ? ホントに?」


「お、ようやくB級か?」



 冒険者ギルドのランクアップ方法はいくつかある。


 昇級試験を受けてもいいし、既定の数の依頼をこなすのでもいい。


 ギルドの偉い人に活躍を認められることで、ランクがあがることもあるらしい。


 今回は完了した依頼が既定の数に到達したことで、冒険者ランクがあがったようだ。


 新しい冒険者証を勲章のように掲げて、誇らしげな顔をしているミラナが可愛い。



「受付の人もほかの冒険者の人たちも、みんな早すぎるって驚いてね。何度も確認されちゃった」


「まぁ、C級になったのもこの間だもんね」



 俺たちは、だれもが驚く異例のスピード昇級だったようだ。


 ミラナとシンソニーは、顔を見合わせニコニコしている。可愛い二人に、俺の心は浄化されていく。


 だけど、昇級について言えば、俺は「やっとか」とぼやきたいくらいだった。


 なにせミラナは大真面目に、朝から晩まで依頼をこなしていたのだ。


 自由が好きそうな冒険者たちのなかに、ここまでまじめにテキパキ働くやつは、そうそういない気がする。


 ほかより早いのは当然だ。


 それに、俺とシンソニーの移動能力が高いというのも、短期間で達成数が伸びた大きな理由だった。


 低級の依頼は辺境の村からのものが多く、とにかく移動に時間がかかる。


 そこを短縮できるのは大きい。


 だけどその分、俺たちは交代で、ひたすら走り回っていたのだ。



――まぁ、そろそろあがってくれないと困るぜ。ミラナは面倒なの引き受けがちだし。



 ベンチの上で、そんなことを考えていた俺を、ミラナが抱きあげて膝に乗せた。



――あ……もう。なんにも不満とかありません。俺、これからも頑張ります。



 ミラナの膝に丸くなり、彼女のいい香りに包まれると、湧いてきた不満もどこかへいってしまった。



「それでね、B級になったからだと思うんだけど、魔獣愛護活動っていうのをすすめられたの。その説明を聞いてたら、時間がかかっちゃって。待たせてごめんね」


「ふーん……。なんなんだ? その変な活動は」



 ミラナが少し申しわけなさそうな声を出しながら、俺の背中を撫でている。夢見心地で質問する俺。



「魔獣を殺さずに、ビーストケージに捕まえて連れてきたら、いつもよりたくさん報酬がもらえるんだって!」


「へー?」


「それで、専用のビーストケージを貸してもらったの。ビーストケージは高級品だから、売り飛ばしちゃう冒険者もいるみたいで、貸し出しはB級からってことになってるんだって」


「ほー?」


「魔獣を倒しすぎて、森から獣がいなくなるのを防ぎたいって言ってたなぁ」


「ん……? なんか、この間、そんなこと言ってるヤツらがいたな」



 前にこの場所で、ミラナを口説いた騎士団長を思い出し、俺はむくっと顔をもちあげた。


 あの色ボケのおっさんとミラナが二人で話していたのかと思うと、急激に落ち着かなくなってくる。



「ミラナ、その説明、この間のおっさんに聞いたのか?」


「おっさん? 前にここで会ったカッコいい騎士団長さんだよ。知ってるでしょ?」


「カッ……カッコいい……!?」



 ミラナの発言に、俺が思わず跳ねあがると、ミラナも驚いて俺の背中から手を離した。



「え? すごくカッコよかったよね? 制服とかばっちり決まってて、爽やかで……」


「あーっ! そりゃカッコイイよなっ! おまえの好きなエリート騎士だもんなっ」


「きゃっ、オルフェルッ」



 俺は瞬く間にカッとなって、ミラナの膝を蹴り、地面に飛び降りた。


 俺だってしっかりわかってる。ミラナに聞き返すまでもなく、あの騎士団長はカッコよかった。


 こんなちんちくりんの子犬の姿で、ミラナに抱っこされてしまう俺とはなにもかもが違う。



――なんでだ? なんでこうなってる? 俺だって努力して、掴みかけてたはずじゃねーか!



 そのままミラナに背を向け、大通りの人混みをすり抜けて走る。



「まって、オルフェル!」


「オルフェー!」



 ミラナとシンソニーの、俺をよぶ声がだんだん遠くなっていく。


 子犬とはいえ、走るのはそれなりに早い。この人込みでは二人とも俺に追いつけはしないだろう。


 逃げてどうなるのかはわからない。


 だけど、こんなに希望がないなら、いっそ一人きり、どこかへ……。



「オルフェル、ハウス!」

――ヒューヒューピー!――


――うぉあっ! なんだっ!?



 ミラナの笛の音が響いて、俺の身体は、ミラナの腰のビーストケージに引きずり込まれた。



      △



――ひぇぇ。びっくりしたぁ。



 吸い込まれたケージのなかは、まるで狭い檻のようだった。


 外界から切り離された、ひどく静かで寂しい場所だ。


 俺の周りには、封印の黒い魔法陣がいくつも浮いていて、俺をしっかりと拘束している。



――う、なんだここ、お仕置き部屋か? ひでぇっ、体重いし、寂しすぎて死ぬ。


――ミラナさん、すいませんでした! もう逃げないんで出してください!



 そう思うものの声も出ず、俺の思いがミラナに伝わることはなさそうだ。


 次にいつ、外に出してもらえるともわからない。


 俺はしだいにぼんやりして、うとうとと夢を見はじめた。


 それは、俺がまだ十歳だったころ、死んでしまった親友の記憶だった。



 ついに冒険者ランクがあがり、嬉しそうなミラナ。そんな彼女の膝の上で、ちょっといい気分だったオルフェル君ですが、彼女がギルドのなかで騎士団長と話していたことを知り、ついソワソワしてしまいます。


 さらにミラナの一言でとどめが(汗)


 思わす走り出したオルフェルを、ミラナは封印してしまいました。


 寂しい檻のなかで彼が思い出した記憶とは……。次回から三話に渡り過去編をお届けします。


 次回、第三十七話 グレイン1~不良委員長~をお楽しみに!


 ところで、新たにシンソニーのイラストを描きました。魔物化した彼の見た目は、ミラナと同じ二十一歳です。いつの間にやら髪型も変わってます。


挿絵(By みてみん)


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― 新着の感想 ―
嫉妬して暴れるなんて、オルフェルくんはすっかり犬ですね笑 正直な元の性格もあるのでしょうが…。しかし、拗ねて逃げ出すこともできないのは可哀想…。
[良い点] ミラナの一言でトドメの刺さったオルオルが逃げ出してしまって読者はニマニマしてしまいました。 なんて可愛いらしいんでしょう。 こういう、謎×冒険っていいですね! 続きも楽しみです(*´꒳`*…
[良い点] 大人シンソニー、かっこいい! 好きです!! (いや、落ち着け) すーはー。 失礼しました。オルフェくんのこと責められないですね(笑) 大人げないオルフェくん、お仕置きされちゃいましたね…
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