032 幻獣~宇宙一でかいんじゃね?~
場所:ベルガノン王国
語り:オルフェル・セルティンガー
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ゴブリンを倒し終わった俺たちは、ゴブリンたちの落としものの山から、依頼主のものと思われる指輪を拾いだした。
「おー! これじゃねーの? 青い宝石の指輪!」
ゴブリンは綺麗に消え去るため、残された装備や装飾品は比較的綺麗だ。もっとも、俺の炎で少々焦げてしまったものもあるのだけど。
「本当だ、よかったぁ! それ、プロポーズに使うつもりで買った指輪なんだって! 彼女にプレゼントするらしいよ」
「いやだけど、これ、ゴブリンが指にはめてたぞ。買いなおしたほうがよくねーか?」
我が物顔で盗品を身に着けるゴブリンの姿を思い出し、少し渋い顔をした俺。俺がミラナに渡すなら、絶対買いなおすだろうと思う。
「あはは、本当だね。でもそれは、言わなきゃ気にならないだろうから、黙っておこうよ」
「おぅん……?」
「思い出の石で作ったって言ってたから、買いなおすにも変わりはないんじゃない? だからこその依頼なんだし」
「ふむ。ならこの気持ちは、俺の心の奥にしまっておくぜ」
「わかんないように、綺麗なハンカチで拭いておこう」
――ミラナはこういうの、気にしそうだと思ったけど、意外と平気なんだな。
――いや、この場合、言わないのは優しさか。
のんびりそんなことを考えていると、いきなりミラナのかけたデドゥンザペインが切れ、全身に強烈な痛みが復活した。
「いってー! やべぇっ!」
「あ、ごめんごめん。ヒールかけるね!」
「キューン……」
落としものを革のバッグに詰めていたシンソニーがあわてて振り返り、俺にヒールをかけてくれる。
緑の光が俺の体を包み込み、ゴブリンにやられた傷はすぐに回復した。
シンソニーの優しい笑顔。ウイングワンドの羽根もパタパタして可愛い。ほっこりしながらしばし眺める俺。シンソニーは俺の癒しだ。
「ありがとう、シンソニー! じゃぁ、依頼主のとこまで走るぜ! 背中乗ってくれ」
俺がそういうと、ミラナがなぜか、首を横に振った。
「だめだよ。オルフェルはちょっと頑張りすぎたから、いったんレベル落とそう。あんまりはじめから、張り切りすぎると危ないからね」
「おぅん? いったいなにが危ねーの?」
俺はそう尋ねたけど、ミラナは苦々しい顔をしながら、静かな声で俺を子犬に戻した。
「オルフェル、レベルダウン」
――ピロリローン♪――
なんとなく不安を感じながらも、ひょいっとミラナに抱き上げられると、『まぁいいか』と思ってしまう。
「だけど、歩いて帰るには、ちょっと遠くねーか?」
「大丈夫! シンソニーがいるから。シンソニー解放レベル3」
――ピーロリロン♪ ピーロリロン♪――
「ピキー!」
解放レベルがあがったシンソニーは、翼を広げると三メートルはありそうな、巨大なワシに姿を変えた。
「うぉん! やっぱでけーな! おまえ、本当にシンソニーか!?」
「そうだよー! びっくりだよね! ピキーッ!」
甲高い声でそう返事をするシンソニー。前にもギルド試験でその姿を見たけど、華奢なシンソニーとは思えないような、豪快な戦いぶりだった。
鋭いクチバシに吊りあがった目、大きな鉤爪も、とても彼のものとは思えない。
だけど、白い翼を広げ悠々と空を飛ぶその姿は、どこか誇らしげでカッコよかった。
「すげー! おまえきっと、世界一でかい鳥なんじゃねーか!?」
「これで驚いてちゃダメだよ。シンソニーには、まだうえがあるから!」
「え、ウソだろ」
「これでもかなり大きいけど、私たちを乗せて飛ぶには不安でしょ? 拾ったものもだいぶん重いし」
「た、確かに」
「じゃ、いっくよー! シンソニー! 心の準備はいい?」
「うん、まぁ、いけるよっ」
シンソニーがどこか少し、こわばった声を出しているけど、ミラナは頷いて笛をかまえた。
シンソニーは俺より、二ヶ月も前に、ミラナにテイムされていたらしい。
解放レベルがいくつもあがっていても、確かに不思議はないのだけれど……。
「シンソニー解放レベル4」
――ピーロリロン♪ ピーロリロン♪――
「「クケーーー!」」
「うぇぇぇぇ!? でかすぎんだろ!? これ宇宙一じゃねーか!?」
飛んでいたシンソニーの体がみるみる大きくなり、ブォンっと重い風を巻きあげながら地面に降り立つ。
その姿は……。
「げげ、シンソニー、おまえ、頭が二個あるぞ!?」
「やだな、きみなんて三個あったよ。きみをテイムしたとき、僕、見たからね」
「きゃう! それを言うなぁーーっ!」
「「クキキッ! クケーーー!」」
今俺の前に立っているシンソニーは、身長が俺の二倍以上はありそうな、巨大な鳥になっていた。
翼を広げれば、軽く十数メートルはあるだろう。
そして、なんと言っても、頭が二個ある! その姿は完全に空想上の幻獣、双頭鳥だ。
二つの頭が同時に鳴くと、超音波みたいに草木が揺れた。
シンソニーは俺たちをその背中に乗せ、依頼主のいるリボルサの村を目指して、空高く飛び立った。




