020 ギルド試験1~ダークマウス~
場所:冒険者ギルド
語り:シンソニー・バーフォールド
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僕はシンソニー・バーフォールド。
この間まで、イニシス王国にある国立カタレア魔法学園で、魔導師を目指して勉強していた学生だよ。
だけど気が付くと、僕はミラナにテイムされて、イニシス王国の隣国の、クラスタルにいた。あれからもう、二ヶ月くらいはたつのかな?
クラスタルで魔物使いになる訓練をしていたミラナは、鳥になった僕にあれこれと調教してきた。
ミラナに笛で命令されると、なかなか抗えないんだよね。
ミラナの師匠のナダンさんは、調教魔法って言ってたけど、たぶん闇属性の暗示系魔法の一種だと思う。
だけど、久しぶりに会ったミラナは、前より少し大人になってて優しいし、いまも友達だよ。
僕を飼ってるのにも、なにか理由があると思うんだ。僕が人間の姿になったときは、すごく喜んでくれてたからね。
僕がある程度戦えるようになると、ミラナは僕を連れ、ここ、ベルガノンにやってきた。
冒険者ギルドに入るのが目的なのかな。魔物捕獲用のケージが近くで買えるっていうのもあるのかもしれない。
こっちに来てから、ミラナはさらにオルフェをテイムした。あれにはびっくりしたなぁ。
オルフェがすごい強い魔獣になってたからさ。頭なんて三つもあって、火を吐いてきてさ。
だけど、ミラナにテイムされると、オルフェは小さい子犬になってしまった。もしかすると僕も、最初は大きい魔獣だったのかな?
よくわからないけど、とにかくいまは、冒険者ギルド試験だ。あんまりお金を持ってないはずのミラナが、奮発して二万ダールも払ってたからね。頑張らなきゃ!
試験場という場所に行ってみると、そこは、円形の闘技場だった。そんなに大きくないけど、広場を囲むようにぐるっと観客席もある。
今日の観客は十五人くらいだから席はスカスカだよ。
そして、広場の中央には、大きめのビーストケージがひとつ置かれていた。
これは捕獲した魔物を小さくして封印しておける魔道具だよ。なかから出てくる魔物の数や大きさは、出てこないとわからない。
試験用に、ギルドの人が捕獲してきた魔物が入っているらしい。
だけど、そこまで身構える必要はないかな?
D級試験に出る魔物は、初級魔法を少し使える程度の魔物か、もしくは闇に当てられて、凶暴化した小動物らしいから。
ミラナに連れられ広場に入ると、試験官のおじさんらしき人が、建物のなかから声をかけてきた。
「それではぁ、冒険者ギルドD級登録試験、はじめまぁす! 魔物を倒すか、戦意喪失させれば合格です! 準備はいいですかぁ?」
「あ、ちょっと待ってください。準備、まだですっ」
「ピピ!」
慌てた様子で腰に下げていた笛を手に取って構えるミラナ。
「シンソニー解放レベル2」
――ピーロリロン♪ ピーロリロン♪――
小鳥だった僕が魔導師の姿になって、少ない観客からざわめきが起こった。
「え? 小鳥が、人間に……?」
試験官もすごく目を丸くしてるよ。鳩みたいな顔でちょっと面白いな。
だけど普通、魔物使いの魔物は変身なんてしないから、びっくりするのは当然だよね。
そもそも、魔物使い自体が、隣国クラスタルで最近できた新しい戦い方だから、ベルガノンの人達にとっては珍しいんだと思う。
「準備できました!」
「あっ、はい、では魔物を解放します! 用意、はじめっ」
試験官のかけ声とともに、ケージから魔物たちが飛び出してきた。
魔物化して凶暴になった、ネズミの魔獣が六匹だ。あれはダークマウスだね。前にも何度か戦ったことがあるよ。
大きさは、ネズミっていうより猫って感じかな。黒ずんだ緑の体に、不気味な赤い目が光っていて、尻尾も異様に長いんだ。
「ヂューーーー!」
ダークマウスは耳障りな鳴き声をあげながら、するどいキバをむき出しにして、一斉に飛びかかってきた。
「シンソニー防御だよ!」
――ピピピピピ―!――
ミラナの笛の音で、僕は防御モードになる。
――大風よ吹き返せ!
僕の風魔法リジェクトウィンドで、ジャンプしていたダークマウスたちが後方に吹き飛ばされ、背中を地面に打ち付けた。
僕の魔法の杖はネースさんにもらったもので、ウイングワンドとよばれている。
僕が魔法を使うのにあわせて、杖の先に付けられた羽根の飾りが、風の魔力でパタパタと動くんだ。
本当は、いろいろと効果音も鳴るんだけど、恥ずかしいし気が散るから、音が鳴らないように音量を下げてるよ。
「ほら! 美味しいおやつだよ!」
ミラナが腰に下げた袋から、今朝せっせと作っていた撒き餌を広場にまき散らした。
「ヂューーーー!?」
起きあがったダークマウスたちは、一瞬だけ僕とミラナの方を見たけれど、くるっと方向を変え、必死になってエサを食べはじめた。
僕たちに背中を向けて、完全に戦意を失っちゃったみたいだ。
――ミラナのエサ、美味しいんだよね……。なにか魔法もかかってるっぽいし、抗えないんだな……。
「これ、合格でいいですか? それとも、倒します?」
「あっ、そのままで大丈夫です。合格です!」
「おぉー! すごい威力だな、あのエサっ」
「小鳥が魔導師になるとは思わなかったよ」
「リジェクトウィンドは無詠唱だったぞ!?」
試験官が慌てた様子で合格の札をあげると、観客席から、ザワザワと、驚きの声があがった。




