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三頭犬と魔物使い~幼なじみにテイムされてました~  作者: 花車
第13章 対話と尋問

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198 ソワソワ2~オルフェルのいない朝~

[前回までのあらすじ]過去の記憶に戸惑っているのか、ずっと様子がおかしいオルフェル。過去に一度振られたこと思うと、恋心は封印したい彼女だが、オルフェルが気になって仕方がなくて……。



 場所:レーマ村

 語り:ミラナ・レニーウェイン

 *************



「二人とも、おはよう。がう」


「まぁ、お早いですわね、おにぃさまん」


「おはようございます!」



 テリーヌを準備していると、シェインさんが二階から声をかけてきた。


 気品溢れるシェインさんも、朝はいつも子ライオンの姿だ。


 階段の段差より足が短いため、ピョコンピョコンと跳ねながら、一段ずつ慎重に降りてくる。


 それでも滑って落ちそうになるシェインさん。コロコロしていて可愛らしい。


 ベランカさんが駆け寄って、彼を抱きあげてラグの上におろした。



「がう。ありがとう、ベランカ」


「いいえ。お安いご用ですわ、おにぃさまん。お目覚めはいかがですか?」


「あぁ、とてもいいよ」


「シェインさんは、生肉にしますか? それとも、テリーヌと一緒にオーブンでお肉を焼きましょうか?」


「そうだね、生肉もいいけど、ベランカと一緒にテーブルで食べられるとうれしいよ」


「わかりました。焼けるまで時間がかかるのでゆっくり待っていてください」



 解放レベルをあげて人間にすると、金色の髪をかきあげるシェインさん。


 書棚から本を一冊手に取り、ソファーに座って驚くほど長い足を組んだ。さっきの階段の光景が嘘のように絵になる姿だ。


 そして彼が読むのは、いつも歴史の本だった。シェインさんも国々の歴史を知ることで、自分の過去を探ろうとしているのだろう。


 シェインさんのお肉に魔物使い特製のスパイスをふり、オーブンに入れる。


 魚介が苦手なシンソニーには、レイの実入りのパンケーキを焼き、人間になりたがらないオルフェルには、いつもの特製ドッグフードを犬用のお皿に盛りつけた。



――うーん、またドッグフードかぁ。オルフェルもそろそろ飽きてるはずだよね。


――私もオルフェルと一緒に、卵料理を食べたいな……。同じものを食べられるのって、すごく幸せだったのに。



 犬用の浅い食器にミルクを入れていると、二階から小鳥姿のシンソニーが、パタパタと飛んできた。魔力を帯びた翼から、キラキラと光が舞っている。



「ピピ! おはようミラナ。おはようございます、シェインさん、ベランカさん」


「おはようシンソニー! パンケーキが焼けてるよ」


「わ、ありがとう! いい香りだ。じゃぁ僕はみんなの飲みものを入れるよ」



 人間に戻すと、彼は神秘的な緑色の瞳を細めて爽やかに笑う。そして慣れた手つきで、テキパキと紅茶を準備しはじめた。


 その姿はあまりに様になっている。カタ学時代の彼のファンが見たら、黄色い歓声をあげながら、きっと卒倒するだろう。



「テリーヌやお肉も焼けたし、朝食にしましょうか……って、あれ? オルフェルは?」



 てっきりシンソニーと一緒に降りてきたと思っていたけれど、オルフェルの姿がどこにも見えない。


 キョロキョロする私を見て、シンソニーが、少し困ったような表情を浮かべている。



「オルフェ、今朝もあんまり、反応がないんだよね」


「そうなんだ……」


「昨日からずっとですわね」


「まぁ、記憶が戻っているせいだろうけど、少し心配なくらいだね」



 みなが吹抜けの二階部分に見える、男性用の部屋の扉を見あげた。


 オルフェルがここにいないと思うだけで、この広いリビングが、すごく静かに感じる。



――なんだろう……。みんながいるのに、寂しくてたまんない。だめだわ、またソワソワしちゃう。



 いつも私の周りを跳ね回っていた、オルフェルの姿を思い出す。


 犬のときも、人間のときも、彼は私のそばにいて、愛おしげに私を見詰めていた。


 自分に自信のない私でも、自惚れだなんて思えないくらい、その眼差しはいつも容赦なく熱かった。


 だけど彼はもう、私を嫌いになった理由を思い出してしまったのかもしれない。


 最近ずっと犬のままだし、どことなく距離を置かれているように感じるのだ。



――私って、知らないうちに、オルフェルに嫌われるようなことしてるのかな?


――それって、私に直接、嫌だって言えないようなことなの? 確かに私は不器用だけど、言ってくれたら気を付けるのに……。



 忘れようと思ってみても、どうしても、こんなことばかり考えてしまう。寂しくて不安で、ソワソワする気持ちが止まらない。


 胸を締め付けるような苦しさが、涙になってこぼれそうだ。


 私はドッグフードとネースさん用の生き餌をトレーに乗せた。



「……みんな、先に食べていてください。私、ネースさんにエサをあげないと。オルフェルも、朝はしっかり食べないと凶暴化しちゃうから、二階へエサを持っていってきます……」


「え、ミラナ……?」



 自分でも声が震えているのがわかる。だって落ち着いてなんていられない。


 オルフェルの気持ちが知りたいのだ。


 彼がいるのは男性用の部屋。女の私が入っていくのは、はしたないことなのかもしれない。


 だけど私はみんなの飼い主だし、部屋にいるのは犬とウミヘビだ。そんなに問題ないと思う。



――どうしてずっと犬のままで、私を避けるみたいな態度を取るの?


――あんなに好きだって言ってくれたのに、私を嫌いになっちゃう理由はなに? 聞いてみても、いいよね?



 トレーを持ちあげようとする手が震えている。オルフェルの気持ちが気になるのに、知るのが怖くて震えている。



――だけど、気になって勉強に集中できないんだもん。エサだってあげないといけないし。


「待って、ミラナ。いま行くのはやめておこうよ」


「……どうして止めるの……?」



 泣きそうな気持ちで歩き出した私を、シンソニーが呼び止めた。


 振り返ると、三人が心配そうに私を見ている。私のこの焦る気持ちは、みんなに筒抜けだったようだ。



「いまはあんまり刺激しないで、待っててあげて欲しいんだ。オルフェは気持ちが落ち着いたら、自分から話してくれるはずだから」


「そうだね。質問の時間までには食事をするように、私からも言っておくよ。ネースのエサは、私が担当しよう」


「そうですわ。ひとまずは落ち着いて、ゆっくり朝食をいただきましょう」



 ベランカさんが私の椅子を引き、ここへ座れと促してくる。私はようやく少し冷静になって、ベランカさんの隣に座った。



――あぁ、なんてばか……。私、自分の気持ちばっかり……。


――つらいのは、いろいろ忘れてるオルフェルの方なのに。もう、恥ずかしいな……。



 三人の顔を見ていると、煮詰まった頭が冷やされていく。



「そうですね……。いただきましょうか」


「ミラナは、なに食べる?」


「私もレイの実入りのパンケーキにしようかな」


「気持ちが休まりますわよね」


「紅茶も入ったよ」


「ありがとう」



 ベランカさんがふわふわのパンケーキに、レイの実のソースをかけ、私に差し出してくれた。


 フォークを挿して口に運ぶと、甘酸っぱい香りが口のなかに広がっていく。


 新鮮なミルクをたっぷり注いだ、まろやかな紅茶の香りも漂っている。


 私たちは楽しく談笑しながら、四人で朝食を食べたのだった。


挿絵(By みてみん)




 いつもお読みいただき、ありがとうございます!

 

 ミラナちゃんは本当に難しいですね。奥手で臆病なくせに、ときどき変な方向に突っ走るという。

 

 玉砕覚悟で気持を確かめに行こうとして、シンソニーに止められてしまいました。うん、いまはやめとけですよね……。ナイスフォロー、シンソニー。


 挿絵は美味しそうなパンケーキ。(AI生成イラストです)魔法がなくても落ち着けそう。

 

 次回はネースさんの語りで過去編です!

 

 姉であるイザゲルを討伐するため、本格的に準備をはじめた彼ですが……?

 

 第百九十九話 対話1~サンカクレンタイ~をお楽しみに!


挿絵(By みてみん)


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ターク様が心配です!~不死身の大剣士は寝不足でした~



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― 新着の感想 ―
各人、各形態、それぞれ食べ物が違ってまた大変なんですよね。 とは言え、はたから見る分には色とりどりで賑やかで食卓でした。 オルフェルの自粛はやっぱり悪手みたいです。 子犬姿で避けてばかりじゃミラナが…
[一言] 花車様こんにちは! そして元気の無いオルフェルでしたがそんな彼の事がますます気になるミラナ。 焦る彼女ですがひとまず美味しそうなAIパンケーキ素敵ですジュル(º﹃º) あ!そして階段おりてく…
[良い点] シェインは随所で郷愁を覚えている表現があって、故郷への想いが伝わります。 オトラー帝国の建国神話みたいなところには、オルフェル達の過去のヒントがあるのかもですね。 朝飯からミラナも色々作…
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