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三頭犬と魔物使い~幼なじみにテイムされてました~  作者: 花車
第13章 対話と尋問

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197 ソワソワ1~毒舌じゃなかった?~

[前回までのあらすじ]魔物化した同郷の仲間たちを救うため、魔物使いになったミラナ。レーマ村に戻った彼女は、ナダン先生の指導のもと『攻守モード』の勉強をしている。だけど昨日から、反応が無くなってしまったオルフェルのことが気になって……。


 場所:レーマ村

 語り:ミラナ・レニーウェイン

 *************



 窓から見える真っ白な雪。ちらちらと燃える暖炉の火。


 ここは、ナダン先生に借りている丸太小屋のキッチンだ。


 昨日はみんなに全部で十個程度の質問をして、質問の課題はいったん終了することにした。


 オルフェルがあまりにぼんやりしていて、なかなか返事をしてくれなかったからだ。


 ベランカさんの声真似にすら反応しないなんて、なんだか心配になってしまう。



――うーん、オルフェルは、いったいなにを思い出したのかなぁ……。だめだ、気になりすぎるよ……。



 私は朝早くから魔導書を広げて、攻守モードの勉強をしていた。だけどオルフェルのことが気になって、ほとんど集中できなかったのだ。


 気がつくと大切な魔導書に、彼の名前や似顔絵を描いてしまっている。犬の絵はちょっと下手だけど、子供のころから描いている彼の横顔は、われながらうまく描けていた。



――もうやだ。あの魔導書、だれにも見せられなくなっちゃったよ。私のバカ。



 オルフェルに振られたことを、私はまだ、ものすごく引きずっているらしい。


 彼がなにかを思い出して、また嫌われてしまうなら、その前にこの恋心をどこかへ封印してしまいたい。


 私はもう一度、同じように傷つくのが怖いのだ。


 だけどどうしてもうまくいかなくて、結局彼が気になってしまう。



『三百年前は嫌われてしまったけど、今度はうまくいくかもしれない』



 そんな淡い期待を抱いてしまうこともしばしばだ。


 オルフェルと再会してからずっと、私はそんな堂々巡りを繰り返していた。


 攻守モードの勉強に集中したいのに、こんなことでは時間の無駄だ。



――勉強が進まないなら、せめてほかの作業を進めなきゃね。やるべきことはたくさんあるわ。



 朝食の時間にはまだ早いし、みんなもまだ眠っている時間だ。


 この丸太小屋は男女で部屋がわかれているから、男性たちの様子はわからない。


 ベランカさんは女性用の部屋で、すうすうと寝息を立てていた。



――部屋がわかれたから余計に落ち着かないのかな? ラ・シアンみたいに、好きなだけオルフェルの寝顔を眺められればいいのに。


――犬だけど、健やかな寝顔が可愛いんだよね。



 私は先日採集した魔物たちのエサの材料をキッチンに並べる。


 たくさん採ってきたので、しばらく足りなくなる心配はなさそうだ。


 でも、このままではすぐに傷んでしまうため、いろいろと処理する必要がある。


 殻を剥いたり、虫を取ったりしてから、乾燥させたり魔力を込めたりして瓶詰めし、長期保存できるようにするのだ。


 だけど種類も量も多いから、これがなかなかたいへんだ。


 保存用のビンを煮沸していると、背後に人の気配を感じた。


 振り返ると、幼児姿のベランカさんが立っている。


 ペンギンの姿だと冷気を発してしまうため、この姿で眠ってもらっていたのだ。


 温かいベルガノンなら耐えられるけど、クラスタルでは寒すぎる。


 いまはギルドの仕事を受けてないから、仲間たちの解放レベルをあげていても、魔力にはかなり余裕があった。



「もしかして、起こしてしまいましたか?」



 私が声をかけると、ベランカさんはぶすっとした顔で腕組みをした。



「そうね。こんなに朝早くから、となりでソワソワされては眠っていられませんわ。迷子の子供じゃないんですのよ」


「すみません」


「なんでも時間をかけて、真面目にやればいいと思っているのね。もっと合理的に、効率を考えて動かないと、終わるものも終わりませんわよ」


「ご、ごめんなさい」


「そういう態度がよくないですわ。あなた、迷惑をかけていい相手と、悪い相手の区別もつきませんのね」



――どうしようっ。なんだかすごく、不機嫌!?



 幼児姿のベランカさんは、冷気を発しない代わりに、毒舌を発する。小さくて可愛いのにすごい迫力だ。


 だけど彼女が私に、こんなふうにまくしたてるのは初めてだ。


 毒舌の被害に遭っているのは、だいたいがオルフェルかネースさんだった。



――思った以上のダメージだわ……。オルフェルたち、よく平気だね……。



 ショックを受ける私を、ベランカさんは、水晶のようなグレーの瞳で、なぜだかじっと見詰めている。



「……なにか勘違いをしているようですわね? 作業を手伝うと言っているんですのよ?」


「えっ?」


「早く大きくしていただけるかしら」


「はいっ!」



 呪文を唱え魔笛を奏でると、ベランカさんが大人の姿になった。


 彼女は緩くウェーブした銀色の髪をひとつに束ね、壁にかかっていたエプロンをささっとつける。


 貴族令嬢だったとは思えないほど、慣れた手付きだ。



「本当に、朝早くから起こしてしまってごめんなさい」


「謝らないで。不安で落ち着かないのはみんな同じですもの。私はあなたが迷惑をかけてはいけない相手ではないはずですわよ。あんなにソワソワするくらいなら、私に声をかければいいんですわ」


「ベランカさん……! ありがとうございます!」



――びっくり。さっきのは毒舌じゃなくて、優しさだったのね。



 大人の姿になったベランカさんは、とっても優しい先輩だった。


 二人で並んで立ち、レイの実から皮や種を取り除いていく。これは乾燥させたのち、主にシンソニーのエサになるものだ。



「二人でもなかなか終わりませんわね」


「そうですね。でもそろそろ朝食の準備もしないと……」


「この作業は、あとで私がやっておきますわ」


「わ、助かります!」



 レイの実には心を穏やかにする効果がある。


 もちろん、これだけで魔物の凶暴化を抑えられるわけではないけれど、美味しくて便利な食材だ。


 人間姿のときなら、パウンドケーキやサラダ、パスタなどに入れて、みんなも食べることができた。


 私が切ったレイの実をサラダに盛り付ける様子を、ベランカさんが氷の眼差しで眺めている。



「あ、サラダはお嫌いでしたよね?」


「えぇ。どうしても野菜は食べ慣れませんの」



 ベランカさんは眉をひそめている。わがままを言ってしまい、申しわけないと思ったのかもしれない。


 イニシスの貴族は、地面に生える野菜を完全に庶民の食べものと認識していた。


 だからベランカさんは、いまだに野菜を食べる習慣がないのだ。


 ペンギン姿で魚を食べることも増えて、最近はますます野菜が苦手になってしまったようだ。



「魚介のテリーヌにしましょうか?」


「それは素晴らしいですわね!」



 テリーヌは細かく切った木の実やハーブ、魚介などを混ぜあわせ、型に入れて焼く簡単なお料理だ。


 見た目も綺麗で、ベランカさんも喜んで食べてくれる。



「二人とも、おはよう。がう」


「まぁ、お早いですわね、おにぃさまん」


「おはようございます!」



 二人でテリーヌを準備していると、子ライオン姿のシェインさんが二階から声をかけてきた。



挿絵(By みてみん)

 いつもお読みいただき、ありがとうございます! 久々の現在に戻ってきました!


 過去編より落ち着いた環境で息抜きを! と思ったらソワソワしているミラナちゃんです。


 彼女の心境は作者にもなかなか掴めませんでしたが、結局堂々巡りしているということのようです。オルフェルがなにを考えてるのか、ミラナにはわからないので(^^;


 ひとつの話をふたつに分けてしまい、中途半端なところで終わっているので、早めに続きを投稿しようと思います。


 挿絵は魚介とレイの実のテリーヌ(AI生成イラスト)です。


 次回、第百九十八話 ソワソワ2~オルフェルのいない朝~をお楽しみに!


挿絵(By みてみん)


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― 新着の感想 ―
穏やかな空気に癒やされます。 みんな悩んでいる真っ最中なので、こう言うのも何ですけど。 少し分かりにくいベランカさんの優しさもホッとしました。 いいかげん人数が多くなって食事の支度が本当に大変そうで…
[一言] 花車様おはようございます! そしてオルフェルが何を考えてるのか分からないミラナは一人モヤモヤして落ち着かずソワソワしてしまう気持ちも分かります! でもこうして声をかけてくれるベランカさんは本…
[良い点] ミラナが願っているように、今度は上手くいくと思ってしまうのが人情でしょう。 嫌われるのにも理由がありますから、環境が違う未来世界でならと思う気持ちもわかります。 記憶の復活が問題なのですが…
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