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三頭犬と魔物使い~幼なじみにテイムされてました~  作者: 花車
第13章 対話と尋問

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191 エンベルト5~王の暴走~

[前回までのあらすじ]エンベルトは王国軍の将官ケイオスと、騎士団長で聖騎士のヴァルターとともに、闇のモヤの浄化任務に出向いた。しかし厳しい戦いの最中、ヴァルターは命を落としてしまう。敬愛する師を失い悲しみに暮れたエンベルトだが……。



 場所:オルンデニア

 語り:エンベルト・マクヴィック

 *************



 ヴァルター殿が亡くなってから、しばらくの月日が流れた。


 私はその間に、ヴァルター殿の後任として、国王陛下から騎士団長の役目を仰せつかった。


 ヴァルター殿の代わりなど、私には時期尚早ではあるが、ケイオス殿が私を国王陛下に推薦してくださったのだ。



――王に忠誠を誓った騎士として、これほど光栄なことはない。


――ケイオス殿には嫌われているとばかり思っていたが、私の思い違いだったようだ。これからはケイオス殿の信頼にも、しっかりと応えなくては。



 私はその大役の責任を重く感じていた。


 しかし仲間の騎士たちに祝福され、王の前で誓約を交わすと、誉れ高い気持ちになる。


 イニシス国王であるアルトゥール・イニシスは、シャーレン様に愛された初代王の血を引くものだ。


 そしてシャーレン様との契約を維持し、後世につなぐという神聖な使命を負っている。


 そんな偉大な血筋でありながら、陛下自身も屈強な魔道剣士であり、人々のためこれまで勇敢に魔物と戦ってきた。


 傷ついた仲間のために涙を流し、陛下自身も何度も傷つきながら、倒れては立ちあがってきたという伝説は、国中で劇や本にもなっている。


 私は子供のころから、そんな陛下の物語を聞いて育ち、陛下に仕えることを夢に見てきたのだ。



      △



 騎士団長の任に就いた私は、ケイオス殿の命令にしたがって騎士団を指揮することとなった。


 国王陛下のお心を汲み、ケイオス殿は私にひとつの任務を与えた。王妃陛下の病を癒すことのできる治癒魔導師を捜し出し、王宮に送り届けることだ。


 聖騎士の使命は、浄化だけにとどまらない。


 我々は民の信仰と福祉を高め、イニシスの平和や文化を守るため、さまざまな活動に参加する。


 王妃陛下の早期回復は、国民一同の喜びとなるだろう。



――あぁ、もしも私がエリミネイトを使えたなら、王妃陛下の御病気を治すことができただろうか。


――できることならヴァルター殿から、あの魔法の秘訣を教わりたかった。



 しかし、過ぎたことを嘆いても仕方がない。


 我々騎士団は時間を惜しんで、治癒魔導師を求め、各地を巡った。



      △



 私はいくつかの村で聞き込みを行い、優秀な治癒魔導師を探し出した。


 そして二人の治癒魔導師に王妃陛下の治療を託し、王宮に送り届けた。



――やれやれ、これで安心だ。治癒魔導師たちには少し無理を言ってしまったが、二人とも快く引き受けてくれた。彼らは王妃陛下のために、全力を尽くしてくれるだろう。


――民からの信頼も厚い魔導師たちだ。王妃陛下の病気は必ず治るはずだ。



 治癒魔導師探しの任務をはたした私は、騎士団を引きつれ浄化の任務に赴いた。


 だが王都に帰還したとき、私は悲惨な現実に直面することとなった。


 恐ろしいことに、治癒魔導師の一人が処刑されていたのだ。



『治癒魔導師たちは王妃を治すどころか、毒でそのご病気を悪化させている』



 ケイオス殿がそう、陛下に進言したという。


 彼が示した証拠などは、かなり疑わしいものだったが、陛下はそれを信じてしまった。


 もう一人の治癒魔導師を守るため、私は証拠の再調査と刑の猶予を求めた。しかしだれも私の主張を聞こうとはしない。


 騎士団長になったとはいえ、私は元平民だ。ヴァルター殿のように、貴族の血は流れていない。


 功績も後ろ盾もない私の発言は、驚くほどに重みがなかった。


 何度も抗議した結果、私は陛下に謹慎を告げられ、もう一人の治癒魔導師も処刑されてしまった。


 しかし私は、陛下の意思に従わなければならない。私はケイオス殿の部下であり、陛下に忠誠を誓った騎士なのだ。



      △



 それから数カ月後、私は国王陛下によばれ、王の書斎に出向いた。


 王の権威と富を象徴する、赤や金を基調とした豪華な部屋だ。


 部屋の中央には美しい執務机がある。そのうえには地図や書類が散らばるように置かれていた。


 執務机に向かい、思索にふける陛下のお姿が見える。



「陛下。ご機嫌麗しゅうございますか? お召しに応じて参上いたしました。エンベルトにございます」


「入れ」



 そう言って私をよび入れた陛下の眼差しは、かつての鋭さを失っていた。目尻には、悲しみと疲れが深く刻まれている。


 王妃陛下が病に伏せられてから、陛下は休む間もなく国務に励んでおられた。


 以前はよくこの部屋におられた、王妃陛下のお姿を思い出す。


 ご病気になられる前の王妃陛下は、花のように美しかった。


 彼女は国のことを常に気にかけ、陛下に寄り添い、国務にも熱心に取り組んでおられた。


 王妃陛下のご不在は、陛下に大きな負担と寂しさをもたらしているようだ。



――陛下は王妃陛下の回復を心から願っておられる。陛下の苦しむお姿を見るのはつらいものだ。


――しかし陛下はまた、別の治癒魔導師を探すよう、私にお命じになるのだろうか。



 忠誠を誓った陛下のお考えとはいえ、処刑された治癒魔導師たちのことを思うと、私の心は強く痛んだ。



――どうしてこうなってしまったのだろう。処刑される治癒魔導師の悲鳴を聞いた日は、本当につらかった。


――私にはいまだに信じられない。彼は私の頼みに応え、王宮に出向いてくれた優しい男だったのに。



 治癒魔導師を王宮に連れてくるたび、騎士団の評判は悪くなっていた。


 近頃は騎士団が村に近づいただけで、治癒魔導師たちが隠れてしまうほどだ。


 浄化任務を応援してくれていた民衆たちも、ずいぶん減ってしまったように思う。


 民を苦しめるこの行いに、私は胸を痛めていた。



――だが陛下は尊いお方だ。たとえ心の奥底であっても、陛下に失望するなどあってはならない……。


――民の信頼を失ってしまうのは、私の不徳のいたすところだろう。私がヴァルター殿のような英雄ならばこんなことには……。



 大切な王妃陛下の衰弱した姿を見ては、陛下が平静でいられないのは当然だろう。それも陛下が心優しく、人間味のある王である証だ。


 私は陛下の苦悩に心を痛めながら、彼の傍らに膝をついた。疲れが見えるとはいえ、そのお姿はいまもなお威厳に満ちている。



「我が騎士エンベルトよ。今年もシャーレンの祝福を受け、聖騎士となったか」



 陛下は信頼と敬意を込めて、王の騎士である我々を『我が騎士』と呼ぶ。それは我々騎士にとって最高の栄誉であった。



「イニシスの王家は代々シャーレン様との契約を守り、精霊たちの信望を得てきました。そのおかげで、我々はシャーレン様の祝福を受けられるのです。陛下の恩寵に感謝し、身命をかけて陛下のお力になりたいと思っております」


「うむ。ならば急ぎ、リリアの治癒魔導師を見つけてくるのだ。ケイオスから、騎士たちの探し方が手ぬるいという報告を受けておるぞ」


「申しわけありません、陛下。治癒魔導師は、それぞれの地域で重要な役割をはたしており、民のために欠かせない存在です。陛下のお気持ちは理解できますが、これ以上民の不満が増せば、陛下にも悪影響が……」



 私は恐縮しながらも、度々陛下に進言した。これは国王の名誉や、国民からの信望を守るためだ。


 我々騎士が憎まれるのは構わない。だが王への不信は、国の安泰(あんたい)を危うくするのだ。


 私は国の今後を憂慮していた。しかし陛下は、そんな私を訝し気に見詰める。



「この国に、リリアの治療に不満を感じる民がいると申すのか? エンベルトよ。やはりおまえもその一人か?」


「ま、まさか。王妃陛下のご回復は国民全員の願いです。私ももちろん、それを心の底から望んでおります。ただ、いまはこれ以上……」


「ふむ。さては治癒魔導師たちは、褒美がないことが不満なのだな? ならば、リリアの治療に成功した者と、第一王子を結婚させるとでも触れを出せばよい」


「こ、これは驚きました。陛下の寛大なお心遣いに感謝いたします。しかしながら、王子殿下のご結婚は、王家の血筋を継承することにつながる重大な事柄です。そのような方法でお相手を定められるのは、改められた方がよろしいかと……」



 私は陛下のお言葉に驚きながら、また慌てて進言した。


 王家の血筋はシャーレン様との契約を守るために必要なものだ。殿下のお相手は、もっと慎重に決められるべきだろう。


 加えて治癒魔導師たちは、年齢も立場もさまざまだ。強制的な結婚は、さらなる負担になる可能性が高い。



――陛下がこんなことをおっしゃられるとは……。


――いや、しかしこれにはきっと、陛下の深いお考えがあるはずだ……。陛下はいったいなにを考えていらっしゃるのか……。



 思い悩む私を訝しげに見詰めて、陛下は重々しく言葉をつづけた。



「聞けエンベルト。我が国は近々、シャーレンとの契約を破棄し、水の国への侵攻を開始する」


「はっ!? どういうことでしょうか!?」



 驚愕の宣言だった。あまりの衝撃で、ついに声が裏かえってしまった。


 動揺する私を見て、陛下はふんと鼻を鳴らした。



「おまえも知っているであろう。シャーレンの癒しの光を。あの光に触れれば病も傷もたちどころに消え去るという」


「は、はい、陛下。存じております」



 シャーレン様の身体から溢れる金色の光は、癒しの光だと言われていた。それは深い傷やなくした腕までも再生するほどの、強い修復力を持っている。


 陛下は司教様を介して、何度も王妃陛下の治療をシャーレン様に依頼していた。しかしそれを、シャーレン様は断っているのだ。



「シャーレンは病を治す力を持っていながら、我が愛しのリリアを治そうともしない。これは、長きに渡りともにイニシスを守ってきた、我々王族に対する冒涜であろう。とても許すことはできない」



 陛下の瞳が怒りで光っている。陛下はシャーレン様を裏切り者と感じたのだろうか。その表情に深い憎しみが浮かびあがる。私はそれを、見開いた瞳で見詰めていた。



――なんということだ。陛下がシャーレン様と対立を……!


――幾百年とつづいてきた平和が、ついに終わろうとしているのか?



 国の平和のためならば、王の命令にしたがい戦地に赴くのは騎士の誇りだ。


 しかし、隣国に攻め込むという陛下のお考えは、私には到底理解できないものだった。


 シャーレン様との契約がなくては、聖騎士は大精霊の祝福を喪失し、国土は魔物であふれてしまうだろう。


 それに加えて戦争が始まれば、民衆たちへの被害は計り知れない。


 陛下はいったい、どうしてこのようなお考えに至ったのだろうか。



 いつもお読みいただき、ありがとうございます!


 ついに王様の暴走が始まりました。忠誠心やら慈愛やらでひたすら苦悩しているエンベルトですが、次回はとうとう誇りを失うようです。


 最近活動報告で、キーワードに関連するお話へのリンクをまとめた特集をやっています。


『聖騎士エンベルト特集』『三つの森特集』『トリガーブレード特集』『シャーレン特集』『闇のモヤ特集』などやってます。


 興味があったら覗いてみてください。作者をお気に入りに登録すると、活動報告の通知がくるようになります。ぜひぜひ!


 次回、第百九十二話 エンベルト6~失われた誇り~をお楽しみに!


挿絵(By みてみん)


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― 新着の感想 ―
ケ・イ・オ・ス! お前か! もうろくしている国王にあることないこと吹き込みつつ、期待されてはいても未熟で立場の弱いエンベルトを団長に推薦し、民衆の反感を買う任務を押し付けているといったところですか。…
[良い点] 若造のエンベルトが後任の騎士団長となるとは、典型的な位打ち感が…… 政治的に組しやすい彼を利用して、ケイオスが権限を拡大しようとしているようにしか思えません。 ここは血筋や経験のある聖騎士…
[一言] ケイオスはなんの事かおかしな助言をしてそれにより魔導師たちが殺され、そしてエンペルトに王よりシャーレン様のところに攻め込む話に。 誤解と疑惑を含んだこの事件。 果たしてエンベルトはどうなる!…
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