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三頭犬と魔物使い~幼なじみにテイムされてました~  作者: 花車
第13章 対話と尋問

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190 エンベルト4~浄化魔法~

[前回までのあらすじ]スキアズの森で闇のモヤの浄化を開始した聖騎士たち。瞑想する聖騎士を守っていた兵士が一人、モヤのなかにさらわれてしまう。丸三日同じ場所で浄化を続けた彼らのもとに現れたのは……?

 場所:スキアズの森

 語り:エンベルト・マクヴィック

 *************



「くそ! おまえマルセルだな! 心配してたぜ。そんな凶悪なツラになりやがってよぉ!」


「ぐうぉー! うぉうぉう!」



 現れた魔物には、初日にモヤのなかに消えてしまった、マルセルの特徴が見て取れた。


 しかしその体は緑色に変色し、もとがだれなのかわからないほどに膨れあがっていた。指先には尖った爪。口からは鋭い牙が突き出している。


 兵士たちは剣をかまえていたが、彼が魔物化した仲間だと気付くと、攻撃をやめて防御体制に入った。



「マルセル! しっかりしろ、正気を取り戻せ! そんな姿見たらおまえの母さんが泣くぞ!」


「ウガーーー!」



 奇声をあげるマルセル!


 勢いよく剣を振り、次々に兵を襲う。吹っ飛ばされる兵たち。


 しかし、ケイオス殿は盾をかまえ、マルセルの攻撃を受け止めた!



「くそ! なんって怪力だ! 大人しくしろ!」


「やめるんだ、マルセル!」



 兵士たちが、二人を取り囲み声をかけている。


 しかしマルセルは、ケイオス殿の盾に剣を叩きつける。


 巨大化した腕で繰り出される攻撃は凄まじい迫力だ。


 ケイオス殿の盾が破壊されていく。



「まずい、このままじゃケイオス殿がやられる!」


「だめだ! 攻撃できねーよ! 相手はマルセルだぞ!」


「くっ、つらいが倒すしかない。許せ、マルセル! トルネードカッター!」



 激しい攻撃に耐えかね、ケイオス殿は攻撃魔法を発動した。マルセルの体がみるみるうちに傷だらけになっていく。



「ぐぅぅぅぉぉぉぉお!」


「あぁぁ……!」



 マルセルの全身から緑の血が吹き出している。みなが絶望に顔を歪ませた、そのときだった。



「我が名はヴァルター・エルドール! 光の大精霊シャーレンに祝福されし聖騎士なり。光の微精霊たちよ、我が祈りに応えよ! 悪しき呪縛を払い、真の姿を復元せよ! エリミネイト!」



 瞑想していたヴァルター殿が立ちあがり、呪文を唱えた。


 眩しい光がマルセルを包み込む。


 プシューっと音を立てながら、魔物は人間の姿に戻っていった。


 傷ひとつないツヤツヤの肌だ。吹き出した血すらも一滴残らず体内に戻り、肌ももとより綺麗になっている。


 そして破れていた戦闘服や刃こぼれした剣までが、修復されて元に戻った。汚れひとつない新品の状態だ。


 エリミネイトは、あらゆるものを最適な状態にする魔法だった。


 回復ではなく、浄化と修復を兼ね備えた複雑で高度な魔法だ。


 これを使うと、全ての生物は健康になり、物は新品の状態に戻る。


 この過酷な瞑想の最中にこんな魔法を成功させてしまうとは。



「わ、マルセルが元に戻った!」


「あれ? 俺なにしてた?」


「おぉぉ! 治ったのか!?」


「はい! 俺、なんか若返った気分です!」



 マルセルはすっかり元気になり、自分の体を見回して驚いた顔をしている。風呂上がりのようにさっぱりした笑顔だ。



「ありがとうございます、ヴァルター殿!」


「すごい……! これがシャーレン様の祝福の力か!」


「いや、これは桁違いだ……。ほかの聖騎士様はこんなことできないはずだぞ」


「信じられない。ヴァルター殿なら本当にいつか、闇のモヤを根絶できたりして……!?」


「もし本当に魔物がいなくなったら、俺軍人なんかやめて、ケーキ職人になろうかな」


「そりゃぁ、いいや!」


「「ははははは!」」



 奇跡としか思えないその魔法に、兵士たちはすっかり笑顔になった。


 ヴァルター殿はやつれても美しいその顔に、優しい笑みを浮かべている。


 いつも目つきが鋭いケイオス殿ですら、少しほっとしている様子だ。


 部下を殺さずに済んだのだから当然だろう。



――さすがはヴァルター殿だ! みなの心に希望が生まれたぞ!


――これこそが聖騎士の勤め! 私ももっと、誇りをもって修行に励もう。


――エリミネイトもきっと、習得してみせる!



「ヴァルター殿……。大丈夫ですか?」



 私はふらつくヴァルター殿をささえようと彼に手を伸ばした。その瞬間。



 ――ギュイン!――



 闇深い弾丸が風を切る。


 ヴァルター殿の腹部に巨大な穴が開き、彼はガックリと膝をついた。



「ぐぁっ!」


「ヴァルター殿!?」



 大量の鮮血が溢れ出す。白く整った顔が、みるみると青ざめていく。


 苦悶の表情で手を伸ばし、助けを求めるヴァルター殿を私は慌てて抱き止めた。



――なんということだ!?



 私とヴァルター殿の周りを、兵士たちが魔法障壁で取り囲む。ケイオス殿は魔物と戦いながら、険しい顔で兵士に怒鳴りつけた。



「おまえら! 油断してるんじゃないぞ!」


「すっ、すみません!」



 木の影から現れたのは、ぬめぬめと黒光する大きなワームだった。


 王都に近いこの森に、こんな危険な魔物が存在していたとは。


 魔物が口を開くと、その赤く醜い口中に尖った歯が円形に並んでいるのが見える。


 次の攻撃を放とうと、魔物はそこに闇の魔力を溜め込んでいる。


 静かに、しかし、確実に。



「くっ……トルネードカッター!」



 ケイオス殿が呪文を唱え、ワームはサイコロのように切り刻まれた。


 私はヴァルター殿の手を握る。彼の口から鮮血が吹き出し、青い騎士服が黒く染まっていく。



「そんなっ! 死なないでください、ヴァルター殿! この国にはあなたが必要です! 私はまだ、あなたから学ばなければならないことが……!」


「諦めないでください! 僕がいま治します!」



 絶望の涙を流す私のとなりで、治癒魔導師が必死にヒールを唱えはじめた。しかしそれは無駄なことだ。


 ヴァルター殿が受けた攻撃はダークバレット。治癒魔法では治らない、転送魔法の一種なのだ。



「治らない!? どうして……!?」


「やめろ。その傷を修復できるのは、ヴァルター殿のエリミネイトくらいだ……」


「そんな……!」


「無駄な魔力を使うな。治るケガ人が治らなくなるぞ」



 ケイオス殿に怒鳴りつけられ、治癒魔導師はがっくりと肩を落とした。


 悪夢のような光景だ。


 ヴァルター殿は長きに渡り、この国の希望そのものだった。


 それなのに、私にはなにもできることがないのだ。



「あぁ! 私がエリミネイトを習得できていれば……! 無力な私を許してください、ヴァルター殿……。あぁ、あぁぁ……」


「みな! エンベルトだけはなんとしても守れ。ここで聖騎士を失えば我々は全員魔物になってしまうぞ!」


「「「はい!」」」



 私を守るため、兵士たちは必死に戦った。その顔は悲しみと後悔に染まっている。


 イニシスの英雄、聖騎士ヴァルター・エルドールは、悲嘆に暮れる私の腕のなか、静かに息を引き取った。



 いつもお読みいただき、ありがとうございます!


 壮絶な浄化作業の中、聖騎士ヴァルターが命を落としてしまうという悲しい事態が。これをきっかけに、聖騎士たちを取り巻く状況が変わり始めます。


 ちなみにヴァルター殿が使った『エリミネイト』は第九十五話で右腕の人が亀を元に戻すのに使っていた魔法です。現在ではもっぱらイーヴ騎士団長の趣味に利用されてます。平和っていいですね笑


 次回、第百九十一話 エンベルト5~王の暴走~をお楽しみに!


挿絵(By みてみん)


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ターク様が心配です!~不死身の大剣士は寝不足でした~



カタレア一年生相談窓口!~恋の果実はラブベリー~

― 新着の感想 ―
人どころか物まで修復可能なのは凄いですね! 確かに、高位の聖騎士は替えが利かない存在でした。 ……そんなヴァルターをここで失ってしまうのは痛すぎます。 出発前の様子、浄化完了間近、マルセル救済成功……
[一言] ヴァルター…死に際が美しいのがまだ幸いでしょうか…でも、英雄視されるということは、それだけ強いということのはず。そんな人間が死んでしまったら、今後どうなってしまうのでしょうか…心配です…。
2024/02/04 00:12 退会済み
管理
[良い点] 悲しいですね(´;ω;`)ウッ… 相手を油断させて、本命を叩く。 それも効果的な方法で……。 元々シャーレンを崇拝してたエンベルトですから、魔物や闇のモヤを根絶やしにしたいという想いが、…
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