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三頭犬と魔物使い~幼なじみにテイムされてました~  作者: 花車
第13章 対話と尋問

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181 捕虜2~恋人とオルンデニア~

[前回までのあらすじ]レーギアナの森で、オトラーの領地に侵入していた聖騎士軍と交戦し、勝利したオルフェルたちは、聖騎士軍の負傷兵を捕虜にしていた。ミシュリに捕虜の尋問を押し付けられたオルフェルは……?

 場所:オトラー本拠地

 語り:オルフェル・セルティンガー

 *************



「なにもしねーから安心しろよ」



 俺はオリヴィエを落ち着かせようと、できるだけ優しく声をかけた。


 クロエが懸命に捕虜を看病している姿が目に入ったからだ。


 クロエは聖騎士軍に迫害され、オトラーに逃げ込んできた闇属性魔導師だった。


 彼女はシェインさんにすすめられて、この任務に就いたらしい。


 聖騎士軍の兵たちに、闇属性の魔導師のことを正しく知ってもらうためだという。


 最近のシェインさんは、この分裂してしまったイニシス全体から争いをなくそうと考えているようだ。



――やっぱシェインさん、すげー難しいこと考えてるよな?


――学校で起きた喧嘩くらいなら、俺だって仲直りできるけどさ。どうしたって聖騎士は許せねーし、アリストロもかなり無理だ。


――クロエだって本当は怖いはずだぜ。自分たちを迫害してきたこいつらのこと。



 スケールの違うシェインさんの考えに、俺の理解は追いつかない。


 そんな俺でも、このクロエを見ていると、無闇にイキリ立つことはできなかった。


 彼女は、目の前に憎い相手がいても、少しも嫌な顔をせずに働いている。


 自分たちへの偏見を取り去り前に進もうと、懸命に考えて動いているのだ。


 闇属性魔導師たちはもう、俺たちに守られているだけの存在ではないのだろう。


 だからいまここで、クロエの邪魔をすることは俺にはできない。



――まぁ、いまは休暇中だし、俺は可愛い彼女ができたばかりだからな。穏やかに尋問するくらいの心の余裕はあるぜ。



 俺はこの捕虜から、聖騎士軍の目的や現状を聞き出さなくてはならなかった。


 アジール博士の兵器はとにかく危険だ。ひとつでも残っているなら、それだけで大きな被害が出る。


 押収した兵器でネースさんといろいろ実験をして、俺は寧ろ、聖騎士軍への警戒心を強めていた。



――こそこそオトラー領に忍び込んできて、なにが狙いだったのかもよくわかんねーからな。油断はできねー。



 俺がオリヴィエに聞きたい話はいくらでもある。


 だけど俺は、ずいぶん怖がられているようだ。ミシュリの例もあるし、脅してもいい結果にはならないだろう。


 俺はオリヴィエと無駄話で打ち解けてみることにした。



「オリヴィエは騎士だよな。俺も騎士になりたくてカタ学で勉強してたんだぜ」



 俺は騎士に憧れてすごした学生時代を思い出す。


 あのころの俺は、騎士を世界でいちばんカッコいい仕事だと思っていた。


『騎士になれたら恋人になって欲しい』とミラナに言ったのもそのせいだ。


 イニシス王国には何百年もの間、周辺諸国との争いがなかった。だからイニシスの国民がもっとも恐れていたのは魔物だ。


 そんな魔物から国土を守るため、勇敢で偉大な王と謳われたアルトゥール・イニシスは王国軍を率い、懸命に戦ってきたのだ。


 彼らが巨大で恐ろしい魔物を倒し、街を守った武勇伝は数知れない。


 そして、聖騎士を含めた騎士団はそのなかでも闇のモヤの浄化を担う重要な役割を担っていた。騎士の役目は、浄化のために瞑想する聖騎士を魔物から守ることだ。


 魔物の発生源を根本から消し去ることができる彼らへの憧れは、国民みなが持っていたと言っていいだろう。


 そんな彼らが治癒魔導師を連れ去るという事態は、確かに騒ぎになっていたけど、それでも彼らは英雄だったし、この国に必要な存在だった。


 それがこんな事態になるなんて、あのころの俺には想像がつかなかったのだ。


 きっとこのオリヴィエも、衝撃を受けたのは同じだろう。


 黙ったままのオリヴィエに、俺はいろいろ話しかけた。



「もし俺がカタ学を卒業できてたら、俺たち一緒に魔物と戦ったかもしんねーな」



 俺がそう言うと、オリヴィエが俺の顔を見た。


 こんな世界じゃなかったら、俺たちは仲間だったかもしれない。


 オリヴィエも、そんな想像をしたのか、俺を見て目を瞬かせた。



「本当だね……。もしきみが騎士になっていたら、すごく有名になったと思うよ。きみ、強くて目立つから」



 オリヴィエは俺とフィネーレを、目を見張りながら交互に眺めている。



「その前に王都が封印されたけどな。オリヴィエは何歳? 俺と同じくらいに見えるけど。騎士になれるなんてすげーよな」


「まぁ、ね……。僕は騎士の家に生まれたから」



 オリヴィエは俺の話に、ポツポツと返事をするようになった。


 オリヴィエは子供のころから騎士見習いをし、十七歳で騎士に叙任されたらしい。いまは十九歳だから俺と同い歳だ。


 平民の家に生まれた俺が騎士になるには、カタ学で最低でも二十一歳まで勉強する必要があった。


 だから、学生のころはなんとなく、騎士の家柄が羨ましかったものだ。



「カタ学の人は魔法がすごいよね。知らない魔法がいっぱい飛び出すし、威力もおかしいよ」


「まぁな。オリヴィエは、なんか好きな魔法ある?」


「うーん。あんまり詳しくないんだよね。一応風属性なんだけど、できるのはエアロショットくらいだよ」



 エアロショットは、弓の飛距離を伸ばす風属性の放出系魔法だけど、難易度はそんなに高くない。


 騎士の戦闘訓練は基本的に、馬術と剣や弓など、普通の武器が中心だ。魔法や魔導武器を使えるものは多くない。


 多少使えるというオリヴィエですら、驚くほど魔法の知識がなかった。


 魔法の才能は血筋とは関係がないし、都会暮らしではなかなか守護精霊もつかない。


 だからこそ血統を重んじる貴族社会の王国に、貴族と平民が一緒に通うような、魔法学校が存在していたのだ。


 その筆頭であるカタレア学園は、本当に実力主義の学校だった。貴族の息子たちが偉そうにするのも、一年生のはじめだけだ。


 優秀な魔導師の不足を補うため、王国の有識者たちが、懸命に取り組んだ結果らしい。



「魔導剣燃やしながら、空飛んで突っ込んでくるなんて鬼すぎだよね。本当に悪魔かと思ったよ。守護精霊持ちが魔法を撃ってくるだけでも怖いのに。並みの兵士じゃ大勢いても勝てる気がしないよ」


「聖騎士軍には、ほんとにもう守護精霊はいねーの?」


「うん。はじめは結構いたんだけど、みんなどこかへ消えちゃったよ。だからアジール製の兵器が壊れた時点で、僕たち戦意なんて失ってたんだ。


あの時戦ったのは、ほとんど自棄だよ。エンベルト様がとにかく自棄になってたからさ」



 ぼやくように話すオリヴィエ。


 聖騎士軍はあのとき、本当は俺たちと戦いたくなかったようだ。


 彼らの多くは、俺たちを恐れているらしい。



――まぁ確かに、カタ学の学生は強いからな。


――だからカタ学出身のエンベルトも、もっとすごいやつだと思ってたんだけどな。


――負傷した仲間を残して逃げるなんて、ほんとに情けねーよな。



 またため息をつきたくなる俺。俺がエンベルトに噛みつきたくなるのはそういうところだ。


 俺はイライラを抑えるため「ふぅ」とひとつ息をつく。


 そんな俺に、今度はオリヴィエが質問してきた。



「あのレッドティガーの人、きみの彼女? あの魔法は本当にトラウマだよ……」



 オリヴィエがまた震えている。腕を食いちぎられたうえ、大火傷を負ったのだから当然かもしれない。


 手加減なしのレッドティガーなんてだれでも怖い。青ざめたオリヴィエを見ると、俺の背中にも悪寒が走った。



「こえーのはわかる。でも、ミシュリはあれで優しいんだぜ。治癒魔導師の手配も食料の確保も、捕虜たちのために彼女が一生懸命やってんだ」


「そうだよね……。感謝するよ」



 負傷兵の傷を丁寧に手当てするクロエの姿を眺めて、オリヴィエは穏やかな表情を浮かべた。


 これはきっと、ミシュリとクロエが努力した結果だろう。



「本当にありがとう。きみの恋人にも、お礼を伝えておいてほしいな」


「もちろん。しっかり伝えておくぜ」


「仲がよくて羨ましいよ」


「あぁ。振り回されっぱなしだけどな。オリヴィエは彼女いねーの?」


「いるよ……。消えた王都にね」


「そうか……」



 悲しげに目を伏せるオリヴィエ。俺もオルンデニアにいた懐かしい人たちを思い出し、胸に寂しさが込みあげてきた。


 聖騎士軍に加担している人間の多くは、封印された王都オルンデニアに大切な人がいるのだ。


 だから彼らは、聖騎士や聖職者たちの胡散臭い演説に騙される。


『闇魔導師を全員国土から排除すれば、王都オルンデニアの封印が解かれる』


 そんな、なんの根拠もない話を信じてしまうのは、彼らの魔法に対する理解の低さが原因なのかもしれない。



「俺もオルンデニアには、会いたい人がたくさんいるぜ? だけど、闇属性を迫害しても、王都はもとにもどらねーよ」


「わかってる。嘘くさいのも、根拠がないのも、利用されてるのもわかってるんだ」


「だったら、なんで……」


「わからないよ。だけど僕たちだって、信じられるものが欲しかった。なんにでも縋りついて、彼女を救い出したかった」


「それで苦しむ人がいてもか?」


「地獄に落ちる覚悟はしてる」



 オリヴィエの握った拳が、毛布の上で震えている。涙が次々に落ちてくる。


 彼は自分の間違いに気付きながら、後戻りができずにいたのかもしれない。


 片腕を失くし、涙を流す捕虜を前に、複雑な感情が押し寄せて、俺はただ唇を噛んだ。



「オリヴィエ……。そこまでわかってるなら話してくんねー? 聖騎士軍のこと、もっと詳しく」



 俺の問いかけに、オリヴィエはゆっくりと頷いた。そして俺は、今まで謎だった聖騎士軍の内部事情を知ることになったのだった。

 いつもお読みいただき、ありがとうございます!


 捕虜を尋問するオルフェル君、いかがでしたでしょうか。温厚なオルフェル君の憎しみを描くのが非常に難しかったので、感想などいただけると嬉しいです。


 この章は『対話と尋問』というタイトルどおり、たっぷり文字数を使って、聖騎士たちの話を聞いていきます。


 戦闘や恋愛要素は少な目なのですが、いろいろな謎が解け、新たな謎も噴出する激動の章になっておりますので、楽しみにしていただけたらと思います。


 アリストロとの話はまだ結構先になります。


※誤解する方がいるかもなのですが、この時点でオルフェルはまだミラナの生存をしりません。二股してるわけではありません(;´∀`)


 次回、第百八十二話 監視塔にて~卑怯だもんね~をお楽しみに!


挿絵(By みてみん)

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― 新着の感想 ―
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[良い点] オルフェルが感じた通り、シェインは融和政策をとっていたのは戦後を見据えていたからでしょう。 彼が非人道的行為は避けるように義勇軍を運営していたのも、この和平に繋がってきますよね。 こういっ…
[一言] 花車様おはようございます! そしてオルフェルはオリヴィエを尋問。する。 オリヴィエとの会話で色々な状況と敵の考えとを僅かながらに知ることになる。 そしてオルフェルは怒りを唇をかみしめ堪える。…
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