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三頭犬と魔物使い~幼なじみにテイムされてました~  作者: 花車
第12章 願いと白い竜

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177 討伐宣言1~オトラーとハーゼン~

[前回までのあらすじ]イコロメンバーだけで行われた秘密の会議。オトラー義勇軍の崩壊を恐れていたハーゼンは、オルフェルとベランカの説得により、イザゲル討伐を宣言することに。真実を伝える決意をした彼らははたしてどうなるのか……。



 場所:オトラー本拠地

 語り:オルフェル・セルティンガー

 *************



 数日後、オトラーの指導者や義勇兵たちを集めた本拠地の広場にて、ハーゼン大佐とネースさんは設置された演説台の上に並んで立っていた。


 空気は重苦しくも高揚している。みなは「重要な話がある」とだけ聞かされているが、その内容は想像することもできないだろう。



「ハーゼン! ハーゼン! ハーゼン! ハーゼン!」


「「「ハーゼン! ハーゼン! ハーゼン! ハーゼン!」」」



 俺は声を張りあげハーゼン大佐の名前を叫ぶ。みなも同じように彼の名前を唱えはじめた。


 台の上の大佐を見あげ、だれもが歓声をあげ拍手をしている。


 ハーゼン大佐は常に俺たちの先頭に立ち、オトラーの土地や仲間、迫害に苦しむ闇属性魔導師たちのために戦ってきた。


 獣のような筋肉と傷だらけの体。豪快な性格は、敵からは畏怖され、味方からは敬愛されている。


 夕日に照らされた彼は、まるで神話の英雄のように見えた。


 彼の発する言葉はこれまで、みなの抱え込んだ想いと、その志向を代表してきた。


 それは力強く、言葉は熱く、俺たちの心の奥底にまで響く。


 亡国の民となった俺たちは、彼から希望をもらい、勇気をもらい、彼と同じ気持ちで戦ってきた。


 彼はオトラーのために戦う戦士であり、オトラーを守る守護者であり、オトラーを導く指導者である。


 ハーゼン大佐は両手を広げ、みなの呼びかけに応えた。



「今日ここに集まってくれたオトラーの諸君! オレはきみたちに心から感謝している」


「「「ハーゼン! ハーゼン! ハーゼン! ハーゼン!」」」



 俺は高まる仲間たちの熱気のなか、だれよりも熱くその名前を叫んだ。


 シンソニーは大きなオトラーの旗を風になびかせ、二人の後ろに立っている。いつも朗らかな彼の口元は、いまは緊張で結ばれている。


 仲間たちはこれから、あの獣のように逞しい大佐が、なにを言おうとしているのかを知らない。


 それでもオトラーのものたちは、ハーゼン大佐の声を聴くことで、自分たちは前に進めるのだと信じている。


 俺もそうだ。俺もハーゼン大佐を信じているし、オトラーの仲間たちを信じている。


 ハーゼン大佐は盛りあがるみなを見まわしてから、手で合図してみなを鎮めた。その顔は深刻で決然としている。



「みんな聞いてくれ。オレは今日、みなに重要な話をしなくてはならない」



 騒いでいた仲間たちが一斉に静まる。大佐はひとつ咳払いをして、その悲しいことの経緯を話しはじめた。



「オレは義勇軍の大佐として、いままでみなを率いて戦ってきた。この義勇軍の主な目的は、周辺地域の侵略から自分たちの領地を守ること、そして、迫害される闇属性魔導師たちを守ることだ。


しかし俺たちは義勇兵だ。それぞれが自分の信じたもののために戦っている。オレにも、義勇軍としての目標とは別の、個人的な戦いの理由があった」


「知ってるぞー!」


「よ! ロマンチック大佐!」



 さんざんハーゼン大佐の惚気話を聞かされてきた義勇兵たちが、茶化すように合の手を入れる。


 俺はその様子に苦笑した。この先の話の内容を思うと本当に胸が痛む。


 喉が詰まるような気持ちを抑え込み、唇に力を入れながら、俺は静かに彼の言葉を待っていた。



「そうだ。みなも知っているとおりだが、オレはいままで、ずっとイザゲルを救うために戦ってきた。世間では、王妃を魔物に変えたとされる彼女をすべての元凶かのように言うやつも多い。


だが、彼女はオレの初恋で、初めての恋人だ。そして彼女は、ここにいるネースの大切な姉でもある。彼女は純粋で清らかな花のような人だった。オレは彼女を守りたい、いまも、オレはそう思っている」


「ゴリラみたいななりしてのろけすぎだぞ!」


「「わはは」」



 ハーゼン大佐が真剣な顔のまま、演説中に惚気るのはいつものことだ。


 彼はイザゲルさんへの愛情を隠そうとしない。


 俺にはわかる。彼はイザゲルさんを愛していることを、心から誇りに思っているのだ。


 集められた兵たちは、まだ状況の変化に気が付いていない。


 聴衆たちがハーゼン大佐を揶揄い笑っている。しかしその笑いは決して嘲りではなかった。


 彼の気持ちを受け止めようとする仲間たちからの、親しみと尊敬の表れだ。


 ハーゼン大佐の隣で、ネースさんがどんどん青ざめていく。俺には彼が、いまにも倒れそうに見えた。


 彼は人前に立たされるだけでも、相当にまいるようだ。


 走って逃げ出してしまいそうなネースさんに軽く目配せし、ハーゼン大佐は話をつづけた。



「そうだ。オレはずっと、彼女の潔白を信じてきた。彼女は魔導師を拉致し、無理難題を押し付けたうえ、できなければ処刑してしまう、ひどい暴君の被害者だ。オレはずっと、そう思って戦ってきた」


「気持ちはわかるぞ!」


「あの王様が消えて、俺たちもほっとしたぜ」


「許せねーよ。村に一人きりだった大事な治癒魔導師を殺されたんだ」


「本当に勝手! イザゲルさんは悪くないのに。きっと見つけ出して助けましょうね!」



 みなが顔を見合わせて頷いている。


 いつも身を挺してみなを守るハーゼン大佐のために、イザゲルさんを助けたいと思っている義勇兵たちもたくさんいるのだ。


 ハーゼン大佐はみなが静まるのを待ってつづけた。彼の表情が暗く沈み強張っている。



「すでにみなも知っていると思うが、先日レーギアナの森で、オレは第三大隊を率い聖騎士軍と戦った。


そのときオレは、ある聖騎士からモヤの奥にイザゲルがいるという情報を聞いたのだ。


そして、オレは数名の仲間とともにモヤの奥に行き、イザゲルとの再会をはたした」



 みなが黙ってハーゼン大佐を見あげている。


 大佐の声はいつものように力強い。だがその声にわずかな震えがあった。


 こぼれ落ちそうな悲しみと苦悩を抑え込むように、大佐はその眉間にしわを寄せる。


 イザゲルさんとの再会は、彼にとって悲願だった。みなもそれを知っているから、本当なら喜びや祝福で溢れるところだ。


 だけどみなも、大佐の抱える葛藤を感じたのだろう。互いに顔を見あわせて、不安げに顔をしかめている。


 俺たちがモヤの奥へ行ったことも、彼らは聞かされていないのだ。


 そもそも闇のモヤの奥なんて聖騎士でもなければ、とてもいける場所ではない。


 そこは近づいただけで気を失い、長居すると魔物化してしまう、恐ろしい場所なのだ。



「どうやってモヤの奥へ……?」


「イザゲルさんはどこに……?」



 みなが驚きや疑問を口にすると、ハーゼン大佐は深く息を吐いた。



「……イザゲルはここにはいない。俺は確かにイザゲルに会ったが、彼女は危険な魔法を使った反動で、すっかり正気を失っていたのだ。


彼女は悲しみと苦しみのなか狂気に蝕まれ、魔物を操り村を襲う魔物使いとなってしまった」


「それって、まさか……」


「あぁ……、なんてこと……。それじゃぁ、クルーエルファントの上に乗っていた魔導師って……」



 ハーゼン大佐は苦痛に満ちた顔で真実を告げ、みなの反応を見渡した。


 驚き、動揺、そして疑問。


 ここには彼女に家族を奪われたものたちが大勢いる。みなの顔がしだいに悲しみと怒りに染まっていく。


 無理もない。自分の家族や友人の仇がだれなのか、彼らはいま知ったのだ。


 それでもハーゼン大佐は切なくも力強い声で演説をつづけた。



「みんな聞いてほしい。オレも彼女に故郷を奪われたものの一人だ。


このつらい現実を知ったオレは、彼女を助けられなかったことを悔いた。なんとか彼女を、元に戻せないかと必死に考えた。


しかし現実は残酷だ。俺にはイザゲルを元に戻す術がない。


いまオレにできることは、彼女がこれ以上罪を重ねないよう、彼女を止めることだけだ。


オレはいまもイザゲルを愛している。


だからこそ、オレはここで宣言する。オレは必ずイザゲルを倒し、オトラーを守ると。


彼女は転移魔法で村付近に魔物を送り込み、罪もない村を潰してしまう。オレたちみなの共通の敵だ。


イザゲルを倒すため、ここに集まってくれたみなに、討伐作戦への協力を頼みたい」


「そんな……。大佐がイザゲルを倒すことになるなんて」


「ハーゼン大佐……。本当にそれでいいんですか……?」


「イザゲルを正気に戻す方法はないの?」


「正気に戻ったからって、おまえら、故郷を襲った相手を許せるのかよ。俺は無理だぞ……」


「やっぱり、闇属性魔法は怖いわね……」



 ハーゼン大佐の演説に、あるものは唇を噛み、またあるものは頭を抱えた。


 愛するものを討とうとする二人の決意は、俺たち仲間への誠意と責任感の現れだ。


 だけどこれまで、ハーゼン大佐の想いを聞かされていた義勇兵たちには、そんな台上の二人が、あまりにも哀れで悲しく思えた。


 そして俺たちの予想どおり、一部のものは闇属性魔法への恐怖や憎悪をあらわにしている。


 魔物使いを許せない彼らは、闇属性魔導師が仲間であることも許せないのかもしれない。


 この場にも多くの闇属性魔導師が集まっている。属性や魔法に対する偏見と差別。彼らはそれに苦しんでいる。


 理解や受容を求めながらも、自分たちがどんな扱いを受けるのかと、不安や恐れを抱いているのだろう。


 彼らは拳を握り俯いていた。


 だれもが葛藤に顔をしかめている。


 だけど闇属性魔導師を責めようとする仲間は、想像よりはかなり少ない。


 ハーゼン大佐がこれまでに、みなの心に響く演説を繰り返してきたからだろう。


 俺たちは彼らの力や存在を認めてここまできたのだ。


 仲間割れなんかしていられない。こうしている間にも、イザゲルさんは新たに村を襲うかもしれないのだ。


 話を前に進めようと、俺は決意を込めて声をあげた。



「ハーゼン大佐! 俺はやります! みんなでイザゲルさんを止めましょう! 俺たちのオトラーのために!」



 いつもお読みいただき、ありがとうございます!


 ついにハーゼンさんの演説が始まりました。前回は少し引け腰になっていた彼ですが誠心誠意頑張っております。


 オルフェル君もこの雰囲気をなんとか乗り切ろうと必死ですがはたして……。


 次回は『第十二章 願いと白い竜』最終話です。その後お絵描きと療養と執筆のためしばらく投稿をお休みします。


 投稿再開時期についてはそのうち活動報告でおしらせしたいと思います。


 第百七十八話 討伐宣言2~オトラーとネース~をお楽しみに!


 挿絵(By みてみん)


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― 新着の感想 ―
演説を聴いたオトラーの皆が冷静でよかったです。 ハーゼンさんがこれまで積み上げてきた信頼の表れですね。 ……が、これは悲しい。 何も知らずに茶化す声を受け止める壇上の二人を思うと胸が痛みます。 更な…
[一言] 花車様こんばんは! オトラーでのオルフェルもシンソニーもハーゼンさんと共に!!! イザゲルを打倒する。 続きも楽しませていただきますd(ゝω・´○)
[良い点] ハーゼンさんの演説を読んで、いえ聞いて、仲間たちに言う辛さがとても伝わってきました。 また、自分の想いも伝えながら、状況を説明。仲間たちに対する気遣い。 文句のつけようのない文面、素晴らし…
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