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三頭犬と魔物使い~幼なじみにテイムされてました~  作者: 花車
第12章 願いと白い竜

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163 ナダン先生2~デリケートな問題~

[前回までのあらすじ]調教餌の材料を手に入れるためレーマ村に戻ったミラナは、調教魔法の先生であるナダン先生の丸木小屋を訪れた。『解放レベル2でもミラナから遠くに離れることができない』というシンソニーの話を聞いて、ナダン先生はため息をつく。



 場所:レーマ村

 語り:ミラナ・レニーウェイン

 *************



「そうか。やはり調教餌だけでは解決しないようだね」



 ナダン先生が深くため息をつきながら、シンソニーの話をノートに書き留めている。


 先生はシンソニーが人間の姿になってから、ずっと彼の行く末も心配してくれていた。


 だけど先生にも、解決策は見つからないようだ。


 私から離れられないというのは、この先仲間たちが生きていくうえで、大きな問題になるだろう。自由がないというのはつらいことだ。


 私だってできることなら、みんなを自由にしてあげたい。



「ごめんねみんな。みんなも自由に行動できなくて不満だと思うけど、いまはとにかく、ニーニーとハーゼンさんのテイムに向けて準備したいの。その先のことを考えるのは、そのあとでいいかな?」



 私がそう言うと、みんながうんうんと頷いてくれた。オルフェルは尻尾を振っている。



「もちろんだよ」


「あぁ、わかっているよ。ミラナには面倒をかけて本当にすまないな」


「おにぃさまがいれば、なにも問題ないですわ」


「きゃうん!」


「仲がいいんだね、君たちは」



 先生が私たちを見て微笑んでいる。私もほっと胸を撫で下ろした。


 あまりにデリケートな問題だから、いままで触れずに来てしまったのだ。



――ふぅ。いつかはこの話、しなきゃいけないと思ってたんだよね……。



 私たちが先でどうなるのか、それはまだ私にもわからない。


 だけど、これからのことは一人で勝手に決めないで、みんなと相談しながら決めていくつもりだ。


 先生はしばらくみんなの顔を見まわしていたけれど、握っていたペンを置き、ネースさんの水槽を覗き込んだ。



「小さいが強そうだ。自分たちだけでよく捕まえたね」


「はい! 解放レベルをあげると大きなバシリスクになるんです。だけど、まだあまり意思疎通ができてなくて……」


「ふむ。魔物化の影響かな。次の解放レベルにあげるときは少し注意したほうがいいね」



 先生が髭をいじりながら唸っている。魔物の解放レベルアップには、魔物との意思疎通が必要だ。


 無理に行えば、魔物の不安や苦痛のサインを見落とし、思わぬ事故につながりかねない。



――できればネースさんとしっかり話して、心の準備ができているか確認したいんだけど。


――ちょっと難しそうだから、できるだけ環境を整えて驚かさないようによく注意しないと……。



 私が真剣に考え込むと、ナダン先生が「うん」とひとつ頷いて提案してきた。


 私の不安を取り除こうとしてくれているようだ。



「次にネース君の解放レベルを3にあげるときは、私も一緒に見せてもらっていいかな?」


「あ、それは心強いです。でも、まだ解放レベル2にしてから日が浅いので、十日以上はかかりそうなんですが……」



 私がそう言うと、先生は書棚から新しい魔導書を出して渡してきた。



「ちょうどいいと思うよ。きみ自身の魔力も前より高まって、研ぎ澄まされているようだ。攻撃モードと防御モードも使いこなせているようだし、待っている間にこの訓練をやってみるかい?」


「えっ? これは……!」



 それは、ジャスティーネさんも使っていた、『攻守モード』の使い方が書かれた魔導書だった。


 闇魔法アカデミーの魔物使い科では一年目と二年目に一般的な闇属性魔法を習い、三年目で専門科目として初級と中級の調教魔法を習う。


 そして四年目に上級の調教魔法として攻守モードを習うのだ。


 私は三年目の授業から開始し、三ヶ月で一年分の訓練課程を終わらせた。


 だから休学していなければ、次に習うのは『攻守モード』だ。


 だけど、『攻守モード』は独学で勉強するには難しく、魔物の凶暴化のリスクも高い。


 休学するとき、この本を欲しがった私に、先生はそう言って断ったのだ。



「まぁ、さすがに十日で習得できるとは思わないが、出だしだけでも私と一緒に訓練しておけば、いまのきみなら、あとは独学でも習得できるかもしれない」


「でも先生、私にばかり付きあっている時間があるんですか?」


「心配いらない。いまアカデミーは長期休暇中だからね」



 先生に渡された魔導書をパラパラとめくってみると、中級調教魔法とは比べものにならない複雑さの魔法陣と、高度な説明書きがびっしりと書き込まれている。


 はっきり言って絶対これはたいへんだ。だけど私は、ずっとこの本が欲しかった。


 私は張り切って立ちあがり、先生に頭を下げた。



「ありがとうございます! 頑張るのでよろしくお願いします!」


「なら、明日からさっそく訓練をはじめようか」



 先生が優しい微笑みを浮かべている。私がこの魔法を使えるようになれば、戦闘中の危険を減らせるし、みんなの負担も減るだろう。



――独学は自信がなかったけど、先生が付きあってくれるなら百人力だわ! 十日のうちに疑問点を洗い出して、質問できるだけ質問しておかなきゃ!



 私が顔をあげると、先生はうんうんと頷いて、丸太小屋の窓から見える雪山を指さした。



「こっちに来たのは材料集めが目的らしいな。オトナギでもなんでも、エサに使うものはだいたい裏山に生えている。必要なだけ採ってくるといい」


「ありがとうございます! 本当に助かります!」



 あの雪山には、先生が育てている調教餌のための材料がたくさんあるのだ。


 あそこなら、ベルガノンでは手に入らなかった希少な植物が全て揃うはずだ。



――なにからなにまでほんとに助かる! 先生にあわせる顔がないかも、なんて思ってたけど、帰ってきてよかった。



 先生は「これを使うといい」と言いながら、採集に使う道具をあれこれと道具小屋から出してきてくれた。


 カゴにハサミに脚立、これだけあればすぐに採集をはじめられそうだ。



「ほんとうにありがとうございます。さっそく行ってきます!」



 ナダン先生に見送られて屋敷を出ると、先生の娘のペルラちゃんが名残惜しそうに見送りに来た。



「おにゅへにゅ……もういっちゃうの?」



 オルフェルの前にしゃがみ込んで、彼の前足を握りながら涙目になっている。


 さっきすこし挨拶をしただけなのに、オルフェルはぺルラちゃんの心を掴んでしまったようだ。



「いや。そこの裏山に行くだけだから、あとでまたくるぜ! そのとき一緒に遊ぼうな」


「今日からしばらく離れにお泊りするから、よろしくね、ぺルラちゃん」


「わぁい! みななちゃんおとまり~!」



 ぺルラちゃんが喜んでぴょんぴょん跳ねている。小さい子は元気で本当に可愛らしい。ペルラちゃんに手を振られて、私たちは裏山を目指した。



 いつもお読みいただき、ありがとうございます!


 ナダン先生と話したことで、いままで避けていたデリケートな問題について話すことになったミラナたち。とりあえずエニーとハーゼンが見つかるまではこの話はお預けです汗


 次回からはシンソニーの語りになります。最近ちょっとイライラしていると噂の彼ですがどうしたのでしょうか……。


 第百六十四話 採集活動1~僕の不安~をお楽しみに!


挿絵(By みてみん)

これはネースさんです。

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― 新着の感想 ―
いたれりつくせりのナダン先生には感謝しかありませんね。 素材集めと攻守モードもありがたいですが、何が起こるか分からないネースさんLV3に立ち会ってもらえるのは心強い気がします。
[良い点] ミラナから離れられないのは、皆のこれからの人生で障害となりますね。 パーソナルスペースが確保できないのは、多大なストレスを齎すと聞きます。 でもみんないい子だから、今も困っている仲間を優先…
[良い点] 魔物たちのことだけでなく、ミラナもステップアップするんですね! さすが、ナダン先生。 今後のことも大事ですが、まずは目先のことから。 勉強熱心なミラナなら、十日間でナダン先生を圧倒するほど…
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