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三頭犬と魔物使い~幼なじみにテイムされてました~  作者: 花車
第12章 願いと白い竜

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162 ナダン先生1~呪いの反動~[設定・キャラ紹介]

 [前回までのあらすじ]調教餌の材料を手に入れるためレーマ村に戻ったミラナは、恩人であるナダン先生の丸木小屋を訪れた。挨拶を済ませ、応接室にとおされた彼女は……。



 場所:レーマ村

 語り:ミラナ・レニーウェイン

 *************



 レーラさんやぺルラちゃんと挨拶をしたあと、私たちは応接室にとおされた。丸太でできた壁に煉瓦の暖炉がある落ち着いた部屋だ。


 先生の人柄がにじみ出ているような温かみのある内装にホッとした。



「それはここに置くといい」



 先生に指示されて、シンソニーがネースさんの水槽をソファーテーブルの上に置いた。


 ネースさんを驚かせないよう、できるだけ水を揺らさずにそっと置く。


 ネースさんは周りを警戒しているのか、水のなかで少しキョロキョロしていた。



「ネースさん、心配ないですよ。ナダン先生は怖くないですから」



 ネースさんに声をかけて、私は先生と対面のソファに座った。私の隣にシンソニーが座り、人間姿のシェインさんがペンギンのベランカさんを持ちあげてソファーに座らせた。


 子犬のオルフェルも、ソファーに登ってお座りだ。両前足を揃え、黙ってナダン先生を見あげている。


 その様子はちょっと賢そうな犬に見えた。最近のオルフェルは、子犬でもかなり大人しい。



「あらためて、よく戻ったね。ミラナ。仲間集めは順調のようじゃないか」



 先生が私と魔物たちの顔を見まわしながら、綺麗に整えられた口ひげをいじっている。これは興味があるときの先生の癖だ。



「おかげさまです。助っ人のみなさんを手配していただけて助かりました」


「あぁ。あれはアガトス先生のおかげだよ。私では騎士団長や魔術機関は動かせないからね」



 アガトス先生とは闇属性の大魔道師ガルベル・アガトス、すなわちベルさんのことだ。


 ベルさんと騎士団長は何度も戦争でともに戦った戦友らしい。



「五匹か。簡単にはいかないだろうと思っていたが、本当にすごいな。魔物化した友人はあと二人かな。見つかるまで復学はしないつもりかい?」



 先生の声には驚きと心配が混ざっている。


 彼は三百年の封印から目覚めた私を、キジーとともにずっと見守ってくれていた人だ。



『焦る気持ちはわかるが、きみ自身のことをもっと考えなさい。ここでの学生生活はきみに多くを学ばせてくれるはずだ。それは今後の魔物たちとの暮らしにもきっと役立つ。仲間探しは、卒業してからでもいいんじゃないか?』



 私がアカデミーの休学を先生にお願いしたとき、先生は私にそう声をかけた。


 魔物たちが退治されないようギルドや魔術機関に働きかけて、できる限り協力するとも言ってくれた。


 彼は私の事情を理解して、私自身のことをいちばんに心配してくれたのだ。


 それなのに私は、早くみんなを探したくて慌ててクラスタルを飛び出してしまった。自分の記憶を頼りに、遺跡を探して回るつもりだった。


 キジーが私を探し出して部屋を用意してくれなかったら、ずっと路上暮らしをしていたかもしれない。あのときの私は、それくらい切羽詰まっていた。


 そんな私を、こうして温かく迎えてくれるナダン先生は、本当に優しいのだ。


 しかも私は、闇魔法アカデミーの学費を、全額先生に立て替えてもらっている。



「はい、復学はまだ先になりそうです。いろいろと心配をかけてしまってすみません。でも、少しお金ができたので、ようやくお借りしていた学費が払えます」


「そんなことはいいんだ。いろいろ入用だろうから、急がなくてかまわないよ」


「ありがとうございます。でも、払えるときに払っておきたくて」


「わかった、わかった。そうしたいならかまわないよ。だけど、ここにいた三ヶ月分だけでいいからね」



 そう言って優しく微笑む先生は、大人の余裕たっぷりだ。私を支え、気持ちを尊重してくれる彼には、感謝してもしきれない。



「友人探しにはキジーが行ってるのかな?」



 先生がまた口ひげをいじる。キジーは十六歳だけど、すでに闇魔法アカデミーは卒業しているらしい。


 キジーを育てていたお爺さんが亡くなった十一歳ころから十五歳まで、四年間在籍していたようだ。


 だけどキジーは勉強しても、封印解除魔法と探知魔法以外は覚えられないという。


 彼女はどうやら、そういう呪いにかかっているようだ。


 詳しい事情はわからないけど、その反動で彼女の魔法は恐ろしく強化されている。



「キジーが見つけて案内してくれるので本当に助かってます」


「ならキジーが友人を見つけて戻るまでしばらく時間があるだろう。その間に何日か、いまいる魔物たちの様子を見せてもらえるかな? 戦闘力や調教餌の効果をみたいのだが」



 先生の瞳が好奇心に輝いている。彼はたくさんの魔物や動物を飼い、調教魔法の研究をしているのだ。


 もとになっているのはイザゲルさんの書いた本だけど、彼の研究あっての調教魔法だ。



「もちろんです。いろいろ相談したいこともあるのでよろしくお願いします」


「ならば今日から離れに泊まるといい」


「なにからなにまですみません」



――やったわ。さすがナダン先生♪



 真面目な顔で返事をしながらも、つい喜んでしまう私。実は先生がそう言ってくれるんじゃないかと、密かに期待してここまで来てしまったのだ。


 先生の家の離れは、いまいる母屋より一回り小さい丸太小屋で、リビングのほかに部屋が二つある。


 男女にわかれてすごせるし、魔物たちを出していても気を使わない。なにより先生が近くにいてくれるのが頼もしい。


 私の気持ちを察してか、先生もニコニコしてくれている。



「いやいや、気を使うことはないよ。私も聞きたい話がたくさんあるからね。とりあえず、魔物たちの状態について聞かせてくれるかい?」


「わかりました」



 私は魔物たちのことをできるだけ丁寧に説明した。



「シンソニーとオルフェルは、解放レベル4まで出力をあげました。一時間程ならその状態で戦えます」


「すごいね、感心だよ。限界時間もうまく見きわめているようだ」


「はい! 先生の指導のおかげです。限界が近づくと魔力に乱れが生じるので、早めに解放レベルを下げるようにしています」


「そうだね、巨大化したまま暴れて被害が出るようなことがあれば、たとえ事態が治まっても、魔物使い全体への非難につながる。その点はよく注意してもらいたい」


「肝に銘じます」



 先生の言葉に、私は真剣な面持ちで答えた。解放レベル4は強くて便利だけど、ほかの魔物使いに迷惑だけはかけられない。こういうことがきっかけで、恐ろしい迫害が始まったりすることもあるのだ。


 闇魔導師たちはいつもその危険と隣りあわせだ。自分の気持ちや仲間の捕獲はもちろん大切だけど、これはなによりも注意しなくてはならないだろう。


 先生は私の真面目な顔を見ると、魔物たちみなを見回して言った。



「しかしきみたちは思った以上に落ち着いているようだね? 魔物化しているとは思えないよ。シンソニーも捕獲したばかりのころは暴れたり拗ねたりたいへんだったが……」



 先生の言葉に、シンソニーが気まずそうに顔を歪めている。実際彼を落ち着かせるのは、オルフェルよりずっとたいへんだった。



「そうですね……。状況は理解してもらえています」



 そう言いながら、私はオルフェルに目をやった。オルフェルが慌てた様子で、口から飛び出していた舌を引っ込める。


 口が開いてると、笑顔みたいに見えてすごく可愛いけど、オルフェルはそれが恥ずかしいらしい。



――理解してもらえてますって、自分でなんとかしたみたいに言っちゃった。実際は、みんなが落ち着いてるのってだいたいオルフェルのおかげなんだよね。



 テイムのあと調教餌の効果が出るまで、どうしても魔物たちは凶暴だ。


 それは仕方のないことだと思っていたけど、実際はそうじゃない部分も大きかった。


 体や環境の変化への困惑に加え、魔物化したことへの苛立ち、不安、焦り。そして時代を超えてしまったことによる強烈な孤独感。


 私にはみんなのその気持ちを理解したり、緩和してあげる余裕はなかった。


 そこをずっと助けてくれていたのはオルフェルだ。みんなが混乱しないよう、毎度丁寧に状況を説明し、みんなの不安や寂しさを取り除いてくれた。


 彼が声をかけるたび、みんな落ち着きを取り戻したし、記憶を共有していることも、彼らの結束につながっていると思う。



――オルフェルは本当に優しいよね。シェインさんにあんなひどいこと言われたのにまた許しちゃってるし、ベランカさんにストレスぶつけられても怒らないし。


――ネースさんなんて返事もしないのにずっと話しかけてるし。


――シンソニーも最近よくイライラしてるけど、オルフェルが宥めてくれるからほんとに助かる……。調教餌や沈静化魔法は、最小限にしたいもんね。



 ほわっとしながらオルフェルを眺める私を、ナダン先生がニコニコしながら見ている。先生は勘がいいから、私の考えていることくらいはわかっていそうだ。



「それで、シェイン君とベランカ君はどんな状態かな?」


「そうですね、二人は解放レベル3まであげてます。まだ魔力が不安定なので、次のレベルにあげるには時間がかかりそうです」


「なるほど。ベランカ君は……このペンギンの姿から幼児になりさらに大人にか。シェイン君は子ライオンから人間、獣人になると。なかなか不思議だね」



 先生はそう言いながら、興味深そうにシェインさんたちを眺めた。


 ペンギンなベランカさんが冷気を放ちながらシェインさんにくっついて、シェインさんはベランカさんのフリッパーを握っている。


 ベランカさんの感情の見えない小さな目がじっとナダン先生を見詰めていた。


 先生は二人になにか聞こうとしたようだけど、やめたようだ。一瞬口をつぐんでから、シンソニーに向きなおった。



「シンソニーはどうだい? 不安に感じることはあるかな?」


「……はい、やっぱり巨大化したまま長時間すごしていると、自制心を失いそうな危うい感覚があります。解放レベル2でも、ミラナから遠く離れることはできないと思います」


「そうか。やはり調教餌だけでは、なかなか解決しないようだね」



 ナダン先生は深くため息をつきながら、シンソニーの話をノートに書き留めた。



 いつもお読みいただき、ありがとうございます!


 最初から落ち着いていたのかと思われたシンソニー君ですが実はオルフェルより暴れてたみたいです汗


 次回もミラナの語りでナダン先生とお話します。


 第百六十三話 ナダン先生2~デリケートな問題~をお楽しみに!


[設定・キャラクター]


【レーマ村】クラスタル王国にある小さな村。闇魔法アカデミーとその宿舎があり、近くの山には調教餌の材料が豊富。


【闇魔法アカデミー】ミラナが休学中の闇属性魔導師専用の魔法学校。クラスタルの復興支援のためベルさんが創設した。


【調教魔法】イザゲルの遺した魔導書を元に研究された、魔物の制御や強化を行う魔法。


【調教餌】魔物の凶暴性を抑え、意思疎通を助ける効果がある。調教魔法により作られたエサ。材料はさまざま。


【解放レベル】ビーストケージに封印されている魔物を段階的に解放する際の目安となる数値。

 ※段階的な解放はローズデメール製のビーストケージでのみ可能。


【攻守モード】調教魔法の一種で、攻撃モードや防御モードの上位魔法。攻守モードは魔物が戦闘中に攻撃と防御を自分の意志で自由に行うことができる。


【テイム】魔物を手懐けてビーストケージに封印することで仲間にする魔法。


【呪いの反動】魔法や行動に制限の呪いをかけることで、その反動により別の魔法やステータスが強化される。


【魔物の成り立ち】

 ①倒すと死体になったり物になる魔物は、生物、自然、無機物などが魔物化したもので、自我がなく凶暴。

 ②倒すと霧や魔石になる魔物は信仰心や想像力などから生まれ出たもので、自我があり言葉を話すことも。

 ※①、②共に例外あり。


【魔物化】あらゆるものが魔物に変化する現象。体が巨大化するなど変化し、自我を失い凶暴になる。人間の場合体内の魔力が無属性から有属性に変化する。※例外あり。※原因は闇のモヤだけではなく、魔法や呪いなどで魔物化することもある。


【ナダン先生】闇魔法アカデミーの先生で、調教魔法の研究者。封印から目覚めたばかりのミラナを見守り支えてくれた人物の一人。彼女の学費を立て替え、シンソニーのテイムや調教を支援してくれた。


【アガトス先生(ベルさん)】闇属性の大魔道師であり英雄。ナダン先生のそのまた師匠。ベルガノン王国の騎士団長と戦友。オルフェルのテイムを手伝った。


挿絵(By みてみん)


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― 新着の感想 ―
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