161 レーマに到着~これまた斬新だな~
[前回までのあらすじ]魔物使いの先輩ジャスティーネさんのテイムを手伝ったミラナたち。無事にテイムを終え、ついにレーマ村にやってきました。
場所:レーマ村
語り:ミラナ・レニーウェイン
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遺跡を出た私たちは、シンソニーに乗ってレーマ村に入った。
レーマは三角屋根の可愛い丸太小屋が多い。いまは夜のため、真っ白に積もった雪に小屋からの暖かそうな灯りが漏れていた。
ここには闇魔法アカデミーの生徒たちが住んでいる学生寮もある。
私もこの村にきてしばらくはアカデミーの女子寮に住んでいた。
だけどいまは、もうそこに私の部屋はない。
シンソニーをテイムしてからは、女子寮では問題だということで、ナダン先生のお宅の離れに住ませてもらっていたのだ。
――夜中になっちゃったけど、どこか宿屋は空いてるかな?
テントは一応用意してきたけど、村で野営なんかしてナダン先生に知れたら、『うちに泊まればいいのに遠慮しすぎだ!』と、きっと怒られてしまうだろう。
だけど、こんな夜中にいきなり押しかけたのでは、さすがに失礼で気が引ける。
「私のせいで夜遅くなっちゃったから、今日はうちに泊まるといいわ」
宿の心配をしていると、ジャスティーネさんが声をかけてくれた。
「えっ? そんなご迷惑はかけられません。私たちこんな大人数ですし……」
「あら、遠慮しなくていいわよ。もう私たち友達でしょう?」
「えっ?」
戸惑ってかたまる私。そう言ってもらえるのはうれしいけど、彼女は魔物使いとしても冒険者としても大先輩だ。
気軽に『友達です』なんて言って、甘えてしまっていいものだろうか?
――確かに今日は一緒に戦ったけど、私たち初対面だし……。友達って、これくらいでなれるものなの?
考えこむ私を見て、ジャスティーネさんが優しく微笑んでいる。
「ごめんなさい。急に友達だなんて困っちゃうわよね。だけど、同じ魔物使いとして、私あなたを誇りに思ってるの。
こんなにたくさんの魔物たちを仲間にするのは、並大抵のことじゃないわ。戦いっぷりも素晴らしかったわよ」
ジャスティーネさんが私に歩み寄ってくる。
彼女は今日、魔物使いとしてまだまだ半人前の私を、ずっと褒めてくれていたのだ。
同じ魔物使いの先輩から、評価したり認めたりしてもらえたことは、本当に嬉しくて感激で涙が出そうだった。
だから今日は、彼女の期待に応えようと、いつも以上に頑張ってしまった。
いまは彼女のテイムがうまく行って、すごくほっとしているところだ。
だけど、私は本当に未熟なうえに、闇魔法アカデミーも休学中だ。放置している課題は山積みだし、お世話になっている人たちにも、迷惑と心配しかかけていない。
「私はなにも、特別なことは……。なにからなにまで人に助けてもらって、仲間たちにも助けられながらしていることです……」
「そういう謙虚なところも好きよ。今日も手伝ってもらえてすごく助かったし。ね? 友達になりましょ」
笑顔で片手を差し出すジャスティーネさんを、私は真顔で見詰め返した。
オルフェルが前足でツンツンと私をつつきながら、耳元に口を寄せてくる。
「ミラナ、ここは遠慮しすぎねーほうが、ジャスティーネさんは喜ぶと思うぜ?」
「そ、そうかな?」
「絶対そうだ」
こそこそ話をする私たちをジャスティーネさんが片手を出したまま、にこにこして眺めている。
どうやら全部聞こえてしまったようだ。私はジャスティーネさんの手を握り返した。
「私のほうこそ、今日は上位魔法を近くで見せてもらえて感激しました。ジャスティーネさんのような先輩から、もっと学ばせてもらいたいです。ぜひ、友達にしてください」
「うふふ。いくらでも見せてあげるわよ」
彼女の手が温かくて、なんだか嬉しくなってしまった。
ジャスティーネさんにもらった言葉に恥じないように、私はもっと努力して立派な魔物使いになりたいと思う。
「私、魔物使いの友達ははじめてです」
「私もあなたみたいな子ははじめてよ! さっそく私の家に行くわよ~! 一緒にお夕飯食べましょ! ウキウキッて感じね!」
ジャスティーネさんは、私の腕に手を回すと、グイグイと私を引っ張って自分の家まで連れていった。
そうして私たちは、ジャスティーネさんの家で一泊させてもらったのだった。
△
翌朝私たちは、ナダン先生の住む大きな丸太小屋を訪れた。
雪が積もった広い庭の周りには、いくつかの動物小屋や、物置小屋が建てられている。
動物小屋には調教魔法の研究のために、魔物や動物が飼われていた。
物置小屋は、主に多趣味な先生の趣味の道具をしまっておくためのものだ。
私が住ませてもらっていた離れもある。
――ほとんど家出みたいに飛び出しちゃったからなぁ……。先生、怒ってないといいけど。
少し緊張しつつも玄関の呼び鈴を鳴らすと、ナダン先生とその家族が笑顔で出迎えてくれた。
「ミラナ! 戻ったか!」
「いらっしゃい、ミラナちゃん」
「ナダン先生! レーラさんも、お久しぶりです! お元気そうでなによりです」
「わぁーい、みななちゃんだ!」
「ペルラちゃん、久しぶりだね」
――よかった。みんな元気だし、いつもどおりだわ!
ナダン先生は三十代半ばの気さくな人だ。奥さんのレーラさんと四歳の一人娘ペルラちゃんと一緒に暮している。
奥さんは若くてきれいだし、ペルラちゃんも元気がよくて可愛い子だ。ここで勉強していたころは、よく家族の惚気話を聞かされた。
「元気にしてた?」
「うん! あのね、ママのおなかのなか、あかちゃんいるの!」
「わ、すごいね。よかったね!」
私が頭を撫でると、ぺルラちゃんが無邪気な顔でにこにこ笑う。ところどころ歯が抜けているのがまた可愛い。
「おめでとうございます!」
「あぁ、ぺルラはレーラに似て可愛いからなぁ~、この子も絶対可愛いはずだ」
「やだ、パパったら~。今度はきっとパパに似ると思うわよ!」
幸せそうに寄り添いながら見詰めあう二人。この雰囲気が少し懐かしくてホッとする。先生は家族思いですごくステキだ。
そして彼は、もともとはベルガノンの人だった。ベルさんの魔術機関から派遣され、クラスタルで働いているのだ。
先生は魔導師の少ないこの国で、闇属性専門で強い冒険者を育てている。
魔物の大量発生で甚大な被害を受けたこの国のために、ベルさんが行っている復興支援の一環だそうだ。
ペルラちゃんがシンソニーの足元にいた子犬なオルフェルを見て興奮している。
「わぁー! ちんとにー! ちいちゃいワンちゃんがいるよー!」
「うん、オルフェルだよ」
「きゃわいぃ~! おにゅへにゅ!」
「ちんとにーに、おにゅへにゅ……!? これまた斬新だな」
「しゃべったぁ!」
ペルラちゃんは嬉しそうに、オルフェルを抱っこしてスリスリ頬を擦り寄せた。
シンソニーは『ちんとにー』が気に入らないらしく、少し不満げだ。ペルラちゃんの前にしゃがみ込んで注意している。
「ペルラちゃん? 僕はシンソニーだよ?」
「ちんとにー!」
「ちんとにーじゃなくて、シンソニーだよ……」
口を窄めるシンソニー。『ちんとにー』はちょっと嫌だろうけど、相手は四歳なので我慢して欲しい。
順番に挨拶をすませると、私たちは応接室にとおされた。




