160 遺跡探索4~地獄からの嘲笑~
[前回までのあらすじ]魔物使いの先輩ジャスティーネさんのテイムを手伝うため遺跡に入ったオルフェルたち。ジャスティーネさんの鞭術や『攻守モード』に驚きつつ、彼らはさらに遺跡の奥へ……。
場所:ラスダール樹氷郡遺跡
語り:オルフェル・セルティンガー
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ジャスティーネさんと協力しながら、俺たちはさらに遺跡のなかをゆっくりと進んだ。
通路の両側に部屋や階段があり、部屋の奥にはまた通路だ。呪いがなくても迷う作りになっている。
ミラナはもう、自分で道を確認するのは諦めた顔をしていた。
メージョーさんが進むたびに地図を書いて案内してくれている。
俺も四足歩行のため、道案内には向かないのだ。
「目玉はいっぱい出てくるけど、ジェイドアイはなかなか出てこないわね」
「この部屋はまだ見てないね」
次の部屋をそっと覗いてみると、そこにはたくさんの目玉の魔物が浮いていた。
思わず息を呑む俺たち。見た感じ三十体以上だろうか。
こっちに気付かない様子で、部屋のなかをゆっくり動いている。
雷属性のポランアイはもちろん、水属性のラピスアイや、炎属性のコーラルアイ、ジャスティーネさんが捕まえようとしている、風属性のジェイドアイもいる。
――多いな!
目玉の魔物は察知能力が非常に高い。俺たちは息を凝らして顔を引っ込めた。
目玉たちは強烈な放出系魔法攻撃だけでなく、装備の破壊や睡眠、毒攻撃のような特殊な攻撃を仕掛けてくる。
みんなで踏み込んで、混戦状態になるとなかなか厳しい。
しかもジャスティーネさんがいうには、ジェイドアイは周りの目玉を回復させてしまうらしい。
だから、通常なら最初に倒してしまいたい相手なんだけど、今回は目的がテイムのため、そういうわけにもいかなかった。
いったん手前の部屋に戻って、俺たちはこそこそと相談をはじめた。
ジェイドアイをおびき寄せられればいいけど、ほかの目玉たちに囲まれていて無理そうだ。
遠距離から奇襲で、というのも難しい。一度気付かれると、目玉たちの魔法攻撃のほうが射程が長いのだ。
「獣人化したシェインさんなら余裕に思えるけど……」
「電撃が効かない相手が多すぎますわ。おにぃさまは防御ができないんですのよ。囲まれると危険です」
「大切な槍を壊される可能性もありますよね」
いろいろ話しあった末、俺たちはひとつの作戦を決めた。
最初に俺がつっこんで、魔物たちの注意を引くのだ。防御モードならやられる気はしないし、俺なら壊される装備もない。
「魔物たちの注意を引いてから、部屋の奥に向かって走ってね」
「わかった。攻撃は全部俺が受ける! やばいときは頼んだぜ、シンソニー!」
シンソニーが真剣な顔で頷いている。ミラナが首に抱きついてきた。
――おぉ? どうした、ミラナ!?
ミラナに抱きつかれたのが久々すぎて焦る俺。全身の毛がザワザワしている。
「オルフェル、やられないでね?」
「わぉんっ。まかせとけ」
耳元に心配そうなミラナの声が響いた。尻尾が勝手にブンブン回る。
――やべー。尻尾止まんねー。俺が風属性だったら浮いてたな。
――でも! 自粛だ俺! 気を引き締めろ!
「いってくるぜ!」
ミラナに防御モードの支援をかけてもらい、俺はその部屋に飛び込んだ。
「わおぉぉぉーーーーん! 俺を見ろ目玉ども!」
遠吠えで目玉たちを挑発しながら四角い部屋を走り回る。目玉たちが俺に気付いて、すぐに魔法攻撃を撃ち込みはじめた。
――バチバチバチ!――
――ドゴーーン!――
――バリバリ!――
――バシャーン!――
右に電撃が落ちたと思えば、左に火炎球が飛んでくる。素早く身をかわすと、今度は水魔法だ。
次々と飛んでくる水の弾丸! 俺は素早く飛び退いてそれを避けた。
「はっはー! 調子乗ってきたぜーー! わおぉぉぉーーーーん!」
魔犬の身体能力と鋭い感覚を活かし、敵の動きを察知して先に動く。
調子に乗ってるはずなのに防御モードのせいか不思議なほど冷静だ。
だいたいの攻撃は反射でかわせるし、避けきれないときはヘキサシールドだ。
しばらく駆け回っていると、目玉たちの視線がすべて俺に集まった。
――ファイアーウォール!
俺は入り口に尻尾を向けて走りながら、後方に炎の壁を燃え上がらせた。
「ミラナ、いまだっ!」
俺が叫んで合図を送ると、ミラナが炎に向かって呪文を唱える。
「嘲笑の業火に怒り狂え! カースベルセルク!」
ミラナの放った闇が俺の出した炎の壁に吸い込まれていく。地獄の底から聞こえてくるような不気味な笑い声が部屋いっぱいに響き渡った。
俺の炎は黒く燃えあがり、まるで悪魔のツノのように渦巻き尖りながら、勢いよく目玉たちに襲いかかった。目玉たちが貫かれていく。
すると、色とりどりだった目玉たちの目の色が一様に赤黒く変わっていった。
俺とミラナの連携魔法、魔法を封じる狂戦士の呪いだ。
――ガツン!――
――ガン! ガツン!――
怒り狂った目玉たちが俺に体当たりをはじめた。俺はヘキサシールドでそれを防ぐ。こいつらはもう、俺しか見えていないようだ。
「やったぜー! こいつら怒りすぎて魔法の使い方忘れてんな!」
「やるじゃない、二人とも」
「あ、俺攻撃できねーから、みんなでサクッと倒してくれよな! 早めに頼みます!」
「了解っ」
ジェイドアイを一匹残して、俺にまとわりつく目玉たちを、シェインさんが槍で突いて落としていく。
バシリスクのネースさんも、ガン! っと二・三体叩き落してくれた。大きいだけあって結構な力だ。
「ダング! いまよ!」
――ピシピシ!――
「グォッ!」
ダングはジャスティーネさんに鞭で尻を叩かれると、ジェイドアイを両手で捕まえた。
拳で一発殴って大人しくさせてから、ジャスティーネさんの前に差し出している。
見た目よりずっと賢いようだ。
「調教魔法・テイム!」
ジャスティーネさんが調教魔法を唱えると、ジェイドアイは無事にビーストケージに納まった。
「やったわ! ありがとう、ダング! ありがとう、ミラナ、魔物さんたち! イェイイェイ! って感じ!」
「「おめでとうございます!」」
調教鞭を握りしめたまま、可愛いポーズで喜ぶジャスティーネさん。
結構美人だけど、なにかそういうのとは違う、妙な胸の高鳴りを感じる。
俺が少しドキドキしていると、後ろからパチパチと拍手の音が聞こえてきた。
△
「すごいじゃないの、あなたたち。いいもの見せてもらったわ」
振り返ると、そこには黒いローブ姿の女性がひとり立っていた。
大きな胸に引き締まったウエスト、すらりとした長い手足の恐ろしくスタイルのいいおばさんだ。
艶やかな赤い口紅が塗られた大きな口と、ウェーブした長い紫の髪で、少し目に痛いくらいの存在感を放っている。
彼女の肩には、あの黒猫のライルが乗っていた。
――ライル……ってことは、もしかしてこの人がベルさんか?
ライルはミラナを見つけると、すぐにおばさんの肩から飛び降りミラナに擦り寄った。
「ライル君、また会えたね! ベルさんもお久しぶりです!」
「ニャー!」
――おぉ、やっぱり! すっげー大物オーラ! 年齢不詳感半端ねー!
ミラナがライルを抱きあげて頬ずりしている。
いつもなら妬いてるところだけど、いまはベルさんのほうが気になる俺。
腕組みをして反り立つベルさんの姿を、俺はドキドキしながら眺めた。
「久しぶりね! 眠り姫ちゃん。ずいぶん大所帯になったじゃない」
「そうなんです! ベルさんのおかげです!」
「うふふ。騎士団長をテイムの手伝いに派遣できるのは私くらいよ」
「本当に助かりました!」
「いいのよ。あなた可愛いから、いつでも手伝ってあげちゃう」
ミラナが丁寧に頭を下げている。ベルさんはにっこり微笑むと、俺の前に立って俺を眺めた。話しかたも笑顔も優しいのに、なぜか俺の冷や汗が止まらない。
「赤い魔犬……。あなたがあのときの三頭犬なのね。ずいぶん大暴れで苦労させられたけど、すっかり落ち着いてるみたいでよかったわ」
「わふっ。その節は、たいへんご迷惑をおかけしました。心からすみません。宇宙一ごめんなさい」
「あら、思ったよりかしこいじゃないの。いいのよ。でも危なかったわ。ほんとに、もうちょっとで退治しちゃうところだったから」
「わぉん……」
――こえぇっ。このおばさん絶対つえーよ。逆らわないでおこう。
ドキドキが止まらない俺。この人と普通に話せるミラナまで大物に見える。
「ベルさんも遺跡探索ですか?」
「えぇ。いろいろと気になってることがあって……。調べごとよ」
ベルさんはそう言うと、手に持っていた不思議な魔道具を俺たちに見せた。
それはいくつかの魔石が埋め込まれ、装飾が施された小箱のようなものだった。
内側では金の歯車が回っているのが見える。これはきっと、ローズデメール製の魔道具だろう。
「それ、なにに使うものなんですか?」
「微精霊の濃度を調べる魔道具よ。その名もエレメンタル・スキャナー! こうやって空気にかざすだけで周囲の微精霊の濃度がわかるのよ」
「微精霊の濃度?」
「そうよ。空気中の微精霊たちは、あなたたちのいた時代に比べてもずいぶん減っているの。だから魔力があっても、魔法が使えない人が増えてるのよ。魔導師を育て管理している私には微精霊の減少は大問題ってわけ」
「なるほど。それでここの微精霊は減ってるんですか?」
「いえ。むしろ増えてるわね」
ベルさんはエレメンタル・スキャナーを頭上にかざし、首を傾げている。
――増えてるならいいんじゃねーの?
俺はそう思ったけど、ベルさんはなにか気にかかっている様子だ。ミラナもなんだか神妙な顔をしている。
「いろいろとあなたに聞きたいことがあるんだけど、こんな場所で長話するのもね。レーマで会いましょう、眠り姫ちゃん」
ベルさんはそう言うと、メージョーさんと少し立ち話をして、遺跡の奥へと消えていった。
△
そのあと俺たちは、無事に依頼のあった区画の魔物退治を終わらせ、最初の研究室に戻ってきた。
だけど遺跡の迷宮はまだまだ広がっていて、これでもほんの一部らしい。
「助かったよ。新しい書庫も見つかったし、はじめてみる魔道具もいくつかあったから。アジール博士の著書もあるかもしれないな。じっくり調べるのが楽しみだよ」
満足そうに笑っているメージョーさん。俺の頭に、あの恐ろしい研究室の光景が蘇る。
――息子のためか……。この遺跡、ますます謎だな。
俺たちは目玉たちから手に入れた金の腕輪をメージョーさんに換金してもらい、ラスダール樹氷郡の遺跡をあとにした。
それからギルドに立ち寄り、依頼達成の報酬を受け取る。俺たちはまた、驚くほどの金額を手に入れることができた。
そして俺たちは、闇魔法アカデミーのある、レーマ村を目指したのだった。
ジャスティーネさんにベルさんに……ちょっぴり怖い闇魔導師たちが現れ、ドキドキしっぱなしのオルフェル君でした笑
挿絵はAIさんに描いてもらったラスダール樹氷群の遺跡です。シンソニーに乗って空から見たらこんな感じかな。
長くなりましたがこれで『第十一章 寄り道と魔物使い』は終わりです。お楽しみいただけたでしょうか? お気軽に感想などいただけるとうれしいです!
次回からは『第十二章 願いと白い竜』に入ります。十二章は語りキャラがいろいろ。シンソニーにベランカさん、ネースさんの語りも入ってくるのでご期待ください。
お絵描きしなきゃなので更新スピードが落ちてますがよろしくお願いいたします。
第百六十一話 レーマに到着~これまた斬新だな~をお楽しみに!




