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三頭犬と魔物使い~幼なじみにテイムされてました~  作者: 花車
第11章 寄り道と魔物使い

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154 クラスタルへ2~女王様のこだわり~

[前回までのあらすじ]ミラナは魔物化した同郷の幼なじみたちを助けるため、魔物使いになった。彼らのエサの材料を調達するため、彼女は隣国クラスタルへ戻ることを決意する。

 場所:ディーファブール

 語り:ミラナ・レニーウェイン

 *************



 みなでオダンゴを食べた翌朝、キジーは早くから遺跡探索に出かけていった。


 私たちも旅の準備をして転送ゲートをくぐった。王都リヴィーバリーの中心にあるゲートだ。


 ベルガノンとクラスタルは友好国のため、比較的簡単な審査で入国することができる。


 旅の目的を申告し、所持している魔道具などのチェックを受けて、移動費用や税金を支払った。


 私はベルさんからベルガノンの身分証と一緒に、旅券も貰っていたから手続きも楽だ。


 だけど魔物たちは身分証や旅券を持っていない。そのため人間としての出入国は不可能だ。


 子犬と小鳥、子ライオンとペンギン、それから海蛇の入った水槽を荷車に乗せる。


 魔物はビーストケージに封印しても、しっかり人数分の費用がかかる。


 人間なら一人二十万ダール、魔物は一匹あたり五万ダールだから、魔物のほうが安あがりだ。


 ゲートをくぐると、そこはもう、隣国の王都ディーファブールだ。


 ここは亡イニシス王国や、いま私たちの住んでいるベルガノン王国より、ずっと昔からある国だった。


 だけど、この街の建物はどれも新しく、道もまっすぐでわかりやすい。


 五年ほど前に、大型の魔物の襲撃があり、多くの建物が倒壊してしまったらしい。


 その後女王の手で復興し、街はすっかり生まれ変わったのだという。


 クラスタルは一年の大半が冬であるため、急勾配のとんがり屋根の建物が多い。


 春が近づいているけれど、いまはどこもかしこも、雪化粧で白く彩られている。


 だけど決して殺風景ということはない。装飾豊かな街灯やカラフルな格子の窓が映えている。



――寒いけどステキ。あちこちにリースやランタンが飾られてるのは、女王様のこだわりかな?


――寒さや暗さに負けない明るい国にしたいって気持ちが、すごく感じられるよ。


――きっとステキな女王様なんだろうな。



 はじめて訪れたわけではないけれど、キョロキョロと周りを見回して歩く。それだけ見所の多い街だ。


 そして、この国で暮らす人々は、ベルガノンに比べると黒髪黒目の人が多かった。


 イニシス王国で迫害された闇属性魔導師たちが、『水の国』を経由しこの国に流れ込んだのだ。


 この場所で調教魔法が生まれたのは、必然なのかもしれない。


 そんなことを考えている間にも、指先が凍えてジンジンしてきた。肩にも雪が積もってくる。



――やっぱり寒いな、クラスタルは……。久しぶりだから堪えるわ。寒さの質が違うんだよね……。



 もちろん、この国に入るにあたり、防寒対策はしっかりしてきている。


 毛皮のコートを羽織り、モコモコの帽子をかぶって、分厚いブーツも履いてきた。


 と言っても寒がっているのは、私だけだ。


 氷属性のベランカさんと、ホカホカのオルフェルは寒さはあまり感じないらしい。


 シンソニーはいつもどおり、オルフェルの頭の上で暖かそうにしている。


 シェインさんは、いつも冷たいベランカさんとくっついているため、日頃からエサに体が温まる薬草を混ぜ込んでいる。


 かなり効果が出ているらしく、こんな寒い場所にいても平気そうだ。


 そして、ウミヘビのネースさんは、水温調整機能付きの水槽で、凍らないよう水温を一定に保っていた。彼は相変わらず声を発しない。


 私は荷車を引きながらディーファブールの街を歩き、とある場所で足をとめた。


 茶色い煉瓦造りの建物の前だ。出入り口には、剣や盾が複雑に彫刻された、見慣れたレリーフが飾られている。



「冒険者ギルドの支部はここだよ。なにか依頼受けてこようかな。レーマまで行くついでにできる依頼があるといいけど」


「きゃうん! ミラナ、俺も行くぜ!」



 荷車の上で、オルフェルがきゃんきゃん吠えている。



――可愛いっ。だけど、子犬のままじゃ、人ごみで蹴られたりしないか心配になるんだよね。



「じゃぁ、もう検問はすぎたし人間にしちゃおっか。オルフェル解放レ……」


「ミッ、ミラナ! 待ってくれ! 人間はだめだ。でかくするなら魔犬で!」


「え? どうして?」



 人間にしようとすると、なぜか慌てて止めるオルフェル。最近彼は、いつも人間になるのを嫌がっている。



「ほ、ほら。人間なっても、俺いまトリガーブレードないしさっ。今日は移動中にたぶん戦闘もあんだろ? ずっと犬にしといてくれよな」


「トリガーブレードがなくても、オルフェルにはファイアーボールがあるでしょ?」


「いや、犬でいい。ミラナの魔力の節約にもなるからなっ」


「うーん……」



 なにを言ってもいろいろと言い返してきて、なんだかすごく面倒臭い。隙を見て人間にすることもできるけど、無理にやったら嫌われてしまいそうだ。



――なんか意志がかたそうだなぁ。本当は、オルフェルは犬化するから、できるだけ人間にしときたいんだけど。


――昨日二人で出かけたときは楽しそうだったのに。ネースさんのこと以外にも、まだなにか引っかかってるみたいだね……。



 少し首を傾げながらも、私は魔笛をかまえた。



「わかったよ。オルフェル解放レベル2」

――ピーロリロン♪ ピーロリロン♪――



 諦めて成犬にすると、オルフェルは「ふぅ」と、安堵したような声を漏らす。


 人間にはできなかったけど、この姿も私はかなり好きだ。



――うーん、かっこいい! 人間のときよりちょっと鋭い目元とか、好きすぎるよね!? 耳のあたりのフサフサしてる白い毛とか、シュッとしてる腰のラインとか、綺麗な毛並みの赤い背中とか、フサフサの尻尾とか……。


――あぁ、もう、抱きつきたい! オルフェルすごいあったかいし。これはこれで誘惑がすごいよ。



 ぐっと我慢して耐えていると、後ろから知らない女の人に声をかけられた。



 ミラナたちはクラスタルへ!


 五年前のクラスタルでの魔物大発生につきましては、この物語では深く触れません。詳細は同じ世界を背景にした物語『ターク様』のほうで語られてます。こっちでは、そんなことがあったんだなぁ、くらいの認識で大丈夫です。


 次回はようやく、ミラナ以外の魔物使いが登場します!


 第百五十五話 ジャスティーネ1~発祥の地の魔物使い~をお楽しみに!


挿絵(By みてみん)

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― 新着の感想 ―
オルフェルを始め、魔物たちは寒さが平気なんですね。 ネースさんの水槽とシェインさんのエサに耐寒効果があるというのは面白かったです! 特にシェインさんに関しては、普段からベランカさんと一緒にいる以上、寒…
[良い点] 魔物も別料金で行けるんですね。 それほど魔物使いは、社会に浸透しているという事ですか。 ペット+護衛みたいな認識なのでしょうか。 ネースはこの環境辛そう…… 自力で活動できるようないい魔…
[良い点] ビーストケージに入れられても、お金を取られるんですね(´;ω;`)ウッ… 動物の姿に見えても魔物ですし、仕方がありません。 そして、私は寒いのが苦手なので、シンソニーが羨ましくてなりませ…
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