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三頭犬と魔物使い~幼なじみにテイムされてました~  作者: 花車
第11章 寄り道と魔物使い

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148 メージョーへの道1~忘れててごめん~

[前回までのあらすじ]三百年前の記憶を失くしているオルフェルに、『なんでも話す』と約束したミラナ。だけどなぜかオルフェルは、自分のことを避けている。そんな彼を買い物に連れ出したミラナは……。

 場所:リヴィーバリー

 語り:ミラナ・レニーウェイン

 *************



 なぜだか嫌がるオルフェルを人間に戻し、私は魔道具店メージョーを目指していた。


 目的はネースさんのテイムの道中や、遺跡で拾った魔石などの売却と、オルフェルのトリガーブレードを修理に出すことだ。


 今回は戦利品の量が多くて、シンソニーに頼むには少し重すぎる気がした。オルフェルのほうが力があって、軽々持ってくれるから気兼ねがない。


 本当ならトリガーブレードは、もっと早く修理に出したほうがよかっただろう。


 だけどオルフェルがなぜか人間になるのを嫌がっていたし、ネースさんがもし人間になれれば、修理を頼めるかもしれないと思っていたのだ。


 だけどネースさんはバシリスクになってしまったし、少しも言葉を発しない。たぶん魔物化の影響で、なにかが悪化したのだろう。


 よく考えたら、うちには修理のための道具もない。それなら早くメージョーさんに頼んで直してもらうのがいいだろう。



――それにしても、どうしてあんなに嫌がってたのかな。



 いまもオルフェルは、私から少し距離をとって、なんだか気まずそうに横を向いている。



――この間キスしてくれたときまでは、いつもどおりだったのに。どうしちゃったかな。


――キジーになにか言われて仕方なく出てきたみたいだけど、ずっと私と二人になるの避けてるよね。



 オルフェルたちはどうやら、思い出した記憶を共有している。


 しかもそれは、私が寝ているときや、お風呂に入っているときなんかに、こっそりと行われているようだ。


 なんだか私だけ蚊帳の外みたいで、ときどき悲しくなってしまう。


 だけどそれは、私がみんなに隠し事をしているせいだろう。


 せっかくみんなと一緒にいられるのに、これでは寂しさが募るばかりだ。


 そんなこともあって、私はオルフェルに『なんでも話す』と約束したのだった。


 なんでもと言っても、オルフェルが聞きたいことはわかっている。


 ひとつは私と別れた理由。もうひとつは人間に戻る方法だ。


 だけどよく考えたら、オルフェルが私を振った理由を、私はいまひとつ理解していない。


『あわないから』と言われたけど、いま思うと、オルフェルがそんなことを気にするだろうか。


 彼はどんなに()()()()人とでも、友達になってしまう異星人のはずだ。


 ()()()()とは言いがたい私のことも、そのまま受け入れて愛してくれていたように思う。


 だから正直、聞かれても『よくわからない』としか言えないけど、前後の記憶を一緒に辿ることで、思い出す手伝いならできるかもしれない。


 そして、人間に戻る方法。これは聞かれたら、『無理』と答えるしかないだろう。


 私にもわからないことだらけだけど、彼らが人間に戻るには、守護精霊たちを探す必要があると思う。


 だけどたぶん、守護精霊たちはオトラー帝国にいるはずだ。もしかすると封印されているかもしれない。


 そしてオトラー帝国は三十年以上前から、ベルガノンやクラスタルとの国交が断絶状態だ。入国するのは非常に難しい。


 そうでなくても、精霊たちに近づけば、オルフェルたちがどうなってしまうかわからない。オトラーへ行くのはかなり危険だと思う。


 そんな情報しか持ってないけど、私は知ってることを包み隠さず話すつもりだった。


 だけど、オルフェルは私と話すのを避けている。


 遺跡に入る前は「楽しみにしてるぜ!」と言っていたのに、いったいどうしてしまったのだろうか。



――もしかして、私と別れた理由、自分で思いだしたとか……?



 そんなことを考えながら、私はオルフェルに声をかけた。



「オルフェルと二人で歩くのって、久しぶりだね」



 とりあえず、当たり障りのなさそうなことを言ってみる私。オルフェルは私が話しかけても、明後日のほうを向いたままだ。



「そうだな……。でも俺、記憶が全部は戻ってねーから、いつが最後かよくわかんねー」


「そっか……」


「いろいろ忘れててほんとにごめん……」


「ううん……。大丈夫……」



――わー!? なんかますます気まずくなっちゃった。


――恋人のころは、よくスビレー湖の畔で、手をつないでデートしたんだけどな……。



 あのころのオルフェルは、一緒のときはだいたいずっと私の手を握っていた。なかなか放してくれなくて困ったくらいだ。


 私にとっては、すごく幸せな時間だったけど、オルフェルはほとんど覚えてないらしい。


 もっとも、都合の悪いことは忘れていて欲しいくせに、こういうことは覚えていて欲しいなんて、全部私のわがままだ。


 私たちは黙ったまま、メージョーへの道のりを半分ほど歩いた。だんだん人通りが増えてくる。



「約束したから、聞いてくれたら、なんでもちゃんと答えるよ?」



 沈黙に耐え兼ね、自分から切り出してみる。


 普段のオルフェルが元気すぎるだけに、静かだと落ち着かなかったのだ。


 私が振り返ると、オルフェルは少し口元を歪ませて、困ったように眉をひそめた。



「ごめん、いざ聞くとなるとちょっと怖くて……」



 それだけ言って口ごもってしまうオルフェル。やっぱりなにか、新しい記憶が戻ったのだろうか。



――もしかしてミシュリさんのこと思い出したのかな……。でも、この話、私からするのも違うような……。



 オルフェルの恋人だったミシュリさんは、すごく綺麗で明るくて、それに優しい人だった。


 そして彼女は、オルフェルがいちばんつらいときに、彼をそばで支えてくれた人だ。


 正直すごく嫉妬したけど、私が文句を言えることではない。私がいなくなったせいで、オルフェルはつらい思いをしていたのだから。


 それに、結局オルフェルは、私を助けにきてくれた。私はそれで十分だった。


 それを伝えたい気もするけど、オルフェルは自分で、気持ちを整理したいのかもしれない。



「話はいまでなくてもいいよ。急がないから、今度にする?」


「いや、二人になれることもあんまねーからな……。ひとつだけ聞いていい?」



 距離をとっていたオルフェルが、私の隣を歩きはじめた。その顔を見あげてみると、なんだか神妙な表情だ。



――人間に戻る方法を聞くつもりかな?



 そう思って、少し身構える私。だけどオルフェルは、まったく違う話題を口にした。



「イザゲルさんのことだけど……」


「え?」



 意外な名前が飛び出して、私は思わず、往来の真ん中で立ち止まった。



「こんな場所で止まるとあぶねーよ?」



 オルフェルが私を道のわきに寄せる。それから、私を人ごみから守るように私の前に立った。


 彼の顔が目の前に迫ってくる。少したれ気味の優しい目元。ルビーのように赤い瞳が、私をじっと見詰めている。



――ち、近い。



 私はドキドキしながらオルフェルを見あげた。薄手のメレッカのシャツ姿だ。いつものふさふさマントもなくて、彼の逞しさがよくわかった。


 程よく筋肉質な腕が、私の背後の壁に伸びていた。




 ミラナと距離を取っていたオルフェルが突然の壁ドン! 彼はなにを聞きたいのか。彼の自粛の行方は?


 そして、ミラナはどうなってしまうのか。次回をぜひご期待ください!


 第百四十九話 メージョーへの道2~そういうこと言いそうだけど~をお楽しみに!


挿絵(By みてみん)

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ターク様が心配です!~不死身の大剣士は寝不足でした~



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― 新着の感想 ―
いきなりの壁ドン! 恋人同士なら最高のシチュエーションですが、人混みの中ですもんね。 これはオルフェくんの自重が試されてる!? また読みに来ます!
語りがミラナということで早くもいろいろなことが分かりましたね。 特に気になったのは、ミラナと再会したときオルフェルとミシュリさんはまだ一緒にいたということ。 二人の関係はどうなっていたんでしょう? 気…
[良い点] ネースさんがそういえば今は使えないのでしたね。もともと御しがたい人ではありましたが。バジリスクではしようがないですよね。トカゲに修理は無理です。人間に戻れないのはそれはそれでこの物語の場合…
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