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三頭犬と魔物使い~幼なじみにテイムされてました~  作者: 花車
第11章 寄り道と魔物使い

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147 最低~これ以上は許さないよ~[設定・キャラ紹介]

[前回までのあらすじ]三百年前、ミシュリと恋人だったことを思い出したオルフェル。彼は彼女への追慕の念と、『ミシュリとミラナを二股してしまったかもしれない』という疑念に苦しんでいる。犬の姿で自粛することを決意している彼だったが……。


※後書きの最後に用語解説があります。

 場所:貸し部屋ラ・シアン

 語り:オルフェル・セルティンガー

 *************



「オルフェル、今日は買い物に付きあってくれる?」



 アーシラの森の湖に行った翌日、ミラナはまた俺を人間に戻そうとしていた。


 慌ててネースさんの水槽と壁の隙間に挟まる俺。俺はまだ、ミシュリとのその後を思い出せず、犬のまま自粛を続けていたのだった。



――無理だ。可愛すぎる。



 今日のミラナは、袖のないメレッカのシャツを着ている。


 シンプルなデザインの服だけど、綺麗な肩や腕が出ているせいで、俺はいつも以上に彼女を目で追ってしまうのだ。こんな状態で、人間になったら自粛不能だ。


 なんとか犬のまますごしたい俺。だけど最近のミラナは、隙あらば俺を人間に戻そうとするのだ。



「ちょっと! どうして逃げるの? そんな場所で大きくなったら水槽がひっくりかえるじゃない」


「だから、俺腹いてーんだって。人間になったら腹の面積が増えるだろ。悪化したらどうすんだ」


「嘘ばっかり! さっきまでシンソニーと楽しそうにしてたじゃない。意味わかんないよ」


「あっちがう、腹じゃなくて、腰っ、腰が、いや、目が痛い!」


「もうっ、なんなの?」



 ミラナが俺をひっぱり出そうと、隙間に腕を突っ込んで尻を触ってくる。指先でサワサワされると、全身にブルッと震えが走った。



「わ、やめろって。ミラナのエッチ! すけべ!」


「ちょっと、オルフェルッ!?」



 尻尾を掴まれそうになり反対側から飛び出すと、キジーがガシッと俺を捕まえた。


 キジーはミラナよりだいぶんすばやい。


 そのうえ、俺が手の届く距離に近づくまで、興味のないフリをしながらネースさんの水槽を眺めていたのだ。


 正攻法で捕まえようとするばかりのミラナとは違う。



「三頭犬、アンタいい加減にしなよ、その態度」



 彼女は俺の耳もとで、小声ながらもドスの効いた怒りの声を漏らした。



「アタシ、見てたんだからね? アンタがシールドのなかでミラナになにしたか」


「え? やだ、恥ずかしい。覗き、よくないっ」


「しょうがないだろ、見てなきゃ万一のとき、封印開けられないんだしさ。封印でも障壁でも、魔法は全部透けて見えるのがアタシなんだよ」


「くぅー。そうでしたか」



 ヒドラスのテイムのときに俺が出したヘキサゴンフォートレスは半透明だった。


 とはいえ細やかに描かれた魔法陣が眩しいほどに輝いていたのだ。近づいて目を凝らさない限り、なかでなにをしているかまではわからない。てっきりそう思っていた。


 いまも罪悪感とともに思い出すあの日のキス。まさかそれを、キジーに見られていたなんて……。



「ミラナにあんなことしといて、そのあと避けるとか、アンタ最低だからね? これ以上は許さないよ?」


「わ、わかってます……」


「ならさっさと行ってきな」


「はい……」



 しょぼんとなった俺をキジーがミラナに引き渡し、俺はあえなく人間に戻されてしまった。



      △



 ミラナがメレッカのシャツを用意してくれて、俺は洗面室で着替えをしていた。安全な王都内を少しうろつくだけだから、いつもの火に強い装備は必要ないだろうという判断だ。


 メレッカは着心地がいいけれど、普通に燃えやすい素材だ。うっかり燃やしてしまわないよう気をつける必要はある。


 街なかで燃えあがって素っ裸になっては一大事だろう。



――あぁー。久しぶりの人間だ。やっぱり犬のときより目がよく見えるし、手足が長いから動きやすいぜ!


――だけどなんで、ミラナは俺を連れて出かけたがるかな?


――俺が自粛してたほうが助かるんじゃねーの。



 俺は首を傾げながらも、久々に人間になった自分の姿を鏡で確認した。


 火傷跡も胸の穴も額の傷跡も、もう痛みはないけれど、傷の原因を思い起こすと、俺の心を抉るようだ。


 俺たちはあの戦いに、決着をつけることができたのだろうか。


 ヒドラスと戦ったとき、欠けてしまったトリガーブレードが腰に装備されている。


 いつも俺に力をくれた、愛用の剣。ネースさんはどんな気持ちで、俺にこの剣をくれたのだろう。


 洗面室を出るとミラナの姿が目に入った。鏡の前で髪を束ね、透明な石のついた髪飾りをつけようとしている。


 華奢な指先に弄ばれ、艶めきながら動く細い髪。普段は隠れている首筋の曲線。俯くことでさらに強調される女性らしいその魅力。


 俺が近づいたことに気付くと、伏し目がちに俺に視線を送って、口元に微笑みを浮かべた。



――ちょっとまって? ドキドキが止まらねーんですけど!?



 俺はピシッとかたまってしまった。


 ミラナはいつも、洗面室で出かける準備を終わらせているのだ。髪を整えるミラナを見たのははじめてだった。


 俺が洗面室でのんびりしていたせいかもしれない。



――こっ、こんなみんなのいる場所で、なんてハレンチなことを……!


――その姿を見られるのは、未来の夫だけの特権のはずだぜ!


――だけどもしかして、ミラナ、俺と出かけるためにオシャレを……!?



 俺が髪飾りを見ていると思ったのか、ミラナがほほ笑んで言う。



「うふふ。クラスタルの特産品の水晶なの。レーマ村を出るとき、ナダン先生の奥さんにいただいたんだよ。しばらく会ってないから懐かしくて」


「なるほど……。すげー似合ってるぜ!」


「ありがとう!」



「ふふっ」と、嬉しそうに立ちあがるミラナ。


 俺のためかと思ったら、調教魔法を習ったというレーマ村を懐かしんでいただけだったようだ。


 だけど犬のときより目がよく見えるせいか、ものすごくミラナが眩しく見える。



――もしかして、いま俺たちが着てるこのメレッカのシャツ……。ペアルックってやつじゃねーか?


――デートか? これって、デートなのか!?



 またそんなことを考えてドキドキする。ミラナが俺と出かけたい理由がわからないから、いろいろと考えてしまうのだ。


 そんな俺をミラナが玄関に立って呼ぶ。



「さぁ! オルフェル、トリガーブレード、メージョーさんに修理に出しに行くよ!」



――あ。なるほど、剣を修理に出したかったのか。


――ネースさんも蛇やバシリスクじゃ修理は無理だろうし、そのほうが早そうだな!



 トリガーブレードは、俺と一緒にビーストケージに封印されていたのだ。そしてそれは、俺が人間の姿にならないと、取り出すことができなかった。


 ミラナが俺を人間に戻したがっていた謎がようやく解けた。



「お、おう。そうだな! いこうぜ!」



 よく考えたら、ミラナはシンソニーともペアルックで出かけていたのだ。


 彼女は堅実だ。同じシャツをサイズ違いでまとめ買いし、うまく費用を抑えたのだろう。



――いや、俺にもそれくらいはわかるぜ!



 ミラナがなにかするたび、いちいち浮かれていたのではいつもどおりだ。


 無駄にあがるテンションを下げる俺。



――よし、人間でも自粛頑張るぜ!


――記憶が戻るまでミラナに手は出さねー!



 さすがに自分のものを修理に出しに行くのに、シンソニーに代わりに行って欲しいとも言えない。


 しっかりと自粛の決意をかため、俺はミラナと部屋をあとにした。



 いつもお読みいただき、ありがとうございます!


 自粛の決意を試されるオルフェル君。ここから五話くらい、ひたすら二人のデートの様子をお届けします!


 二人はどうなるのか。語りはミラナです。


 次回、第百四十八話 メージョーへの道1~忘れててごめん~をお楽しみに!


挿絵(By みてみん)


<設定紹介>

貸し部屋ラ・シアン:ベルガノン王国の王都リヴィーバリーにある賃貸アパート。借りているのはキジーでなんと魔獣可。部屋は広いけどひとつだけ。洗面室は大渋滞です。


クラスタル:ミラナたちがいるベルガノン王国の北西にある隣国です。そこにあるレーマ村でミラナはナダンという先生から調教魔法を習ったらしい。


メージョーさん:ベルガノン王国の王都リヴィーバリーにあるメージョー魔道具店の店主。


トリガーブレード:入学祝にとネースさんにもらったオルフェルの愛用の魔導剣。炎にも強く丈夫ですがヒドラスとの戦闘で欠けてしまった。トリガーを引くと音がなって光る。


ヒドラス:魔物化したネースさんの発見時の姿。頭が六つある巨大なウミヘビの魔物です。

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― 新着の感想 ―
さすがにミラナ可哀想だな…と思ったらキジーのナイスアシスト! これはミラナ側の視点が気になるところですね。 オルフェルの一人称に引き込まれすぎて、ちゃんと冷静なキャラクターからツッコミが入ると、ハッ…
キジーに捕まってしまいましたか。 しかもあのフォートレスの中でのことを覗かれていたのではヘタな言い訳はできませんね。 でも記憶を取り戻すまでの自粛モードに入ってしまったのは残念。 今回は清く健全なデ…
[良い点] 自粛していてちょうど良いですね。自粛の動機も正当性あるので、好印象です。そこのけじめがつかないうちに、以前どおり突っ走るのはもはやにんげんではないですから。読んでいてたしかにね、って思いま…
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