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三頭犬と魔物使い~幼なじみにテイムされてました~  作者: 花車
第11章 寄り道と魔物使い

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145 自粛~どうして隠れるの?~

[前回までのあらすじ]ミラナは三百年前に魔物化し封印された仲間たちを助けるため、魔物使いになった。魔物たちは記憶を失っており、最近捕獲したネースもまだ言葉を発しない。主人公のオルフェルは一途にミラナを想っていたが、三百年前自分に恋人がいたことを思い出した。ミラナは彼を買い出しに付きあわせるため、人間に戻そうとしたが……。

 場所:貸し部屋ラ・シアン

 語り:オルフェル・セルティンガー

 *************



 ミラナに人間に戻されそうになり、子犬姿の俺は大慌てで水槽の裏に逃げ込んだ。



「ちょっと、どうしてそんなとこに隠れるの?」



 呆れ顔で首を傾げるミラナ。隙間に挟まって動けなくなった俺は、変なポーズでかたまっている。恥ずかしいけどそれ以上にいまは必死だ。



「今日は俺、腹がいてーからっ。荷物持ちはできねーかなっ」


「え? そう?」


「それに荷物持ちなら俺よりシンソニーのほうが、ミラナの負担も少ねーだろ!」


「まぁ、それはそうなんだけど……」



 解放レベル3で人間になる俺は、解放レベル2で人間になるシンソニーより、人間にするのに必要な魔力が多い。それに人間の状態を維持している間も、ミラナに負担がかかっているのだ。



――どうだっ。もっともらしい理由だろ!



 俺はミラナを納得させようと、真剣な目で彼女を見あげた。水槽越しだし子犬だしでまったく格好はつかないんだけど。


 ミラナは(いぶか)しげに顔をしかめながらも、諦めたように小さくため息をついた。それからくるっと後ろを向いて、止まり木に止まっていたシンソニーに声をかける。



「うーん。……じゃぁ、シンソニー、来てくれる?」


「ピピ! もちろん!」


「じゃぁ、いくよ。シンソニー解放レベル2」

――ピーロリロン♪ ピーロリロン♪――



 ミラナが呪文を唱え魔笛を奏でると、小鳥の姿だったシンソニーが人間の姿に変わる。


 三日ぶりに人間に戻れて、シンソニーは嬉しそうだ。


 ミラナがシンソニーと部屋を出ていき、俺はホッとひとつ息を吐いた。



――げげ。出られねー。



 必死になって隙間からでようとしている俺を、キジーがじっとりとした目で見ている。



「な、なんだよ……」


「いいや? 腹が痛そうには見えなかったなーと思って」


「今痛くなったんだよ。あっ、いてて」



 キジーは疑わしいという顔をしながらも、水槽を少し動かして、俺が出られるようにしてくれた。



「ありがとう、キジー」


「いや、邪魔だからだよ」



 すぐにネースさんに視線を戻すキジー。助けてくれたのかと思ったけど、どうやら水槽の奥にいる俺が目障りだったようだ。


 とりあえず助かったことに「ふぅ」と安堵の息が漏れる。



――ミラナとデートしたかったけど、いまはダメだ。二人きりにはなれねーよ。



『ネースさんのテイムが終わったら、なんでも話す』と言ってくれたミラナ。


 だけど俺は、あのテイムの前後で、あまりに多くのことを思い出してしまった。


 三百年前、ミシュリと恋人になった俺は、そのあとミラナとも恋人になったはずだ。


 本気で愛そうと決めたはずのミシュリと、俺は別れてしまったのだろうか。


 彼女とあのあとどうなったのか、どうしてもそこが思い出せない。



――まさか俺、ミラナとミシュリを二股したとか……?


――えー? まさか、そんなはずねーよな?



 ミシュリとのその後を思い出そうとするたび、俺はひどい罪悪感に苛まれた。


 あのツヅミナの舞う夜に湖の畔で、ミラナに言われた言葉を思い出す。



『オルフェルは、ほかにも好きな人いたじゃない』



 ミラナは俺に、恋人がいたことを知っていた。あのときは、『そんなはずはない』と思ったけど、ミラナが言ったことは本当だった。


 それなのに俺は、ミラナを嘘つき呼ばわりして責め立てたのだ。


 もし俺が、ミラナを理由にミシュリと別れたのだとしたら。ミシュリを理由にミラナを振ったのだとしたら。


 いったい俺は、どれほど二人を傷つけてしまったのだろう。


 自分の判断、自分の記憶、自分の行動、その全てが疑わしい。


 こんな状態でミラナの話を聞いて、俺は正しく理解し、判断することができるだろうか。


 またミラナを傷つける結果になるのではないか。そう思うと、俺は不安になるのだった。



――もうちょっとしっかり思い出すまで、犬のまま自粛しよう。



      △



 ネースさんをテイムしてから、五日が経った。


 俺たちは朝から準備をして、みんなでとある湖畔にやってきた。王都の西に広がるアーシラの森だ。


 ミラナは今日、ここでネースさんの解放レベルをあげるつもりのようだ。


 この森は防衛隊が管理に力を入れているらしく、ほかの場所に比べるとだいぶん安全なのだった。



「なにになるかわかんないけど、大きくなってお部屋が水浸しになったりすると困るからね……」


「ついに人間になるのかな? ワクワクするよ!」



 そんなことを言いながら、ネースさんの入った水槽を抱えているのはキジーだ。


 結構重いんだけど、本当に気に入っているようで「アタシが運ぶよ」と率先して持ってくれていた。


 俺はいま成犬の姿だから、持ってくれて正直助かる。


 キジーが期待を込めた瞳で見詰めるなか、ミラナは魔物使いのための魔導書を開き、真剣になにか確認している。


 魔導書は書き込みがびっしりで、しおりやメモも挟まれて膨れあがっていた。


 この数日彼女はネースさんの解放に備えて、一生懸命勉強していた。ネースさんがなにに変身しても対応できるようにと、知識を深めていたようだ。


 ミラナは慎重にウミヘビのネースさんを水槽から出そうとしている。その表情は真剣そのものだ。


 ネースさんは毒もあるから、噛まれるとたいへんだ。シンソニーが人間の姿になって、なにかあったときに備えている。


 解毒薬も準備しているし、シンソニーのヒールや、麻痺を消す魔法『キュアパラリシス』もあるから万全だ。



「水槽から出して、一緒に出かけられる姿になるといいけど」



 少し不安げな顔のミラナ。ウミヘビとはいえ、ネースさんは水槽から出していても、多分死んだりはしないと思う。彼には水の魔力があるからだ。


 だけど、ネースさんは捕獲されてからまだ一言も声を発していない。意思疎通ができないと、彼が困っていても気付けない可能性があるのだ。


 だからミラナは、念のためしっかり環境を整えて、彼が快適にすごせるようにしてあげたいようだ。


 水から引きあげられたネースさんは、俺たちに攻撃するような様子はなく、触られても非常に大人しかった。


 毎日与えているミラナ特製のエサの効果も出ているのだろう。


 ミラナがネースさんを水辺に置いて魔笛を吹いた。



「ネース解放レベル2」

――ピーロリロン♪ ピーロリロン♪――



 青い海蛇だったネースさんの体が、みるみる大きくなっていく。にょきにょきと手足が生え、胴体部分が膨らんで……。これは……!?



 自分の記憶や行動に不安を感じ自粛を決意するオルフェル。彼はしばらく犬のまますごしたいようです。


 そしてミラナたちはネースさんの解放レベルをあげるためアーシラの森の湖へ!


 はたしてネースさんはどんな姿になるのか! 次回をご期待ください。


 第百四十六話 両想い~触ってみていいかい?~をお楽しみに!


挿絵(By みてみん)

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― 新着の感想 ―
ネースさん、ひとまず手足はあるようなので水槽からは出られそうですね。 でも、まだ素直に人間というわけにはいかないような気がします。 それに、まだ一言も喋っていないということも気にかかります。 どうなる…
[一言] 花車様おはようございます! 昔を思い出したオルフェルはミラナとミシュリを二股にはかけないだろうなとでも色々考えてしまう。 たしかに300年の記憶を持つミラナからしたらこれは簡単に結末を伝えづ…
[良い点] きっとトカゲ人間、或いは竜人的なやつを期待していますっ!鱗がジャラジャラ鳴りつつも綺麗なやつです。 期待はしていますが、別に違うのでも大丈夫です。キジーのリアクションもとても楽しいです。 …
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