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三頭犬と魔物使い~幼なじみにテイムされてました~  作者: 花車
第10章 海蛇と魔法魚

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132 アッシャーの黒猫2~導かれた先に~[設定・キャラ紹介]

[前回までのあらすじ]

オルフェルは三百年前の記憶を思い出した。彼は仲間とともに闇のモヤの発生源を確認するためモヤの中に突入した。闇のモヤを発生させているのはイザゲルなのか、アジール博士なのか、それとも闇の大精霊マレスなのか。彼らは迷宮で迷っていたが、子猫に案内され気が付くと怪しい扉の前に立っていた。扉を開けてみると……。

 場所:怪しい屋敷

 語り:オルフェル・セルティンガー

 *************



 俺たちは黒い子猫に誘われて怪しい魔法迷宮を進み、鉄の扉の前にたどり着いた。


 黒猫の姿が見えなくなり、俺たちは正気を取りもどした。


 自分たちの置かれている状況を思い出し、またゲンナリと気分が落ちる。


 目の前の扉は一目見て怪しいと感じるほどに異様な雰囲気が漂っていた。この迷宮で見たほかの扉よりずっと頑丈そうだし、なかからは断続的にだれかの呻き声が聞こえてくる。


 だけど俺たちには、この扉を無視して、迷宮に戻ろうという選択肢はなかった。


 この場所はさっきより闇のモヤが薄く、モヤの発生源ではなさそうだ。だけどここにはきっと地下牢にいた魔物たちの飼い主がいるのだろう。


 そいつは俺たちが探していた闇のモヤの発生源と関係があるに違いない。ここまできて、確認せずに帰ることはできない。みんなの顔にも覚悟の色が浮かんでいる。


 頷きあって扉を開けると、そこには目を覆いたくなる光景が広がっていた。



「なんだここ……」



 俺は目を細めた。非常に明るい研究室だ。闇のモヤのなかにあるとは思えないほど眩しい。


 無数の配線や配管が目を刺すように見えた。それはたくさんの無骨な魔道具から、中央のカプセル状の魔導装置につながれている。埋め込まれた魔石が不気味に輝き、ブザーがピコピコと鳴り響いた。


 開かれたカプセルには椅子があり、一人の男が手足を拘束され、だらんと首を垂れていた。たくさんのチューブがつながれた腕は痩せ細り、苦しそうに呻き声をあげている。意識があるのかどうかもわからない。


 その姿は人間としての尊厳を失っているように見えた。どうして彼は、こんな目に遭っているのだろう。自分のことのように胸が痛む。シンソニーもエニーも戸惑った表情を浮かべている。


 そのカプセルの前では白衣を着た白髪の研究者が、せっせとなにかの魔道具を操作していた。


 俺の脳裏に、あのミシュリ大尉たちが話していた恐ろしい噂話が蘇る。アジール博士が息子を切り刻んで、なにかの研究のモルモットにしているという噂話だ。


 もし、それが本当なら、あの傷だらけの男はアジール博士の息子、ジオク・レークトンなのだろうか。噂話を聞いて想像していた以上に、それは恐ろしい光景だった。


 だけど俺たちが入ってきたのを見ても、研究者は顔色ひとつ変えないまま、作業の手を止めなかった。



「アジール博士……?」



 ネースさんが呟いた。彼はずっと博士の作るおもちゃを愛し、尊敬してきた。この光景はあまりにショックだろう。彼の声が震えている。


 博士は名前を呼ばれると、冷たくギロリとこちらを睨んだ。



「なんだ。研究の邪魔をするな。私は忙しい」



 俺たちはその迫力に息を呑んだ。こんな迷宮を彷徨って、ようやくここに辿りついたというのに、ひどく高圧的で冷たい態度だ。この人が本当に、あの有名なアジール博士なのだろうか。


 信じられない気持ちでいると、ハーゼン大佐が思い詰めた顔でカプセルへと駆け寄り、拘束された男の顔を持ちあげた。


 その肌は蒼白く傷だらけだ。金色の髪は細くなってツヤもなく、ペタンと頭に張り付いている。細く開かれた瞳にもまったく生気が感じられない。



「ジオク! なんでおまえ、こんなことに!」



 ハーゼン大佐の絶望に似た声が響く。俺はこの人と面識はないけど、ハーゼン大佐はジオクと同級生だ。彼はジオクで間違いないのだろう。ジオクは項垂れたまま反応がない。



「これは、いったい……。あなたは息子になにをしておられるのですか! アジール博士!」


「変な勘違いをするな。私は最愛の息子を傷つけたりはしない。これは全て、ジオクのためにしていることだ。息子に触るな」



 アジール博士は冷たい声でそう言うと、ハーゼン大佐に向けて手を広げた。



――あぶない!



 彼の手のひらから黒い球状の魔力の塊が現れ、ハーゼン大佐を弾き飛ばす。



「ぐあぁっ!」



 ガッチリした巨体のハーゼン大佐が、痩せた老人のような体のアジール博士に吹き飛ばされた。



――ガシャン!――



 壁に背中を打ちつけたハーゼン大佐は、呆然と口を開けて博士を見詰めた。その表情に失望が浮かぶ。



「ハーゼン大佐!」



 俺は咄嗟にハーゼン大佐に駆け寄って、彼の肩に手をかけた。


「大丈夫だ」と頷くハーゼン大佐。彼はさすがに頑丈だ。ケガはなさそうで安心した。


 いまのは闇属性の重力魔法だろうか? ここまで強力なのははじめてみた。


 恐ろしいほどの闇の魔力が、その痩せた体に宿っているのを感じる。



――これは、戦っていい相手じゃねーかも。



 俺たちが呆然とするなか、アジール博士は、平然と研究を続けた。



「あぁ、ジオク……。私のジオク。待っていろ、もう少しだよ……もう少しで元に戻れるからな……」



 ときどきそんなことを言いながら、愛しそうにジオクを撫でるアジール博士。その眼差しは、愛に満ちている。


 ジオクは虚ろな顔で、ときどき苦しそうな声を漏らした。



――アジール博士は、ジオクを治そうとしてるだけか……?



 そのとき、研究室の端に置かれていた魔道具が紫黒色の光を放ちはじめた。円盤状の台に黒い魔石が埋め込まれている。その光のなかからひとりの女が姿を見せた。



「おまえはっ!」




 扉の奥には噂通りの光景が広がっていましたが、アジール博士はいったいなにをしているのでしょうか。戸惑うオルフェルたちの前に見覚えのある人物が現れて……。


 次回、第百三十三話 アッシャーの黒猫3~失われた希望~をお楽しみに!


挿絵(By みてみん)


 長くなってきたので設定を書いておきます。


[設定・キャラクター]


【オルフェル】主人公。オトラー義勇軍の軍曹。オトラー義勇軍の崩壊を防ぐため、また仲間を守るため作戦に参加。


【ネース】オトラー義勇軍武器開発責任者でイザゲルの弟。アジール博士のおもちゃが好きでファンだった。


【ハーゼン】オトラー義勇軍の大佐でイザゲルの元恋人。アジール博士とは学校で会ったことがある。


【シンソニー】オルフェルの親友。オトラー義勇軍の崩壊を防ぐために参加。


【エニー】シンソニーの恋人。オトラー義勇軍の崩壊を防ぐため参加。


【イザゲル】闇属性魔導師。王妃の治療に失敗したあと、王妃を魔物化する魔法を発動し逃亡した。


【アジール博士】おもちゃ職人から武器開発第一人者になった魔導研究家。怪しいうわさが飛び交っている。


【ジオク】アジール博士の息子でハーゼンとは同級生。


【闇の大精霊マレス】オルフェルたちの同級生の弟ライルの守護精霊。強い力を持っているらしい。


【オトラー義勇軍】王都が消失したあと、独立を目指して活動。迫害される闇魔導師を守っている。


【王都消失事件】王都は突然近づくことができない平地になった。原因は不明だが、闇の大精霊マレスが封印したと言われている。

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― 新着の感想 ―
アジール博士の館ですから本人がいてもおかしくありません。 ですが、こんなモヤの中で息子に何をしているんでしょう。 元に戻すという言葉がキーになりそうです。 現れた女性、オルフェルが見覚えあるというの…
[一言] 花車様おはようございます! 怪しい建物内。 そしてアジール博士。。 力も何かもっているようで。 そして現れた人物とは!? いつもドキドキをありがとうございます(៸៸᳐>⩊<៸៸᳐)♪ 花車様…
[良い点] 非常に不気味な展開でしたが、アジール博士にも事情があり、ここでこんなことをしていたという事でしょうか。 しかしジオクを治すためといっても、なぜこんなことをやっているのか? 非常に強力な魔法…
感想一覧
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