126 ヒドラス2~トランスポーター~
[前回までのあらすじ]
三百年前に魔物化し海蛇の魔物『ヒドラス』となってしまった同郷の先輩ネースさん。俺たちは彼を救うため、ローグ山の遺跡に踏み込んだ。なぜ魔物化したり、封印されたりしたのかはまだ謎だ。
探知と魔法解除が得意なキジーに案内してもらい、ミラナに支援魔法をかけてもらって、俺たちはヒドラスのいる部屋に入った。ミラナの調教魔法でネースさんを仲間に取り戻すぜ!
場所:ローグ山遺跡
語り:オルフェル・セルティンガー
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「うぇぇ!? なんだここ! ほとんど足の踏み場がねーじゃねーか!」
扉の奥には、狭い足場がいくつか浮かぶだけの、はてしない海がひろがっていた。
――信じらんねー。
――こんなとこでテイムするなんて、むちゃくちゃじゃねーか?
俺は呆然として立ち尽くした。海だとは聞かされていたけど、水平線しか見えないこの景色は、想像を遥かに超えている。
方向感覚が消え去っていく。泡になって消えそうなほど心細い。
俺は自分自身の存在を確かめるように、自分の体を見下ろした。
ネースさんの作ってくれた魔導装備が目に入る。彼の遊び心で、この装備は炎への耐性が最強になった。
これまでの戦闘でも役立ってきた愛着のある装備だけど、この場所では少し心もとない。
足元にあるのは白い石でできた円形のステージだった。
大理石のように美しいけど、波に揺れ動く不安定なものだ。足元に注意していなければ、海に落ちてしまうだろう。
「てか、ネースさんいねーんだけど」
「いまは水のなかにいるよ。あっちのほうさね」
俺が周辺を見回していると、頭上に走る封印の裂け目から、キジーが顔を覗かせた。
彼女は封印の中が透けて見えるだけでなく、水中にいるヒドラスまで見えているようだ。なにもない方向を指差している。
「頑張って! 外で待機してるから、無理ならこっち向いて合図してよ」
「ありがとう! キジーも気をつけて待っててね!」
ミラナがそう言って手を振ると、キジーは笑顔で応えた。キジーが首をひっこめて、封印の亀裂が静かに閉じる。
「ネースさーん! みんな来ましたよー!」
「また私たちと一緒に暮らそう、ネース!」
俺たちはキジーが指差した方向に声をかけた。だけど返事は一向にない。
波に溶け入るかのように消えていく声。音の響かない孤独な空間。
こんな場所で三百年……。涙がこみあげてきそうだ。
だけどいまは、感情的になっていても仕方がない。俺は気持ちを引き締めようと口を結び、肩を回した。防御モードのおかげで落ち着くのは早い。
「魔物になっても、ネースは引きこもりなんですのね」
ベランカさんがため息をついている。そんな彼女は、いまは可愛いペンギンの姿になっていた。人間より泳ぎが得意なため、今日はこの姿で頑張るらしい。
ベランカさんとネースさんは同級生だ。冷たく見える彼女だけど、きっと心配しているのだろう。
素直になれないベランカさんの気持ちを察して、俺は彼女に声をかけた。
「魔物化すると、人間だったときの特徴が強く出るみたいですよ」
「もともとややこしいのに、やめてほしいですわ! クァッ!」
これはマリルさんから聞いた話だった。気持ちが楽になるかと思ったけど、ベランカさんは空を仰いでラッパのように鳴き声をあげた。シェインさんが苦笑いしている。
あんまり顔に出さないけど、ベランカさんが冷気を放つようになって、彼も本当は寒いのかもしれない。もしくは彼女の毒舌が悪化して困っているのだろうか。
それでも幸せそうに寄り添っていられる二人は、理想の関係と言えるだろう。
「クケッ! 僕が探してきます」
シンソニーが勇ましく空へと飛び立った。彼はいまワシの姿だ。
親友が空高く飛んで行く姿を目で追っていると、彼は俺に手を振るように、バサバサと翼を動かした。それから美しい弧を描いて風に乗って離れていく。俺はその雄々しい姿に勇気をもらった。
「仕方ないですわね。私も探してまいりますわ。クァーーー!」
ベランカさんも高く鳴き声をあげてから、勢いよく水のなかへ飛び込んでいく。
「大丈夫かしら」と、ミラナは水面に不安げな眼差しを向けた。彼女の横顔は、不安を忘れるほどに綺麗だ。
そのとき、水中から氷塊が浮かびあがり、ベランカさんが勢いよく飛び出してきた。
「いましたわ! だけど、全然動く気がなさそうなんですのよ」
「ほんとだ。僕たちに気付いてるみたいだけど動かないね。こっちから仕掛けるしかないかな? ミラナ! 僕の解放レベルをあげて」
シンソニーはベランカさんの上空に飛んでいって、海面を見下ろしながら叫んでいる。ミラナがひとつ頷いてから俺のほうを見あげた。
「オルフェルお願い。私をシンソニーのところへ」
「あぁ、まかせとけっ」
ミラナは仲間の魔物たちに、調教魔法が届く距離にいる必要があるのだ。
ミラナの上目遣いにドキッとしながら、俺はミラナを抱きかかえた。ミラナが「きゃっ」と、悲鳴を上げる。自分から頼んできたくせに、不満そうに口をすぼめる彼女が可愛い。
――今日の俺は、役得だな!
俺はミラナを抱えて空中に足場を作った。六角形の魔法陣が次々と浮かびあがる。これが俺の得意技、ヘキサシールドだ。一瞬で消えるけど、強固な防御障壁だ。
そして俺は、ベランカさんが作った氷塊の上に降り立った。ペンギンが作ったとは思えないほど巨大な氷塊だ。それはキラキラと白く輝いて氷晶のように見えた。
だけどこの氷は揺れる! そして滑る!
ミラナを立たせようとしたけど、足場は波に揺られ、かなり不安定だった。
「おぉっと!」
「ひゃぁっ! もう!」
俺はふらついたミラナを支え、彼女の腰に手を回した。ミラナも慌てて俺にしがみつく。俺の胸に顔を埋めるミラナ。そしてまた不満げに俺を見あげる。
――可愛い♡ 俺頑張る♪
「シンソニー解放レベル4!」
――ピーロリロン♪ ピーロリロン♪――
ミラナの調教魔法が飛行中のシンソニーを捕らえた! キラキラと光る緑の風が吹きあがり、シンソニーが双頭鳥に姿を変える!
――きたーーーー!
空を覆うほどの巨大な翼、恐れるものなき二つの頭、鋭く輝く黄金のクチバシ……! 何度見てもすごい迫力だ。思わずテンションがあがって、ミラナをギュッとしてしまった♡
「クケーーーーーーーーッッ!」
水面を揺るがす咆哮をあげるシンソニー!
水中に潜むヒドラスを捕らえようと、鋭い鉤爪を備えた脚をサブンとそこに突っ込んだ!
水面は激しく波立ち、水しぶきが高く舞いあがった。
ネースさんのいる場所はとっても寂しい水だけの世界でした。
ひきこもって出てこないネースさんを発見したベランカ。シンソニーは彼を引っ張り出そうとします。そしてミラナを運ぶ役目を得たオルフェルはウキウキなのでした笑
次回からはミラナの語りになります。はじめての魔物使い目線の戦闘シーンです。お楽しみに!
第百二十七話 ヒドラス3~落ち着いてください~をお楽しみに!
「この小説を読んでくれてありがとう! 宇宙一優しい読者様のおかげで俺の調子があがってきたぜ! あ、そうだ。せっかく来たんだし『ブックマークに追加を』ポチっとしといてくんねー? 作者が喜ぶし次の話も見逃さずに読めるぜ! すっげーいい感じじゃねー? 『いいね』とか『評価』も待ってるぜ! ガンガン応援して俺の調子をもっとあげてくれよな!」
と、オルフェル君が言ってます(*'▽')よろしくお願いします~♪




