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三頭犬と魔物使い~幼なじみにテイムされてました~  作者: 花車
第10章 海蛇と魔法魚

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125 ヒドラス1~解除魔法と調教魔法~

[前回までのあらすじ]

 俺たちは3百年前に魔物化し、遺跡に封印されたネースさんを救うため、ローグ山の遺跡に踏み込んだ。なぜ魔物化したり、封印されたりしたのかはまだ謎だ。


 遺跡内は探知と魔法解除が得意なキジーが先導してくれる。キジーに封印を解いてもらい、ミラナの調教魔法でネースさんを仲間に戻すぜ!

 場所:ローグ山遺跡

 語り:オルフェル・セルティンガー

 *************



 遺跡のある高原で一晩野営をした俺たちは、翌朝ネースさんをテイムするため、ローグ山の遺跡に踏み込んだ。



「上級解除魔法・クラックシール!」



 キジーが封印に亀裂を入れると、グレーの石壁の廊下が目に入る。



「同じだよな……」



 複雑に分岐した廊下。地下で遭遇した因縁の魔物。嫌な記憶に足がすくんだ。


 この遺跡はやはり、三百年前に俺たちがレーギアナの森で遭遇した怪しい屋敷と同じ構造だ。石レンガに刻まれた模様などが共通している。


 あのころと違うところは、風化して石の角が落ちたりひび割れたりしていることと、ところどころに蔦が絡まっていることくらいだろうか。


 魔法で生成された構造物が、パズルのように接続されているようだ。こんな遺跡があちこちに存在するのは、いったいどういうわけだろう。


 そして、俺たちはなぜ魔物になり、こんな場所に封印されていたのだろう。野営中にいろいろ思い出したのに、肝心なところが思い出せない。もどかしい気持ちを抑え込む。



「オルフェル……?」


「いや、平気だぜ」



 ミラナが心配そうに俺の顔を見る。俺は平静を装って頷いた。いまは怯えて立ち止まっている場合じゃない。


 それに、いまの俺たちには、心強い大魔道師、キジー・ポケット様がついているのだ。



「六頭蛇はこっちだよ」


「ほんとよくわかるよな……」



 キジーの先導のおかげで、俺たちは遺跡のなかをすんなりと進むことができた。罠や呪いにかかることもなく、たまに弱い魔物と出会う程度だ。


 特に迷いの呪いがないのは本当に助かる。目的地まで一直線だなんて、こんなに素晴らしいことがあるだろうか。



「三百年前、俺たちこんな感じの場所ですげー迷ったよな」


「ピピッ! 本当だよね。何回死にかけたんだろ」


「キジーがいてほんとに助かるぜ! あのときの苦労が嘘みたいだもんな」


「うんうん、そうだよね。ピピッ」



 気を取りなおした俺の頭の上で、シンソニーも機嫌よくピッピとさえずっている。彼もシェインさんたちも、昨夜俺が話をしたことで、あのときのことを思いだしていた。


 あまりに衝撃的な記憶で、みんな顔を引きつらせていたけど、あれからもう三百年も経過している。


 現在の遺跡には目に見えるほどの闇のモヤはないし、魔物はいるけど多くはない。少し拍子抜けするくらいだ。



「ふふん。なんか思い出して、アタシのありがたみを実感したみたいだね!」



 先頭を歩くキジーが振り返り、俺たちに得意げな顔を向けた。臆病なはずの彼女が、こんなにも堂々と先頭を歩いていることに感心する。


 彼女の背中が頼もしすぎて、すこし逞しく感じるくらいだ。いつも助けてくれる彼女に、極上の賛辞を贈りたい。



「やっぱりキジーはすげーよな。よっ! 魔導士界の革命児!」


「それ、褒めてるんだよね?」


「俺がキジーと出会えて、どんだけ喜んでるかわかる?」


「わかんない」



 キジーは顔をしかめてそう言うと、またスタスタと先頭を歩きはじめた。どうにもキジーは俺の賛辞を受け取ってくれない。だから俺は、また彼女のために肉を焼くつもりだ。肉なら喜んで食べてくれるだろう。



「それにしても……。結局、あの迷宮にはだれがいたんだろうな」



 俺はそう呟いて、チラリとミラナのほうを見た。慌てて目を逸らすミラナに、俺はちょっと寂しくなる。いまのは照れているというより、なにか隠しているときの顔だ。


 彼女は今日も、肩に黒猫のライルを乗せている。ライルも俺の視線に気付くと、とぼけたように横を向いた。ムッとして口をとがらせる俺。


 キジーがベルさんの猫だと言っていたけど、まるで俺たちを監視しているかのような、不思議な猫だ。


 いろいろ気になるけど、ミラナは、俺に約束してくれた。このテイムが終われば、なんでも隠さず話してくれると。俺はその言葉を信じている。



――だから俺、慌てねーよ。とにかく、いまはネースさんのテイムに集中だ。



 自分にそう言い聞かせているうちに、俺たちはネースさんが封印された部屋に辿りついた。



「ここか……」



 長い廊下の先に広間が開けていた。壁には金属の扉がひとつだけ埋め込まれている。ノブも鍵穴もなく、開きかたはわからない。きっとこれは封印に施された幻覚魔法なのだろう。


 部屋のなかは海だと言うキジー。ネースさんがなってしまったヒドラスは海蛇の魔物らしい。頭が六つもあるというのだから、かなり巨大なのは間違いないだろう。


 三百年前のネースさんを思い出す。ひょろひょろとした長身の体、海のように青い髪は確かに海蛇を連想させるかもしれない。端正な顔は蒼白くて、いつもなにかに怯えているようにも見えた。


 いよいよだという気持ちで、俺は深く息を吐いた。ネースさんは元気だろうか。たとえ元気でも、俺たちはこれから、みんなで彼をボコボコにし、弱らせなければならないのだ。


 傷つき苦しむ仲間を見るのは本当につらい。緊張で俺はゴクリと喉を鳴らした。



「ネースはあぁ見えて、戦闘に出ると強かったからな……」



 シェインさんは懐かしそうに遠くを見詰めている。ネースさんと共闘する機会は少なかったけど、真剣なときの彼は頼もしかった。また仲間になれれば心強い。



「ヒドラスが攻撃で弱ったり、沈静化魔法でおとなしくなったら、捕獲魔法を試すので、一度攻撃を止めてください」


「なるほど。殺さないように手加減しながら弱らせればいいんだね」


「ネースの行動なんて、想像もつきませんもの。気をつけなくてはいけませんわね、にぃさま」



 ミラナはテイムの手順を説明すると、魔笛をかまえ俺たちに調教魔法をかけた。


 シンソニーとシェインさんが攻撃モードで、俺とベランカさんは防御モードだ。


 テイムがはじめてのシェインさんとベランカさんは、やはり少し緊張している様子だった。


 彼女の使う調教魔法は、闇の力で魔物の心と体を操る。魔物の能力を覚醒させたり、行動を制限したりすることができる、嬉しくも恐ろしい魔法だ。


 戦闘支援としての調教魔法には、攻撃モードと防御モードがある。


 攻撃モードになった魔物は、闘志が湧きたち、力や素早さなどがあがる代わりに、回避や防御などの行動がほとんどできなくなる。


 そして防御モードは、俺のようなお調子者でも冷静に敵の攻撃を予測し、防御に集中することができるなんだかすごい魔法だった。


 判断力や反射神経などがあがる代わりに、防御を主目的とした攻撃しかできなくなるけど、今日の俺に攻撃は必要ない。


 なぜなら水中のネースさんには、炎攻撃の効果が薄いからだ。俺の役目はミラナを守り抜くこと! 俺は拳に決意を込めた。


 ミラナは落ち着いて見えるけど、彼女の心のうちは見た目とは違うことも多い。特にこんな真顔を作っているときは、ちょっと緊張している証拠だ。


 前回は大勢の助っ人が来てくれたから、俺たちだけで挑むのは少し不安なのかもしれない。


 だけど、今回は相手もネースさん一人だけだし、俺たちにはシェインさんとベランカさんがいる。やっぱりこの二人は心強い。


 ひきこもりのわりに、みんなで遊ぶのが好きだったネースさんを、俺たちの家に連れて帰りたい。


 ミラナの緊張は、俺がほぐす必要があるだろう。



「じゃぁいこっか! お願いキジー」


「あいよ! 上級解除魔法・クラックシール!」



 キジーが封印解除魔法を使うと、金属の扉に亀裂が入った。かたいはずの扉がゆらゆらと揺らめいて見える。不思議な感覚に襲われながら、俺たちはその亀裂から室内に入った。



 お待たせしました。十章の投稿を開始します! よろしくお願いいたします。


 キジーの案内で、無事にネースさんの封印された部屋に辿りついたオルフェルたち!


 オルフェルは防御モードですが、無事にネースさんをテイムできるでしょうか?


 次回、第百二十六話 ヒドラス2~トランスポーター~をお楽しみに!


挿絵(By みてみん)

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― 新着の感想 ―
海蛇の魔物と海の中で戦うことになるとは……。 そもそも呼吸や行動ができる環境なんでしょうか。 六頭蛇のネースさん、苦戦は間違いありません。 モヤが無くなってキジーがいる! なんというイージーモード笑
[一言] 花車様おはようございます! ネースをテイムする為に向かう皆。 キジーが優秀で何事もなくネースのところまでいけそうなのはよきですなぁ(*´ω`*) そしていよいよ到着!! 防御モードのオルフェ…
[良い点] キジ―がいると、本当に便利としか言いようがない。 忍者屋敷を経験していれば、尚更に痛感することでしょう。 頭が6つとは、頭のいいネースなら単純計算で6倍処理能力が高くなりそう。 身体能力…
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