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三頭犬と魔物使い~幼なじみにテイムされてました~  作者: 花車
第9章 愛と障壁

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122/291

122 地下空洞の決戦2~魔法迷宮の秘密~

改稿しました(2024/12/6)


 場所:怪しい屋敷(地下空洞)

 語り:オルフェル・セルティンガー

 *************



 地下迷宮にて、クルーエルファントと対峙した俺たち。みなの意志を確認すると、ハーゼン大佐が俺とネースさんに指示を飛ばした。



「ネース! あっちに崖がある。クルーエルファントをあそこまで追い立てて突き落とすぞ! オル、あいつの鼻を叩き斬れ!」


「了解! いくぜ! フィネーレ」


「うふふ。今日はいい日ね」



 光の玉に変身したフィネーレは、楽しげに飛び回って声をあげた。


 彼女はいつもこんな調子だ。少しずれてるときもあるけど、彼女の前向きな言葉は俺に勇気を与えてくれる。


 クルーエルファントが高く足をあげ、思い切り地面に叩きつけた! 衝撃波が広がる! その衝撃とともに、地面が砕け、石つぶてが弾丸のように飛んできた。



「あぶねー!」



 俺はエニーたちを庇い、ファイアースワールでそれを叩き落した。同時にシンソニーが緑のヘキサシールドを発動させる。



「大丈夫。僕は魔力に余裕あるから。自分たちの身は守るよ」



 エニーを守るように立つシンソニー。その凛々しい顔を見て、俺はひとつ頷いた。


 クルーエルファントはあまりに大きい。普通に倒すのは無理だろう。俺たちは崖の反対側に回り込んで攻撃を仕掛けた。



「押し流すもらよ。フラッシュフロード!」



 水大砲から水が勢いよく噴射する!


 それはクルーエルファントの足元に猛然と水流を巻き起こした。まるでダムが決壊したかのような、凄まじい水流だ。


 水は土を削り、足元を容赦なく崩していく。クルーエルファントはバランスを崩し、崖に向かって後退した。


 危機を察して流されまいと踏ん張っている。これならさっきのような衝撃波も封じることができそうだ。


 だけど、水流だけでは落とせない。



――鼻を斬り落とせか。確かに、鼻はほかより弱そうだな。



 いかにも頑丈そうな体や脚に比べると、魔物の鼻はいくらか細く骨もない。敏感な場所だからこそ、一撃はいれば、実際より大きなダメージを与えられるかもしれない。


 俺は気合いを入れてジャンプし、クルーエルファントの眼前に飛び出した。そして、ゴツゴツとした巨大な鼻に狙いを定め、灼熱の炎の斬撃を叩き込む!



「くらいやがれ! フレイムスラッシュ!」



――ギュオーーーーーン!――




 痛みに激怒したクルーエルファントは、衝撃波とともに咆哮した。そして、巨大なワームのような鼻を猛烈に振り回す!


 俺は一瞬の判断でヘキサシールドを発動させた。六角形の魔法陣が俺の正面に現れる! 鼻の一撃はシールドに跳ね返った!


 俺は水流に飲まれまいとファイアーボールを撃って上昇する! だけど、鼻の動きが速すぎた。


 ヘキサシールドが間にあわず、巨大な鼻に力任せに弾き飛ばされる。岩壁に激突すると、激しい痛みが全身を襲った。頭がゴンという鈍い音を立て、俺はうめいた。



――くっそ、いってぇ! 頭われた!



 傷口から血が流れてくるのがわかる。手で抑えると、指の間から血が滲んできた。



「オルフェ!」


「平気だ! 魔力はおいとけ、シンソニー!」



 俺は血だらけで立ちあがった。そして、ヒールを使おうとするシンソニーに、手を突き出して制止する。シンソニーはなにか言おうとしたけど、言葉を飲み込み俯いてしまった。


 だけど、ケガのたびヒールで回復していたのでは、愛のベールが魔力切れを起こし、全員が危険だ。魔法薬であとから治せばそれでいい。



「シンソニー君みて? 俺のおでこ、レアじゃねー?」



 俺は腕で血を拭きながら、いつも隠れている額を見せるように前髪をあげた。俺の元気アピールに、シンソニーの目尻がふっと緩む。



――よし。



 俺はトリガーブレードを握りなおした。


 クルーエルファントの皮膚はまるで岩のようにかたくて厚くて、俺の剣でもハーゼンさんの斧でも、ほとんど傷がつけられない。攻撃も強烈で正確で、回避しそこねたときのダメージが大きい。


 あまり近づいて攻撃するのは得策ではないようだ。



「あの、鼻はダメみたいです。ハーゼン大佐!」


「す、すまんオル。オレは土壁で逃げ場を塞ぐ! オルはファイアーボールでも撃って後退させろ」


「了解!」



 水流の両脇をハーゼン大佐が土壁で塞ぐと、ネースさんの水流が勢いを増した。


 だけどクルーエルファントも、崖から落ちまいと抵抗している。黒い巨体が、こっちに向かって猛進してくる。



「フィネーレ! 特大のいくぜ!」


「はいはぁい♪」



 俺は魔力を全開にし、クルーエルファントの顔面に、特大のファイアーボールをぶつけた。



――ギュオーーン!――



 悲鳴のように鳴くクルーエルファントの眉間がえぐれ、焼けた肉が煙をあげた。


 クルーエルファントが身をよじりながら少し後退する。だけど初級魔法のファイアーボールでは、いくら威力をあげても限界がある。



「オル、もっと本気出して叩き落とせ!」


「はい!」


――ヴォン! ヴォン! ヴォン!――



 トリガーブレードのトリガーを引くと、剣先は赤く光り刀身が唸りをあげる!


 その音は俺の魂を揺さぶった。胸が熱く高鳴って、同時に集中力もあがっていく。これで気合いは十分だ。



「火炎の刃よ、響け! フレイムストライク!」



 俺はトリガーブレードを水平に振り抜いた。剣先から炎の衝撃波が飛び出す!


 その波から発する赤い音波が魔物の巨体を包囲した。火薬が爆発するような破裂音が次々に炸裂する。その音と光に驚いてクルーエルファントは大きく後退した。


 これは近距離の敵に大ダメージを与える攻撃魔法だ。中級魔法のため、魔力消費が大きいけど、動物相手なら混乱効果もかなり高い。


 これ以上の魔物が現れないことを祈りつつ、俺はその魔法を放った。



「これで終わりだ! ファイアーボール!」



 崖に追い詰められたクルーエルファント! なんとか踏ん張ろうとするその足元に、俺は巨大なファイアーボールを撃ち込んだ。



――ドゴーーーン!――



 熱された水で起きる水蒸気爆発! 耳をつんざく衝撃音が鳴り響く。


 クルーエルファントの足元の崖がズドドと崩れた。



――ギュオーーン!――



 クルーエルファントはバランスを崩して前足をあげる!


 恐怖に満ちた雄叫びをあげ、それは崖から落ちていく。


 崖の下からドゴーンという地響きが聞こえてきた。クルーエルファントの最後の音だ。俺たちはその音に耳を澄ませた。しばらくして、静寂が訪れる。



「やった! はじめて倒したぜ!」


「あぁ! やったな! いいぞ、オル」


「あんなの倒せるとは思わなかったょ♪」


「村を襲った報いを受けたもら」



 拳を振りあげた俺の背中を、ハーゼン大佐がバシッと殴る。エニーはニコニコ、ネースさんは少し神妙な顔だ。そしてシンソニーは無言で俺の額に魔法薬を塗りつけた。



「いてて……。シンソニー君? なんか力強くね?」


「……これまた傷になるよ。こんなんでよくふざけられるね」


「ごめんって。機嫌なおして?」



 まだ少し拗ね気味のシンソニー。だけどその瞳はキラキラと潤んでいる。また心配をかけてしまったようだ。



「とにかく、早く、あの梯子登ろうぜ!」


「うん、そうだね!」「いこう☆」「あぁ」「いくもらよ」



 いまの戦闘で、みんなかなりの魔力を消費してしまった。地下空洞ももうこりごりだ。


 俺たちは頷きあって、そこにかけられた梯子を登った。早く発生源を見つけ出し、みんなで外に出たかった。


 だけど、その先に待っていたのは、想像を絶する光景だった。


 さっきと同じ魔法迷宮の長い廊下。石作りの床の両側には、いくつもの巨大な檻が並んでいた。


 そして、そのなかに閉じ込められていたのは、何匹ものクルーエルファントと、数えきれないほどの多種多様な魔物たちだった。



 地下空洞でクルーエルファントと出会ったオルフェルは、ケガをしながらも、なんとかそれを崖下に突き落とし、梯子を登ります。


 しかし、希望かと思ったその梯子の先には、驚くべき光景が待っていたのでした。


 というところですが、次回から現在に戻り、ミラナの語りになります。また書き足して一話増えたので、サブタイトルが変更になりました。そこで九章は終わりです。


 遺跡探索の話の続きは、十章のヒドラス戦のあとでお届けする予定です。


 次回、第百二十三話 降参1~時空を超えた恋心~をお楽しみに!



 挿絵(By みてみん)

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― 新着の感想 ―
崖から落とすのは好い手ですね! こんなに巨大で頑丈なゾウ、真面目に倒しきろうと思ったら、一体どれだけ時間がかかるか分かりません。 動物だからか、オルフェルの炎が活躍したのも嬉しいです。 水辺、森、屋内…
[一言] 花車様おはようございます! オルフェルはじめ皆かなり大変な戦いをなんとか無事終われて良かったですε-(´∀`;)ホッ クルーエルファント強かった! そして梯子を登って行ったその先にみたものは…
[良い点] ゾウよりも凶悪な生物に弾き飛ばされても立ち上がれるオルフェルは、流石の騎士志望者です。 そしてトリガーブレードのカッコよさは、私の魂も揺さぶりました。 製作者であるネースはよくわかっていま…
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