122 地下空洞の決戦2~魔法迷宮の秘密~
改稿しました(2024/12/6)
場所:怪しい屋敷(地下空洞)
語り:オルフェル・セルティンガー
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地下迷宮にて、クルーエルファントと対峙した俺たち。みなの意志を確認すると、ハーゼン大佐が俺とネースさんに指示を飛ばした。
「ネース! あっちに崖がある。クルーエルファントをあそこまで追い立てて突き落とすぞ! オル、あいつの鼻を叩き斬れ!」
「了解! いくぜ! フィネーレ」
「うふふ。今日はいい日ね」
光の玉に変身したフィネーレは、楽しげに飛び回って声をあげた。
彼女はいつもこんな調子だ。少しずれてるときもあるけど、彼女の前向きな言葉は俺に勇気を与えてくれる。
クルーエルファントが高く足をあげ、思い切り地面に叩きつけた! 衝撃波が広がる! その衝撃とともに、地面が砕け、石つぶてが弾丸のように飛んできた。
「あぶねー!」
俺はエニーたちを庇い、ファイアースワールでそれを叩き落した。同時にシンソニーが緑のヘキサシールドを発動させる。
「大丈夫。僕は魔力に余裕あるから。自分たちの身は守るよ」
エニーを守るように立つシンソニー。その凛々しい顔を見て、俺はひとつ頷いた。
クルーエルファントはあまりに大きい。普通に倒すのは無理だろう。俺たちは崖の反対側に回り込んで攻撃を仕掛けた。
「押し流すもらよ。フラッシュフロード!」
水大砲から水が勢いよく噴射する!
それはクルーエルファントの足元に猛然と水流を巻き起こした。まるでダムが決壊したかのような、凄まじい水流だ。
水は土を削り、足元を容赦なく崩していく。クルーエルファントはバランスを崩し、崖に向かって後退した。
危機を察して流されまいと踏ん張っている。これならさっきのような衝撃波も封じることができそうだ。
だけど、水流だけでは落とせない。
――鼻を斬り落とせか。確かに、鼻はほかより弱そうだな。
いかにも頑丈そうな体や脚に比べると、魔物の鼻はいくらか細く骨もない。敏感な場所だからこそ、一撃はいれば、実際より大きなダメージを与えられるかもしれない。
俺は気合いを入れてジャンプし、クルーエルファントの眼前に飛び出した。そして、ゴツゴツとした巨大な鼻に狙いを定め、灼熱の炎の斬撃を叩き込む!
「くらいやがれ! フレイムスラッシュ!」
――ギュオーーーーーン!――
痛みに激怒したクルーエルファントは、衝撃波とともに咆哮した。そして、巨大なワームのような鼻を猛烈に振り回す!
俺は一瞬の判断でヘキサシールドを発動させた。六角形の魔法陣が俺の正面に現れる! 鼻の一撃はシールドに跳ね返った!
俺は水流に飲まれまいとファイアーボールを撃って上昇する! だけど、鼻の動きが速すぎた。
ヘキサシールドが間にあわず、巨大な鼻に力任せに弾き飛ばされる。岩壁に激突すると、激しい痛みが全身を襲った。頭がゴンという鈍い音を立て、俺はうめいた。
――くっそ、いってぇ! 頭われた!
傷口から血が流れてくるのがわかる。手で抑えると、指の間から血が滲んできた。
「オルフェ!」
「平気だ! 魔力はおいとけ、シンソニー!」
俺は血だらけで立ちあがった。そして、ヒールを使おうとするシンソニーに、手を突き出して制止する。シンソニーはなにか言おうとしたけど、言葉を飲み込み俯いてしまった。
だけど、ケガのたびヒールで回復していたのでは、愛のベールが魔力切れを起こし、全員が危険だ。魔法薬であとから治せばそれでいい。
「シンソニー君みて? 俺のおでこ、レアじゃねー?」
俺は腕で血を拭きながら、いつも隠れている額を見せるように前髪をあげた。俺の元気アピールに、シンソニーの目尻がふっと緩む。
――よし。
俺はトリガーブレードを握りなおした。
クルーエルファントの皮膚はまるで岩のようにかたくて厚くて、俺の剣でもハーゼンさんの斧でも、ほとんど傷がつけられない。攻撃も強烈で正確で、回避しそこねたときのダメージが大きい。
あまり近づいて攻撃するのは得策ではないようだ。
「あの、鼻はダメみたいです。ハーゼン大佐!」
「す、すまんオル。オレは土壁で逃げ場を塞ぐ! オルはファイアーボールでも撃って後退させろ」
「了解!」
水流の両脇をハーゼン大佐が土壁で塞ぐと、ネースさんの水流が勢いを増した。
だけどクルーエルファントも、崖から落ちまいと抵抗している。黒い巨体が、こっちに向かって猛進してくる。
「フィネーレ! 特大のいくぜ!」
「はいはぁい♪」
俺は魔力を全開にし、クルーエルファントの顔面に、特大のファイアーボールをぶつけた。
――ギュオーーン!――
悲鳴のように鳴くクルーエルファントの眉間がえぐれ、焼けた肉が煙をあげた。
クルーエルファントが身をよじりながら少し後退する。だけど初級魔法のファイアーボールでは、いくら威力をあげても限界がある。
「オル、もっと本気出して叩き落とせ!」
「はい!」
――ヴォン! ヴォン! ヴォン!――
トリガーブレードのトリガーを引くと、剣先は赤く光り刀身が唸りをあげる!
その音は俺の魂を揺さぶった。胸が熱く高鳴って、同時に集中力もあがっていく。これで気合いは十分だ。
「火炎の刃よ、響け! フレイムストライク!」
俺はトリガーブレードを水平に振り抜いた。剣先から炎の衝撃波が飛び出す!
その波から発する赤い音波が魔物の巨体を包囲した。火薬が爆発するような破裂音が次々に炸裂する。その音と光に驚いてクルーエルファントは大きく後退した。
これは近距離の敵に大ダメージを与える攻撃魔法だ。中級魔法のため、魔力消費が大きいけど、動物相手なら混乱効果もかなり高い。
これ以上の魔物が現れないことを祈りつつ、俺はその魔法を放った。
「これで終わりだ! ファイアーボール!」
崖に追い詰められたクルーエルファント! なんとか踏ん張ろうとするその足元に、俺は巨大なファイアーボールを撃ち込んだ。
――ドゴーーーン!――
熱された水で起きる水蒸気爆発! 耳をつんざく衝撃音が鳴り響く。
クルーエルファントの足元の崖がズドドと崩れた。
――ギュオーーン!――
クルーエルファントはバランスを崩して前足をあげる!
恐怖に満ちた雄叫びをあげ、それは崖から落ちていく。
崖の下からドゴーンという地響きが聞こえてきた。クルーエルファントの最後の音だ。俺たちはその音に耳を澄ませた。しばらくして、静寂が訪れる。
「やった! はじめて倒したぜ!」
「あぁ! やったな! いいぞ、オル」
「あんなの倒せるとは思わなかったょ♪」
「村を襲った報いを受けたもら」
拳を振りあげた俺の背中を、ハーゼン大佐がバシッと殴る。エニーはニコニコ、ネースさんは少し神妙な顔だ。そしてシンソニーは無言で俺の額に魔法薬を塗りつけた。
「いてて……。シンソニー君? なんか力強くね?」
「……これまた傷になるよ。こんなんでよくふざけられるね」
「ごめんって。機嫌なおして?」
まだ少し拗ね気味のシンソニー。だけどその瞳はキラキラと潤んでいる。また心配をかけてしまったようだ。
「とにかく、早く、あの梯子登ろうぜ!」
「うん、そうだね!」「いこう☆」「あぁ」「いくもらよ」
いまの戦闘で、みんなかなりの魔力を消費してしまった。地下空洞ももうこりごりだ。
俺たちは頷きあって、そこにかけられた梯子を登った。早く発生源を見つけ出し、みんなで外に出たかった。
だけど、その先に待っていたのは、想像を絶する光景だった。
さっきと同じ魔法迷宮の長い廊下。石作りの床の両側には、いくつもの巨大な檻が並んでいた。
そして、そのなかに閉じ込められていたのは、何匹ものクルーエルファントと、数えきれないほどの多種多様な魔物たちだった。




