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三頭犬と魔物使い~幼なじみにテイムされてました~  作者: 花車
第9章 愛と障壁

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115 怪しい噂2~信じる心~


 場所:オトラー本拠地

 語り:オルフェル・セルティンガー

 *************



「話しあいをする」というハーゼン大佐の言葉に従って、俺は会議室に向かった。



「よかった! やっと目覚めたね、オルフェル。心配したよ」



 俺の姿を見たシェインさんが笑顔で俺を招き入れた。彼の穏やかな表情に、ホッとする。



「ありがとうございます、おかげさまで復活しました!」


「おにぃさま、お茶をどうぞ。オルフェル、あなたもしっかり水分補給をなさい」


「あっ、はい。ありがとうございます!」



 ベランカさんがシェインさんにお茶を出したついでに、俺にもお茶を出してくれた。


 わかりにくいけど、彼女も心配してくれていたようだ。



      △



 しばらくシェインさんと談笑していると、ハーゼンさんがネースさんを引きずってきて、話しあいが始まった。


 シェインさんとハーゼン大佐が難しい顔で向かいあっている。


 ほかの指導者たちの姿はなく、いるのはイコロ村の出身者だけだ。


 話の内容が内容だけに、確信のないうちから話を広めたくないのだろう。



「あぁ、やっぱり、森の奥の調査は必要だね……。いや、でも、もしかしたら、これは罠なのかも……。あまりに危険すぎるんじゃないかな……。しかし、やっぱり調査は……」



 思慮深いシェインさんがひたすら考えこんでいる。彼は眉間にしわを寄せて、手で顎を支えていた。



「だけどな。エンベルトは森の奥にイザゲルがいるって言ったんだ。オレはどうしても、探しに行きたい。行って、イザゲルを助けるぞ」



 ハーゼン大佐は大きい声で熱く語った。彼の瞳に決意と不安が揺れている。


 俺だって、もしこれがミラナだったら、きっと同じことを言うだろう。


 ハーゼン大佐の気持ちを思うと胸が痛んだ。



「だけど、レーギアナの森の奥は、闇のモヤがかなり濃いですよ。どうやってイザゲルさんを探すつもりですか?」



 俺がそう言うと、ハーゼン大佐は「うーむ」と顔を顰めた。


 俺たちが暮らす大陸には、昔から、闇のモヤの漂う場所がいくつもあった。


 日の当たらない場所や、戦闘跡、洞窟や森の奥や墓場など、嫌な空気の溜まる場所には、たいてい闇のモヤがある。


 それは精霊や人間たちの悪い感情から発生したものが、流れ着いて溜まったものだと言われていた。


 ほとんどのモヤは目に見えないほど薄く、少し息苦しく感じる程度だ。


 長時間当てられた生き物が魔物化することもあるけど、モヤ自体は時間経過とともに消滅してしまうことが多かった。


 だけど、レーギアナの森の奥に広がる闇のモヤは、別格だ。


 それは黒雲のように立ち込めており、だれでも一目でわかるほど濃密だった。


 これまでならこうなる前に、聖騎士たちが浄化していたはずだけど、いまはそれも期待できない。



「あのモヤは、一瞬で意識を奪われるほどの毒気があるよ。近づけは命の危険もあるだろう」


「人間か精霊が闇に堕ちている可能性が高そうですね」


「そうだね、オルフェル。あれだけの濃いモヤだ、ただの空気の淀みじゃないだろう……」


「聖騎士も大精霊の祝福を失って、浄化できそうにないですしね……」



 俺がそういうと、シェインさんは頭をかかえた。


 闇に堕ちてしまった人間を、元に戻すのは難しい。身体は干からび黒ずんで、とめどなく闇のモヤを吐き出すようになる。


 それを放置していると、周囲の土地も魔物で溢れかえってしまう。



――もし、イザゲルさんが闇堕ちしてたら……。もうもとには戻らねーんじゃねーの?



 そう思うとまた胸が痛む。イザゲルさんをいまも愛しているハーゼン大佐、大切なお姉さんを守りたいネースさん……。二人の前で、この話はつらすぎる。



「ハーゼン、言いにくいけど、森の奥にいるのは、本当にイザゲルかもしれないよ? 彼女がデモンクーズを使ったのは間違いないんだからね?」



 俺が戸惑っていると、本当に言いにくいことを、シェインさんが声を低くして言った。


 イザゲルさんが闇堕ちしているとしたら、それはハーゼン大佐にとって最悪の事態だろう。


 彼女を助けることはできないかもしれない。彼女と戦うこともあるかもしれない。


 考えただけで、俺まで心がちぎれそうだ。


 ハーゼン大佐がグッと拳を握る。だけど彼だって、その可能性には気付いているはずだ。



「オレはイザゲルを助ける。それしか考えてないぞ」



 彼はそう言って、真っすぐにシェインさんを見据えた。



「イザゲルはなにも悪くないだろ。オレは彼女を守りたい。早くあいつのそばに行って、もう大丈夫だと言ってやりたい……」


「ハーゼン……」


「オレは信じてる。イザゲルは正当な理由があってデモンクーズを使ったんだ。きっと後悔だってしていないはずだ。だから、彼女は闇に堕ちたりしない。イザゲルは賢くて優しくて、心の強い女性だったからな。そうだろ? ネース」


「ヤミノクラワレ……ゼヒモナシもら」



 ハーゼン大佐の震える声に、ネースさんがウンウンと首を縦に振る。


 なにを言ってるかはわからないけど、彼も姉であるイザゲルさんのことを大切に思っているのだろう。


 俺もシェインさんも言葉を詰まらせた。彼女が進んで王宮へ行ってくれたとき、俺たちはみんな救われているのだ。


 これが本当なら、俺たちにとってもつらいことだ。



「だが、エンベルトの話は、義勇兵たちもみな聞いたからな。オレはこれ以上、彼女を悪く言われるのは我慢できない。なんとしても、モヤを出してるやつの顔を見てやる」



 ハーゼン大佐はイザゲルさんを信じて疑わない。彼の声には、必死さと切なさが交っていた。



「モヤは消せないにしても、イザゲルでないことがわかれば、兵士たちの動揺も少しはおさまるかな」



 シェインさんは、クルーエルファントの被害者たちの動揺が気になるようだ。



「俺さっき、闇のモヤの発生源はアジール・レークトン博士だって噂を聞いたんですけど……」


「たしかに、そんな噂もあるようだね……」


「息子のジオクを実験台にして、おかしな研究をしてるって、本当なんですかね……」



 俺がアジール博士の噂話をすると、先輩たちはみんな顔を顰めた。


 目的はまったくわからないけど、想像するだけでも残酷で恐ろしい。



「ジオクとは生徒会選挙で争ったけどね、そのあとすぐ、病気で休学してしまったからね……」


「だが、アジール博士はジオクを溺愛していることで有名だった」


「そうだね。彼はジオクのために、あんな素晴らしいおもちゃをたくさんつくった、父親の鏡のような人だったからね」


「モヤをイザゲルのせいにされるのはもちろん嫌だが、あの博士が息子を傷つけるとは思えないな」


「ふんふん! ガングシンスーハイもらよ」



 シェインさんとハーゼン大佐の発言に、ネースさんもぶんぶんと首を縦に振った。



 エンベルトが言い捨てていった情報をめぐって、イコロメンバーだけの会議が始まりました。


 イザゲルさんの無実を信じるハーゼンさんは、危険な闇のモヤの奥へ調査に行きたいと言いだします。


 いったいモヤのなかにはだれがいるのでしょうか。


 書き足していたら一話増えてしまったので、サブタイトルが変更になりました。


 次回、第百十六話 怪しい噂3~繊細な問題~をお楽しみに!


挿絵(By みてみん)


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― 新着の感想 ―
イラスト見たさにこちらに戻って来ました(笑) 闇のモヤの中にいるのは博士なのか、イザゲルさんなのか? そして闇の精霊マレスの存在がどう関わっているのか……? オルフェくんが元気で良かったーー!!
ベランカさんが優しい。 これはレアですね! 闇のもやを浴び続けた生き物が魔物化する……。 なんだか嫌な予感がしてしまいますが。 ともあれ、厄介なことです。 これもまた聖騎士があんなことになっている弊…
[一言] 花車様おはようございます! そして疑いのイザゲル。 イザゲルを助けに行く話になっていますが果たして!? 続き楽しみにしてますね! 花車様本日もよろしくお願いいたします(៸៸᳐><៸៸᳐ )੭…
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