表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
三頭犬と魔物使い~幼なじみにテイムされてました~  作者: 花車
第9章 愛と障壁

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

113/291

113 ヒリヒリ~胸の穴と二人の後輩~

 場所:オトラー本拠地

 語り:オルフェル・セルティンガー

 *************



「あ……。ここは……」



 ぼんやりと目を開けると、真っ白な天井が目に映った。


 壁には色鮮やかなタペストリーが飾られ、木製の薬品棚には、さまざまな色や形の瓶がぎっしりと並べられている。



――オトラー本拠地の医務室か……?


――そうだ、俺、盾から出た光線に撃ち抜かれて……。



 俺がベッドに上半身を起こそうとすると、両腕がなにか柔らかいものに包まれた。


 見下ろすと、オトラー義勇兵のイソラとアリアンナが俺の腕にしがみついている。



「よかった! オルフェル先輩!」


「なかなか目覚めないから心配しましたよぉ~!」



 二人はカタ学の後輩で、どうやら俺に憧れているようだった。



「ん? 俺そんな寝てたの?」


「もう、ケガしてから五日たってますよ?」


「えぇ!?」



――俺が五日も寝てたなんてな……。まぁ、正直、今度こそ死んだと思ったからな……!



 遠征していたレーギアナの森で、ブラインディングレイに撃ち抜かれてから、俺はずっと眠っていたらしかった。


 いつの間にか本拠地のあるオトラーに運ばれている。



「そうか。悪いな、心配させて」



 そう言ってあらためて二人の顔をみると、二人とも瞳に涙がたまっている。


 俺のシャツを握る二人の手が、少し震えているようだった。



「もう! 先輩無茶しすぎなんですから! あんなに敵陣に突っ込んで……。いつも言ってますけど、自分の命も大切にしてください!」


「ほんとですっ! エンベルトが憎いのはわかりますけど……」



 イソラが震える声でそう言うと、彼女の瞳からこぼれた涙が、俺の脚の上に落ちた。


 アリアンナも厚めの唇を尖らせながら、片手で涙を拭いている。


 可愛い後輩二人に泣かれてしまい、俺は胸が熱くなった。


 俺には義勇軍に誘い込んだ仲間を守る責任がある。


 憎い相手だからと、無防備に突っ込んで死ぬことは許されない。


 それは俺自身、十分わかっているつもりだった。


 だけど俺だって、使命感や責任感だけで、常に冷静でいられるほど大人じゃない。


 多くを失った喪失感は、文字どおり俺の胸に大きな穴をあけていた。


 それにあの日、俺が見た騎士たちの姿は、あまりにも情けなく思えた。


 騎士を目指していた俺は当然のように、あの人たちを尊敬していたのだ。


 イニシスの誇りだった彼らが、落魄れた姿を見せると俺は憤りを感じる。


 俺の心は荒れはて、未来も希望も見えなくなる。


 ヒリヒリする胸の傷に手を当てると、イソラたちが不安げな顔をした。



「先輩まさか、死んでもいいなんて、思ってませんよね?」


「ま、まさか! おまえらみたいな可愛い後輩がいんのに、そんなこと思うわけねーよ?」


「本当ですか?」


「あぁ。二人とも、オトラーのためにいつも頑張ってくれてありがとうな」


「当然ですよ。私たちは仲間ですから!」


「私こそ感謝してますよ! 闇属性をかくまってくれるのは、オトラーだけですから」


「私たち先輩についていきますから、これからも一緒に戦いましょうね!」


「おぉ。頑張ろうぜ!」



 まだ少し体は重いけど、可愛い後輩たちに励まされると元気が出てきた。


 胸の穴はでかいけど、彼女たちのためにも前を向きたい。



「だけど、あんな薄い盾から、光線が飛び出してくるなんて思いませんよね」


「確かにあれは驚きました。あんな薄い魔道具から、あんな強烈な光線が出るなんて……」


「私も、なにか出ても、せいぜい目くらましくらいかと思ってました」


「まぁな……。でもやっぱり、俺は油断しすぎてた。反省してるぜ……」



 俺は光線に撃ち抜かれたときの情景を思い出し、あらためて自分の不注意を悔やんだ。


 心配をかけた仲間たちにも申しわけない。



「あんな魔道具が存在するなんて怖いですね……」


「あれ、アジール博士が開発した兵器らしいですよ」



 俺を挟んで向かい合っている二人が、顔を見合わせ身震いしている。


 おもちゃで有名なアジール・レークトン博士は、国王軍の兵器開発第一人者でもあった。


 味方なら頼もしい彼の兵器だけど、敵に回すとまったく恐ろしいものだ。


 だけど俺たちは、まだまだあんな武器や兵器と戦わなくてはならないのだろう。



「ハーゼン大佐も、昨日からようやく目が見えるようになったんですよ。ブラインディングレイの目くらまし効果がなかなか消えなくて」



 アリアンナがそう言ったとき、医務室の扉が開いた。



「オル、やっと目が覚めたか。あとでシェインたちと話しあいをする。参加してくれ」


「あ、はい……」



 なんだか顔色の悪いハーゼン大佐が、扉の隙間から顔をのぞかせ、それだけ言って去ってしまった。


 俺がポカンとしていると、アリアンナが少し言いにくそうに、エンベルトが言い捨てていった情報を教えてくれた。


 闇の大精霊マレスがゾウの魔物クルーエルファントを産みだし、イザゲルさんがそれを操って、イコロを襲撃したという情報だ。


 ハーゼン大佐の顔色が悪いのも頷ける。


 彼は国王派からイザゲルさんを守るため、オトラー義勇軍を使い、追放反対派の国を作ろうとしているのだ。


 そのイザゲルさんが、イコロ村襲撃の犯人だなんて、考えたくもないだろう。


 俺だって、同郷の彼女に親を殺されたなんて、できれば信じたくない。


 たとえ彼女がデモンクーズを使った反動で闇に堕ち、正気を失っているのだとしても、許せるという自信はなかった。


 だけどそれ以上に、いまはもっと差し迫った問題がある。


 クルーエルファントは、あれからもしばしば領地内外の村に現れ、多くの被害をだしているのだ。


 オトラー義勇軍には、クルーエルファントに家族を奪われた人たちが、何人も在籍していた。


 このままでは、イザゲルさんを擁護してきたこの義勇軍自体が、空中分解しかねない。


 そうなると、俺たちが守っている闇属性魔導師たちは、また迫害に遭ってしまうだろう。



「そうか……。なんにしても、イザゲルさんは早く見つけねーとな」


「オルフェル先輩……」



 俺が深刻な顔をしていると、イソラは不安げに俺を見あげた。闇属性の彼女は、俺よりショックが大きいのかもしれない。


 俺は彼女を励まそうと、その小さな肩に手を置いた。



「大丈夫だイソラ。たとえイザゲルさんがすげー悪さしてたってさ、闇属性の魔導師がみんな悪いわけじゃねーって、わかってんのがオトラーだろ。俺はオトラーの仲間たちを信じてる。イソラも信じてくれ」


「はい……!」



 イソラが頷くと、アリアンナは向かいに座る彼女の手を握り、彼女に優しく微笑みかけた。


 彼女も闇属性の魔導師に偏見を持たず、いつだって平等に扱っている。



「そうだよ。これ以上闇のみんなは苦しめさせない。私たちが守るよ」


「ありがとう、アリアンナさんっ」


「あれ、なんかふたり、俺の上で仲よくなってる?」


「はいっ。ここで毎日、楽しくお話してたので」


「「ねー」」



 俺を挟んでここで話し込んでいた二人は、この数日で、すっかり仲よくなったらしい。


 どうやら俺は、井戸端会議の井戸だったようだ。


 そのあと、俺は医務室を出て、食堂で五日ぶりの食事を摂った。俺の周りに、仲間の義勇兵たちが集まってくる。


 そして俺は、森の奥の怪しい研究施設に関する、恐ろしいうわさ話を聞いたのだった。

 胸に穴が開いたオルフェルが目覚めると、そこには二人の後輩が。


 なかなか胸の傷が大きい彼ですが、後輩たちに励まされ、少し元気が出てきました。


 だけど、イザゲルさんの件が本当なら、オトラーはたいへんなことになりそうです。


 話しあいをするというハーゼンさんのもとへ行く前に、食堂に寄ったオルフェルは怖いうわさ話を聞くことに……。


 次回、第百十四話 怪しい噂1~木霊する悲鳴~をお楽しみに!


挿絵(By みてみん)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。


こちらもぜひお読みください!



ターク様が心配です!~不死身の大剣士は寝不足でした~



カタレア一年生相談窓口!~恋の果実はラブベリー~

― 新着の感想 ―
ですよねー。 エンベルトのブラインディングレイは、名前からしててっきり目つぶし光線だと思いました。 聖騎士様が目眩ましを使って逃げるんですね、ぷーくすくす……と思っていたらオルフェルに大穴が空けられ、…
[一言] 花車様おはようございます! 不覚にも身体に穴を開けられてしまったオルフェル。 そして心配する後輩たち。 だけどイザゲルが果たしてどう動いているのか!? 次を期待大です(っ ॑꒳ ॑c) 本日…
[良い点] 現代日本人にはわからない感覚ですが、騎士もオルフェルが目指していた存在。 その憧れの存在に大切な人たちを奪われたとあっては、尚更に平静ではいられないでしょう。 オルフェルの胸を貫いた魔道…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ