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三頭犬と魔物使い~幼なじみにテイムされてました~  作者: 花車
第8章 責任と衝動

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110 ういってなに?~人間のなりかた~

 場所:レーデル山

 語り:オルフェル・セルティンガー

 *************



――そうだ、せっかくシンソニーに背中押してもらったし、ちょっと踏み込んだこと聞いてみるか……?



 そう思った俺は、思い切って、いまいちばん気になっていた話をミラナに切り出した。



「なぁ、ミラナ。俺、人間になりてーんだけど」


「え? いま、オルフェル、人間だけど?」



 聞きかたが悪かったのか、キョトンとした顔をするミラナ。


 だけど、俺は最近ひしひしと感じていたのだ。


 たとえ俺が大人っぽくなれても、飼い犬のままでは意味がないと。


 俺は少しミラナに近づいて、彼女の手からスープを奪った。



「そうじゃなくて、俺たちが魔物じゃなくなる方法、ミラナ、しらねーか?」


「へ!? し、しらないよっ」



 彼女は慌てた顔で、俺からすっと目線を逸らす。知るわけないだろうと思いつつ聞いたんだけど、これは完全に、知ってるやつだ。



「あぁっ! ミラナ……知ってるな!?」


「しらないったら」


「ウソつけ。俺、ミラナのこと、前よりだいぶんわかってんだからな」


「わ、私もう寝るっ」


「待てって。逃げんなよ」



 慌てて逃げようとするミラナの腕を掴んだ俺。そのまま彼女を引き寄せて、腰にある彼女の魔笛を押さえた。



「やだ、はなしてよ」


「ちゃんと言わねーと、はなさねーよ?」


「オルフェル、レベ……がふっ」



 俺を犬にしようとする彼女の口を、俺はとっさに手で塞いだ。



「待って、ミラナ。俺の話聞いて?」


「んもごっ」



 ミラナがジタバタと暴れだして、やむを得ず、後ろから彼女を抱きしめる。



――しまった。抱きしめてしまった。



 後ろから抱きつかれたことなら何度かあるけど、俺から抱きついたのははじめてだ。


 ミラナは驚いたのか動きを止めて、すっぽりと俺の腕のなかに納まった。


 柔らかな彼女の髪が俺の顎に触れている。



――あー、よかった。ミラナが生きてる……。


――だけど、ほんと細いな……。俺が見失ってる間に、すげー苦労したんじゃねーか……?



 くっついて彼女の存在を確認すると、俺の心は満たされていく。


 両想いのはずの俺たち。ミラナも俺に抱きつくのは好きだったし、これはひょっとしてひょっとすると、許容範囲内なのだろうか。



――いや、そんなわけねーか。完全にやっちまった。やっちまってるぜ!



 一瞬幸せな気分に浸ってしまった俺。


 だけど、最近ずっと微妙な距離感だったことを思うと、これは間違いなく失敗だろう。


 人間になれるという期待と、仕置きへの不安、そして緊張と感動と興奮が俺の鼓動を早くする。


 だけど思い切って素直な気持ちを伝えれば、ミラナは必ず俺に向きあってくれるはずだ。


 俺は声を落ち着けて、彼女の耳にできるだけやさしく囁いた。



「言えないときもあるから言うんだけど、俺、ミラナが好きだ……」


「もごっ」


「俺さ、ミラナが死んだと思い込んで、ほんとにすげー寂しかった。だから、いまこうやって一緒にいられて、めちゃくちゃ幸せだって思ってる」


「んもんも……」


「なんでミラナを振ったりしたのかわかんねーけど、今度はなにがあっても、絶対絶対離さねー。それは、ほんとに、ほんとのほんと……。わかる?」


「もご……」


「だけど今度は、好きって気持ちだけじゃなくて、ちゃんとミラナを幸せにしたい。人間になって、人間の大人の男として、責任を持って、俺がミラナを幸せにしたい。わかる?」


「もごっ」


「だから、知ってるなら教えて欲しい。どうやったら俺、人間になれんの?」


「んんっもごっ……」


「あ、これじゃしゃべれねーか……」



 ミラナの口を覆っていた手を少し浮かせてみると、彼女の口からあがった息の音が聞こえてきた。



「はぁっ、はぁっ。もうっ、苦しいじゃないっ。はなしてったら」


「はなしたら教えてくれんの?」


「しらないって言ってるのにっ」


「いや、絶対ウソだし。てか、ミラナ顔真っ赤だぜ。大丈夫?」


「だって、オルフェル熱いし、耳元ですごい囁くから……」


「耳弱い?」


「あひゃっ。バカッ! もう! オルフェル、レベ……もごっ」



 また犬に戻されかけて、ミラナの口を塞ぐ俺。ミラナがますます赤くなって、うらめしそうな唸り声をあげている。



――あー、ダメだ。もごもご言ってるミラナが可愛いすぎる……。これは間違いなく大宇宙からの贈りものだな。


――うーむ、だけど俺、確実に封印に向かって突き進んでるぜ。なにかの罠にはまったみてーだ。



 だけど俺もこうなってしまった限りは、どんな罰も受け入れる覚悟だ。


 せっかくだから、もっとほかのことも聞いてみたい。



「なぁ、なんでそんな、いろいろ秘密にしてんの? そんなに俺、信用できねー?」


「んーっ」


「ミラナにちょいちょい避けられて、俺結構傷ついてんだけど、わかる?」


「んんーっ」


「なぁ、俺とあの黒猫どっちが好き?」


「もんーっ」



――うーん、口塞いだままじゃ、なに言ってっかわかんねーな。


――こうなったら、これしかねーか……?



 俺は思い切って、ミラナの口に指を一本差し込んでみた。


 ミラナは驚いたのか小さく飛び跳ねて、「ひぁっ!?」っと叫びながら俺の手を掴む。



「これ話せる?」


「おうふぇうっ、ええるわうん!」


「んー? レベルダウン? 言えてねーよ?」


「ぅぇえうわぅっん」


「ミラナ可愛い」


「もんーー!」



 俺の指を咥えたまま、赤い顔で俺を睨むミラナ。俺は少し調子に乗ってミラナの首に鼻を付けた。



「ミラナはいつもいい匂いする……」


「はふっ……」


「はやく教えてくんねーと、魔物ってあんまり理性ねーから」



 荒くなった俺の吐息に、ミラナの体が反応している。


 俺はミラナの髪に鼻を埋めて、彼女の耳に唇をつけた。



「なぁ、俺ちゃんと人間になりたい」


「んはぁっ。おうふぇうっ。ういらよっ」


「え? ういってなに?」


「ういらお。えいえいらちろいちゅけらいろ……」


「……えいえいらちろ……?」


「もっ、おうふぇうっ」

「あいたっ」


「オルフェル! レベルダウン!」



 もうひと押しだと思っていたら、ガリッと指に噛みつかれてしまった。仕方なく指を抜く俺。


 ミラナはすぐに、俺の解放レベルを下げてしまった。



「いってー。噛むか?」


「もうっ、耳舐めるんだもん」


「なっ、舐めてねーよ? キスならしたけど」


「えぇっ……?」



 赤い顔で耳をおさえていたミラナが、また不思議そうに俺を見あげている。



――なに? もしかして俺、舌でてんの!?



 慌てて自分の口を抑えた俺。


 ミラナがなぜか、ニヤニヤしながら俺を見ている。



「ぷっ、オルフェル。犬耳生えてるの、気付いてる?」


「えぇ……!?」



 ミラナに言われて頭を触ると、確かにフサフサした三角の耳が、ピョコッとそこに生えていた。



「げ、ウソ。めちゃくちゃ恥ずかしいっ」


「わ、尻尾も生えてる。可愛いよ。似合ってる」


「ほんとやめて!?」



 尻に手を回すと、そこにはフサフサの尻尾がはえていた。これは俺の気分にあわせて、勝手に動いてしまうやつだ。


 見た目二十一歳の俺にはつらすぎる。



「ほんとにもう。それお仕置きだから。しばらくそのまま反省してね」


「ごめん、ミラナさん! これ見た目ひどすぎだぜ! お願い! ちゃんとレベル上げるか下げるかして!?」


「しらないっ」


「えぇーー!?」



 お仕置きされるのは覚悟していたけど、まさかこんな新しい仕置きがあったとは……。


 愕然とする俺を残して、ミラナはテントに戻ってしまった。



挿絵(By みてみん)



 ミラナに『人間のなりかた』を聞くオルフェル君。ミラナはなにか知ってるようですが、どうやら言いたくないみたいです。


 聞き出そうとして暴走したオルフェル君は、犬耳にされてしまいました笑


 実はこのバックハグの挿絵はこのシーンのものでした。やっとお話が追い付いたのでちょっと修正してみました。


 八章は次のお話でラストです!


 次回、第百十一話 爆進~最強の三頭犬~をお楽しみに!


挿絵(By みてみん)

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― 新着の感想 ―
読みながら「あの挿絵のシーンでは??」と思っていたらやっぱり!! 犬耳になってしまったオルフェルも可愛いですが、黒猫のことを気にしているところも可愛い笑 序盤と印象は変わったものの、まだまだミラナが…
素晴らしいイチャイチャ回でしたね。ごちそうさまです! 残念ながら何も教えてもらえませんでしたが、人間に戻る方法があることだけは分かって希望は持てそうです。 ほんと、ういって何? お仕置きはそういう獣…
[一言] なんだかんだ言ってイチャイチャしてるやないかーい⁝( ‘ᾥ’ )⁝笑 確かにオルフェルは人間に戻りたいだろうしミラナは何かあるのだろうか( ߹ᯅ߹) ふぇーん! 俺もイチャイチャしたいよ…
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