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三頭犬と魔物使い~幼なじみにテイムされてました~  作者: 花車
第8章 責任と衝動

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109 交代~スープでも飲む?~


 場所:レーデル山

 語り:オルフェル・セルティンガー

 *************



「オルフェル、交代の時間だよ」



 シェインさんの柔らかな声に起こされて、俺、オルフェル・セルティンガーはテントのなかで目を覚ました。



「うっす……。あれ? シンソニー?」


「ん~、だいすき……」


「え、なんかいい夢みてる?」



 いつの間にかシンソニーが隣に寝ていて、俺にガッチリ抱きついている。


 なんだか幸せそうな顔でむにゃむにゃ言ってるシンソニーに、思わずほっこりしてしまう。



「はは。オルフェルがあったかいからかな? 外は結構寒かったから」


「そうなんですね。ごめんシンソニー、俺見張り当番だから、ちょっとはなして?」



 俺がそっとシンソニーの手をはがそうとすると、シンソニーが目を覚ましてしまった。



「ごめん、起こした」


「わ、僕こそごめん」


「スープでも飲む?」



 見張りの終わったシェインさんと入れ替わりに、俺はシンソニーを連れてテントから出た。



「なんかあんまり寝た気がしねーな~。いろいろ思い出して」


「僕もだよ。オトラー帝国を見たからかな」



 俺は焚火に魔力を注いで火力をあげ、鍋に残っていた夕飯のスープを温めなおした。


 シンソニーと並んで座り、さっき思い出したばかりの話をする。


 シンソニーは俺の話を、始終苦々しい表情を浮かべて聞いていた。



「義勇軍で、俺たちが戦ってたのは、魔物ばかりじゃなかったんだな」


「うん……あんまり思い出したくないけど。僕たち、戦争してたね」


「ネースさんにもらった、このおもちゃみたいな剣で……俺は……」


「うん……」



 震える手でトリガーブレードを握りしめると、シンソニーが俺の肩に手を添えた。



「だけど、オルフェ。僕たちにも守りたいものがあったんだ。僕たちは自分の仲間や、生活を守るために戦ってた。それだけだよ」


「そうだな……。わかってはいるけどさ。もう、学生気分ではいられねー」


「ほんとだよね」



 レーデル山の上から並び立つ山々の向こうに見える、オトラー帝国に目をやる俺たち。


 街灯がたくさんあるのか、夕方より輝いてよく見えている。



「シンソニーから見て、あのころ俺はガキだった?」


「オルフェは熱くなると大ケガするから、そういうとこは子供かな」


「わりー」


「だけど、責任を背負って動けるところは大人だなって思ってたよ。僕は結構、自分のことで精一杯だったからさ」


「いや、シンソニーいねーと俺百万回は死んでるぜ」


「はは」



 何度も俺の命を救ってくれたシンソニーが、謙遜するように小さく笑う。


 だけど俺が、好きなときに熱くなれるのはシンソニーがいると思えるからだ。



「あのあとみんなどうなったかな」


「オトラーがいま、あんな立派な国になってるんだからさ。みんなきっと幸せになったんだよ」


「そうだよな……。あ、それで、シンソニーはなにを思い出したの?」


「あ……僕も、すごいこといっぱい思い出しちゃったよ……」



 少しもじもじしながら、さっき思い出したという記憶を話すシンソニー。


 それは、なかなか、中身の濃い話だった。



「そうか、シンソニーもエニーと。絶対そうだろうと思ってたぜ。よかったじゃねーか」


「だけど、なんだか不安になっちゃってさ。ニーニーがこのこと、忘れてるんじゃないかって思うと……」


「俺らみたいに、もう別れてたりとか……?」


「あぁっ! それは考えたくない!」



 頭を抱えてしまったシンソニーに、俺は慌てて謝った。だけど本当に、二人なら大丈夫だろうという気がする。


 シンソニーは俺みたいに、でかい失敗をすることはあまりないから。



「あー、俺なんでミラナと別れてんのかな。ほんと、何回考えても、わけがわからねーよ」


「死んだと思ってたミラナと、どこかで再会したんだよね」


「そんな感動的な再会して、やっとの思いで恋人になったんだろ? 別れるか?」


「ミラナだっていまも、オルフェのこと絶対好きなのにね」


「そう!? そうだよな!? だけど、はーぁ。なにこの謎すぎる状況。俺ずっとこのまま、ミラナの飼い犬かー?」



 俺がぐじぐじとぼやきはじめると、シンソニーは、少し真剣な顔で、俺のほうに向きなおった。



「あのときさ、オルフェがエニーはそこにいるだろって、僕の背中を押してくれたんだよ。だからさ、僕も、きみの背中を押してもいいかな?」


「うん……?」


「ミラナは確かに、かなりの秘密主義だよ? だけど僕、いまのオルフェは少し、気を使いすぎなんじゃないかな? って思うんだよね」


「というと……?」


「だってほら、相手がキジーくらい強引だと、ミラナもわりとすんなり引いてたりするよね?」


「それは確かに」


「まぁ、キジーはやりすぎだとしても、そんなに悶々悩むくらいなら、もう少し踏み込んで聞いてみてもいいんじゃないかなぁ」


「ふむ……」


「ほら、ミラナはそこにいるよ。聞けばきっと、答えてくれる」


「……そうか……そうだよな! ありがとう、シンソニー!」



 シンソニーが、俺の肩を叩いてテントに戻っていく。その背中に、俺はまた話しかけた。



「早く、エニーに会いたいな」


「うん……!」



 にこっと微笑んだシンソニーが、テントに消える後姿を見送る。



――やっぱり宇宙一いいヤツだな、シンソニーは。



 ひとりで見張りをはじめた俺は、いまシンソニーに聞いた話を思い返していた。


 ライルの守護精霊だった大精霊のマレスが、クルーエルファントを生み出し、イザゲルさんがそれを操っていたというエンベルトの話だ。


 もしそれが本当なら、あのとき俺がクルーエルファントの上で戦ったのは、イザゲルさんだったということになる。


 俺はイザゲルさんとほとんど面識がないうえ、顔もモヤで隠れていた。もしそうだとしても、気付くことができない。



――だけど、そんなはずねーよな。いくらなんでもそんなこと……。イコロには、イザゲルさんの父親だっていたんだぜ……。


――そうだ。きっと、エンベルトの罠じゃねーかな? そういやこの傷、あいつにやられたんだったか。



 自分の胸部に残る大きな傷跡に手を置くと、ひくっと口元が引き攣った。



――こういうとこがガキなんだな、俺は……。よく知らねーのに、下心で騎士を目指したりして。


――そりゃ、ミラナも呆れるよな。



      △



 ぼんやり考えごとをしていると、目の前になにか飛んできた。


 キラキラと虹色に輝きながら、ふわふわといくつも漂っている。



――シャボン玉……。ミラナか?



 シャボン玉の飛んでくるほうへ歩いていくと、高い崖の上で魔笛を持って立っているミラナの姿が見えた。


 魔笛からシャボン玉をだしては、少女のようにそれを目で追っている。



「ミラナ、そんなとこでなにしてんの? 一人であぶねーよ? 外出るなら声かけてくんねーと……」


「オルフェル……? ごめん、テントが寒くてつい……」


「ベランカさんか……」



 朝焼けのなか、漂うシャボンに囲まれて、振り返った彼女の向こうに、オトラーの景色が広がっている。


 シャボン玉は虹色に輝き、風に乗って遠くへ飛んでは、ひとつ、ふたつと割れて消えた。


 それはまるで、ミラナのようだ。


 美しくて儚くて、手を伸ばすと消えてしまう。



「オルフェルは、帰りたい?」


「ん……。そうだな、もし帰れるなら、フィネーレたちに会えねーかなって思ったりするけど。オルンデニアも気になるし、親の墓と、グレイン川にも……」


「オトラーは、敵国だよ」


「そう……みたいだな」



 逆光で見えない彼女の表情。だけど、俺の言葉を遮ったその声は、少し悲しそうに聞こえた。


 ミラナがなにを思っているのか、俺にはわからないことだらけだ。


 だけどいまはとりあえず、ミラナの悲しむ顔は見たくない。



「まぁ、無理ならしかたねーけどな。それよりこっちきて。スープ、温めたから」


「うん……」



 俺はミラナを連れて戻り、焚き火のそばに座らせた。


 久しぶりにミラナと二人きりだ。あたたかいスープを渡す俺。


 ミラナの唇がカップに触れるのを見ただけで、俺の心臓はドクンドクンと音を立てた。


 熱いスープをフーフーと冷ます彼女の仕草が可愛いくて、目が離せなくなってしまう。


 すぐそばにいるミラナとのこの距離が、たとえどんなに遠くても俺は手を伸ばさずにいられない。



――そうだ、せっかくシンソニーに背中押してもらったし、ちょっと踏み込んだこと聞いてみるか……?



 そう思った俺は、いちばん気になっていることを、思い切ってミラナに聞いてみることにした。



挿絵(By みてみん)

 思い出した記憶について語るオルフェルとシンソニー。ちょっと回想の情報量が多くて、作者も頭整理できませんが、思うところはいっぱいあったようです。


 そしてオルフェル君は、近くて遠いミラナちゃんになにか聞こうとしているようです。


 挿絵はレーデル山から見下ろしたオトラー帝国のイメージです。


 次回、第百十話 ういってなに?~人間のなりかた~をお楽しみに!



挿絵(By みてみん)

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― 新着の感想 ―
シンソニーもいいことを思い出せたようで何よりです。 早くエニーと再会できますように! さて、オルフェルは何について聞くんでしょうか。 実際、ミラナに対しては少し強引に踏み込むくらいでいいような気がし…
[一言] オルフェルは色々思い出す。 そしてそれをシンソニーと話しミラナに踏み込んだ話をしようと決心する。 これは展開が期待されそう! 徐々に花車様の作品に追いついてしまいそう⁝( ‘ᾥ’ )⁝ …
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