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三頭犬と魔物使い~幼なじみにテイムされてました~  作者: 花車
第8章 責任と衝動

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107 ネギ野郎な僕2~悪の軍団と聖騎士軍~

改稿しました(2024/11/21)

 場所:レーギアナの森

 語り:シンソニー・バーフォールド

 *************




「みつけたぞ、聖騎士軍! これ以上おまえたちに愚かな行いはさせない!」



 レーギアナの森を行軍し、僕たちはエンベルトの率いる聖騎士軍を発見した。


 ハーゼン大佐が大声をあげながら近づいていく。


 聖騎士エンベルトも、白馬に跨り長い金髪をなびかせて、僕たちのほうに進み出てきた。


 奇襲はしかけず、危険を冒しても話しかけるのは僕たちの方針だ。


 僕たちはまだ、互いが歩み寄れる可能性を、完全に捨ててはいなかった。


 それに、相手が悪いからと卑怯な手を使ったのでは、義勇軍は評判や信頼を失い、兵たちの士気もさがってしまう。


 エンベルトは王国軍時代と変わらない青い騎士服を身にまとい、いかにも立派な騎士の風格を漂わせていた。


 その姿に、僕たちはみんな身構える。


 彼の姿だけ見れば、いまだにイニシス王国は存続しているようにも思えた。


 だけど実際に、王国はもう存在しない。


 僕には彼が、聖騎士であり続けたいとあがき、かつての栄光に縋りついているように見えた。



「来たな! イザゲルを守ろうとする悪の軍団オトラーよ! 聖騎士エンベルトの名において、闇に侵されたものは全て、このイニシス王国から排除する!」


「はは! イニシス王国なんてどこにある! そんなもんはとっくに崩壊したぞ! 罪もない人を手当たり次第殺しやがって、いい加減にしろ!」



 僕たちを()()()()だという彼らは、複雑な国章が刺繍された王国軍の旗を掲げ、まるで誇り高い英雄のようだ。


 そんな彼らを前に、ハーゼン大佐は冷やかすように乾いた笑い声をあげた。



「いまや新政府を名乗る組織は乱立し、正規軍だったおまえらとは別の軍が国土の大半を支配している。あの国は滅亡したんだ」


「バカめ! イニシス王国は滅亡などしていない!」


「これだけたっても王都も消えたまま、国王もいないのにか? オトラーだってもう独立国家だ。オレたちはイニシスに戻る気はないぞ!」


「はっ、オトラー国のクーラー王か。そんなものはだれも認めない、おまえらの戯言だ! 田舎者の猿山の大将ごときが国王を気取るなど恥を知れ」


「シェインへの侮辱はオレが許さない!」


「もう一度言う。王都は消えてはいない。あれは闇属性の封印魔法だからな。国土の闇を浄化すれば封印は解かれ、王都オルンデニアは復活するのだ!」


「それこそおまえらの戯言だ。おまえらの浄化すべきは闇のモヤであって、闇じゃない。闇自体は悪でも穢れでもないからな。光と闇の均整を守るのがおまえらの仕事だったはずだろ。いまおまえらのやってることは、シャーレンの教えにも反してるぞ」


「ははは。これ以上話しても無駄のようだな。かかれ! イニシス王の兵士たちよ! 王都復活を阻む逆賊の台頭を許すな!」



 エンベルトは突然話を切りあげると、顔を歪めながら敵陣へ戻ってしまった。


 彼は本当に僕たちが尊敬していた、あの聖騎士エンベルトなんだろうか。


 一見すると立派に見えるけど、その態度はどこか投げやりで、話し方も早口で落ち着きがないみたいだ。


 ともかく僕たちの話し合いは決裂し、戦闘は開始された。こちらは三百人余りなのに対し、あっちは五百人近くいる。


 だけどみたところ、大半は魔力のない一般兵だ。魔導師たちもいるけれど、守護精霊は見当たらない。


 怖いのは指揮官の騎士たちくらいで、あとは僕たちの敵じゃない。毎日の戦いと訓練で、僕たちは強くなったんだ。


 エンベルトの合図で、弓兵たちがこちらに向け一斉に矢を放ってくる。



「ゼヒエス! リジェクトウィンドで吹き飛ばして」


「お任せおば♪」



 緑に輝く強烈な風が、飛んできた矢を吹き戻す。矢が自分たちの仲間に突き刺さると、弓兵たちはもうすっかり青い顔だ。



「怯むな! 行けー!」



 エンベルトが鼻にしわを寄せながら叫んでいる。今度は剣士たちが剣を振りあげ向かってきた。



「いけ! バスターゴーレム!」


「「「ぐぉぉぉおおおおおぉぉ!」」」



 ハーゼンさんが呪文を唱えると、地面が揺れて割れ始めた。


 見あげるほどに巨大なゴーレムが地面のなかから何体も召喚された。土や石でできた怪力の巨人だ。


 ゴーレムはハーゼンさんの命令に従って、敵に向かって一斉に突進する。


 それは強靭な肉体をもつ聖騎士軍の剣士たちを、虫けらのように殴り飛ばした。


 衝撃で地面が凹み、茶色い砂埃が舞い上がる。味方でも焦るくらいの迫力だ。



「みんなかかれー!」



ミシュリ大尉の掛け声が響いた。彼女は僕たちが所属する中隊の中隊長で、カタ学の先輩でもあった。



  ――ジャキーーーーーン!――

    ――ヴォン・ヴォン・ヴォン!――



「いくぜ、フィネーレ! あのふさふさのついた兜、熱々にしてやろーぜ」


「んふふ。楽しそうね!」



 オルフェがトリガーブレードを抜く音が鳴り響く。


 その音を合図に、第一分隊の隊員たちも、武器をかまえて走り出した。



「フェロウシャスレッドティガー!」



 ミシュリ大尉が二匹の燃え盛る虎を召喚する。


 苛烈な炎を纏い走る、真っ赤な虎だ。それは敵の兵士を骨ごと砕き、肉を食いちぎり、燃えあがらせる。


 ハーゼン大佐のゴーレムより数は少ないけど、その恐ろしさはこの大隊でもトップクラスだ。



 あとに続いたオルフェも、まるで炎の魔人みたいだった。


 彼の身体能力は強化魔法でありえないほどあがり、炎属性の魔導剣士というには規格外れな強さになっていた。


 強化魔法は危険な魔法だ。親和性の高いフィネーレを信頼しているからこそ、オルフェはここまでできるんだ。


 彼が繰り出す全ての攻撃に、炎属性魔法が乗っている。


 ドンレビ村が襲撃されたときに火傷をしてから、装備を見直し、炎耐性もますますあがって、いまは火傷の心配もないらしい。


 人間離れした速さで突き出される剣撃。その爆風は周囲の敵までよろけさせる。


 多彩に繰り出される連続斬りも、相手の動きを封じながら隙を逃さずついていく。



「ぎゃぁぁ! おまえ、ほんとに人間か!?」


「はっはー! こんなもんだと思うなよ! フィネーレの力を思い知れ! フェロウシャスオルトロス!」



 慌てる敵兵の叫び声に、オルフェの調子はどんどんあがっていく。


 回転切りで巻きあげられた円形の炎から、二頭の魔犬が出現し兵士たちを追いかけ喰らいついた。


 あれはミシュリ大尉に仕込まれた彼の大技だ。


 オルフェは次々に敵兵たちを燃えあがらせながら敵陣を突き進み、馬上で目を見開いている騎士の一人に襲いかかった。


 空高くジャンプしてからのトラストエッジの破壊力は凶悪だ。



「ぐあぁぁぁ! なんなんだ、おまえはぁぁー!」


「俺は炎の化身オルフェル・セルティンガーだっ」


「鬼畜野郎がぁぁ!」



 青ざめながら叫び、燃えあがる騎士。


 オルフェ一人だけでも、かなりの聖騎士軍を倒したんじゃないかな。




 そして、ニーニーの落とすフォーリングスターも、ますます威力をあげていた。


 攻撃範囲も広がって、まるで流星群のようだ。


 仲間の闇属性魔導師と連携することで、混乱効果も追加されている。


 それは眩しく敵陣にふりそそいで、騎士たちを大混乱させた。


 混乱して仲間に攻撃している聖騎士なんて見たら、敵でもちょっと悲しくなるよね。


 魔法を使うニーニーの周りは、親衛隊のリゼルたちが、彼女を守る騎士のように取り囲んでいた。


 戦闘中の彼女には、敵はおろか、味方の僕さえ近づけない。


 全力を出すまでもなく、僕たちと聖騎士軍の力の差は歴然だ。



 自分を取り巻いていた兵士が腰を抜かしたり、おたおた逃げ出したりするのを見ると、エンベルトは馬上から魔弓を放った。



「数多の光の微精霊たちよ! 金色の弓に姿を変え、誅伐の矢を撃ち放て! シャイニングアロー!」



 眩く光る矢が、ハーゼン大佐めがけて飛んでいく。


 さすがにエリート騎士だけあって、同時に十二張りもの弓を出現させて矢を放つ、おそろしい最上級魔法だ。


 彼のシャイニングアローは、闇属性魔導師たちの守護精霊を、ことごとく打ち消したといわれていた。


 眩しさに目を細め、焦る僕たち。


 だけど、長い呪文を唱えたわりには、まるで思ったほどの威力がない。



「ジゾルデ」


「あいよ」



 名前を呼ばれ、地面のなかから現れたハーゼン大佐の守護精霊が、土の壁を立ちあげそれを防いだ。


 エンベルトの周りに浮かび、禍々しいくらいに光り輝いていた弓が、砕けるように消え去っていく。



「聖騎士エンベルト! シャーレンの祝福はどうした!」



 シャイニングアローをこともなげに防がれ、エンベルトは顔を引きつらせた。そこへオルフェが飛んで斬りかかる。


 聖騎士たちは光の大精霊シャーレンから、祝福を受けているはずだった。


 大精霊の祝福があれば、呪文なんか唱えなくたって、もっと強力な魔法が使えるはずだ。


 それがいまは、まったく力が感じられない。


 激しい炎を放つオルフェの剣に、「くっ」という、エンベルトの声が響く。


 だけどやっぱり、エンベルトも反応が早い。とっさに盾をかまえて、オルフェの剣を防いでいる。



「言わなくてもわかるぜ! 闇の精霊を殺しまくったせいで、シャーレンに愛想つかされたんだろ」



 オルフェの激しい攻撃がエンベルトを襲う。エンベルトは顔をしかめながら、「チッ」と大きな舌打ちをした。


 オルフェの言ったことに、まず間違いはないだろう。精霊たちは、属性はなんであれ仲間意識が強い。


 精霊の力を使い精霊を殺せば、精霊たちに見放されるのは当然だ。


 聖騎士軍の兵たちは、精霊に嫌われ弱体化した。だから僕たちはこんなふうに、彼らを追いつめられるようになったのだった。


 剣を盾で払われたオルフェが、後方に飛んで地面に足をつく。


 だけどまたすばやくジャンプして、馬上にいるエンベルトに再び剣を振り下ろした。



「さっきの弓で、ミラナもクイシスも殺したんだろ! 嫌われて当然だ! ミラナを返せ!」


「クイシス? ミラナ? だれだそれは。聖騎士が処刑した罪人を、ひとりひとり覚えているとでも思ってるのか?」


「このゲスやろーっ! 犬も食わねー!」



 弾丸のような勢いで何度も何度も斬りかかるオルフェ。


 エンベルトは気圧されながらも、嫌な笑みを浮かべてそれを防いでいる。


 オルフェは怒りのせいか、攻撃が単調になってるみたいだ。



「ふん、祝福など必要ない! 魔力に飢えた微精霊たちは空気中に溢れているからな! これをくらえ!」



 エンベルトがそう言いながら、かまえていた盾を突き出した。



――あれは!?



 僕が盾だと思っていたそれは、よく見ると、丸い鏡のような魔道具だった。



「オルフェッ! だめだ!」


「ブラインディングレイ!」



 僕の叫びは届かない。


 オルフェがそこに剣を撃ちつけると同時に、エンベルトは呪文を唱えた。



 森のなかで聖騎士軍と向きあうオトラー義勇軍。話し合いは決裂し、始まった戦闘は義勇軍が圧倒的に優勢です。


 勢いよく攻めすすんだオルフェルですが、ミラナの仇を目の前にすると少々冷静さを失ってしまいます。


 そこに、エンベルトの魔道具が炸裂して……?


 次回、第百八話 ネギ野郎な僕3~紛れもない悪~をお楽しみに!



挿絵(By みてみん)



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[一言] くっ! これは!! ミラナを思いオルフェルは激高!! 理性を失いかけ突撃に敵の攻撃が!! どうなるのか!!? 次話を期待です!!
[良い点] 遂にエンペルトとの決戦ですか。 とてもオルフェルの少し上の年に見えない、ハーゼンの貫禄です。 それに負けないくらいオルフェルはカッコイイ活躍。 なるほど。精霊に見放されて、弱体化したから…
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