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三頭犬と魔物使い~幼なじみにテイムされてました~  作者: 花車
第8章 責任と衝動

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104/291

104 責任3~火力をあげろ!~

改稿しました(2024/11/18)


 場所:ドンレビ村

 語り:オルフェル・セルティンガー

 *************



 魔導師に斬りつけた俺の剣は、黒い盾に触れることができず、勢いを失ってしまった。


 剣に込めた炎の魔力も、盾にあたると吸われたようにプスンと消えてしまう。


 これはやはり、重力魔法により作られた盾のようだ。


 重力魔法は闇属性魔法で、敵の攻撃を跳ね返したり、減速させたりすることができる。


 物理攻撃が当たらないだけでなく、火や雷などの魔法攻撃にも有効で、俺にとっては最悪の盾だった。


 だけど術者への負担が大きすぎるため、あまり長くはもたないはずだ。


 俺は集中力を研ぎ澄ませ、スピードをあげて、角度を変え場所を変え高速で連続攻撃を繰り出した。


 休む暇を与えなければ、必ず相手のほうが先に魔力がつき、隙ができると思ったのだ。


 息つく暇もない攻撃に魔導師も気圧されたのか、ときどき「くっ」と声を漏らした。


 だけどなかなか盾が消えてくれない。何度斬りつけても素早く移動して、俺の力を全て逃がしてしまう。



――なんだこいつ、どうなってる!? 魔力量がおかしいだろ!



 しかし、そうしている間にもクルーエルファントは村めがけて突き進んでいた。



――くそ、止められるつもりがっ。



 こんなことなら、みんなにもっとしっかりと、退避の指示を出すべきだった。


 魔法障壁を作ってるやつらの中には、この村の出身者も含まれている。その上みな勇敢で、責任感も強いのだ。


『逃げてもいいよ』と言ったくらいでは逃げてくれないに決まっている。


 だけどあの程度の障壁では、この暴れ狂う巨大な魔物を受け止めきれないのは明らかだ。



「フィネーレ! ブレイズアップだ!」



 俺はクルーエルファントのうえに立ったまま、足元から大きな炎を巻きあげた。


 黒い盾は俺の力を抑え込んでしまうけど、幸いなことに大きくはない。


 盾は無視して、炎でこいつを丸ごと燃やしてしまえばいいだけだ。



「おかしいよ! おかしいおかしいおかしい!」



 炎に包まれた魔導師が、慌てふためいてまた叫んだ。俺自身も燃えているのだから、()()()()と言われても仕方がない。


 だけど、日々炎魔法を扱っている俺は、炎耐性装備もしているし、フィネーレの加護もある。


 多少燃えたくらいでは慌てない。



「ぎひぃぃぃ! 熱いじゃないのぉ! 邪魔なクソガキね!」



 俺の炎を消し去ろうと、魔導師が黒い盾を振り回す。


 炎がかき消されそうになるのを見ると、いままでに感じたことがないほどの、強烈な怒りが俺のなかに湧きあがった。



「俺はもう、だれも失わねーー! なんとしてもおまえを燃やす!」



 俺の怒りに呼応するかのように、消えかけていた炎は再び俺と魔導師を包み燃えあがる。


 黒い魔導師は目を見開き、燃えながら呪文を唱えはじめた。



――こんな状況で、なにするつもりだ! おまえのほうが頭おかしいだろ!



 クルーエルファントを受け止めるつもりなのか、シモネルたちが出している魔法障壁の輝きが増している。


 みんな必死みたいだけど多分無駄だ。このままでは突き破られて踏みつぶされる。もう迷っている時間もない。


 焦りと怒りと猛烈な殺意は、俺のなかで赤黒く渦巻いたかと思うと、とたんに遠くへ離れていった。


 世界から色と音が消え去り、俺の心臓の音だけが熱く高く響いている。



「火力をあげろ! フィネーレ!」


「えぇ? これ以上はオルフェルも火傷するわよ?」


「俺ごとでいい、燃やせ!」



 気合を込めた俺の叫びに、フィネーレが呆れたようにため息をついた。


 俺がまた魔力を放出すると、燃えあがる炎は勢いを増した。俺ですら恐怖を感じるほどの苛烈な炎だ。


 それは暴れ狂う炎の龍のように、激しく旋回しながら立ち昇っていく。


 装備と加護の炎耐性が限界を超え、俺の肌が悲鳴をあげた。



「ぎゃぁぁぁ! おかしいよ! あんたおかしいぃ!」



 魔導師が再びそう叫ぶと、空中に紫黒色の光を放つ不思議な穴が現れた。



「まて!」という俺の叫びもむなしく、黒い魔導師がその穴のなかに消える。



「くそーーーー! あぢーーーーー!」



 俺は燃えながら魔物の背中から転がり落ちた。


 クルーエルファントの巨大な脚が持ち上がったかと思うと、俺の上に降りてくる。巨大な影に覆われても、俺は少しも動かなかった。



――ここで終わりか。



 そう思った瞬間、クルーエルファントの巨体が突如として消え去った。紫黒色の光に吸い込まれるように、周辺の魔物たちも瞬く間に消えていく。



「オルフェー!」「オル先輩!」



 アリアンナの放ったウォーターボールが俺を消火し、シンソニーのヒールが飛んできた。


 そのまま俺のもとに駆け寄ってきて、涙目で大きなため息をつく。



「もう、死んだかと思った!」


「来てくれるって信じてたぜ、シンソニー」


「オルフェを置いて逃げたりしないよ。だけどさすがに、ここまで無理するとは思わなかったけどね……。うわぁ、すごい火傷」


「まったく手がかかる! バカなクソガキですよ、ほんとにもう!」



 シンソニーが俺の火傷に手を添え、懸命にヒールを唱えてくれた。


 相変らずプンスカ怒っているゼヒエスも、できる限り俺の火傷を癒し、ずぶ濡れになった体を乾かしてくれた。



「二人ともありがとう」


「うん。でも、火傷の跡のこっちゃうな……」


「いや、みんなが無事なら火傷跡くらい気にしねーよ」



 見るとさっき燃えあがった腕にも、火傷の跡が残っている。だけど、ここまで治るだけでもすごいことだ。



「ゼヒエス。おまえのこと好きだぜ」


「キーー!」



 ゼヒエスを揶揄って遊ぶ俺を、アリアンナが不満げに見下ろしている。



「アリアンナ、逃げていいって言ったはずだぜ」


「オル先輩が心配させるからです!」



 アリアンナはそう言うと、泣きながら俺に抱きついてきた。イソラも反対側から抱きついてくる。



「「オルせんぱいーーっ!」」


「わ、そいや二人とも、俺のファンだったな。いやー、モテるな、俺!」


「バカなんですか? 自分ごと燃やすなんて!」


「もう、ああいうのやめてくださいっ」


「はは……。ごめんごめん」



 女の子たちに囲まれて調子に乗ってたら、結構ガミガミ怒られてしまった。


 魔法障壁を作っていた隊員たちが、村の前で立ち尽くしているのが見える。


 彼らもきっと、死を覚悟していたのだろう。


 俺の予想通り、誰一人として逃げる事はなかった。



――あの魔導師には逃げられたけど、とりあえず、みんなが無事でよかった……。



 村の入り口に戻り、エニーたちの無事を確認すると、自然と深いため息が出る。


 そうして俺は、今回の襲撃を報告するため、本拠地のあるオトラー村に向かった。




 重力魔法の盾に苦戦するオルフェル軍曹。


 障壁を維持する仲間を守るため、彼は決死の攻撃を仕掛けましたが、残念ながら黒い魔導師には逃げられてしまいました。


 とりあえず村は守れたので、報告のため本拠地へ帰ります。


 次回、第百五話 責任4~おもちゃの天才~をお楽しみに!


挿絵(By みてみん)



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― 新着の感想 ―
ああ、とうとう出てきましたか、悪に堕ちた闇魔導師が。 その存在はいろいろなところで示唆されていましたけど、魔物を操って町や村を襲って回っていることが確定してしまえば、やはり戦慄を禁じ得ません。 これ…
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[良い点] 驚くほど多い魔力量とは、敵にも何か仕掛けがあるのかも。 何について、おかしいと言っているのか。 彼女たちが消えた不思議な穴とは。 そして何がしたかったのか。 色々細かい伏線がありそうです。…
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