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三頭犬と魔物使い~幼なじみにテイムされてました~  作者: 花車
第8章 責任と衝動

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103 責任2~クルーエルファント~

 場所:ドンレビ村

 語り:オルフェル・セルティンガー

 *************



 俺は残った数名の兵とともに、東から回り込んでくる魔物と戦いはじめた。


 義勇軍に入って日の浅いアリアンナが、新しく支給されたネースさん作の杖に戸惑っている。



「ちょ、オル先輩! 私の杖、紙吹雪が飛び出して止まらないんですけど」


「問題ない、気にせず戦え! そんなだけど威力はすげーからね!?」


「は、はい……」



 あらためて、紙吹雪の噴き出す杖をかまえたアリアンナ。


 まだ少し不満なのか、ぷくっとした厚めの唇を突き出している。


 明るい水色の髪をした彼女は水属性の魔導師で、イソラと同じくカタ学の後輩だ。



「アリアンナ! この前訓練した連携魔法を!」



 闇属性のパヴィオがアリアンナに声をかけている。彼女の守護精霊が嬉しそうに手を振り上げると、アリアンナは真剣な顔で頷いた。



「了解です!」「いくよ!」


「「水よ! 降り注ぐ毒となり悪しき魔物を死滅させよ! インテンスコロージョン!」」



――チュイーーーン!――



 二人が呪文を唱えると、アリアンナの杖が光りながら唸って、耳をつく効果音が鳴り響いた。



「わ、びっくりした」


「大丈夫、一応それ、音量下げるボタンあるから。ここ押してみて」


「もうっ、いったいなんなんですか!?」



 パヴィオが音量のさげかたを指南するも、アリアンナはまた怒りだした。


 だけど、毒性の雨を降らす強烈な連携魔法に、前方の魔物たちが苦しみもがいている。



「すげー効いてるぜ! やるじゃねーか。パヴィオ、アリアンナ!」


「「はい!」」


「よし! 俺もいくぜ!」

――ヴォン・ヴォン・ヴォン!――



「わっ。オルフェル軍曹、びっくりするんで、いきなりそれ鳴らすのやめてください」


「え!? あ、ごめん。力んだらつい……」


「わぁっ、今度は鳩が出た」


「ひょー! 鳩! はじめて見たぜ!」


「なに喜んでるんですか、軍曹!」


「ネースさんの武器、どんどん悪化してませんか? 戦闘中に気が散って危ないですよ」



 パヴィオも、ネースさんの作った剣を振り、魔物を倒しながらも顔をしかめている。



「うーん……。これでも一応、ネースさんにお願いはしてんだけどね……」



 隊員たちがイライラしはじめて、さすがに顔をしかめる俺。


 ネースさんの装備のにぎやかさは、新しいものほどどんどん悪化していた。


 俺はネースさんの武器が好きなんだけど、みんなにとっては鳩や効果音は邪魔でしかない。


 それでも、威力や丈夫さがほかの武器よりずば抜けて優秀なだけに、ほかを使うという選択肢も出ないのだった。



――みんなの安全を考えると、ちょっと控えてもらいてーんだけどな。



 危険な場所で戦う仲間たちを思うと、こんな厳しい状況下でも遊び心を捨てようとしないネースさんに、さすがの俺も閉口してしまう。


 だけどいまは、この武器で目の前の魔物を倒すしかなかった。



「みんな、とにかく気を付けて戦ってくれ!」


「「はいっ」」


「気合い入れるぜ! フィネーレ!」


「んふふ~! 暴れるわよぉ~」



 守護精霊のフィネーレが、楽しそうに俺の周りを飛び回る。


 イコロ村を襲撃され、絶望していた俺たちだけど、守護精霊たちと無事に再会できたのは不幸中の幸いだった。


 日々戦って魔法を使ううちに、俺たちの魔力はあがり、精霊たちも強くなっていく。



「燃えあがれ! フレイムスラッシュ」



 俺の炎の斬撃も勢いを増し、学生のころとは比べものにならないほど高火力になっていた。


 身長が俺の二倍はある巨大なオーガが、乾いた薪のように燃えあがる。



「軍曹つよっ!」


「はっはー! これがネースさんの武器の力だ! 出力が半端ねーだろ! 普通の剣ならぶっ壊れてるぜ!」


「おぉー」



 俺たちが気を取りなおして戦いはじめると、しばらくして、辺りに轟音が響きはじめた。


 ズシーン、ズシーンと地面を揺らしながら、東から巨大な魔物が歩いてくる。



――ドドド……。ゴゴゴゴ……。


  「「ギュォーーーーーン!」」



「うわぁっ、なんですかっ!? あれはぁ」



 アリアンナが叫んだあと、青い顔で立ち尽くしている。


 十メートルを超える巨体、ひび割れた大地のようにゴツゴツとした皮膚と長い鼻。


 鼻の横に突き出した牙は、左右に三本ずつ、合計六本生えている。


 あれが突き刺されば、ヒールを待つこともできず、一撃で死んでしまいそうだ。


 それが前足を高くあげながら、地鳴りのように唸り、声高く鳴いている。



「ゾウ……。しかも六匹!? おいおい、エニーたちやられてねーか?」


「きっと取り逃しただけですよ! やられてたら村のなかに入るはずですから」



 パヴィオの冷静な声に頷く俺。


 これは間違いなく、イコロ村を踏みつぶしたゾウの魔物、クルーエルファントだろう。



――くそ! こいつらか! 俺のとうちゃんとかあちゃんを返せ……!



 憎い親の仇を前に、俺は怒りを燃えあがらせる。だけど後輩たちに戦わせるには、ちょっと相手がでかすぎた。



「おまえら、村人の避難を急かしてこい! そのまま逃げてかまわねーから」


「オル先輩は!?」


「俺はあれを足止めする。飛ぶぜ、フィネーレ! ブーストだ!」


「はいはぁーい♪」


「ちょ、ちょっと!? オル先輩!」



 アリアンナの焦る声を聴きながら、俺は自分の脚に強化魔法をかけ、高速で駆け出した。


 火を噴きながらジャンプして、剣を上に振りかぶる。


 高く飛びあがった俺は、真んなかのいちばん大きいクルーエルファントの上にまたがる、黒いローブを着た魔導師を視界にとらえた。



――やっぱりいた! あいつさえ倒せば……。



 イコロから逃げ延びた村人たちが言っていた、『だれかが魔物を操っている』という言葉を思い出した俺。


 フードを被った魔導師が、俺を見あげるようなしぐさをしている。


 ローブの下はドレスだろうか。女性のように見えるけど、その顔は真っ黒なモヤに包まれていた。



「おまえ! どこのだれだ! なんのつもりでっ」


「きーー! あんなところから飛んでくるなんて! おかしいおかしいおかしい!」



 俺のジャンプ力は炎魔法とネースさんの装備で強化され、オトラー義勇軍でも最高レベルだ。ギャーギャー喚いている魔導師めがけて、俺は掲げていた剣を力いっぱい振り降ろした。



「うぅおぉぉぉぉりゃぁぁあ!」



 魔導師が手を上にかざす。渾身の力で振り下ろされたはずの俺の剣は、魔導士の手前で動きを止めた。


 黒い幻影のような魔法の盾が、魔導師を守るように浮かんでいる。



――くそっ、なんだこれ。力が抜けた? 重力魔法の障壁かっ!?



 再び剣を振りあげ斬りつけるも、俺の剣は黒い盾に触れることができず、また勢いを失ってしまった。



 ネースさんの作るおかしな武器に戸惑う第一分隊の隊員たち。気を取りなおして戦うも、そこに憎い仇のクルーエルファントが現れます。


 「俺が足止めする!」とひとり飛び出していったオルフェル軍曹ですが……。


 次回、第百四話 責任3~火力をあげろ!~をお楽しみに!


挿絵(By みてみん)

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― 新着の感想 ―
ネースさんの武器はこんな状況でも相変わらずなんですね笑 武器は武器、玩具は玩具、別に作れたら喜ばれそうなのに残念。 こだわりなんでしょうか。 巨ゾウ! 村のみんなの仇! やはり操っている魔導師がいま…
[一言] 花車様おはようございます! 義勇隊でのオルフェル! ネースさん作の、おかしな武器を使い隊員達もやる気を削がれたりしてますがそれでも強いですね笑 そしてオルフェルの前に現れる黒いモヤの魔道士!…
[良い点] ネースの面目躍如ですね。 オルフェルもなんというか人間関係のバランス感覚がいいところを、随所で感じさせます。 遊び心が満載装備の行方はいかに。 そしてついに仇であるクルーエルファントとの…
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