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三頭犬と魔物使い~幼なじみにテイムされてました~  作者: 花車
第8章 責任と衝動

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101 知らない世界~レーデルの頂で~

 場所:レーデル山

 語り:オルフェル・セルティンガー

 *************



 俺、オルフェル・セルティンガーは、仲間たちとともに順調にレーデル山を登った。


 そして、辺りが暗くなりはじめたころ、予定どおり、その(いただき)に到着した。



「うわぁぁ……。すごいながめだ」


「まさかあれ、イニシスか……?」



 そこからは、少し霧にかすみ白っぽくなってはいるけれど、オトラー帝国が一望できる。


 かつての祖国であり、故郷のイコロ村があったはずの場所だ。


 いまは敵国で、簡単に踏み入ることはできないらしい。


 けれど、あそこにはまだ、封印された王都オルンデニアがあるという。


 周囲に並び立つ山々の姿は、昔とあまり変わっていないのかもしれない。


 だけどいまは、三百年前にはとても考えられなかったくらい、大きな街が見えている。


 きっとこれは、俺たちがあそこにいたころとは、全然違う景色なんだと思う。


 まるで知らない世界のような、あまりにも壮大な景色だ。


 少し気が遠くなるほどの、長い長い時の流れを感じて、俺は思わず息を呑みこんだ。


 そこにいたはずの人々を思い返すと、胸になにか、たまらないものが込みあげてくる。


 恋しさ、切なさ、やるせなさ……。


 そうした届かない思いは、とても一人では抱えきれない。


 頭のうえのシンソニーも、たぶんまた泣いている気がする。


 仲間がそばにいてくれることに、今度は感謝の念が込みあげてきた。



「みんなと一緒で、俺、よかった」


「しみじみしちゃって。鼻水出てるよ?」


「キジー。鼻水なんてな、このでっかい世界に比べたら、ただの鼻水だぜ」


「そりゃ、鼻水だもんね」



 バカ丸出しの会話をする俺とキジーの隣で、シェインさんとベランカさんも、少し圧倒された顔で佇んでいる。



「オトラー帝国か。私の作った軍隊の名前が、そのまま国の名前になってしまったようだね」


「やっぱり、シェインさんはすごいですね!」


「しかし私は、四年目には魔物になり封印されている。きっと帝国を作ったのは別のだれかだろうね」


「四年……」



――確かに、そう思うと短いかもな。



「ごめんオルフェル、早くテント組み立ててくれる?」



 少ししんみりしていると、後ろからミラナに急かされてしまった。


 ミラナはこの雄大な景色をろくに見ようともせず、テキパキと野営の準備をはじめている。



「確かに、いそがねーとな」


「今回はテント、二つ持ってきたから組み立ても二倍時間がかかるの」


「わかった。こっちのテントはシェインさんとベランカさん用?」


「違うよ。今回はちゃんと男女でわかれて寝るからね?」


「あっ、そうなの? ここ冷えるし、俺いたほうがあったけーよ?」


「ありがとうー、大丈夫」


――棒読みっ。



 最近のミラナは、まるで学生のころに戻ったみたいだ。


 俺が話しかけると、すぐ無表情になったり、棒読みになったりする。


 いまもすっかり表情を失くした顔で、まったく取り付く島がない。


 だけどいま思えば、あのころのミラナはすでに、俺のことが好きだったはずだ。


 要するにミラナのこれは、俺に好きな気持ちを悟られないようにするための、照れ隠しみたいなものだろう。


 そう思うと、無表情なミラナもなんだかすごく可愛く思える。



――どう考えても、俺がミラナを振るはずねーんだけどな。


――やっぱり俺がガキだから、恋人になってもどうせうまくいかねーって思われてんだな。



 そんなことを考えながら、俺はテントを組み立てた。


 猫のライルが、なに食わぬ顔で女性用のテントに入っていく。


 ミラナにずっとくっついていて、本当に気に入らない猫だ。



      △



 簡単な食事のあと、シンソニーが最初の見張りについて、俺はシェインさんと男性用のテントに入った。


 シェインさんは、ライオンの獣人から、人間の姿に戻っている。


 どちらの姿もかっこよくて、俺はやっぱり、憧れずにはいられなかった。


 いまはテントが男女別で、珍しくベランカさんが隣にいない。



――これはちょっと、チャンスかもしんねーな。



 そう思った俺は、シェインさんに質問をぶつけた。



「シェインさん、大人ってどうやったらなれるんですか?」


「えっ。急にどうしたんだい? オルフェル」



 シェインさんはすこし驚いた顔をしながらも、横になっていた体を起こした。


 しっかり聞く体勢を作ってくれるところが、なんだか大人っぽく感じる。



「俺、シェインさんみたいに、大人になりたいです。だけど、大人ってどうやったらなれるんですかね?」


「そうだな……。やっぱり、自分の言動に責任を持つことが第一かな?」



 少し考えて、シェインさんは真面目に返事をしてくれた。



「責任か……。あんまり考えたことなかったです。俺はそれができてないから、ミラナに本気だって信じてもらえないんですね……」


「そうかもしれないね。だけど、私も人に言えたもんじゃないよ。ベランカの気持ちに、どう責任をとればいいのか、少しもわからないんだからね」


「シェインさんでも、わからないことがあるんですね」


「さっぱりだよ」



 俺たちは顔を見あわせて、二人して大きなため息をついた。


 シェインさんも、ベランカさんとの関係をどうしていくべきか、大人として決めかねているようだ。



――大人の責任か……。好きって気持ちだけなら、だれにも負けねー自信があんだけどな。





――――――――



『いつまでそんな子供みたいなこと言ってるんだ! いい加減にしろ!』



――――――――




 俺の頭に、少し懐かしいハーゼンさんの声が響く。



――なんだっけ。なんか思い出せそうだ……。



「シェインさん、ありがとうございます。おやすみなさい」


「あぁ。おやすみオルフェル」



 シェインさんと並んで目を閉じた俺は、三百年前の、オトラー義勇軍での記憶を思い出していた。



 レーデル山の山頂から、オトラー帝国を見渡したオルフェルは、消えてしまった故郷を思い、深い感慨にふけりました。


 対してテキパキしているミラナ。シェインさんと二人きりになったオルフェルは、大人になる方法を相談しました。


 そんな彼が思い出した、義勇軍時代の記憶とは……? ここから七話くらい過去編になります。ちょっと編集中なので、更新がしばらくのんびりになります。


 次回、第百二話 責任1~色のない世界~をお楽しみに!


挿絵(By みてみん)



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― 新着の感想 ―
鼻水のところ、オルフェルくんらしくて好きです笑 一緒にいたら色々と馬鹿らしくなって心が軽くなりそう。今さらですが、そんな魅力を再認識しました!
[一言] 大人になるって、どういうことなんでしょうね。僕自身も、オルフェルと同じように、聞かれたらわからないかもです。責任を取ることが大人と言ったって、世の中責任を取らない大人なんて死ぬほどいますから…
2023/09/19 17:47 退会済み
管理
[一言] 花車様こんにちは! 消えてしまった王国そして故郷への思いは皆あるでしょうね! そしてオルフェルもまた。 義勇軍時代の過去とは。 続きを拝読させていただきますね! 花車様本日もごゆるりとお過ご…
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