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三頭犬と魔物使い~幼なじみにテイムされてました~  作者: 花車
第8章 責任と衝動

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100 レーディン沼~パッサー&フトロ~

 場所:レーディン沼

 語り:シンソニー・バーフォールド

 *************




「わざわざ回り込まなくても、まっすぐ沼を渡ればいいんじゃねーの? あっちに吊り橋があるぜ」



 沸き立つ血の池のような沼を前に、キジーとミラナが腕組みをして考え込んでいると、オルフェがうえを指さして言った。


 少し戻った位置にある崖のうえから、植物の蔓で編まれた朽ちかけの吊り橋がかかっている。



「あんな危なそうな吊り橋、アタシが渡るとでも思ってんの?」



 吊り橋を見あげて、キジーがひどい仏頂面をする。


 確かにその吊り橋は、細くて長くて僕にもひどく頼りなく見えた。


 キジーでなくても、これは渡りたくないな。もし落ちたら、したは熱湯の沼だからね。


 怖すぎる吊り橋を眺めながら、みんな顔をひきつらせている。


 オルフェだけはなぜか、平然としてるけど。



「じゃぁ東からは?」


「東は見てのとおり断崖絶壁だからね。とても登れそうにないよ」



 今度はみんなで、東の岩山を見あげてため息をつく。


 双頭鳥になった僕に乗っていけばひとっ飛びなんだけど、キジーは飛ぶのも怖がるからね。



「どうする?」


「西の魔物がどこか行ってくれるまで待つ!」


「えー? いつになんだよ。サクッと吊り橋渡ろうぜ。飛べとは言わねーからさ。日が暮れるだろ」


「いやいや、よく見て? あの蔓どう見てもちぎれかけだよ」


「大丈夫だって」



 キジーとオルフェが揉めはじめると、ミラナがそっと魔笛をかまえた。



「じゃぁ、おっきいオルフェルに乗っていこうか」


「えっ!? 三頭犬に?」


「うん、そろそろ試してみたかったんだ」


「えっ!? なに? 俺ついに、頭が三つになんの!?」


「いくよ?」


「おっ、おぅっ」



 ちょっと緊張した顔で身構えるオルフェ。ミラナも真剣な顔で、オルフェにひとつ頷いた。



「あ、すっごい大きくなるから、ちょっと離れてね?」


「ベランカ、こっちへ」


「はい、おにぃさま」



 シェインさんがベランカさんを連れ後方にさがり、僕を肩に乗せたキジーも距離をとった。


 ミラナの肩から黒猫のライルが飛び降りて、シェインさんの後ろに隠れる。


 オルフェは後退りして、赤い沼のなかに入っていった。


 あんな熱そうな沼に入って、平気だなんてすごいよね。



「いくよ~! オルフェル、解放レベル4」

――ピーロリロン♪ ピーロリロン♪――



「「「うぅぅわぁーーっ! わぉぉぉぉーーーん!」」」


「ぎゃ、耳いたっ」


「えぇ? すごい大きさだな!」


「シェインさんも最初はあれくらい大きかったですよ」


「ほんとかい? 恐ろしいよ」



 巨大化し、頭が三つになったオルフェを見あげて、シェインさんとベランカさんがポカンとしている。


 僕は、オルフェを捕まえたときに戦ったけど、久々に見たら、やっぱりすごい迫力だ。


 凶悪そうな牙が生えた口は三つ、鋭く光る赤い目は六つもある。


 燃えるように赤い体は、背景の不気味な沼のせいもあって、まるで地獄から現れたみたいだ。



「おぉーん! でっけー俺! あっちもこっちも見えんのかと思ったけど、見えんのは前だけだな。横の頭は俺とは別の犬みたいだぜ」


「よかった。普通に話せるね。オルフェルは真んなかの頭なんだね?」


「その二匹の犬、凶暴じゃないんですのね?」



 あまりに驚いたのか、ベランカさんが珍しくオルフェに話しかけると、左右の頭がしゃべりはじめた。



「うぉんっ。俺はパッサー! よろしくなっ」


「俺はフトロだぜ! いえーい! やっぱり外はいいな!」


「わ、勝手にしゃべりはじめた」


「左の頭がパッサーで、右の頭がフトロ? よろしくね」


「なんか三倍騒がしいね」



 ミラナがオルフェを見あげながら、パッサーとフトロに挨拶している。


 キジーはよほど遠吠えがうるさかったのか、耳を押えたまま呆れ顔だ。


 テイムしたときは凶暴で、口から火を吐いてきたけど、いまは全然平気みたいだ。


 パッサーもフトロも、オルフェみたいですごくご機嫌だよ。


 だけど、慣れないうちからあんまり長く巨大化してると、僕たちは凶暴になってしまう。


 それに、ミラナの魔力消費も大きいみたい。


 だから、ミラナは少しすると、すぐに解放レベルをさげるんだ。



「あんまり長くもたないから、早く乗って渡っちゃおう」


「えぇっ!? 本当にこれに乗って渡るの? この沼を!?」



 キジーはちょっと怖がってるけど、空を飛ぶよりマシだと思ったのかな。観念したみたいに肩をすくめた。



「ほら、大丈夫だよ? 背中すごく広いし、ふかふかで乗り心地最高。私と手をつないでたらすぐだよ」


「ひぁぁっ、ミラナぁっ」


「ははっ。ビビリのキジーは可愛いな」


「三頭犬っ! あとで殴るっ」


「なんで!?」



 オルフェは僕たちを背中に乗せて、ゆっくりと赤い沼のなかを歩きはじめた。



「たっはー、あったけ~」


「あったかいってレベルじゃなさそうだけど?」


「おぅ。本気の熱湯だぜ。落ちんなよ」



 平和そうな声でそういうオルフェは、本当にかなりの熱耐性があるらしい。


 沼は深い場所があって、オルフェの肩くらいまで浸かるときもあるよ。


 キジーが「ギャー」って言いながら、ずっとミラナに抱きついてる。


 普段の態度からは、こんなに怖がりには見えないから、ちょっと面白いな。


 沼の上にはコウモリの魔物が飛んでるけど、シェインさんが、全部槍で突いて倒してくれた。


 沼からは熱い水蒸気も噴き出してくるけど、ベランカさんが氷の霧を出して、みんなを守ってくれてるよ。


 熱いような、冷たいような、かなり不思議な状況だ。


 オルフェはズブズブと沼のなかを進んで、僕たちは無事に向こう岸に着いた。



「キジー、偉かったぜ! ほんとお疲れ」


「もー! 三頭犬のバカ!」


「なんで!?」



 人間の姿に戻ったオルフェが、涙目のキジーを撫でようとして殴られてるよ。


 ミラナがすっごい無表情になってるから、たぶん気を使ってるのかな。


 僕たちは沼をあとにして、レーデル山の(いただき)を目指して、また山道を登りはじめた。



 不気味な沼の前で、吊り橋を渡りたくないとごねるキジー。


 ミラナは沼を渡るため、ついにオルフェル君を三頭犬に!


 百話目にしてようやくタイトルの姿になりました笑


 巨大化し、さらにうるさくなったオルフェル君を、これからもよろしくお願いします!


 次回、第百一話 知らない世界~レーデルの頂で~をお楽しみに!


挿絵(By みてみん)

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― 新着の感想 ―
左右の頭は別人格なんですか!? なんだか心配になる体ですね笑 今のところ、2人ともオルフェルくんと似たような性格に感じられますが…。100話を超えてタイトル通りになってから何が起こるのか。引き続き楽し…
名実共にタイトル回収! どうなることかと気になっていましたが、左右の首は別人格なんですか。 それぞれ名前まであることには驚かれてしまいました笑 そういえば、シンソニーやシェインさんの多頭姿もなんとなく…
[一言] 花車様こんにちは! そしてオルフェルが遂に三頭犬に!! すげぇぜ! みんなパワーアップもしますがオルフェルの三頭犬化おめでとうございます!! そして100話おめでとうございます(⑉>ᴗ<ノノ…
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