第79話:世界一の魔導士を目指して
夏祭りが終わって一か月が過ぎた。
ミネルバでの生活はとても順調で、俺は冒険者としての実力が認められてBランク昇格試験を受ける事ができるようになった。
今回の昇格試験も前回に引き続いて討伐クエスト。
ミネルバの北西部にある《地の神殿》に出現したサイクロプスの討伐が課題となった。
サイクロプスは大型の上級モンスター。
人を見境なく襲う凶暴な性質がある。
防御力が非常に高く、生半可な攻撃では奴に傷一つ与える事ができない。
油断せずに心してかかる必要があるだろう。
課題を確認後、俺は市場に戻って当日の買い出しを行った。
その翌日、冒険者ギルドに赴くと、イゾルテさんが俺を待っていた。
「今回の試験官はこの私だ。よろしく頼む」
彼女は腕を組んで俺にそう告げた。
「こちらこそよろしくお願いします。イゾルテさんが試験官だなんて光栄です」
「相変わらずお前は丁寧だな。私とお前の仲だ。試験だからといって私に気を使う必要はまったくない。いつも通り、カジュアルな関係でいこう」
「わかりました、そうします。えー、今回の課題ですけど、《地の神殿》のサイクロプスの討伐で間違いないですよね?」
「うむ。神殿内のサイクロプスをすべて掃討してもらいたい」
「了解です」
「これから現地に向かうことになるが、途中で引き返したりはできないから忘れ物があるならこの場で言ってくれ」
昨夜寝る前に確認してるが、イゾルテさんの言葉に従って今一度アイテムボックスの中身を確認する。
必要な道具はすべてアイテムボックスに揃っている。
それを伝えると、イゾルテさんは真面目な表情で頷いた。
「準備は万端のようだな。早速出発だ。あそこの馬車に乗ってくれ」
イゾルテさんはギルド専用の馬車を指差した。
そして、俺達は馬車に乗ってミネルバの外に繰り出した。
ミネルバから《地の神殿》までは馬車を使って半日程度。
そこそこ距離があり、日帰りは基本的にできない。現地で一泊することになるだろう。
そして、先ほどから出てきている『神殿』というキーワード。
神殿というのは、エメロード教が国教なら必ず存在する重要な建造物。
ミネルバの周辺だと四か所点在している。
《風の神殿》・《地の神殿》・《炎の神殿》・《水の神殿》。
四大精霊とも関わりが深いのか、精霊由来の名称がつく事が多い。
エリアゼロの呪いを緩和する浄化効果があり、これが設置されているだけで呪いの進行速度は格段に遅くなる。
一方で、注意点もある。
神殿の内部にもモンスターは存在するという点だ。
呪いの魔力と神殿の聖法力が混ざり合うため、一部のエリアが混沌状態となり、そこからバグが発生する。
神殿モンスターといえばわかりやすいだろうか。
今回のサイクロプスも神殿モンスターの一種であり、奴らは混沌の力によって生み出された。
奴らの生態圏は神殿の内部とすべて共通している。
理由はわからないが神殿の外に出てくることはない。
もしかすると神殿の外では生きられないのかもしれない。
今回俺達が向かっている《地の神殿》はミネルバ北西のレクト鉱山の坑道内にある。
50年前まではこの鉱山でよく鉱石が採れていたそうだが、すでに閉鎖して廃坑となっている。
だが、ギルド関係者が定期的に巡回しているので地面は舗装されており、馬車は問題なく目的地に到着した。
地の神殿は切り開かれた岩壁と一体化しており、洞窟のように奥へと続いている。
ミネルバの市街地にも用いられている魔光石が神殿の各所に設置されているので、神殿内部はぼんやりと水色に輝いている。
随分と遠くまで確認できるので、視界の悪さで困ることはなさそうだ。
「ロイドはたしか《風の神殿》には行ったことがあるんだったな」
「はい。初期の頃ですがクエストで何度かお世話になりました」
「《風の神殿》はミネルバにある四神殿の中では最も難易度が低い。お前の性格なら油断はしないと思うが、風の神殿と同じ感覚で巡回するのは危険だからな」
「ここってサイクロプス以外には何がいますか?」
「ゴーレムやコボルトウォリアー、他にはリトルデビルといった中級モンスターもよく出現する。《風の神殿》よりも難易度は若干高いが、それだけ鍛えられる場所だ」
神殿モンスターの強さは神殿ごとにまったく異なる。
風の神殿のように下級レベルのモンスターしか生息してない神殿もあれば、炎の神殿のように上級レベルのモンスターが多く生息している神殿もある。
そして、地の神殿は中級から上級までとレベルの幅が広い。
モンスターごとの総合的な立ち回りが要求されるだろう。
アイテムボックスから地図を取り出して、それを両手で広げる。
俺が通路を先導する形でフロアを巡回していく。
内部構造はとても複雑で階段や曲がり角も多い。
地図なしで歩けば間違いなく迷子になるだろう。
フロアの見落としがないように慎重に歩いていくと、リトルデビルと偶然鉢合わせてしまった。
リトルデビルの体色は黒で、蝙蝠のような翼を背中につけている。
こちらに気づくと、キャキャキャと笑いながら襲い掛かってくる。
四足歩行のまま獣のように近づいてくるのはとても不気味だ。
だが、俺は慌てずに杖を構える。
丁寧に詠唱をして、中級雷魔法の《スパーク》を放つ。
巨大な電撃が杖から発射されて、見事リトルデビルの顔面に直撃する。
「があああああ!」
リトルデビルは断末魔を上げてそのまま動かなくなった。
「リトルデビルを一撃で倒すとは流石だな」
「自分の魔法には自信がありますから」
「ほう。ロイドの口からそういう発言が出るとは珍しいな」
「俺も少しくらいは自分を信じてみようと思ったんです」
脳裏に過ぎるのはリヴァイテーゼの一件。
あのとき対峙したのは先ほどのリトルデビルとは比べ物にならない規模の水竜。
多くの人の想いを背負って俺は命がけで戦った。
あの一件以降、自分の魔法に対しても前向きに受け取っていこうと考えるようになった。
自分を信じてくれる人がいると改めてわかったからだ。
「お前も成長したな。あの頃のお前より今のお前のほうが100倍輝いて見えるぞ」
「それはさっき《スパーク》を使ったからですね」
「お前のギャグは相変わらず面白くないがな」
「ひどい」
「自分を信じる。その気持ちを忘れなければお前はもっと強くなれるはずだ」
「本当ですか?」
「ああ、本当だ。世界で一番強い力は、誰かを守りたいと願った時に生まれるものだ」
イゾルテさんははっきりとした口調でそう応えた。
彼女は元騎士。今の言葉は自分の経験から導き出した考えなのだろう。
その後。
さらに神殿内を進んでいくと、ついに標的のサイクロプスを発見した。
「がおおおおおおおおおおお!」
サイクロプスの大きさは三メートル強。
一つ目で、頭には一本の角。
腕がとても太くて筋肉隆々のごついモンスター。
俺は体内の魔力を開放して周囲に術式を展開する。
呪文の詠唱はあえて行わない。
たしかに俺は無詠唱魔法が苦手だ。
現状、3回に1回の割合でしか成功しないくらい不安定だ。
しかし、無詠唱魔法を使いこなせなければ倒せない敵が、これから先現れるかもしれない。
この世界には俺より強いやつがゴロゴロ存在する。
だが、俺はもう心に決めているんだ。
どんな時でもアイリスを守れるような、世界で一番強い男になりたい。
だから、無詠唱魔法が成功するか否かで、怖気づいたりはしない!
「《ウォーターダイダロス》!」
俺は魔法名を大きく叫んだ。
すると、巨大な水竜が地面から出現して、直線状にいるダークサイクロプスを一撃で粉砕した。
無詠唱魔法が成功したのを確認すると、自然と口元を引き上がった。
俺一人では変われなかった。
守りたい人ができて俺は変わることができた。
今の成功は、自分の夢に向けた大切な一歩だと考えて忘れないようにしていきたい。
そして、同時に、サイクロプスを討伐できた事で、俺はBランク昇格試験の合格をもらった。
次回の更新は2023年5月25日になります。




