間章16:天才錬金術師の後悔
ガタンと音が鳴り、私は護送車の中で目が覚めた。
辺りは薄暗く、窓の隙間から射し込んでくる朝日で、朝を迎えたのだとわかった。
天井は低く、扉の部分は冷たい鉄格子で仕切られている。
私には相変わらず手錠と足枷が施されており、自力での脱出は困難だ。
もっとも、この王国に私の居場所などないので、脱走しようとも状況が好転する事はないだろう。
現在の状況を整理する。
裁判が終わり、数日が経った。
アビスウォール行きの船があるメルポートに向けて移動している最中だ。
私に接する人々の対応はとても冷たい。
罪を犯した犯罪者としての扱い。
ロイドの優秀さに気づく事ができなかった間抜けな女。
これが現在の私の評価。
自分達の事は棚に上げてと思わなくもないが、原因が原因なだけに私は何も言い返す事ができない。
彼らの冷たい言動は私の心をさらにすり減らしていった。
(どうしてこんな結末になってしまったんだろう)
今になって後悔の念が押し寄せてくる。
自分の言動を振り返る。
すると、保身ばかりを考えている自分の姿が映った。
昔の私は、世間の事は何も知らなかったけど、誰かを慈しむ心くらいはあったと思う。
でも、今の私にはそれが完全に失われていた。
とても不快で、滑稽で、無様な姿。
当時の自分が今の自分を見たらどんな反応をするだろうか。
きっと幻滅すると思う。
錬金術で世界中の人を幸せにしたいと言っていたのに、一番近くにいる人すら長年蔑ろにしていた。
今思えば、そんな私の姿勢が、自身の錬金術を大きく鈍らせたのかもしれない。
ロイドがいなくなってからというもの、私は一度も錬金術を成功させる事ができなかった。
難しい内容から簡単なものまで、私が発想するものはすべてエリアゼロを経由しなければ入手できないものになっている。
例えば。
レッドポーション。
これはEランクのアイテムだ。
本来ならこのアイテムの素材はとても簡単な素材になるはず。
だけど、今の私が発想魔法を使うと、《レインボーハーブ》という素材を要求する事になる。
このレインボーハーブはエリアゼロでしか採取できない。
昔はそうじゃなかった。
適切な素材を発想していたはずだ。
変わってきたのは、私がロイドに辛く当たるようになってからだ。
発想魔法はその人の気質が反映される。
言動が矛盾している状態でずっと錬金術をしていた。
それが今の私の錬金術を形成したんだと思う。
今の私は錬金術師として致命的な欠陥を抱えている。
何度も気づくチャンスがあったはずなのに、それを素直に認める事ができなかった。
それが今の取り返しのつかない状況に繋がっている。
視線を落とすと、自分の腕に繋がれている手錠が視界に映った。
ロイドに謝る事は二度とできないのだと理解すると、一筋の涙が頬を伝った。
夢の中で交わした女性職員とのやり取りが脳裏をよぎる。
私が今まで忘れていた錬金術師と専属魔導士の関係性。
錬金術師は本来、自分で素材を採取する事ができない。
モンスターがうろついている現地で活動する事はとても危険だからだ。
錬金術師の身の安全を守るため、錬金術に集中できる環境を作るため、専属魔導士という存在が生み出された。
専属魔導士は体を張って素材を採取している。
素材を採取してくるのは当然という傲慢な考えを持ってはいけなかった。
ロイドにこれまでの振る舞いを謝りたい。
傷つけてしまった事に対して「ごめんなさい」と伝えたい。
でも、今更謝られてももう遅いと拒絶されるだろう。
ロイドが最後に集めてきた素材。
フルールド・エインセル。
この素材はエリアゼロでのみ採取できる。
エリアゼロで採れる素材はどれも難しく、基本的に誰も採取できない。
マスター級で構成されたパーティですら採取は命がけとなる。
これが人々の共通認識だ。
クロウリーが以前私にしてくれた話が本当なら、エリアゼロの素材を単独で採取できるロイドは、王国の中で最も優れた魔導士という事になる。
なぜ私はこの事実を素直に認める事ができなかったのだろう。
なぜ私はロイドを格下として扱いたかったのだろう。
ロイドは体を張って私のために素材を採取しているのに、なぜ私はロイドを侮辱してしまったのだろう。
傲慢で、幼稚で、プライドばかりが先行して、他人の気持ちをまるで考えてなかった。
私の錬金術の目標はヘカテーで、錬金術の師匠は院長だ。
でも、私の錬金術のために、一番長く一緒にいてくれたのは間違いなくロイドだった。
そして、私が錬金術師になれるように『一番最初に動いてくれた人』だった。
ロイドが専属魔導士になってくれたから、私は錬金術師としてのスタートラインを越える事ができたのに。
なぜこんな大切な記憶を今まで忘れていたんだろうか。
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次回の更新は5月5日になります。




