間章15:天才錬金術師の記憶 後編
「俺がルビーの専属魔導士?」
ロイドは間抜けな顔で自分を指差した。私は大きく頷いた。ロイドを専属魔導士にしようとは前々から考えていた。
少し子供っぽい所はあるが、毎日面白い反応をしてくれるし、優しい所も多い。
また、知り合いの中で一番素直だと思う。人から頼まれた頼み事も、小言は多いけど必ず最後まで果たそうと努める。
院長の課題だって、知らなかったとはいえ、ちゃんと真面目にやってたみたいだ。
「えー、やだー。ルビーの要求する素材は全部面倒そうだからパス」
一瞬で断られてしまった。
嘘でもいいから悩むフリくらいしろっつーの。ロイドの無神経な返事にカチンときたけどいつもの事だから気にしてもしょーがない。
「錬金術ギルドまで一緒についてきてくれない? それくらいなら別にいいでしょ」
「まあそれくらいなら……。でも専属魔導士にはならないぞ」
「わかってるわかってる」
嫌々だけど錬金術ギルドまでついてきてくれるようだ。
孤児院から出て大通りを肩を並べて歩いていく。
ロイドは私よりも背が高いので私を見下ろす形で会話する。
「ねえロイド。最近の調子はどう?」
「ふつう。《魔導協会》に登録したのはいいけど、別になんかイベントがあるわけでもないし、そろそろ14歳だから仕事探さなきゃなーと思ってるよ」
魔導協会とは魔導士を管理する機関の事であり、メルゼリア王国で魔導士として活動する場合には登録が必要だ。
私がこれから所属する《錬金術ギルド》に関係性は近いと思う。
いずれも登録したからといって生活が制限されるわけではないが登録するだけでは給料などは貰えない。
ロイドの場合、《魔導協会》に登録した上でどこかの団体に就職する必要がある。
また、私たちが暮らしてるイェル孤児院の卒業年齢は14歳。
本人の就業状態によっては卒業時期が多少前後するが、大抵は14歳くらいには卒業してる。
ロイドはすでに《魔導協会》に登録してるので魔導士として何かしら活動できる。その気になれば明日にだって卒業できるだろう。
余談になるが、専属魔導士として活動する場合も《魔導協会》に登録する必要がある。
私としては、ロイドが専属魔導士になってくれるのが一番ありがたい。
しばらく歩くと、目的の錬金術ギルドに到着した。二階建ての小さな建物。
普通の民家っぽい雰囲気が漂っている。
正面にある玄関扉を開けると、綺麗なエントランスが視界に広がった。
奥の方には女性職員が2人並んで座っている。
一瞬こちらに気付いたが、特に気にする様子もなく、彼らは世間話に戻った。
先日、金髪のエルフ族のイケメンと出会ったとか、仕事とはまったく関係のないどうでもいい話をしている。
ロイドは辺りを見渡して感想を述べた。
「魔導協会と比べると随分とテーブルの数が少ないんだな」
「そこは規模の問題じゃないかな。魔導士と錬金術師とでは母数が全然違うし」
「なるほど。じゃあさっそく登録しようか」
「うん」
私は受付の場所へと赴いて錬金術ギルドに登録したい旨を伝えた。
女性職員はペンを一本に、書類を三枚並べた。
「こちらに名前と年齢を記入して下さい」
私は言われるままサインをする。ロイドは隣でボーと眺めている。
「錬金術師は現地での素材の採取に制限がつきます」
「制限?」とロイドが私の代わりに反応した。
「現地で活動する際に、必ず専属魔導士が側についてる必要があります。また、モンスター遭遇時には決して自分で戦ってはなりません。もしこれを破ればペナルティが発生し、重大事故が起きた場合は錬金術師としてのライセンスを剥奪する場合もあります」
「よくわからないが、専属魔導士がいないと素材の採取ができないってコト?」
「端的に言うとそうなりますね。錬金術師の役割は調合や販売までの段取りを整える事であって、現地で素材を採取する事ではありません。素材の採取は専属魔導士の仕事となります」
「なんか面倒くさい制約が多いな。専属魔導士が必要って言ってたのはこれが理由だったのか」
「うん。私が現地で採取を行うのは基本的にNGなんだ。昔は採取中に死亡する錬金術師がとても多かったんだ」
「はい。彼女のおっしゃる通りです。自身の安全のためにも錬金術師はアトリエ内で精力的に活動してもらいたいのです。役割を分担させる事はお互いのためでもあります」
女性職員の言ってる事は尤もではあるが、私としてはフィールドワークまでセットでやりたいんだよね。
「ただ、現実問題、そういうわけにはいかないのが実情です。錬金術師の大半はフィールドワークにも参加してます」
「規則はあるけど誰も守れてないって感じか」
「そうですね。怪我をしないように活動してもらいたいのが錬金術ギルドの希望です。有望な若手ほど採取に夢中になってフィールドワーク中に死にやすいんですよ。危険な仕事はすべて専属魔導士に任せて下さい」
「むっ、その言い方だと、専属魔導士が怪我をするのはイイって事?」
「あはは……これは失礼しました。私達が言いたいのは、とにかく怪我をしないでくれって意味です」
と、女性職員は苦笑いを浮かべる。
いかにも事務的なやり取りって感じだ。
まあ、彼らに文句を言っても仕方ないので私は手続きを済ませる事にした。
すると突然、ロイドが書類を一枚手に取って、自分の名前を記入した。
「ど、どうしたの?」
「専属魔導士がいないと採取ができないんだろ? それなら『正式な専属魔導士が決まるまで』の期間は俺が代わりに専属魔導士を担当するよ」
「でも私の専属魔導士はやらないってさっき……」
「錬金術をやりたいんだろ? だったら俺に遠慮なんかするな。まずは自分のやりたい事を優先しろ」
ロイドは笑ってそう返した。
彼の優しさにまぶたの奥が少しだけ熱くなった。文句言いつつも困ったときは必ず助けてくれる。
私はロイドの優しさを再認識して、改めてロイドの事が好きになった。
こうして、一時的ではあるがロイドが専属魔導士になった。
◆ ◆ ◆
ギルドの登録が完了した。
じゃあすぐにアトリエを開けるかと言ったらそういうわけではない。
自分のアトリエを開くためには信用とお金とランクが必要になる。
信用:いわゆる常連さんの事。依頼をするのは初めてなので常連は0人です。
お金:自分のアトリエを開くには金貨100枚~150枚くらい資金が必要らしい。そんなお金はないです。
ランク:ギルドでCランクになる必要がある。今のランクはEランクです。
はああああああ(溜息)
まだまだ先は長そうだ。
一応、ギルド側が用意してくれた依頼がいくつか存在するけど、仲介料でかなり持っていかれてるから利益はほとんどない。
錬金術師として独立するって大変なんだなーと思いました。
「文句言っても仕方ねえよ。働かなきゃ食っていけないからとりあえず依頼をすっぞ」
「もうしばらくは院長にお世話になりそうだね」
「そうだな。あっ、そうだ。卒業前にカレーの作り方くらい覚えろよ」
「えー、ロイドが代わりに作ってくれるんじゃないの?」
「専属魔導士(仮)だという事を忘れてないか? 頃合いを見てさっさとやめるつもりだからそこ忘れるなよ」
「ロイドのいじわるー」
ロイドと談笑しながら受付の右手にある掲示板へと向かう。
そこにはランクごとに整理された錬金術の依頼書を見つけた。
私はEランクなので引き受ける事ができる依頼も限られている。私は一枚の依頼書を手に取った。
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ランクE
・仕事:レッドポーションの作成
・報酬:銀貨3枚
・仕事内容:レッドポーションを5つ作成する。
・納期:一週間
・備考:現地に入っての一人作業はたいへん危険ですので、どうかご遠慮願います。
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レッドポーションは市場でもたくさん売られてるような商品。
小遣い稼ぎに駆け出しの錬金術師がよく作成しているそうだ。
銀貨三枚では数日分の食費にもならないが、実績がない現状だと仕方ないだろう。
「これにするのか?」
「うん。レッドポーションなら作り方もわかってるし、うまく作れると思う」
私はレシピ帳を開いてレッドポーションの欄を確認する。付箋が貼られているのですぐに開くことができた。
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■レッドポーション
発想者 ルビー
◆要求素材(要求度 10)
《レッドスライムの欠片》、《レッドハーブ》
◆調合手順(要求度 5)
上上下下左
最終得点 15
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いずれも近くの森で採取できる素材。今日中には錬金術に取りかかれるだろう。
私は近くの森に入ることをロイドに伝えた。
「レッドハーブは市場に売ってたけど買わなくていいのか?」
「市場のやつを素材として流用すると費用がかかるからパスかな」
「なるほど。流用とか費用とか、なんか錬金術師っぽいな」
「一応今日から錬金術師なんですけど」
ロイドの失礼な言動にむくれながら私はそう返事をした。
さっそく私達は近くの森へと赴いた。
目的地までは徒歩で大体1時間ほど。
何度も通ったことがある森なので、特に迷うこともなく目的地に到着した。
森の入り口は日当たりがよく、視界も良好。
とはいえ、無警戒だと危ないので、モンスターに注意しながら森の奥へとさらに進んでいく。
しばらく歩くと、ぴょいーんぴょいーんとレッドスライムが出現した。
レッドスライムは要求素材の一つをドロップするので倒したいところだ。
「ロイド。あいつだよ」
「ほいきた、ウォーターボール」
ロイドは早口で詠唱をしてウォーターボールを放つ。
ウォーターボールは見事レッドスライムの顔面に直撃。レッドスライムは小さな悲鳴を上げて消滅した。
そして、レッドスライムの欠片を落とした。
やったね。素材ゲットだよ。
「ありがとうロイド」
「一応それが仕事だからな」
「ふふっ、ロイドは素直じゃないね。ロイドがいてくれていつも助かってるよ」
「……さっさと次にいくぞ」
ロイドは少しだけ照れくさそうに頬をかいて、ぶっきらぼうにそう答えた。
私はその様子を微笑ましく眺めていた。
次回の更新は2023年04月30日となります。
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