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第9話:迷子の二人

 遠くの方からゴーンゴーンと時計塔の低い音が聞こえてくる。

 どうやら日付が変わったようだ。

 昼間は活気のあった中央広場もいまは閑散としており、俺たち以外の人影はすべて消えている。

 真夜中なので一部の店舗を除けばすべて閉店し、道路に配置された《魔光石》の青い光が夜の街並みを幻想的に照らしている。


「名残惜しいですがそろそろ時間ですね。従者が待っているので家に帰らなければなりません」

「おおアイリスよ。もう帰ってしまうのかい。王子の私を一人にしないでくれ」


 まるで人間の少女のフリをして舞踏会に参加した《カレイドマーメイド》のような発言をするので、俺も王子になった気分でアイリスを呼び止める。


「ロイド王子、わたくしアイリス姫は明日朝イチの馬車に乗って会社という名の地獄まで出勤しなければならないのです。もし寝坊すると、いじわるな継母が鼻息を荒くして小一時間説教するので帰らないわけにはいかないのです」

「そんなに長く説教されてると朝イチの馬車に間に合わなくなりますよ」

「会社までついてくるタイプのモンスターなので関係ありません」

「おおアイリスよ、そなたはなんて可哀想な境遇なのだ」

「ですのでロイド王子、どうか私のワガママをご寛大な心でお許しください」


 スカートを摘んで丁寧にお辞儀をするアイリス。

 その後、小さく舌を出して子供のように無邪気に笑う。

 話してみるとわかったが、彼女は結構ノリがいい。

 こちらがネタを振ればしっかりと対応してくれる。


 昔はそうでもなかったらしい。

 聖女時代が生真面目だった分、追放後はその反動で感情豊かになったようだ。 


「夜道は危ないから家まで送っていくよ」

「お心遣いありがとうございますロイド様。本日は宿屋に宿泊してますので案内していただけると私としても助かります」

「どこの宿屋だ?」

「フロルストリートの宿屋でございます」

「へー、俺も今日ここに来たばかりだから地名言われてもさっぱりなんだ」

「……もしかして私迷子なんですかね?」

「迷子以外の何者でもないぞ」

「そんなはっきり言わないでください。この年齢で迷子だなんて結構傷つくんですよ」

「そもそもどうして深夜に街を徘徊していたんだ? まさか本気で悪党退治を実践しようとしていたわけでもあるまい」

「従者と大喧嘩したんです」


 かつて聖女だったとは思えないような子供っぽい理由だった。


「喧嘩の原因はそうですね、ミニマリストでしょうか。自分の承認欲求だけは捨てられないあの可哀想な人種です。何か買うたびに断捨離と繰り返してうるさいんです。そんなに何もない所に住みたいなら一人で独房に住んでろって言って宿を飛び出して来ちゃいました」


 たしかにあの人種は自分の価値観を押しつけてくるからウザイっちゃウザイ。

 俺の上司だったパワハラ幼馴染はミニマルとは真逆の人種なので、部屋の中はいつもごちゃごちゃしてる。アレはあれで問題があるので何事もほどほどが大事なのだろう。


 

 いくらアイリスの事が女性として気になるとはいえ、俺も明日から初出勤だから余裕があるわけではない。

 迷子のお世話はできれば勘弁願いたい。

 これが七歳とかなら休日返上で面倒みてやるんだがアイリスは十七歳。俺と年齢もそう変わらない。


 とはいえ、女性を守ってあげるのは男性の宿命だ。

 家まで送っていくよと言った手前、役割を放棄するわけにはいかない。


「見覚えがある建物が出てくるまでちょっと街を歩こうか」

「迷惑をかけて申し訳ありませんロイド様」

「謝らなくていいよ。アイリスとこうやって一緒に歩くのは楽しいし。アイリスがそばにいてくれるだけで俺もすごく安心する」


 アイリスはとても驚いたような顔で俺の方を向いた。

 アイリスの頬が赤く染まり、口をあんぐりと開けて震えている。


「ロイド様、そ、それはどういう意味でしょうか?」


 俺また何か怒らせるような事を言ってしまったかもしれない。俺は人をよく怒らせてしまうから発言には注意してるつもりなんだがな。


「怒らせて悪かった。どうか許してくれ。アイリスがあまりにも綺麗で見惚れてしまったから、軽はずみな言動をしてしまったんだ」

「〜〜〜ッ!!?」


 アイリスはより一層顔を赤くし、顔を両手で覆い隠してその場にうずくまってしまった。


「あ、アイリス?」

「ロイド様はずるいです。いきなりそんな事言われてしまうと私……ロイド様の事を意識しちゃうじゃないですか」


 片頬を膨らませて、上目遣いで俺をジトーと睨むアイリス。

 ちょっと涙目なところの破壊力がすごかった。

 マスター級の怒り顔だ。


 鈍感系主人公を目指してみようとおもったが、やはり俺には無理だ。

 目の前の聖女がかわいすぎて理性が崩壊しそうになる。


 彼女の発言で俺まで恥ずかしくなってきた。

 落ち着け俺。鈍感系は無理でも誠意のある対応をすれば大丈夫のはずだ。


「立てるか?」


 恥ずかしさをごまかすように俺はアイリスに手を差し伸べる。


「もうロイド様の事なんて知りません。ロイド様は朴念仁のインチキ魔導士です」


 と、言いながらも手を差し出したので俺はアイリスを立たせてあげた。

 しかし、なぜかアイリスは俺と繋いだ手を離さない。


「おいアイリス、もう手は離していいぞ?」

「あの、もし良ければこのまま一緒に歩きませんか?」


 お、お前なに言っているんだ?

 俺の理性にマスター級の魔法撃ち込むつもりか。

 俺に勘違いされてても文句言えないぞ。


「手を繋いだままでか?」

「はい、はぐれるといけませんので………ダメでしょうか?」


 後半の方は声が小さくなっており、アイリスも少し緊張しているのが伝わってくる。


 もうなにこの子。

 聖女最高。このまま結婚しよ。


 いやいや落ち着け俺。

 ここで俺が舞い上がったら俺がちょろい奴みたいじゃん。


 少し冷静になろう。クールになれロイド。


 アイリスの言ってる事もわからなくはない。深夜で俺たちの他に人が誰もいないとはいえ、はぐれてしまったら大変だから手を繋ごうと提案してるのだろう。


 怒っているとはいえ、やはりアイリスは冷静だ。

 俺はアイリスの聡明さに感服し、アイリスの申し出を快く受け入れた。


 結局受け入れてて笑うわ俺の理性。

 どんだけ自分の本能に正直やねん。


 平静を装っているが心臓が早鐘のように打っている。俺の心臓の鼓動がアイリスに聞かれていたらどうしよう。


 その後、俺達はアイリスの宿屋を探して街を歩き回る。

 結果だが、はっきり言って何もわからん。

 魔光石のおかげで建物の外観はある程度わかるはずだが、アイリスと手を繋いでいるのでそちらにばかり意識が向いてしまい周囲をまったく観察できていない。

 同じところをグルグル回っていたとしても俺はおそらく気づかないと思う。


 アイリスも先程からずっと無言だ。アイリスの方に顔を向けるとそっぽを向かれる。

 耳が赤くなっているので、アイリスもまた緊張しているのだとわかった。

 お互いに相手を意識しあって宿探しにまったく集中できていないのが現状だ。

 

 宿探しという名の深夜デートでしかなかった。



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葛藤ありの主人公有りやね!
[一言] この作品も脳味噌御花畑ハーレム展開 クソつまんない
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