第77話:ルビーの手紙
宿屋に帰宅してる途中、イゾルテさんと出会った。
イゾルテさんは真剣な表情をしており、俺と顔を合わせるなり一枚の手紙を渡した。
「イゾルテさん、これは何の手紙ですか?」
「読めばわかる」
もしかしてイゾルテさんからのデートのお誘いかな?
彼女とは随分と交流してきた。
お互いに名前を呼びあう仲にもなった。ありえない話ではない。
緊張のせいかいつも以上に眉を寄せてるし、こんな綺麗な人とデートできると思うと心が躍るな。
夏祭り初日はマルス達との予定が入ってるから、彼女とのデートは二日目以降になる。
いや、二日目はノワールさんの釣り大会があるからそっちに時間を割かなきゃいけない。
そうなると最終日にしか時間が空いてないが、イゾルテさんも忙しいからそう都合よく時間が空いてるだろうか。
ダブルブッキングした場合は予定を前後させる必要が出てくる。こちらからも一度予定を聞いておいた方がいいかもしれないな。
「あいにく、いまは初日と二日目に予定が入ってますけど、イゾルテさんのためなら頑張って予定を空けますよ」
「は?」
「え?」
あれ? なんだか思っていた反応と違う。
「もしかして夏祭りの話だと勘違いしてるのか? 夏祭りの誘いじゃなくてお前の前職の件だ」
予想してなかったイゾルテさんの返答に俺は赤面した。
勝手にデートのお誘いだと勘違いしちゃったし、めちゃくちゃ恥ずかしい奴じゃん。
羞恥心を抱いているそんな俺の様子に対してイゾルテさんは口元を緩める。
「お前が望むなら三日目に時間を空けてやってもいいぞ」
「本当ですか!?」
「ああ、最終日は私も時間を取れるからな。それより手紙が先だ。さっきと同じことを繰り返すが、前職のアルケミア卿の件だ」
アルケミア卿……。
ルビーの事だな。
久しぶりにルビーの名前を聞いた気がする。あれ以来ほとんど考えたことがなかった。
俺に直接手紙を送ってきたという事は俺がミネルバにいる事をすでに知ってる?
まあいいか。別に知られても困るような事してないし。
別れの挨拶もあの日にやったしな。俺とアイツはもう他人だ。
それにしても一体何の用だろう?
あまり読みたくはないがイゾルテさんが持ってきた手紙だからもしかしたら重要な内容なのかもしれない。
一応目を通しておくか。
手紙を開いて中身を確認する。
手紙の主はルビーで、筆跡も俺の知るルビーのものだった。
そこには衝撃的な内容が記されていた。
どうやらルビーが陛下を怒らせてしまったようで、『国家反逆罪』と『不敬罪』の二つの容疑で三週間後に裁判にかけられるようだ。
また、それに至るまでの経緯も詳細に記されていた。
自分が思っていた以上にクロウリーが無能だったので契約をしなかった事。
そのせいで女王陛下の怒りを買ってしまい、女王陛下が無茶振りに近い依頼を出した事。
今の自分は専属魔導士がいないのに、女王陛下は私の現状を理解せずにクエストを催促する事。
新しい専属魔導士が見つかるまでは俺の助けが必要であり、俺を連れて帰るためにメルポートに向かったが、空気の読めない女王の手下のせいでそれが失敗した事。
アイリスを倒すために《バハムートボム》を手に入れたが、後輩の裏切りによって女王の手下に捕まってしまった事。
現在、国家反逆罪と不敬罪の両方の罪に問われており、三週間後には裁判があるので俺に自分の弁護をして欲しい事。
俺がいない半年間の短い期間でとんでもない事になってるな。
俺を連れて帰るとか、アイリスを倒すとか、意味不明の文章も書かれてる。
なんというか……やばいなコイツ。
ざっと見た感じ、国家反逆罪に該当する部分はバハムートボムか?
アイリスを倒すためにバハムートボムを手に入れたって書かれてるが完全に殺人未遂だ。
マジで何言ってんのキミ?
不敬罪のくだりも完全に自業自得だ。
陛下は少々面倒くさいところもあるが基本的に寛容だ。
クエストを一度や二度失敗したくらいじゃ、罪として問いただしたりはしない。
そもそも依頼を無視して逃げるのは大人としてダメでしょ。
個人的に注目した部分はルビーの現在の心境だ。
彼女の手紙には『自分は悪くない』と何度も書かれていた。
それを見た俺は、俺は乾いた笑いしか出てこなかった。
イゾルテさんに視線を戻すと彼女は真剣な目で俺の顔を見ていた。
俺の反応を伺っているのは明白で、俺がどんな返事をするのかが気になるのだろう。
いずれにせよ、俺の答えはすでに決まっている。
俺は手に握ってる手紙を初級魔法の《ファイヤー》によって焼き払う。
今更俺に助けを求められても困る。
自分の力で何とかしてくれ。こっちはこっちで忙しいんだ。
「ロイド。それでよかったのか?」
「はい、俺達の関係はもう終わってますから。もう子供じゃないんだから自分の力で何とかしてもらいたいですね」
「そうか」
イゾルテさんはホッと胸を撫で下ろして一安心した。その姿を見て、自分はミネルバで必要されている存在なのだと改めて実感した。
「イゾルテさん。俺、このミネルバにやって来てすごく幸せです。冒険者としてはまだまだ未熟ですが、これからもよろしくお願いします」
「ああ、こちらこそよろしく頼む」
イゾルテさんは笑顔で応じた。
その後、イゾルテさんとのデートの約束を最終日の三日目に充てた。
今年の夏祭りは予定がたくさん詰まってて幸せだな。
明日の事を考えつつ、ルビーの事は自然と忘れて宿屋へと帰還した。
翌朝、俺は待ち合わせ場所の広場へと出かけた。
朝早くにも関わらず町全体が賑わっており、多くの人達が大通りを行き交っていた。
マルスとレラは広場の中央にあるエメロード教の石像の前で俺を待っていた。
「あっ、ロイドさん。おはようございます」
「おう、おはようレラ。マルスもおはよう。二人とも早いな」
「おはようございます、先生。俺達もいま来たばかりですよ」
「まずはどこに行きます?」
「とりあえず露店で何か食べたいな。今日は朝食を抜いて来たんだよ」
「ダメですよー。朝食はちゃんと食べないと」
「あはは、それならまずは市場に行きましょうか」
その一言で俺達の最初の目的地が決まった。
広場を過ぎて大通りを歩いて進んでいく。
「そういえば、あの三角のアレってなんですか?」
レラが指差したのは、紐に吊るされた三角の並んだ旗。パーティとかでよく見かける謎のカラフルなアレだ。
「言われてみればなんだろうな。俺も詳しい名前はわからない。ペナント旗じゃないの?」
「ちょっと違うような気もしますけど」
「正式名称は連続三角旗というものらしいですよ」とマルスが答えた。
「へー、そうなんだ。それにしてもよく知ってたな」
「実家で親父に教えてもらいました」
マルスは商人の家系だからその繋がりで知る機会があったのかな。
覚えていただけでも大したものだ。
「ああいう謎の設置物っていったい誰が作ってるんでしょうか?」
「聞いた話によると、町の子供達がボランティアで作ってるみたいだぞ」
「なるほど。私の里も収穫祭の時は子供達が木彫りを彫ってましたね」
レラは昔を思い懐かしみながらそう告げた。
「その言い方だとレラは木彫りができるのか?」
「当然できますよ。これでもエルフ族ですから手先は器用なんです」
レラは得意げに胸を張った。
弓を扱えたり、魔法を扱えたり、木彫りができたり、レラは結構器用だな。
そんな具合に談笑しながら俺達は市場へと赴いてそこで朝食をとった。
次回の更新は3月10日となります!
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