第75話:喫茶店の変貌
アイリス達と共にネロさんのお店にやってきた。
女性客も入りやすいオシャレな喫茶店で、昼食時という事もあり、店の前に行列ができるほどたくさんのお客さんがいた。
「あれ、行列ができてる……?」と頭の上に疑問符を浮かべるアイリス。
「いつもは人が全然いないのに不思議でございますね」とティルルさんが同意する。
「とりあえず、私達も並んでみましょうか」
「そうだな」
アイリスの提案に俺達はそれぞれ頷いた。
ネロさんのお店はこれまであまり繁盛してなかった。昼食時にやって来てもいつも閑古鳥が鳴いていた。
その現状を知っていたので俺達はこの行列に驚きと好奇心を抱いていた。一体どんな方法でこんなにお客さんを増やしたんだろう。
一時間ほど並んでようやく俺達の番がやってきた。メイド服の女性店員がやって来て俺達を店へと案内する。
すると、店内にはたくさんのメイドさんがいた。店内の内装も大きく変わっており、隠れ喫茶的な雰囲気は完全になくなっていた。どちらかと言えば騒々しく、あちこちでお客さん相手にメイドがサービスをしている。
「な、なんですかこれ?」
「メイドの方がたくさんいらっしゃいますね」
「お帰りなさいませ、ご主人様。ニャンニャン☆」
猫耳のウィップと肉球のついた手袋をつけてるメイドがやって来て、上目遣いで俺達にそう挨拶する。
「え、あの、ご主人様って」
「もう、私の顔忘れちゃったんですか、ご主人様? ぷんぷんっ!」
いや、誰だよお前。急にご主人様扱いを受けて俺は困惑する。それはアイリスやティルルさんも同様のようで、異様な口調で接客をしてくるメイドに若干だが引いている。
「えー。これはお店のサービスみたいなものなのでしょうか?」
「大正解っ! 私達は素敵なご主人様にご奉仕するために天界からやってきた愛の天使なんだニャン!」
「そ、そうですか。とりあえず、三人で昼食を食べたいんですが……」とアイリスが伝える。
「三名様ですね。どうぞこちらへ」
俺達はテーブル席へと案内された。俺が手前の椅子に座って、アイリスとティルルさんは対面の席に並んで座った。
「いやー、なんといいますかー。随分と店の雰囲気が変わりましたね」
「一週間前に訪れた時は特に何も変わってなかったんですが、何かあったんですかね? ティルルはどう思いますか?」
「申し訳ありません。私も状況を受け入れるので精一杯で、そこまでは考えが浮かんできませんでした」
ティルルさんも困惑してるみたいだ。
「まあとりあえず注文しよう。アイリスの次の予定まであと一時間ないんだろう」
レシピを開くと料理名が一新されていた。
萌え萌えオムライス、愛♡たっぷりの鮮血パスタ、みるしぃのカレーライスぅ。
「「「……」」」
まあまあ、料理名でインパクトをつけるのは大事だからね。
「ところでロイド様。このツンデレバージョンっていったいなんでしょうか?」
アイリスが指差すのは萌え萌えオムライスのサイドに書かれていた部分。銅貨一枚を追加すればツンデレバージョンに変わるみたいだ。
普通こういうのは大盛りとかそういうサービスなんだと思うんだけど、どうやらここはちょっと違うみたいだ。
ツンデレが何なのかは俺もわかるけど、それをアイリスに伝えていいものかと聞かれたら悩ましい。
ただ、聞かれてるから正直に伝えるか。
「あー、『別にあんたのためなんかじゃないんだからねっ!』みたいな台詞を放ってくる女の子の事だ。イメージ的に、ルミナス牧場で出会ったノワールさんみたいな感じだ」
「ノワールさんがやってくるという事ですか?」
「いや、そういう意味じゃないんだけど、説明がちょっと難しいな。俺の予想だと、店員の口調がノワールさん風に変化するんじゃないかなと思う」
「へー、なんだか面白そうですね。ティルル、私それを注文します」
「お嬢様。口調が変わるだけで料金がかさむサービスはあまりオススメできません。もっと物理的に還元できるものにお金を支払うべきでございます」
「まあまあ、ティルル。ここはネロの店なのですから堅い事はなしにしましょうよ。注文すればネロがこういう意図を持って作ったサービスだとわかるじゃないですか」
アイリスの意見も一理あると感じたのか、ティルルさんも今回は引き下がった。
「じゃあそろそろ注文するぞ。すいませーん、この萌え萌えオムライスを三つ下さい。その一つはツンデレ風味でお願いします」
俺は手を上げて店員に注文する。
「かしこまりました、ご主人様。すぐにお料理を運んでまいります」
「ふふふ、楽しみですね」
とアイリスはニコニコしている。
それから10分後。メイドさんが一人やって来た。
「ご主人様、たいへんお待たせ致しました。こちらが天使の愛たっぷりのエンジェル萌え萌えオムライスです」
ハートマークが書かれたオムライスが俺とティルルさんの前に運ばれてくる。
アイリスの分が来るまで待とうかと思ったが、アイリスは先に食べていいと手で合図をした。
それじゃあお言葉に甘えて食べようかな。
スプーンを手に取ると、メイドさんが話しかけてくる。
「ところでご主人様。オムライスがもっと美味しくなる呪文をご存じですか?」
美味しくなる呪文?
料理を美味しくする魔法なんてあったかなぁ……。やっぱりオリーブオイルかな。
「ご主人様。私と同じように、両手でハートのマークを作ってください」
「は?」
「ご主人様♪ こんな風にハートのマークです」
よくわからんが、俺はメイドに言われるままハートのマークを手で作る。
すると、メイドは猫なで声で、
「おいしくなーれ 萌え萌えキュン」と唱えた。
「ほら、ご主人様も私と一緒に。リピートアフターミー」
「あ、ああ。美味しくなれー美味しくなーれ……」
俺はいったい何をしているんだろう。
俺と同じことをティルルさんも同様の形で強制させられていた。
本職のメイドというだけあって、指示されたら淡々と従っているが、目は完全に死んでいる。
多分俺と同じような事を考えてると思う。
そんなことをしてると、今度はアイリスのオムライスが運ばれてきた。
「あ、私の分ですね。どうもありがとうご……」
「はい、あんたの分」
アイリスの目の前に雑に投げ出されたオムライス。運んできたメイドはとても愛想がなく、面倒くさそうな表情を浮かべてる。
右手にはケチャップを握っており、きゅぽんとふたを開けると、オムライスの真上に大量に煩雑にかけていく。
山のようにかかっていくケチャップを前に、アイリスは唖然となっていた。
「ふんっ」
メイドは鼻を鳴らしてそのまま厨房へと消えていった。
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