第74話:引ったくり犯
リヴァイテーゼの問題が解決して一週間が経った。
ウンディーネ様との仲も良好で、今朝に至っては手紙が届いた。
その文面の内容は前回のリヴァイテーゼのお礼の件。
文末には『今後なにか困った事があればいつでも私に言って下さい。私にできる事なら何でもお手伝いします』と記されていた。
ウンディーネ様が後ろ盾になってくれるのは心強いな。
リヴァイテーゼは正気に戻ってくれたし、頑張った分の成果はあったな。
と、俺は考えながら手紙をアイテムボックスに収納した。
さて、明日から秋の収穫祭が開催される。
そのせいか、ミネルバは町全体が慌ただしくなっている。
町の景色も変化している。
カラフルなイルミネーションが町全体を華やかに彩っている。
直前に迫っている収穫祭の雰囲気を楽しみながら一人でのんびりと町を歩く。
今日から四日間は俺もクエストをお休みにして収穫祭を楽しむつもりだ。
明日はマルスとレラでも誘って露店を見て回ろうかな。
セフィリアさんも誘えるなら誘いたいなぁ。
と、その時。
背後から女性の悲鳴が聞こえた。
「きゃあああ! 誰かその人を止めて! 私のバッグを盗んだの!」
女性が黒服の男を指さす。
「へっへっへ! あらゆる町でたくさんのひったくりをやってきたこの俺様を捕まえられるものなら捕まえてみやがれ!」
犯人は20代後半の男性。
黒服でマスクを着用。頭には黒いニット帽をかぶっている。いかにも怪しい奴ですって感じの風貌だ。
盗んだ手提げバッグを腕にかけて、笑いながら通行人の間を走り抜けてこちらへと向かってきている。
「おら! どけどけ! どかねえとこのナイフでお前らを突き刺すぞ! ヒャハハハ!」
「きゃああああああ!」
人々は悲鳴を上げて男から逃げ出していく。
一方で俺はその場から逃げ出さず、やれやれとため息を吐いた。
(どの町にもこういう腐った輩はいるな)
俺は早口で詠唱して氷魔法のアイスプリズンを発動する。
「な、なんだこの氷は!?」
足元から急激に凍り付いていき、一瞬で動けなくなる犯人。
突然の氷にひどく動揺している。
俺はスタスタと近づいていき、催眠魔法を一発追加で放って気絶させる。
そして、動けなくなった彼からバッグを取り上げる。
「誰か俺の代わりに騎士団を呼んでくれ」
と俺は周りの群衆にそう呼びかける。
返事の代わりに帰ってきたのは沸き起こるような歓声だった。
「きゃああああ! ロイド様かっこいい!」
「流石ミネルバ最強の魔導士だ」
「あ、ありがとうございます! ロイドさん助かりました!」
引ったくり犯を見事倒したことで、今の光景をたまたま眺めていた人々は拍手喝采。
被害者の女性も歓喜の声を上げた。
「いえいえ、気にする必要はありませんよ。たまたま近くを通りかかっただけですから」
「噂通りの謙虚なお人だ。実は私、この近くで『ラムール』という喫茶店を開いているので、お時間があるときにぜひいらして下さい。たくさんサービスしますよ!」
女性は気さくな笑顔でそう言った。さりげなく店の宣伝までするなんて優秀な人だ。
「それなら今度、友達と一緒に寄ってみますね」
「ありがとうございます! ご友人の方も含めてロイドさんをお待ちしております!」
女性に別れを告げて、俺は再び散歩を再開する。
目的地は特に決めてないので数時間ほどダラダラと歩くつもりだ。
いやー、それにしても良い事をするってすごく気持ちがいいね。
最初の頃はロイドとバレる事をすごく恐れていたけど、今では自信もついてきたし、怖がっていたあの頃が懐かしいな。
当時の出来事を振り返りながら俺は苦笑する。
町を適当に歩いてるとアイリスの声が聞こえてきた。
ちょうど教会の近くを通りかかったタイミングだ。
教会の広場の方に視線を向けると、アイリスとティルルさんがいた。
「おーい!」
こちらから呼びかけると二人が俺に気づく。
「あっ、ロイド様!」
嬉しそうに笑みを浮かべて手を振るアイリスに、ペコリと丁寧に頭を下げるティルルさん。
二人の性格がよく出てる仕草だと思う。
「こんなところで何やってるんだ?」
「明日の収穫祭では聖女として参加するので、その練習です。これを今日までに全部覚える必要があります」
そう言ってアイリスは右手に握ってる紙を俺に渡した。
文面には聖女としてのセリフが長々と書かれていた。
「大変そうだな。もうセリフは全部覚えたのか?」
「はい、すべて頭に入れています」
「へえ、すごいじゃん」
「えへへ」
アイリスは嬉しそうにはにかんだ。
「ティルル。たしか次の予定は13時からですよね」
「はい。教会の方で、夕方まで明日の最終打ち合わせがあります」
時計を確認すると午前11時。
約束の時間までは2時間くらい暇があるな。
せっかくだから食事に誘ってみようかなと考えてると、アイリスの方から食事の誘いがあった。
「ロイド様。これから三人でネロのお店に行きませんか?」
ネロさんのお店か。
ここから近いし、料理も美味しいから時間的にいいかもしれないね。
「そうだな。今日はそこで昼食を取ろうか」
「決まりですね。ティルルもそれで大丈夫ですか?」
「はい」
ティルルさんは頷いた。
それから俺達はネロさんのお店へと向かった。
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次回の更新は2022年2月5日となります!




