第73話:戦いの終結
すぐにでもリヴァイテーゼの封印作業に移行したいところだが、生憎すべての魔力を消費してしまった。
今の俺には初級魔法を使用するだけの魔力さえ残っていない。
また、ウンディーネ様が封印と討伐を望んでいない以上、それを前提に物事を進めていかなければならない。
難易度は相当高いが、フェルメールさんにも頼まれてるので頑張るしかないか。
(いずれにせよ、魔力が枯渇した今の状態では何もできないな。魔力が回復するまで少し待とう)
最低でも一時間は魔力回復に充てたい。
それまでに奴が目を覚ますと大変な事になるが、そこは神様に祈るしかない。
こちらからは下手に刺激しないように注意しよう。
そう考えながら、俺はウンディーネ様の元へと引き返した。
そして、現在の状況を説明する。
「わかりました。ロイドさんの仰るようにしましょう」
彼女も納得してくれたようだ。
とりあえず今は魔力回復に専念して奴を刺激しない方針。その間にリヴァイテーゼの対応策を考えようという流れになった。
「ウンディーネ様! ロイド様! お怪我はありませんか!」
こちらへと走ってやってくるフェルメールさん。
その背後にはマルスとレラの姿。
「フェルメール、私はまったく問題ありませんよ」
「俺も同じです」
「その言葉を聞いてすごくホッとしました」
フェルメールは安心した表情を浮かべた。
「フェルメールこそ無事でなによりです。ところで、後ろのお二人は?」
彼女はマルス達の存在にも気がついた。
どうやら今まで気づいていなかったようだ。
コミュ力つよつよな二人でも相手がウンディーネ様ともなると二人も緊張の様子を隠せない様子。
「彼らは私の友人です。たまたま一緒にいたのでここまでついて来てもらいました。戦いには参加してませんが、フェルメールさんと一緒にずっと声援を送ってくれてましたよ」
「なるほど、そうでしたか。フェルメールと一緒にずっといらしたんですね。気づかずにいて申し訳ありません」
「いえいえ、私達は特に何もしてませんから」
「見ていただけなので」
二人は全然気にしてない素振りを見せた。
その後、お互いに自己紹介しあった。
「初めまして、私はレラです。隣にいるのは友人のマルスくんです」
「マルスです。本日はウンディーネ様とお会いできて光栄です」
二人はそれぞれ挨拶をする。
「マルスさんとレラさんですね。これからよろしくお願いします」
「「こ、こちらこそよろしくお願い致します」」
二人とも緊張してるせいか、少しぎこちない挨拶となった。
俺も前回はこんな感じだったな。
「ところでウンディーネ様。リヴァイテーゼの対応ですが、いかがなさいますか?」
フェルメールが尋ねる。
当然ながらウンディーネ様はリヴァイテーゼの討伐や封印に対しては消極的な姿勢だ。
強硬策をとれば少なからず遺恨を遺すだろう。
魔力が枯渇してるという理由もあるが、普段とはまるで違う戦い方をしてるのもあって必要以上に疲労感が溜まっている。
ここに来るまでに何度も考えていた疑問を彼女に投げかけた。
「ウンディーネ様。奴が狂暴化した原因になにか心当たりなどはありませんか?」
「心当たりというほどではありませんが、基本的に放し飼いにしてるので外出先で、なにかトラブルに巻き込まれたのではないかとは考えています」
「なるほどトラブルですか。この周辺にエリアゼロのような危険な領域などはありますか?」
「危険な場所ならいくつかありますね。この辺だと《影霊の淵叢》が一番有名でしょう」
「影霊の淵叢?」
「アトランタ王国が昔使用していた墓場です。あそこは闇霊がよく出現するので、昔から危険な場所として有名なんです」
「闇霊か……」
俺は言葉を反復する。
闇霊とはアンデッド系の死霊モンスターで、生き物に憑りついて意識を奪う性質がある。
それ以上の内容は俺も知らないので、リヴァイテーゼとの関係性があるのかは定かではない。
長生きしてるウンディーネ様の方が詳しく知ってそうだけど、どうなんだろう。
もっと詳しく聞いてみた方がいいかもしれない。
リヴァイテーゼが隕石を嫌がっていた理由との関係性も見えてくるかもしれない。
隕石、聖法力、聖女……。
……ん? 聖女?
そういえば、アトランタ王国に聖女っているのか?
ウンディーネ様や人魚にまつわる逸話は聞いた事あるけど、アトランタ王国の聖女にまつわる逸話は一度も聞いた試しがない。
さらに言えば、海にエリアゼロは存在しない。
エリアゼロが存在するのは地上という限られたエリアだけと言われている。
俺が知らないだけかもしれないが、実際に本当に存在しないのかもしれない。
「あの、ウンディーネ様。一つ確認があるんですが……」
と、質問しようとしたその時。
地面が大きく揺れた。リヴァイテーゼを確認すると、むくりと上半身を持ち上げていた。
「まずいな。もう目覚めたのか。まだ魔力が回復しきってないと言うのに……」
小さくため息を吐いて、応戦するため杖を構えようとすると、二つの影が俺の前に飛び出した。
マルスとレラだった。
「皆さんは安全な所まですぐに避難して下さい! 奴は俺達で食い止めます!」
「じ、時間稼ぎにしかならないでしょうが、皆さんが逃げる時間くらいは頑張って作ってみせます!」
二人がとった思わぬ行動に驚きを隠せない。
「二人の気持ちはすごく嬉しいが、ここは無理せずに俺に任せろ」と俺はそう言った。
「ロイドさんこそ無理しないで下さい。今は魔力が枯渇してるではありませんか」
「そうだけど……」
「先生、俺達だって伊達に長く冒険者を続けてきたわけではありません。仲間のために命を張るすでに覚悟はできてます」
「ロイドさんを守るためなら、ここで死んでも悔いはありません! むしろ本望です!」
うーん、困ったな。
二人の気持ちはすごく嬉しいが、それとこれとでは話が別だ。
これまでの付き合いの中で、彼らに大型モンスターに対しての対抗手段がない事はすでに判明している。そんな彼らがリヴァイテーゼと真正面から戦って勝てるかと言われたら正直難しいと思う。自殺行為に近い。
そもそも友達を残して自分達だけ逃げるなんて真似は俺にはできない。
双方で逃げるだの戦うだの揉めてると、リヴァイテーゼがこちらに気づいた。大きな瞳でこちらを見下ろす。
フェルメールが悲鳴を上げる。
そして、リヴァイテーゼが大きな口を開いた。
「あっ! ウンディーネ様だー! おはよー!」
リヴァイテーゼから発せられた言葉に俺達は目が点になる。
「「「シャ、シャベッタアアアアアアア!?」」」
え?
キミ普通に喋れたの?
暴れてるイメージしかなかったのでリヴァイテーゼが喋り出したのは衝撃的だった。
「リヴァイテーゼ。もしかして私の事がわかるのですか?」
「うん~? ウンディーネ様の言ってる事がよくわかんないけど、ウンディーネ様はウンディーネ様じゃないの? それよりボクと遊ぼうよー!」
リヴァイテーゼは子供のような口調でそう答えた。
ウンディーネ様は感動のあまり泣きそうな表情になった。
どういうわけか、リヴァイテーゼは正常に戻っていた。
あの隕石をぶつけたからか?
そう考えると、やはり闇霊的な何かが憑りついていた可能性が高いな。
憶測でしかないが俺はそのように納得した。
「うーん、なんだかわからないけど頭が痛いなー。どうしてだろう?」
リヴァイテーゼは首を捻りながら不思議そうに呟いた。
俺達はぎこちなく笑った。
でもまあ、正気を取り戻してくれて良かったよ。
結果オーライだ。
その後、俺達は兵士達を含めたみんなと一緒に、アトランタ王国へと帰還した。
もちろんそこにはリヴァイテーゼの姿もあった。
めでたしめでたし。
――――アトランタ王国に到着後、魔王アルバトロスを回収し忘れていた事を思い出した。
次回の更新は1月25日(水)のお昼12:00となります!
リヴァイテーゼのお話がちょっと長引きましたが、そろそろルビー編です。
また、一巻はまだまだ発売中ですので、ぜひ手に取って頂けると幸いです!




